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卵にベーコン、生クリーム。教科書に書いてある食材を一通り選んで戻ると、さゆみさんが「うふっ」と小首をかしげて笑いかけてきた。

「な、なんすか」
「それじゃあ、2つのグループにわかれましょう。さゆみと千聖ちゃんがカルボグループ、梨沙子ちゃんとマイマイちゃんがシーザー」

さゆみさんは当然のように千聖の腕を引っ張って、肩を抱き寄せた。

「は?何勝手に決めてんの。舞絶対嫌だからね」
「・・・・・・・りぃと2人は嫌?」
「あっいや違っそうじゃなくて」

ク゛スン

スガヤさんがうつむいて鼻をすすりあげた。・・・ああもう!千聖といいなっきぃといい、どうして泣き虫が多いんだこの学校は!

「マイマイちゃん、わがまま言わないの。千聖ちゃんはさゆみの家族なんだから、さゆみと一緒に料理をするのが道理ってものなの。道重家に入ったら、道重家の慣わしに従うべきなの。」

道理だの慣わしだの、さゆみさんは今時渡鬼でしか聞いたことがないようなレトロな言葉を使いこなして攻撃してくる。負けるものか!

「ハッ。道重家に入ったらって、まだ結婚もしてないじゃん。千聖はさゆみさんの家族じゃないよ。千聖のパパとママと妹×2と弟と、わ・た・し・と寮のみんなの家族なの。」
「舞・・・」

どさくさで思いを告げると、千聖は少し嬉しそうな顔ではにかんだ。

「またりぃをのけものに・・・」
「はい、はい!わかった、もぉ軍団も千聖の家族!」
「えー、まだ家族ってほど親しくはないけど岡井さんと」


―め、めんどくせえ!なんだこの女!


「ふーん、千聖ちゃんには家族って言えるほど大切な人がいっぱいいるんだ。それはいいことだと思うの。そして、その千聖ちゃんの大切な家族の中にさゆみも加わるのね。可愛い可愛い千聖ちゃんはみんなに愛されて、これからも家族が増えていくの」
「いや、そういう話じゃなくて」
「ウフフ、嬉しいです。さゆみさんは優しいですね」
「いい話だねー岡井さん」

だめだ、調子がくるいまくる。今まで口で人に負けたことなんてないのに、さゆみさんはそもそも論点がずれていて、ケンカにすらならない。しかも私以外全員天然とか!


「舞ったらそんな顔しないの。すぎゃさんと一緒が嫌なわけではないのよね?カルボナーラを作りたかったの?」
「・・・いいですわかった、わかりました!舞はスガヤさんとサラダやります!時間ないかさっさと作業しましゅよ!」

もはや説明するのもめんどくさくて、私は一人乱暴にレタスをバリバリ剥きはじめた。

「じゃありぃはトマト切るね。ドレッシングはあとで一緒にやろう」
「うん、そだね」


サラダなんて楽勝と思ってたけど、いざ取り掛かると意外にやることが多い。あんまり暇だと千聖たちのことが気になって作業がはかどらないから、返ってよかったのかもしれない。

「いい?千聖ちゃん、パスタはねー、アンデルセンっていう茹で方をするの」
「アンデルセンですか?メルヘンチックですね」

それ、アルデンテ。


「あと、お兄様は顔と同じで味も濃い目が好きだから。教科書どおりに作ってたらダメなの。特製サユボナーラにしましょうね。大丈夫、料理は未経験でもさゆみは美味しん(ry」

「・・・スガヤさん、多分喉渇くと思うから、飲み物たっぷり用意した方がいいかも。」


耳に入ってくる会話はたまらなく不安なものだけど、千聖の手料理を食べれるのは結構嬉しい。
えりかちゃんによると「お嬢様は手順とかめちゃくちゃだけど、美味しいもの作れるんだよ」ということらしいから、さゆみさんの暴走さえ止められれば大丈夫かもしれない。



「あら?あら、いやだわ私ったら。卵を入れるのを忘れていたみたい。うふふ、どうりで色が薄いと思った」
「後から入れれば大丈夫なの。それより、もっとチーズとコショウをたっぷり入れるの。サユボナーラは濃ければ濃いほどいいの」

