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「・・・・嬢様ー」

んー・・

「千聖様ー!」

うぅ・・・眠・・・

「千聖お嬢様!村上です。もう8時ですけどー」

寝起きの耳に飛び込んできたのは、朝から元気なめぐぅの声。さすが規律を守るメイドさん、ドアは開けずに、辛抱強く外から声を掛けているみたいだ。

「お嬢様、お嬢様。め・・・村上さんが起こしにいらっしゃいましたよ。」
「・・・うー」

起き上がって体を揺すっても、お嬢様は枕に顔を押し付けたまま、微動だにしない。
普段から寝起き最悪なお嬢様だけど、昨日は寝たのが2時ぐらいだったから、起きられないのも無理はない。しかし、篭城の説明はお嬢様からしていただかなくては。私は補佐だから、勝手がわからない。

「お嬢様ったら。もう・・・・・・

起きないとエッチなことしますよ。」


ガバッ!!


私が耳元で息を吹きかけながらそういうと、お嬢様は一気に飛び起きた。

「・・・」

不機嫌な顔で私を一睨みすると、「村上さんどうぞ、入って」と扉の向こうに呼びかけた。


「はい、失礼します。あら、栞菜さん来てたんですね。」
「えぇ、まあ」

サラサラストレートのミディアムロングヘアをクリップでまとめて、派手すぎないメイクで身なりを整えためぐ。対照的に、寝起きでぐしゃぐしゃな自分が何となく恥ずかしくて、私はこっそりお布団を鼻先まで引き上げた。

「村上さん、私と栞菜はしばらくここに篭城するわ。期限はないわよ。皆さんがわかってくれるまで。」
「あら、あら。そうですか。でもお嬢様、皆さんというのは、どちらの皆様のことですか?それから、わかるというのは、何を指しておっしゃってるのでしょう?」

お嬢様の宣言に目を丸くしつつも、めぐは慣れっこみたいで動じない。説明に窮したお嬢様は、無理矢理話をまとめだした。

「・・・とにかく、そういうことですから。お食事は、村上さんがここに運んでちょうだい。栞菜の分も一緒によ。村上さんが来たときだけ、部屋を開けますから。」
「はぁい。かしこまりました。」
「それと、寮の皆さんには内緒よ。篭城していること言っちゃダメよ、絶対にダメよ!」


――お嬢様、それじゃまるでダ●ョウ倶楽部の“押すなよ!絶対に(ry

私と同じことを連想したのか、めぐがムフフと笑いをこらえながら部屋を出て行った。・・・めぐは真面目な割に結構煽り体質だ。あれは、言っちゃうだろうな。確実に。


「さあ、栞菜。もう一眠りしましょうか。」
「えっまた寝るんですか?」
「だって、昨日は遅かったじゃない。栞菜も眠いでしょう」

まぁ、それはそうだけど。

お嬢様は再びベッドに横になると、すぐにまた寝息を立て始めた。

なんだ、篭城って言っても、こうして2人でぐだぐだ過ごしていたら、すぐに時間が経ってしまうかもしれない。
しばらく引きこもっていれば、お嬢様も私も気持ちの整理ができるだろう。そう思って、私もまたふかふか枕に頭を横たえることにした。・・・のだけれど。


「おーい!お嬢様ー!お・じょ・う・さ・まー!」
「ギュフ!みぃたん痛い痛い痛い!」


お部屋の真下、お嬢様専用のお庭(といっても寮生が使えるように解放されてるけど)から、耳慣れた2人の声が聞こえてきた。

そっとベッドを抜け出して覗くと、目ざとく私の姿を発見した舞美ちゃんが、ぶんぶんと手を振ってきた。

「栞菜、降りてきなよー!今なっきぃとバレーボールやってるんだけど、お嬢様も一緒に、ね!楽しいよ!くらえっnksk!舞美トルネード!とか言ってw」
「ギュフー!!」

