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千聖のいない時間はつまらない。6時間目の理科の授業中、私はこっそりケータイを開いて、さっき千聖から聞きだしたスガヤさんのメールアドレスを呼び出した。

この時間、千聖とスガヤさんのクラスは体育だって言っていたから、おそらく返事は来ないだろう。
わかっていても、私は千聖のこととなると、平静ではいられなくなってしまう。なにかせずにはいられない。

体育の時間、さゆみさんはどうだった?千聖はどうだった?ちゃんと頼んだとおりにしてくれた?ホームルームまでの10分休み、会える?

われながらうざったいメールだ、と思いながらも、とりあえず送信してケータイを閉じる。すると、待ち構えていたように、先生が私を指名した。

「はい、じゃあ次萩原さん答えなさい。まさか、答えられないってことはないですよね?天才ですものね?何だか楽しそうにニヤニヤしてましたけど。」
「・・・・・・」

私はこの先生が好きではない。何かむこうも私を何かと目の敵に・・・って今のは私が悪いんだけど。それはわかってるんだけど!

「・・・・・・お答えします。空気の密度の公式は、質量/体積。蛇足ですが、光の屈折率と空気の密度の関係についても申し上げましょうか。
常温常圧ならば空気密度の変化分とそれに対する光の屈折率は直線関係にあると想定できますので、屈折率の変化は密度の変化に比例し・・・」
「け、結構です。聞いていないことまで答えないように。」

すごーい、萩原さん!なんて声に包まれながら、私はポーカーフェイスで着席する。ダメダメ、こういうとこが子供なんだよね、本当に。


まあ、ほんのちょっとだけ申し訳ないと思うから、この後の時間は真面目に授業を聞いて差し上げましょう。

私は舞美ちゃんにイラストを描いてもらった理科のノートを取り出して、まずは黒板の内容と照会を始めた。




「もー、びっくりした!授業終わったら知らないアドレスからメール来てるし!聞いてくれれば直接教えたのにー!」
「ふふ、ごめんね。何かスガヤさんに直接聞きそびれちゃったから。・・・それで、どうだった?」
「梨沙子でいいよ。・・・んーとね、とりあえずできる限りしておいたよ。妨害。」
「妨害って。・・あ、私も舞でいいよ。」


私のテリトリー、屋上の給水塔。
メールで呼び出したスガヤさんもといりぃちゃんは、こんなとこ来たことない!なんて言いながら、ハシゴをよじ登ってきてくれたのだった。

「ま、妨害ってほどの妨害はしてないけど。萩・・舞ちゃんが言ったように、ミチシゲさんと岡井さんがベタベタしないように見張っといた。」


そう、私がりぃちゃんに頼んだのは、“さゆみさんの千聖への過剰なスキンシップを阻止すること”だった。
独占欲の強い私が、あの恐ろしいスキンシップの嵐を放置しておけるわけがない(今朝の・・・千聖を抱き枕にしていたことは許さない。絶対にだ!!!)
栞菜のエロ攻撃もかなり許容しがたいけれど、さゆみさんはそれ以上に限度ってものがわかってない気がする。
大体、千聖がベタベタされるの嫌いって普通に気づかないわけ?それを、髪をいじったり乳触ろうとしたりよくもまあこの私の前でしゃあしゃあと

「ま、舞ちゃん?顔怖いよ」
「・・・ソーリーソーリー。じゃあ、続きを話して。」
「うん。5時間目はね、国語だったんだけど、ミチシゲさん岡井さんの椅子に無理矢理座って、後ろから抱っこして授業受けようとしてたの。
だから、何とか説得して、ミチシゲさんにはりぃの隣に座ってもらったよ。ミチシゲさんって本当にスキンシップ好きだよね。私もすごい触られたんだけど。イヒヒヒ」

――そんなに体張って舞との約束を果たしてくれたんじゃ、報酬もはずまないとな。夏焼さんの写真、舞も個人的に入手しておかなきゃ・・・・徳永さんあたり、いいの持ってないかな?

「りぃちゃん乙です。そんで、6時間目は?」
「体育だったよ。3年生の熊井ちゃん・・・ってわかる?もぉ軍団の。熊井ちゃんのクラスと体育が合同だったのね。
そんで、バスケだったんだけど、さゆみさんまた岡井さんにベタベタして、“可愛いちぃちゃんが怪我するの!さゆがちぃちゃんを守るの!”とか言って、岡井さんに来たパス全部カットしちゃったのね。そのうちオウンゴールまでし始めちゃって。」

――うぜぇ・・・・。

千聖はかなり運動神経がいいから、本来ならちょこまか動き回って対戦相手を翻弄する大活躍ができたはずだろうに。さゆみさんが内股走りで「キャー」とか叫びながらボールをカットして、千聖と一緒に床に倒れこむ光景が想像できる。ゆ、許せん!

