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「はい、みぃたんあーんして?」
「あーん。・・・うん、おいしい!ありがとうなっきぃ、お礼に舞美もあーんしてあげる!ガーッ!!」
「ギャー!」

「・・・まったく、何てイジワルなの。私達がこうして空腹に苦しんでるというのに。」

モニターの向こうで繰り広げられる公開調教ショーを見ながら、お嬢様は悔しそうに爪を噛んでいる。

「見てますかぁお嬢様ー?ウチ、こんないいお肉食べたことないです。超おいしい!」
「ケッケッケ、早く来ないとなくなっちゃいますよー。うーん、タン塩うまうま♪」

くっ・・・!

お嬢様にとってはそう珍しいお肉じゃないのかもしれないけれど、私みたいな庶民にとっては、あんな霜ふりまくりの生でも食べれそうなお肉、そうそう口にできるもんじゃない。
普段の私は、寮のみんなに比べたらさほど肉食というわけでもない。だけどこうもおなかが空いていると、あのお肉達をわっしわっしと食べまくりたくもなる。

ほら、こうして香ばしい焼肉の匂いもこの部屋に充満してきて・・・って、そんなバカな!

「何故!?」

だって、お嬢様のお部屋は3階の一番奥。みんなが陣取る第1食堂(ちなみに第5まであるんだよ)は、1階の突き当たり。ただでさえ尋常じゃないほど広いこのお屋敷で、匂いなんてただよってくるはずがない。

「お、お嬢・・・・」

それをお嬢様に報告しようと口を開きかけると、お嬢様は黙ってすっくと立ち上がった。そのまま、迷いなく扉の方へ向かう。


バタン!!!!


「・・・・あ、やべっ」
「何をしているの、め・・・村上さん」


全開にした扉の向こう。廊下の隅っこで、う●こ座りもといヤンキー座りのめぐぅが、小さな七輪を使って一人焼肉を行っていた。ご丁寧に、匂いがこちらに来るよううちわまで使って。

「いやあ、お昼がまだなんで、ちょっと焼肉を」
「何を言ってるの!どうせ舞美さんたちの差し金でしょう!そんなことをしたって千聖は負けないわ。早く私達のラーメンを作ってらっしゃい!塩バターコーンラーメンよ、いいわね!」

ほとんど叫ぶような声でそういうと、お嬢様は乱暴にドアを閉めた。ヤバイ、目がつりあがってる。子供扱いされたと憤っているんだろう。

「もう、めぐはすぐに面白がるんだから!私は子供じゃないのよ、焼肉の匂いなんかでっ」
「あ、あの!お嬢様!私お聞きしたいことが!」

プンプンするお嬢様の気を逸らすために、慌てて私は話題をずらすことにした。

「なぁに?」
「さっきのほら、プロレスなんですけど。お嬢様ったらお嬢様の癖に、すっごい強かったじゃないですか。何でかなぁって気になって。」
「あぁ、ぷろれすね。それは・・・いつも舞にお相手してもらってたから。」


――舞。

お嬢様にとって、特別であろうその名前を耳にして、私の心臓はドキンと大きく鳴った。

「いろんな戦歴があるのよ。2人で村上さんをクロスボンバーで倒したり、舞美さんと村上さんペアとタッグマッチをしたり。・・・負けたけれど。」
「あぁ、・・・まあ、それは普通の人間は負けますね。」

「・・・舞は、私にいろんなことを教えてくれたわ。勉強も、遊びも、本当にたくさんのことを。私が無神経なことを言ったら、いつもちゃんと注意してくれたのよ。
それなのに私は気づけなかった。舞が、私のワガママに嫌気がさしていたことに。」

――それは違う、という言葉を、私は必死で飲み込んだ。

萩原さんがお嬢様を避けている理由を、実はもう私は知っていた。完全に又聞きだけど、寮のみんなの言うことだから間違いない。
萩原さんは心無い中傷からお嬢様を守るために、自分が悪者になって、全てを丸く収めようとしている。今寮生は、そんな状況を打破するために密かに動いているのだ。