――それ、単なるイジメじゃないですか、生徒会長!いやでも、なっきぃが微妙に恍惚の表情を浮かべてるから別にいいのか。ってそんなことはどうでもよくて


「何でこんな朝っぱらから・・・あっお嬢様」

知らないうちに、寝ていたはずのお嬢様は私の横に来ていた。窓の外を睨むお嬢様は、蕾みたいな唇をワナワナと震わせている。

「あ、あの・・・」

お嬢様は怒りの形相のまま、バッと踵を返して、内線電話の方へ向かう。

「めぐ!?どういうことなの!言わないでちょうだいって言ったじゃない!・・・誘い受け?竜ちゃん?何なのそれは!千聖にわかる言葉で言いなさい!」


しばらく言い争っていたみたいだけれど、結局はめぐぅに言い負かされてしまったらしい。お嬢様は乱暴に受話器を戻すと、立ち尽くす私の手首を掴んで、ソファに座らせた。


「めぐ・・・村上さんが、裏切ったわ。ひどいわ」
「そ、そのようですね。で、舞美ちゃんたちは、さっきから一体何を?」

窓の外では、懲りずに2人の声がこだましている。音からして、今度は野球をしてるっぽい。舞美ちゃんの剛速球を受けたら、なっきぃ死んじゃうんじゃなかろうか。大丈夫かな。

「ああやって、私の気を引こうとしているのよ。いつもそうなの。私は子供じゃないのに、そんな手に乗るものですか。」

そういいつつも、お嬢様は何となくそわそわしている。「ヒー」とか「ギュフゥ」とか尋常じゃない声が聞こえてくるたびに、窓に目を向けている。

寮では唯一お嬢様と張り合える舞美ちゃんと力いっぱい遊びたいのか、はたまた大好きななっきぃの身を案じているのか・・・


「お嬢様、私のことはお気遣いなく。もし外に出たければ・・・」
「っ大丈夫よ。私はお部屋で過ごすって決めたの。そうだわ栞菜、時代劇を見ましょう。時間はいくらでもあるわ。大岡越前も、桃太郎侍も、水戸黄門も見られるわね。何が見たいかしら?」

―いや、あの、どちらかというと栞菜は現代ドラマの方がいいんですけど・・・・


無言の私を尻目に、調子を取り戻したお嬢様は、にこにこしながら渋いパッケージのDVDをセットした。大きなスクリーンに電源が入る。

「あら?あら??作動しないわ・・・」

一生懸命リモコンをいじっていると、唐突に“あの方”の濃ゆいお顔が、スクリーンいっぱいに映し出された。

「キャッ!」

反射的に私にしがみつくお嬢様。そんなに驚かんでも。


「えりかちゃん、近い近い。」
「あれ?あ、本当だ。これで大丈夫かな?愛理も写ってる?」
「うん、大丈夫だと思う。」

グダグダトークに始めた二人を、お嬢様は「桃太郎侍は・・・」とつぶやきながら凝視している。

「せぇーの、CD●Vをごらんの皆様、こんばんはー!ウッメー&愛理です!」

「はあ?」

カメラのアングルが変わって、2人の全身が映し出される。えりかちゃんはドラム、愛理はギターを構えていた。

「お嬢様、今日はウチらがお嬢様のお部屋のテレビを電波ジャックさせていただきましたー!」
「イエーイ!」

ドコドコドコドコドコ
ギュイーン!


2人はハイテンションで楽器を操る。えりかちゃんはともかく、愛理は弾けもしないギターを掻き鳴らすもんだから、ものすごい不協和音だ。

「み、耳が・・・」
「お嬢様!どーせ時代劇でもご覧になろうとしていたんでしょうけど、そうはいきませんよ!フゥー!」
ズンズンドコドコズンズン

「お嬢様!それに今出てきてくだされば、私達の生演奏でカラオケができますよ、ケッケッケ!」
キィーン!ギギギギュイーン


「あ、愛理、それはセールスポイントになってないと思うよ」
「あれ?そう?まあとにかく、私達待ってますから!会場はお屋敷の食堂!イエーイ!ロック最高!」

世にも珍しい愛理の絶叫を締めに、映像はプツンと切れた。いや、お嬢様が切った。


「お・・・お嬢様・・・」

「もうっ!私は絶対に屈しないわ!何がカラオケよ!」
「でも、ちょっとやりたかったりして?」
「・・・・・・そ、そんなことより、朝食にしましょう。村上さんは裏切り者だけれど、お食事はちゃんと運んでくれるはず。」

お嬢様はあたふたしながら、再び内線電話を手にした。

――なるほど、みんなお嬢様の興味の引き方をよくわかっているんだ。


まだちょっとふてくされた顔のお嬢様は、普段よりもずっと落ち着きがなくて、私はこの篭城がかなりの短時間で終了してしまう予感がしたのだった。



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