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食べ物はムダにしない主義だった私は、ここ最近それを覆さなければならない事態に陥っている。
頭打ってお嬢様キャラに変わった千聖を見てチーズケーキを床に落とし、
日傘を差してごきげんようと挨拶してきた千聖を見てマックシェイクを鼻から出し、
ついさっきはお昼にみんなでバカ話をしている時に、15秒遅れて「うふふ」と笑った千聖のせいでカップラーメンミルクシーフードをなっきーにぶっかけてしまった。

おかしいよ。特に愛理。みんな最初はとまどっていたものの、新しい千聖を受容しつつあるみたいだ。責任を感じている舞美や複雑な表情をしている舞ちゃんはまた違うみたいだけど・・・。
私は未だに、千聖がわるふざけをしているようにしか思えない。千聖はいたずらを思いつくのが天才的に上手だから、ただ単にこの「お嬢様ごっこ」のやめ時がわからなくなってるんじゃないかって考えていた。
それに、これがもし本当に千聖の演技ならば、早くやめてくれなければ困る。
千聖のお嬢様らしい振る舞いは、いちいち私のツボにはまるのだ。
おしとやかモードの千聖の背後に、大口開けて一緒にギャハギャハ騒いでいた時の千聖の顔が浮かんで、どうにも耐えられない。
私は、笑ってはいけないというプレッシャーにものすごく弱い。今日は千聖となっきーと私で、僕らの輝きの歌とダンスの再確認があるというのに、相当まずい状況に追い込まれてしまった。
「千聖。」
意を決して、愛理と楽しげに髪型をいじっている千聖を隅っこに呼び出し、問い詰める。
「あのね、もうそろそろやめにしない?」
「・・・あの、何のお話でしょうか。ごめんなさい私、心当たりがございません。」
千聖が追い詰められたチワワのような瞳でじっと見つめてくる。この時点でかなりやばかったけれど、どうにか視線を下げて言葉を続けた。
「だから、そろそろ元気な千聖に戻ってほしいの。お嬢様キャラも面白いんだけどさ。舞美もずっと落ち込んでるし、安心させてあげたいじゃない?」
「えりかちゃん、そんなこと言ってもダメだよ。本当に千聖は変わったの。演技じゃないんだよ。」
いつの間にか近づいてきていた愛理が、千聖を庇うように間に入ってきた。千聖も安心したように、愛理の二の腕をやんわりと握っている。

たしかに、これが演技なら千聖はものすごい女優になってしまう。
本物のお嬢様である愛理と比べても遜色ない。だけどやっぱり私の脳裏に焼きついているのは、牛乳を口に含んで栞菜と笑っちゃいけないゲームをしてるようないつもの千聖の姿なのだった(ちなみに千聖が負けて楽屋を牛乳まみれにした)。
「でもね愛理」「じゃあ梅田有原岡井、そろそろ準備して。」
ちょうど折り悪く、マネージャーが入ってきてしまった。
「じゃあね、頑張って、千聖。」
「はい、ありがとうございます。」
何言ってんの千聖。アホか。あああ笑いたい。爆笑してスッキリしたい。でも私の最後の良心が、それを押し留めていた。
「はい、じゃあまずダンスの確認から~」
「♪いーさーまっしいー」
CDの千聖の声を合図に、三人で立ち位置を確認しながらダンスをこなしていく。
千聖はいつもどおりに踊っている・・・つもりなのかもしれないけれど、何だかとてもふわふわゆるゆるした動きをしている。決して間違った振りをしてるわけじゃないので、先生も栞菜も困惑したように千聖を見ている。
「岡井、調子悪い?」
「いいえ、そんなことはありませんわ。それにこの曲は、私の大好きな曲ですの。」
「デスノ!?」
アーヤメテー!ヤバイー!
「梅田も大丈夫?」
「ハ、ハイワタシノコトハキニシナイデクダサイ」
もう千聖の顔をまともに見ることができない。私は必死で、最近あった悲しい出来事を頭の中に並べ立てて平静を保っていた。
「じゃあ先に、歌の確認やろうか。岡井、出だしいける?」
「はい。」
ちょ、ちょっと待って。歌は、歌はやめて!千聖!

「い~さ~ま~しい~~か~が~や~きの~」
小さな鈴が音を立てるような、生まれたての天使の産声のような愛らしい声で、両手を胸にそっと重ね、慈愛に満ちた表情で千聖が歌いだした。
「ぶはははははははははははh」
「えりかちゃん!?」
私はそのままたっぷり20分笑い続け、強制的に早退させられることになったのだった・・・・。



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