だけど、肝心なことは萩原さんがちゃんとお嬢様に伝えなければ意味がない。そればっかりは、私達が口を出してはいけない領域だと思うから。・・・そんなわけで、仲直り大作戦は計画の段階で、現在一時頓挫している。
もちろんそんなことは知らないお嬢様は、こうして萩原さんとの思い出をなぞるたびに、寂しさや悲しさに苛まれてしまうみたいだ。

「私が両親に当り散らしてしまうのは、きっと舞に捨てられてしまったからなの。大好きな友達に嫌われてしまうような人間は、誰にも愛される資格はないから、家族も舞のように私を嫌いになったのかと思ったのよ。」
「お嬢様、それは違うよ」


私はたまらなくなって、お嬢様をギュッと抱きしめた。硬直の後、お嬢様は少しだけもがいたけれど、やがてあきらめたように私に身を預けてきた。肩にお嬢様の吐息がかかる。

「萩原さんは、お嬢様のこと嫌ってなんかいません。・・・えと、今あんな態度をとってる理由はわからないですけど。でも、栞菜にはわかるんです。
それに、お嬢様が栞菜に教えてくれたんじゃないですか、“子供を嫌いになる親なんていない”って。私はお嬢様のこの言葉で本当に救われたんです。だから、そんな風に言わないで。」

私はあせると口数が多くなる。辛そうなお嬢様を見ているのが怖くて、声を裏返らせながら必死で喋り続けた。

「それに、萩原さんってすごい目力強くて気も強そうだけど本当は寂しがりやさんだと思います!だから仲直りできたらいっぱい一緒に居てあげたらきっと喜ぶんじゃないかなって。あ、そんなの私よりずっとお嬢様の方がご存知ですよねっ」
「・・・ありがとう、栞菜。」

機関銃のように言葉を撒き散らす私の唇を、お嬢様の人差し指がそっと遮った。ゆっくり顔を上げたお嬢様は、いつもの太陽みたいな笑顔に戻っていた。

「優しいのね。何だか心が楽になったわ。」
「そ、それは良かったです・・・」
「栞菜と2人で篭城してよかった」
「は、はい・・・」

いや、そういってもらえるのも、元気になってくださったのも嬉しいんですけど。その、私達ほとんど身長が変わらないから、私の自慢のたゆたゆと、お嬢様のご立派なソレがぷにゅっとぶつかって変な気分に・・・

「栞菜?」

よく考えたら、これは月9とかならキッスとかしちゃうシチュエーションだ。泣いてるヒロインを抱きしめて励まして、気持ちが落ち着いたところで見つめあった2人は・・・

「どうしたの、栞菜?」
あ、あれ?おかしい。バカなことを考えていたからだろうか。なぜかお嬢様の顔がどんどん近づいて・・・


「はいダメー!!!」

その時、絶妙のタイミングでめぐぅが部屋に入ってきた。手早くラーメンをテーブルに置くと、私の後頭部をスパーンと叩いた。

「あいたー!」
「お嬢様に何さらしとんじゃ!」

右手はお嬢様の肩を抱きよせ、左手はあごに添え。
――どうやら顔を近づけていたのはお嬢様じゃなく、私のほうだったらしい。あぶなかった。ガチレズ栞菜よ、今は静かに眠れ。

「めぐぅのおかげで外道にならずにすみました・・・」
「ふん、わかればよろしい。」
「よくわからないけれど、よかったわね、栞菜。」

私達のやり取りを見て、ポーッとした顔でお嬢様が笑うもんだから、私もめぐも脱力してしまった。

「それじゃお嬢様、私はこれで。トッピングも置いておきますから。足りなければお申し付けください。」
めぐは畳み掛けるようにそういうと、私を一睨み(なぜかシャクレ顎で)して、部屋を出て行った。

「あら、めぐはせっかちだからいつも麺が固いのに。」
「まあまあ、これはこれでおいしそう。」

少し伸びてしまったラーメンは、私達のやりとりをぎりぎりまで見守ってくれていた、めぐの思いやりの証のように感じられた。

「寮の皆さん、次はどんな手でくるのかしらね。負けないわ。」
いつの間にかまた電源の切れていたスクリーンを見つめながら、お嬢様はクフフと笑った。



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