「でさ、そのうちなぜか熊井ちゃんがプンプンしだして、“このままじゃお嬢様が可哀想!”とか言って、ミチシゲさんをブロックしながら岡井さんにパスを回し始めたのね。おかしーでしょ!敵チームなのに!」

よっぽどそれがツボに入ったのか、りぃちゃんは涙を浮かべながら笑っている。

「そんなんだから、誰もミチシゲさんと熊井ちゃんにボールを回さなくなったのに、端っこで2人でディフェンスとかオフェンスとかし合ってるんだよ。でもそのおかげで、後は岡井さん普通にゲームに参加できたの。得点もバンバン決めて、かっこよかった。
ちなみに熊井ちゃんとミチシゲさんは“なかなかやるわね、あなた。”“そっちこそ”とか言って友情を深めていましたとさ。めでたしめでたし。」

うまいことりぃちゃんがまとめたところで、ホームルームの予鈴が鳴った。

「ありがとね。」
「ん、夏焼先輩の写真期待してるからね。それじゃ」

給水塔の下でバイバイして、それぞれのホームルームの教室へ向かう。
りぃちゃんのおかげで、私の機嫌はかなり直った。
べつにさゆみさんにうらみがあるわけじゃないけど、私は千聖を私のものだってみんなにわかってもらうためにも、気に食わないことは自分でどうにかしなきゃいけないんだ。
身分の差を越えて千聖の隣にいつづけるには、戦いは免れないのである!

「あれ?桃ちゃん?」
「あっ!舞ちゃーん」

ちょっと早足で廊下を歩いていると、桃ちゃんが教室の手前の柱にもたれていた。何かそわそわしてる。

「舞ちゃんのこと待ってたんだ。ちょっと確認したいことがあってさ。一緒に来てくれる?」
「ん?舞?」

意外に力の強い桃ちゃんは、そのまま私の手を強く引っ張って教室の中へ入った。そのまま、千聖とさゆみさんが並んで座る机へ一直線に向かう。


「あら、ももちゃん。舞も」
「やほー」

千聖への挨拶もそこそこに、ももちゃんはさゆみさんをジーッと見つめだした。

「なぁに?」

ももちゃんは人と話すとき、顔の距離がすごく近い。私なんてのけぞってしまうくらいなのに、さゆみさんは負けじと顔を近づけ返した。

「さゆみの顔に、何かついてるかしら?」


「さゆ・・・・・・・やっぱり!さーちゃんでしょ!!」


ももちゃんはいきなり仰け反ると、思いっきりさゆみさんに抱きついた。

「やーん!さーちゃんださーちゃんださーちゃんだー!」

「ちょ、ちょっと・・・」


はしゃぐももちゃんとは対照的に、さゆみさんは固まっている。
いつもテンション高いキャラのももちゃんだけど、わりと演技っぽいことも多い。それが、今は何ていうか、100%素の状態状態で喜んでいるように見える。

「もぉのこと覚えてますかー?」
「さ・・・さぁ、わからないの・・・」
「ほらぁ、小学校の時登校班一緒だった・・・」

「と、登校班!?どういうことですか、さゆみさん、学校へは幼稚園の時からずっと車で通ってたってさっきおっしゃって・・・」
なっきぃが後ろから興奮した口調で声をかける。

「え、ないない。だってさーちゃんはもぉの元ご近所さんだよ?さーちゃん突然引っ越しちゃったみたいだけど。ね、そうだよね?
今朝からさ、何か誰かに似てるなって思ってはいたんだけど、なかなかわかんなかったよー。だってさーちゃんってもっと地味な」

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいい」
「あっさゆみさん!どうなさったの?」

さゆみさんは白い顔をさらに青白くして、ももちゃんを突き飛ばすようにして教室から出て行ってしまった。
慌てて追いかける千聖を、さらに私が追いかける。

「離して、ちぃちゃん!さゆは、さゆはもうここにいることはできないの!」
「さゆみさん、落ち着いてください、どうなさったの?千聖はわけがわからないわ」

ドアを開けると、あっというまに捕獲されたさゆみさんが、千聖の手を離そうともがいていた。
私の存在に気づくと、千聖は途方にくれた顔で助けを求めてきた。

「・・・とりあえず、ここは注目あびちゃうから。あっちで。」
私が促すと、千聖はかるくうなずいて、2人でさゆみさんを引きずりながら教室を離れた。

まさか、一日のうちに3回もここに来ることになるとは・・・

さっき降りたばかりの細いはしごを登って、給水塔の影にでんとあぐらをかく。私は深呼吸しながら、後から登ってくる2人を待った。



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