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「YO!YO!おJOが篭JO!AUDIENCE動YO!それってどうYO!俺ら登JO!レペゼン女子RYO!MC ELLY&AIRRYだYO!」
「ヒューヒュー!!!」


これは一体どうしたことでしょう。

食後まったりお茶を飲んでいた私達は、再びスイッチの入ったスクリーンに釘付けになっていた。

私のお姉ちゃんことえりかちゃんが、こめかみに青筋を走らせながらラップを披露している。横で煽るは、おっとりお嬢様だったはずの愛理。
理解しがたい蛍光色の超デカイTシャツに身を包み、バンダナを巻いた頭の上におかしな方向を向いたキャップ。金の龍の細工が施されたサングラス。
両手をフレミングの法則みたいにしたえりかちゃんは、半ばヤケクソな表情でその手を上げたり下げたりしてリズムを取っている。愛理はなぜか結構楽しそうだ。

「・・・・・・」

そんな光景を、お嬢様はぽっかりお口を空けたまま凝視している。今目にしている光景が、頭の中でうまく処理できていないのかもしれない。
世の中にはこういうファッションや文化があることなんて、知らなかったんだろう。HIPHOPとお嬢様、あまりにもジャンルが違いすぎる。


「YO!KAN菜!篭城はイKAN!時KANが来たぜ!」
――しかし、MC AIRRYさんは韻の踏み方がひどすぎる。しかもリズムの取り方も何だかくねくねしてるし、声は柔らかいし、もはやコントだ。
ELLYも「お手上げDA・ZE」とか言いながら肩を竦めている。あ、ちなみにレコードを激しくスクラッチさせてるDJはNAKKYさんです。舞美ちゃんはなぜか見当たらない。


「・・・・皆さんは、何をやっていらっしゃるの?」

しばらくして、やっと我にかえったお嬢様が私の顔を不安そうに見つめてきた。

「どうしておかしな話し方をしているの?なっきぃはどうしてレコードをあんなふうに扱っているの?」
「えーと・・つまり、それはそういう音楽のジャンルっていうかぁ」
「音楽?でも、愛理はせっかく綺麗な歌声なのに、歌っているようには見えないわ。それに、あの手の動きはなぁに?何だか怖いわ」

うーん。

私が説明に困っているうちに、どうやら先方のHIPHOPユニットもネタ切れになってきたみたいだ。わりと流暢だったELLYが噛み始め、AIRRYは「先日うちの犬がYO!」とか関係ないことを言い始めている。

――でも、一体なんでラップなんだろう?今までの外遊びやカラオケ、焼肉なんかはお嬢様の好みをモロに突いてきているから、狙っている効果はよくわかる。
でも、お嬢様は別にHIPHOPが好きってわけじゃないみたいだし・・・笑わせたいならお気に入りの「ずぐだんずんぶんぐんゲーム」をやれば一発なのに。まるで、大きな音と奇抜な行動で、私達の集中力を引きつけるのが目的のような・・・・・んん??

「まさか・・・」

私は恐る恐る、後ろを振り返った。


「ふっふっふ、気づくのが遅かったようだね有原くん。とかいってw」
「篭城中にしては、わきが甘かったんじゃないかな?とかいってw」

――やられた。まさに、私の予想通りだ。注意をスクリーンに向けさせられている間に、敵の侵入を許してしまったのだった。
大きな瞳の巨乳メイド目力美人。一見清楚で、よく見れば眼光鋭いスポーツバカ目力美人。2人、いや2匹の肉食獣が、私達の背後で微笑んでいた。

「きゃああ!?ど、どうしてそこにいるの!出て行きなさい、命令よ!」

1テンポ遅れて事態に気が付いたお嬢様が、あわててクッションを投げつける。舞美ちゃんはそれを大きな手で簡単に受け止めてしまった。


「いやー、いろいろ考えたんですけど、寮生会議の結果、今回は早めにギブアップしてもらわないとって結論になったんです。それでこうきょうしゅでゃんに。あれ?きょうとうしだん?」
「強行手段。今回は有原さんがお嬢様についてるから。有原さんみたいに頭のいい子がブレインになったら、いつまででも篭っていられそうだし。まあ、理由は他にもあるんですけど今は秘密。」
「・・何を勝手なことを言ってるの。千聖は出て行かないって言ったでしょう。聞いてるの?ねえ、何?何をするの舞美さん!」

追い詰められた小型犬みたいにキャンキャン吠えるお嬢様を、背後から舞美ちゃんがガシッと捕まえた。そのまま一瞬お姫様抱っこをすると、勢いよくお嬢様の小さな体をふかふかベッドに投げ込んだ。

