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笑わない?と何度も念押ししてから、お嬢様は少し恥ずかしそうに顔を赤らめて話し出した。


「今ね、お父様、とてもお忙しいの。以前は月に1度は必ずこちらに戻ってきてくださったのに、もうずいぶんお顔を合わせていないわ。」

さびしそうにつぶやくお嬢様。私が学園に転入して、もう3ヶ月が経とうとしているけれど、確かにまだお嬢様のご両親に直接会ったことがない。

「それでね、・・・・クリスマスも、元旦も戻って来なかったでしょう。」
「ええ。」


今年のクリスマスは、誰も実家に戻らなかった。だからお屋敷で、みんなでクリスマスパーティーをやったんだっけ。お嬢様とケンカ中の萩原さん(まだあんまり話したことない・・・)も、すっごいふてくされ顔で参加していた。
お正月も、家が遠くて帰省しなかった舞美ちゃん、めぐぅ、お嬢様、私でニューイヤーパーティーをして楽しく過ごした。


「仕方ないってわかっているのよ。もう私は子供じゃないから、聞き分けのないことを言うつもりもないの。寮の皆さんや、メイドや執事も、みんな私に優しくしてくれて、恵まれてると思うわ。でもね、」

お嬢様は少し温くなったお茶を一気に飲み干すと、小さくため息をついた。


「・・・笑わない?」
「もちろんです。」

「昨日、家族から手紙が届いたの。写真が入っていたわ。・・・みんなで、楽しそうにクリスマスやお正月のお祝いをしていたの。それを見たら私、何だか捨てられてしまったような気がして。」

大粒の涙が、固く握り締められたお嬢様の手に音を立てて落ちた。

「初等部に在籍していた時は、私も家族と一緒に、お父様の出張先について行っていたわ。毎日せわしなかったけれど、お母様とも妹達ともいつも一緒にいられて楽しかった。そのことを思い出したら、とても悲しくなってしまったの。
それで私、今日お父様から電話があった時に“お父様もお母様も、もう千聖のことなんて、興味がないのでしょう”って当たってしまって。最初はお父様も宥めてくださったけれど、いつまでも私の聞き分けがないから、ついには怒って電話を切られてしまったわ。」

お嬢様が見せてくれた写真は、真ん中に妹さん2人と弟さんが1人。ご両親は子供達を見守るように、両端で微笑んでいる。とても和やかで、温かい家族の光景だった。


「・・・いやだわ、私、本当に子供ね。栞菜の方が辛かったでしょうに、つまらない話をしてごめんなさい。」
「お嬢様、くだらないなんてことないです。その・・・お言葉ですがお、お嬢様のご両親は、む、む無神経ですっ!」
「まあ、栞菜。」


私には兄弟はいないけど、お嬢さまがこのご両親の何気ない行動で、どれだけ傷ついたかよくわかる。
今お嬢様はこんな広いお屋敷で1人留守を守っている。その心の隙間は、寮生やメイドさんたちでは決して埋められないものなんだと思う。それなのに、その寂しさを余計に増幅させてしまうような写真を送るなんて!

幸せそうな家族の写真には、お嬢様の知らない楽しい時間がたくさん散りばめられているように見える。まるで、お嬢様がいなくても、家族というものが成り立っているのを見せつけるかのように。


まったく、親ってやつはわかってないんだから。こっちにだって気持ちのコンディションとか、いろいろあるんだってば。何も言わなくても、察して欲しいことだってある。


「大体親なんて、子供の気持ちとか全然考えないんだから!都合によって子供扱いしたり、もう大人なんだからとか言ってきたり。その癖、こっちが甘えたい時は思いっきり突っぱねるしわけわかんない」
「・・・そうね。わかるわ。私も、明日菜・・妹が帰って来た時、よくちょっかいを出されて小競り合いになるの。そういう時、必ず“千聖は年上なんだから”といわれるわ。妹が悪いのに、年上だからといって何だというの。意味がわからないわ」
「そうそう!私なんて、兄弟いないから近所の子と比較されてガキだなんだ言われるんですよ。おかしいですよね、そんなの」

鼻息荒い私の主張に、うつむいて落ち込んでいたはずのお嬢様も、徐々に調子を取り戻してきた。

「ていうかよく考えたら今日だって、何もぶつことなかったと思うんですけど!」
「そうよ、暴力はよくないわ!かわいそうに、まだ少し頬が赤くなってるじゃない。」

あれあれ栞菜さん、さっきまでの殊勝な態度は?

自分に突っ込みを入れたくなるところだけど、いかんせん、私は調子に乗りやすい。
千聖お嬢様にはこんなしょぼい悩み、聞いてくれることはできても、共感までは出来ないかな?なんて思っていたけど、お嬢様だろうと庶民だろうと、こうして家族間のいざこざに不満を持つ気持ちは同じだったみたいだ。
良くも悪くもお互いのテンションを高め合ったところで、お嬢様はふと真顔に戻った。


「ねえ、栞菜。いいことを思いついたの。」

今鳴いたカラスが・・・という感じで、お嬢さまは肩をすくめてクフフと笑った。


「何ですか?」
「・・・しばらくここに、篭城しない?」
「ええっ!でもでも、あの・・・」
「いいじゃない、明日から休日でしょう?あまり深刻に考えないで、ね?栞菜。」


聞けばお嬢様は癇癪を起こすとよく部屋に閉じこもるらしく、ちゃんと部屋に“篭城セット”は備わっているみたいだ。

「お風呂もあるし、お手洗いもあるわ。食料は・・・そうね、小さい冷蔵庫もあるけれど、出来立てを村上さんに持ってきてもらえばいいと思うわ。どうかしら?」


たしかに、実家に帰ると言った手前、明日の朝みんなと顔を合わせるのは気が引ける。また顛末を説明するなんて、考えただけでも気が滅入る。また泣いちゃうかもしれない。
寮のみんなはすっごく心配性だから、大事になってしまう可能性もある。いずれ話すにしても、少し心を癒すための時間が欲しい。


「わかりました。私も立て篭もります!お嬢さま、これは理解のない大人たちへのストライキですよ!」


高らかにそう宣言すると、お嬢様はあらかっこいいわね、なんて言って笑った。



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