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「はい、では調理したものを食べましょう!」
「いただきまーす!」

家庭科の先生の各班への採点も終わって、やっとお楽しみの実食タイム。

「・・・おいしー。」
「うん、おいしいね」

さっきの味見でわかっていたことだけど、千聖が味を調節したカルボナーラは美味しく仕上がっていた。まだちょっと味濃い目だけど、コクがあってくどさがない。

「本当すごいね、岡井さん。ねぇ、りぃと萩原さんのサラダも食べて?」
「ウフフ。シーザーサラダもとてもおいしいわ。このサクサクした食感が・・・」
「それね、クルトン入れてみたの。」

中3コンビがお料理話で盛り上がってるから、私は向かいで黙々とフォークを動かすさゆみさんをこっそり観察することにした。

ツヤツヤの黒髪。花のつぼみみたいな濃いピンクの唇。真っ白な肌。大人のような子供のような、神秘的な目元。・・・・この人、典型的な「黙っていれば美人」というやつなんだろうな。
ま、千聖のことをオモチャにするのはいただけないけど、悪い人じゃあなさそうだ。

――悪い人じゃなさそうだけど、でもね、でもね、だけど。


「ん?なぁに?」

あんまりジーッと見つめていたからか、さゆみさんは顔を上げて首を傾げてきた。

「あ、いえいえ別に。カルボナーラ、美味しいですね。」
「そうねぇ。ま、道重家のお嫁さんとしては及第点ってところなの。千聖ちゃん、これからもお励みなさい。シーザーサラダも78点ってとこかな。」
「はぁ!?もとはといえば誰のせいで・・・あ、なんでもないです眉毛抜かないで怖いから」

ああもう、めんどくさいったら!考えてみれば、私の周りの人はみんな他人に気を使うつつましい性格の人ばかりだ。
千聖はたまにワガママな時もあるけど、基本的にはのほほんとしてて優しい。だから、こんなに掴みどころのないさゆみさんは、私にとっては宇宙人だ。エイリアンだ。地球外生命体だ。


「舞ったら、そんな顔して。どうしたの」
「ふん。」


私はみんなに天才だと言われて、自分でも他の同年代の子より頭がいいって思っていた。勉強も、人の心を読むことさえ容易いと考えていた。
まあ、さすがにこないだの新聞部との一件とか、自分1人ではどうにもならないことがあるっていうのも学習したつもりなんだけど。それにしたって、さゆみさんは想像の斜め上を行く存在すぎるだろ、どう考えても。

味付けの異常に濃いカルボナーラを好むという兄重殿がどんな人かは知らないけれど、とりあえず、さゆみさんは危険だ。私の千聖に何しでかすかわかったもんじゃない。


「はい、ちーちゃん。さゆみが食べさせてあげるからね。」
「あ、大丈夫ですモコ゛モコ゛モコ゛!」

ちょっと!ちぃって呼んでいいのは私だけなんだからね!さゆみさんは到底口に入りきらなそうな量のパスタをフォークでくるくるまとめて、千聖の口に押し込もうとしている。
スガヤさんは「イヒヒヒヒ」と大うけだけれど、私は苛々で大爆発を起こしそうだった。えーと、こういう時はどうするんだっけ・・・


“萩原さんは態度に出しすぎ。顔に出しすぎ。そういう時は、目をつぶって3回深呼吸。それで、とりあえずは気が静まるから”


メイド見習いをやってた時に、村上さんから教わった気持ちの抑え方。鬼軍曹(とかいってw)の言うことを聞くのも尺なんだけど、教えてもらった方法は、私には合っているみたいだった。


「すー、はー、すー、はー」

「萩原さん、何してるの?」

突然フォークを置いて深呼吸し出した私に、スガヤさんが訝しげに声を掛けてきた。

「うん、ちょっとね」

頭が冷えてきた感じがしたから、深く閉じた目をゆっくりあける。よし、大丈夫。目の前で今度はサラダを口に押し付けられて目を白黒させてる千聖を見ても、さっきみたいに怒りまでは感じない。

「スガヤさん、あのさ。舞と取引しない?」
「うん?鳥?」

シーッと一本指を立てて、餌付けに夢中なさゆみさんに気取られないよう、注意しながら話を続ける。


「だから・・・この後・・、ね?お願いしたいの」
「えー!めんどくさいからやだー。りぃも何気に忙しいんだよねー」

予想通り、スガヤさんはゴネはじめた。でも、勘違いしてほしくないな。これは“お願い”ではなくて、“取引”なのだよスガヤくん!


「もちろん、無償でとは言わないよ。協力してくれたら、いいものあげる。」
「いいものって?魔女グッズ??」


「いやいや。夏焼さんの・・・・」
「あばばばばばばばばばば」

名前を出しただけなのに、スガヤさんはものすごい勢いでアバアバしだした。千聖のフカ゛フカ゛といい勝負だ。

「どうなさったの?すぎゃさん?」
「別に何でもないから。」
「ほらほら、ちーちゃん。制服にドレッシングがついちゃってるの。さゆみが拭いてあげるからね。ちーちゃんはさゆみがいないとダメなのね。」


ぐおおおおおお!!それは私がいつも言ってる(ry

「すー・・・はー・・・・」

怒らない、怒らない。キレそうになったら村上鬼軍曹の顔を思い出すでおじゃる。
再び脳内でさゆみさんを成敗して落ち着きを取り戻した後、私は改めてスガヤさんの方を振り返った。

「な、なななななななんで夏焼先輩あばばば」
「そんなの、ちょっと一緒にいればわかるよ」
「さ・・さすが天才」

スガヤさんのつけてるムスク系のコロンは、夏焼さんのと一緒だ。わりと珍しい香りだから、被るってことはまず考えられない。
薬指にだけつけてるハートのネイルシールも一緒。夏焼さんと同じで、右斜め下に二個ついてる。メイクも似てるし、夏焼さんの独特のネクタイの結び方まで真似してるんだから、私じゃなくたってわかるだろう。

「それでね、もし舞に協力してくれたら、夏焼さんの写真あげる。」
「嘘ー!?」

慌てて自分の口をふさぐスガヤさん。結構大人っぽい容姿なのに、行動がいちいち子供っぽくて可愛いな、この人。


「うん、約束。」

――まあ、写真は千聖のデジカメの中にあるんだけど。(こないだ夏焼さんの取材を受けたとき、何枚か一緒に撮ったらしい。)
私が頼めばデータぐらいくれるだろうし、もしだめなら栞菜でも召喚してレズ攻撃で脅迫だな。ってチンピラか私は。


「それで?さっき言ってたのもうちょっとくわしく教えて?もぉ軍団使っていい?」
「まあまあ、ちょっと耳貸して。」


もうすぐ授業が終わる。この後は放課後まで、千聖に会えない。スガヤさんには頑張ってもらわないと。
なぜか千聖の乳に手を伸ばす道重さんをにらみつけ、何度も軍曹の教えを実践しながら、私はスガヤさんに作戦内容を打ち明けた。



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