「キャー!」
「ちょっと舞美、なんて事を!」

すぐに放り投げたのは、抱っこ嫌いなお嬢様を気づかっての行動なんだろうけど。舞美ちゃんの思いやりはどこかズレている。


慌てて駆け寄るめぐの後を追って近寄ると、いきなり舞美ちゃんに手首を掴まれて私もベッドにブン投げられた。

「ぎゃっ!」
「栞菜、大丈夫?」

私達は迫りくる2人から逃れようとするけれど、徐々に間合いをつめられて逃げ場がなくなっていく。

「前にもこういうことがありましたね、お嬢様。あの時は舞だったけど。覚えていらっしゃいます?」
「さ、さあ?わからないわ。舞と2人でぷろれすでやっつけられてしまったことなんて、私は覚えてないわ。」

お嬢様の自爆に、めぐの口角がキュッと上がった。・・・美人なのになんて怖い笑顔なんだろう。


「そう、プロレスですよお嬢様。私達に勝ったら、引き続き篭城することを認めます。負けたら速やかに食堂へ来ること!いかがでしょうか」
「ションナ・・・」
「あらあら、有原さんは自信がないようですよ、お嬢様?こんなよわよわチームじゃ、まるで私と舞美が弱いものいじめしてるみたいになっちゃう、とかいってw」

わかりやすいめぐの挑発で、お嬢様の目に闘志が灯る。

「っ失礼な!めぐと舞美さんになんて負けないわ。私達を侮らないでちょうだい!ね、そうよね栞菜?」
「へぇっ!?あ、はい?」

私が事態を理解できないうちに、トントン拍子に話が進んでいく。

「ほら、立って栞菜。」

お嬢様に引っ張り上げられて、私達はベッドの上でにらみ合う。

「どっからでもかかってきてください、お嬢様。この村上が相手になりますよ。」
「ちょ、待って。お嬢様、絶対敵わないってば!殺される!」

私の制止も何のその、お嬢様は勇敢にめぐぅの懐に飛び込んでいった。その弾丸のような動きに見とれていると、突然顔が舞美ちゃんの鋼のような胸(とかいってw)に押し付けられた。そのまま首をガチッと締め上げられる。ヘッドロックだ。

「ぐぇっ」

「さあ栞菜、こっちもガチンコ勝負だ!」

舞美ちゃんの腕は女子とは思えないほど力強くて、私が力を込めてもちっともはずれない。女の子らしくフリフリピンクのチュニックなんて着て、清潔なシャンプーの匂いなんて纏わせてるのに、やってることは男前だ。私は本能的に恐怖を覚えた。


「さあ、本番はここからだ!手加減は無用だぜ!とかいってw」
「ヒー!!勘弁してぇ!!」




―暗 転―




「・・・・」
「お嬢様、いい加減に機嫌を直してくださいよぅ。なっきぃはお嬢様が出てきてくださって、嬉しいんですよ?」


第一食堂の一角。
ムスッとした顔で席に着くお嬢様を、なっきぃが必死で宥めている。


言うまでもなく、私とお嬢様のタッグはあっという間に倒されてしまった。
関節技にこだわった舞美ちゃんは、私をV1アームロックで弱らせた後、ベッドに引き倒して逆海老固めを喰らわせてとどめをさしてきた。
悶える私の目の前では、ほとんど取っ組み合い状態でめぐぅとお嬢様がほっぺたを抓りあっていた。それ、もうプロレスじゃない!
でもメイド服の美少女と、上品なチェックのワンピースのお嬢様が掴みあってるなんてステキだかんな!じゅるり。録画したらその筋のマニアに売れるんじゃないか、これ。

早々ギブアップしてそんなバカなことを考えていると、舞美ちゃんが私の足を離してめぐぅの助っ人に行ってしまった。その後は豪快なジャイアントスイングで、お嬢様は戦闘不能に。
そして、HIPHOPチームが待つこの食堂に引きずられてきてしまったというわけだ。


「卑怯だわ。ずるいわ。千聖が舞美さんに敵うわけがないじゃない。めぐにだって勝てたかどうか。」
「まあまあ、そんなこと言ってるけど、本当はそろそろ出てきてもいいって思ってたんじゃないですか?」

えりかちゃんの言葉に、お嬢様は返事をせずプイッと横を向いた。さすが、年の功と言うべきか。こういう時のえりかちゃんはなかなか鋭い。

「それより、いっぱい動いておなかすいたでしょう?運動の後はさっぱり系がいいですよね、ケッケッケ」

ふてくされるお嬢様の前に、愛理がフルーツの盛り合わせを置いた。バナナをフォークに刺してうりうりと見せびらかすと、ちょっとだけ笑いながら、お嬢様はそれにかぶりついた。

「キュフフ、なっきぃそのマンゴーが食べたいなあ、お嬢様」
「もう・・・・仕方ないわね。」
「お嬢様、私はそのイチゴ!とかいってw」

みんな、すごいなあ。えりかちゃんがビシッと指摘して、愛理が甘えさせて、なっきぃが甘えるっていう役割に自然と分かれている。(舞美ちゃんだけはさっきも今もガチだろうけど。)

私はどうだろう。親に怒られていじけて、お嬢様に慰めてもらって一緒に篭城して、みんなに心配かけて・・・
何だか冷静に考えると、ちょっと凹む。


「でもさ、今日一番頑張ったのは、栞菜だよね。」
「えっ・・・」



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