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「さ、栞菜。明日に備えて今日は寝ましょう。篭城は体力勝負なのよ。」
「体力・・・ですか?」
私が首を傾げると、お嬢様はなんとも微妙なスマイルで説明してくれた。

「私が部屋に篭るとね、寮の皆さんがいろいろな意地悪をするのよ。めぐ・・・村上さんも、味方だと思っていたら裏切られてしまったり。」

子供みたいにぷっくりほっぺたを膨らますのが可愛くて指で突っつくと、お嬢さまの唇からぷひゅっと空気が漏れた。

「それでいつも私が根負けして、1日篭城できたことはほとんどないの。でも今回は、栞菜がいるから戦えるわね。」
「はい、それはもちろん。みんなをギャフンと言わせてやりましょう、お嬢様!」



それから私達は、順番こにお風呂に入って(洗面所で待たされたから、覗いたら怒られた・・・)ベッドに入った。
もちろんこうして添い寝するのは初めてじゃないけれど、今日はわくわく感もひとしおだ。

「栞菜・・・あの、手をつないでもいい?」

珍しいこともあるもんだ。上目遣いでおずおずと手を差し出されて、つい嬉しくなってしまった。

「お嬢様♪」
「きゃっ!」

ふざけて覆いかぶさると、お嬢様は思いっきり体をひねって抵抗してきた。

「いいじゃねぇか千聖、ぐふぇふぇふぇ」
「もうっ・・・何をするの、栞菜!」
「いだだだ」

わき腹でもくすぐってみようかと手をわきわきさせていたのだけれど、意外に手ごわい。あっというまに変な関節技で仕留められてしまった。


「栞菜ったらひどいわ!」
「・・・調子コキました、すみません。」


追い出されるかと思ったけど、お嬢様はクローゼットから大量の枕を取り出して、あっという間にバリケードを作った。

「栞菜はこちら側で寝てちょうだい。千聖はこっち」
「ええっ!それじゃ手をつなげませんよ」
「だって、変な事しようとするじゃない!」

どうもお嬢様を見てると、私の中に眠るガチレズ栞菜が鎌首をもたげてしまう。困ったことだ。

「もー、わかりましたよぅ。」

これ以上刺激すると、本当に叩き出されかねない。とりあえず今日は、このままバリケード越しに添い寝することにした。


「・・・どうしても苦手なの。」
「え?」

しばらくの沈黙の後、お嬢様が小さな声で話し出した。


「強く抱きしめられたり、触れられるのが苦手なの。小さい頃から、私はだっこやおんぶを拒む子供だったみたい。私の家族はみんなスキンシップを好むから、両親には本当に心配をおかけしたわ。」
「それは・・その、何か、原因が?」
「いいえ。・・・・こういうのは、何て言えばいいのかしらね。先天的に、駄目みたい。」

なるほど、そういう話は聞いたことがある。生まれたばかりの友達の弟も、ママの抱っこが苦手だとか何とか。


「ごめんなさい、私。お嬢様の気持ちも考えずに」
「あ・・・いいの、気にしないで。私の妹も弟も、たまに顔を合わせると遠慮なくぶつかってきたり、べったりと甘えてくるから、これでもだいぶ免疫がついてきたのよ。」


顔と体は枕で隠したまま、お嬢様の小麦色の腕がニューッと伸びてきた。丸っこい指を握ると、安心したように力を入れ返してくる。


「手だけですか。」
「そう、手だけよ。」

手だけ、とやまびこするのが何だか楽しくて、2人で何度をも声を重ねて笑い合う。
そのうちにだんだんと睡魔が襲ってきた。今日は本当に慌ただしい一日だったから、やっと体の疲れに心が追いついてきたみたいだ。

「お嬢様?起きてる?」
「・・・」

返事がない。ふざけっこしてたらお嬢さまも疲れてしまったらしく、スピースピーと小さい寝息が聞こえてきた。


そっと体を起こすと、私の方を向いたまま、深く寝入った可愛らしい顔が目に入る。寮のみんなは、最近お嬢様は大人っぽくなったと口をそろえて言うけれど、寝顔はむしろ実年齢より幼く見える。
大人のようで、子供。子供のようで、大人。複雑な家庭環境がそうさせるのかもしれないけれど、本当に不思議な人だと思う。

「明日、頑張ってストライキしましょうね、お嬢様。」

つぶやいて、ぷっくりしたほっぺたにチュッと唇をくっつけた。・・反応がない。よかった、起きてたらいがいにたくましい御腕で殴り殺されてたかもしれない。


バリケードのすぐ下まで移動して、再びベッドに横たわる。つないだままの手に少し力を込めて、私も目を閉じた。



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