※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



「よし!」

1時間目開始のチャイムを耳にした私は、勢い良く起き上がった。

屋上の給水塔。いつものサボリ定位置でホームルームをやりすごして、少しは頭も冷えた気がする。
私は手先が不器用だから、さゆみさんみたいに千聖を可愛く変身させてあげることはできないけど、だからって負けたつもりは全然ない。なんてったって、千聖は舞のなんだから。

今日は調理実習がある。それも、千聖のクラスと一緒。
うちの学校の中等部は、主要5科目以外は学年の垣根を越えて授業を受けることがよくある。しかも私が1年A組で、千聖は2年A組だから、同じA組同士はほぼ一緒になれる。
さゆみさんは見学とか言ってたけど、あの調子で実習に参加してくることは間違いないだろう。
2人でラブラブクッキングとか、絶対させないんだから!



時間ギリギリに家庭科室に滑り込むと、千聖が「舞、こちらへ」と手を挙げた。


「舞、ホームルームはどうしたの?急にいなくなってしまったから、驚いたわ。」
「・・・ちょっとね。ふふん」

私が授業に来るかどうかもわからないのに、千聖は私の場所を確保しておいてくれていた。優越感をくすぐられて、思わずにんまりしてしまった。
今日の調理グループは、私、千聖、千聖のクラスメートのスガヤさん。・・・と、さゆみさん。スガヤさんはピンクのふりふりエプロン(あれは舞美ちゃんのだ)のさゆみさんに思いっきりドン引きして、少し2人と距離をとっている。

「ね、ねぇあの人何?怖いんだけど。」
エプロンをつけていると、スガヤさんがこっそり耳打ちしてきた。

「千聖ちゃん、今日はカルボナーラとシーザーサラダだって。道重家の味を教えてあげるからね。まあ、さゆは蝶よ花よと育てられてきたからお料理はできないけど」
「え、では、どうやって教えてくださr」
「細けぇことはいいの。大丈夫、さゆみはいつも美味●んぼとかト●コを読んでいるから。とにかく、さゆみが何でも教えてあげるの。」

“やれやれ、こんなカルボナーラをありがたがってるようじゃどうしようもないの。さゆみが今から本当のカルボナーラってやつを教えてやるの。”

頭の中で、例のセリフがさゆみボイスで再生される。


うぜぇ・・・
私のほっぺたがピクピク動くのを見て、スガヤさんはイヒヒと笑った。

「本当、萩原さんって岡井さんのこと大好きだよね。今ヤキモチやいてるんだー。可愛いね」
にやにやしながらほっぺをつつかれる。何だ、子ども扱いして!

「べ・・・別に?スガヤさんこそ、すごい最近千聖のこと気にかけちゃってなんなの?今日も実習の班一緒にしてるし」
「べべべ別にりぃは他の友達にも誘われてたんだけど岡井さんボーッとしてるから声かけてみただけだしあばばばば」


「はい、はい、それでは実習を始めますので静粛に!」

わいわい騒いでるうちに先生が教室に入ってきて、今日の手順について説明を始めた。


「すぎゃさんは、お料理はなさるの?」
「んー、ラーメンぐらいなら。ま、ぶきっちょそうな岡井さんよりはできると思うけど?イヒヒ」
「まあ、私だって少しぐらいはできるのよ。すぎゃさんたら、意地悪ね」

先生の目を盗んで、2人は仲よさそうにおしゃべりしている。寮のみんなにも私にも見せない、親しいクラスメートにだけ見せる、等身大の千聖の顔。何だか胸が苦しくなる。どんだけ嫉妬深いんだ、私。

「ねえ、舞。舞は・・・」
「・・材料もらってくる。」

せっかく話しかけてくれたのに、私は教卓の方へ逃げた。

よくない癖だ。何か気に入らないことがあると、すぐにその場を離れてしまう。
逃げるのはかっこわるいけど、私は千聖が絡むとどうしようもなく臆病になる。


「もう、舞ったらどうしたの?」
「うわっ」

1人で食材を選んでいると、後ろから千聖がエプロンの紐を引っ張ってきた。

「今日は機嫌が悪いのね。」
「別に。ていうか、さゆみさんのところにいなくていいの?一人になっちゃうよ。戻ったら?」

追いかけてきてくれたことが嬉しいのに、私の口は本心とはかけ離れた言葉をポンポン出してしまう。

「さゆみさんは梨沙子さんとお話してるわ。それに、私は舞と一緒に材料を選びたかったのよ。ダメかしら?」
「・・・・・・まあ、そういうことなら別にいいけど?で、卵なんだけどどれが新鮮だと思う?」

私はほっぺたが緩まないように気をつけながら、一心に食材の方へ視線を向ける。・・・千聖の顔を見たら、にやけてしまうから。

「たしかえりかさんが、叩いてみればわかるとおっしゃってたわ」
「ふふ、そんなわけないじゃーん。割れちゃうよ?」


あぁ、私はどうしてこうも単純なんだろう。おそらく、千聖はこういう時の私の扱い方をちゃんとわかっているんだ。
普段はすっごく子供っぽいくせに、その気配りはやっぱり4人姉弟の長女だけあって、さりげなくて優しい。そして、そのさりげない配慮を察知してしまう自分の頭の良さが、嬉しいような悲しいような・・・(自画自賛)。



TOP