・・・いや、これはダメかもわからん。


「萩原さぁん、水切り終わった?りぃは野菜終わったよ。えへへ、ちょっとつぶれちゃったけど。」
「んーん、大丈夫だよ。それじゃドレッシング作ろう。千聖、チーズ余ってるでしょ?ちょうだい」
「あら、ごめんなさい。全部入れてしまったわ。」

ええっさっき結構持ってきたはずなのに!カルボナーラのソースをチラ見する。・・・・・すごい、色が濃い。っていうか

「何で黄土色?何入れたの?」
「調味料は全部倍の分量なの。食べてみる?」

道重さんからスプーンを受け取った私は、おそるおそるペロリと舐めとってみた。舌から脳天に電撃が走る。


「しょっぱ!!塩辛っ!」
「嘘ー?さゆも千聖ちゃんもいっぱい味見してるのよ?」
「味見はしすぎると麻痺しちゃうんだってば!もー、どうすんの?だから千聖と舞が一緒のほうがいいって」


思わず語気を強めると、さゆみさんはふらふらと調理台から離れていった。そのまま、水道の方へ向かう。


「え・・・ご、ごめんなさい。言い過ぎた・・かも」

さすがに罪悪感を感じて背後から声をかける。返事がない。

プチ・・・・プチ・・・・・・

さゆみさんの手元から、妙な音が聞こえてきた。不思議に思って覗き込むと、

「いいいいいい!何やってんの!ちょっと!!」

さゆみさんは虚ろな顔で、ピンセットを使って眉毛を抜いていた。

「・・・マイマイちゃん、さゆみが悪いの。どうせさゆみは可愛いだけがとりえの箱入り娘なの。この美貌が邪魔をしてみんながなんでもやってくれていたから、さゆみは何も出来ないただの美少女なの。千聖ちゃんは悪くないの、殴るならさゆみを殴って」

抑揚のない声でそう言いながら、淡々と手元は動いているのが恐ろしい。怖がりなえりかちゃんだったら、べそかいて退散してるところだろう。

「い、いや別に殴らないですし、そのほかにもいろいろ突っ込みどころはあるけどとにかく戻りましゅよ!あきらめたらそこで試合終了でしゅ!」

ピンセットを奪って強引に席に戻る。もうテーブルクロスは引いてあって、フォークもスプーンもセット済み。私が担当していたサラダも、スガヤさんが完成させてくれたみたいで、綺麗に盛り付けてあった。

「あ・・・、ね、ねぇ岡井さんが」

私の姿を発見したスガヤさんが、小声で話しかけながら千聖を指差した。千聖は神妙な表情で、いろんな調味料を手に、カルボナーラのソースの前で奮闘している。

「千聖、何してるの?」
「・・・」
「ち・さ・と!!」

集中モードに入ると、千聖は本当に人の声を遮断してしまう。わき腹をつっついたら「ひゃん!」と悲鳴を上げてやっとこちらに気付いた。

「何してるの?って聞いたんだけど」
「えと、味が濃すぎるから、調整を」
「調整、って。」

薄味を濃い味に変えることはできても、水で薄める以外逆は無理。
料理初心者の私でもそれぐらいはわかるのに、千聖はいたって真剣だ。

「もう無理だって。麺と和えたらそんなにしょっぱくないかもしれないし、いいよ千聖。」
「あら、大丈夫よ。少し味が薄くなってきたみたいだから。食べてみて」

そんなアホな、と思いつつ、本日二度目の試食に臨んでみる。

「・・・・・しょっぱく、ない、で、す」

「うふふ、そうでしょう?」
「千聖、いったい何を入れたの?」
「それがよくわからないの。いろいろ試したから。でも、うまくいってよかったわ。さゆみさん、もう大丈夫よ」


――信じられない。千聖のアバウトクッキングは料理の範疇を超えている。もはや魔法だ。

「岡井さん、魔女だ・・・」

様子を見に来たスガヤさんの目が、なぜか怪しく光って、千聖がウフフと笑った。



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