※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



予想通り、ホームルームの教室は妙な空気になっていた。

「んー、可愛いね千聖ちゃん♪さゆみが髪の毛結ってあげるからねー」
「あ、あの、大丈夫でs」
「はい、もう一回お顔見せて?可愛いー!ワンちゃんみたいー!」

だから、千聖が犬顔なのはわかってることでしょ!何回言ったら気が済むんだこのおば(自主規制!
「もふもふー」
「うぅ・・・」

ええい、抱きつくんじゃない!硬直してるじゃん、千聖!

「お、お嬢様・・・?」
千聖のお取り巻きさんたちも、今日は側によることもできないみたいだ。無理もない。明らかに中等部じゃない妙齢の女性が、制服姿で当然のように千聖の横を陣取っていたら、それは戸惑うだろう。

「ね、ね、ね、何あれ。どうしたの、どちら様?」

憤慨してドアの前に立ちすくむ私のところに、半笑いのももちゃんと夏焼さんが走ってきた。情けない顔でオロオロしてる千聖が面白いらしい。めぐと同じ思考か!

「・・なんか、千聖のお客様。よく知らないけど。」
婚約者という言葉を出したら、ももちゃんは絶対「ええー!!!」とか絶叫して大ごとになるだろう。しかも夏焼さんは穏健派とはいえ、新聞部だ。何を書かれるかわかったもんじゃない。

「ふーん。すっごいベタベタしてるねー。やぁだ舞ちゃん怖い顔。ウフフ」
「・・・別に。あれはただの小姑だからすぐ帰」

「「えー!!!何それくわしく教えて!」」


orz orz orz orz orz
しまった、やってもーた!イライラが頂点に達しそうになっていた私は、つい余計なことを口走ってしまった。


「もしかして、昨日言ってたお嬢様の彼氏の・・・お姉さん?」
「っ違う!ていうか彼氏じゃないもん、ただの許婚!しかも姉じゃないし!・・夏焼さん、絶対記事にしないでよね。舞そんなことしたら許さないから」
「わ、わかってるよー。そんなに怒らなくても」

ふんっ面白くない!私は2人の間をすり抜けていこうとした。
「えー何何?千聖に彼氏がいるの?もぉにも教えてよー!」

「だから、彼氏じゃないってば!」

振り向いた私の絶叫が意外なほど響いて、教室は一瞬静まり返った。ちょっと恥ずかしくなって、大急ぎで千聖の席へと向かう。


「・・・千聖。」
「あ・・舞、こちらに座ってちょうだい。」

さゆみさんと反対側の席をぽんぽんと叩いて、千聖はにっこり笑った。

「千聖ちゃん、頭動かさないのー。もうちょっとで終わるから。」

せっかくご機嫌が直って笑いかけてくれたのに、さゆみさんは千聖のあごを掴んで前を向かせてしまった。

「グギギギ」
「うわっびっくりしたぁ!いたの?」

異様な歯軋りの音に後ろを向くと、かんなっきぃがものすごい形相でシャーペンを噛み締めていた。

寮生の間には、学校にいる時、千聖が人間関係で何かしら困っていても、基本的には手を出さないという暗黙のルールみたいなのがある(私は全然守ってないけど)。
2人はさゆみさんの行動にやきもきしながらも、それを律儀に守っている。お屋敷では私と3人で憤慨していても、今は見守るというスタンスは崩さないみたいだ。何ていうか・・・大人だ。

「その髪型、変。全然似合ってない。」
そして、私は嫉妬心を抑えられないから、子供だ。

「えー本当に?さゆみこれ、自信作なんだけどー。見てみて、千聖ちゃん。」
さゆみさんの差し出す手鏡を覗いた千聖は、しばらく鏡の向こうの自分と見つめあった後、ふにゃっと表情を崩して笑った。

「可愛いわ。ありがとうございます、さゆみさん。もう、舞ったら。」
「本当ー?喜んでくれて嬉しいんだけど!ちぃちゃんいい子やねー」

――はいはい、わかってます!わかってますとも!本当は似合ってます、とても可愛いですよ!


さゆみさんは千聖の髪を二つの三つ編みにゆわいて、耳の上でおだんごを作っていた。そこに小さなリボンと蝶をあしらったキラキララインストーンのかんざしを差し込んでいて、千聖が頭を振るたびに、ピンクのちょうちょが揺れる。

千聖はこういうキラキラした小物が好きで、でも自分には似合わないとあまりに身に着けないことは知っていた。

「お嬢様、可愛いです!」
「ウフフ、千聖似合ってるよー」
「さゆみもおそろいにしようかなー。誰か、手先の器用な人ー。可愛いさゆみに可愛いお団子ヘア作ってくれる子ー。」

さゆみさんと千聖の前に人が集まってきて、私はいたたまれなくなって席を立つ。

「舞ちゃん?」

私は千聖がレースやリボンの可愛らしいものを持っていると、かならずからかっていた。照れた顔を見るのが好きだったから。・・・ああ、本当にガキだ。どうしようもない。
それに比べて、傍若無人に振舞っていても、さゆみさんはちゃんと千聖の好みを掴んで、喜ばせてあげようっていろいろ世話をやいている。ムカツク変な人だけど、何か負けた気がする。


(・・・何の、まだ1敗!)
それでも、落ち込む気持ちよりも、さゆみさんに千聖が私のものなんだって思い知らせてやりたい気持ちの方が大きい。


とりあえず気を静めるために、ホームルームはおさぼりすることに決めたのだった。



TOP