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「さて、ではさゆみさん。」

私は咳払いを一つして、こんな高いとこ登ったことないの!とわめくさゆみさんに向き合った。

「一体、どういうことですか?さゆみさんはおうちにコックさんがいるとか、基本移動は車だとか、お兄様は家業を継ぐために忙しいのとか、さゆみは生まれながらのセレブなのとかおっしゃってたじゃないですか。昨日はドレスを着てたらしいですし。
それが、それがどうしてももちゃんと同じ小学校で登校班が一緒なんですか!」

なるべく穏やかに話そうと思っていても、知らないうちに語気が強くなってしまう。だって、これは私の大事な千聖の未来に関わることだから。


「舞ったら、そんな怖い顔しないで。さゆみさんが怯えてらっしゃるわ。」
「だって・・・」


「・・・・嘘じゃないの。」


その時、うつむいていたさゆみさんがポツリと言葉を漏らした。


「だって、さゆみのおうちは駅から遠いし、買い物しようにも住宅ばかりで何もないから、基本的に移動は車・・・バスなの。
それに、お兄様・・お兄ちゃんは確かに家業を継ぐの。・・・ちっちゃなペットショップだけど。大型店の台頭で、経営がなかなか厳しいの。
それでお兄ちゃんは勉強会や、珍しい動物たちをうちに連れてくるのにあっちこっち飛び回って忙しいの。
桃子ちゃんのことは、さっき抱きつかれて思い出したの。さゆみのお父さんが脱サラして引っ越すまで、同じ地区に住んでいたの。さゆみのこともっと地味だったって言ってたけど、それはお互い様だとおもうの。桃子ちゃんだって。だから気付かなかったわけだし。」
「っ・・・そ、それじゃ、コックさんていうのは?ドレスは?セレブって??」
「ドレスはレンタルなの。セレブは名乗るだけなら自由ってマリエがテレビで言ってたの。
コックっていうのは、・・・お母さんのこと。ちょっと見え張って言ってみただけ。ちぃちゃん、お母さんには内緒よ。さゆぶっとばされちゃう。」
「ええ、内緒にしますわ。ウフフ」


「な、何がウフフだバカちしゃと!」

思わずほっぺたを両側からむいっと摘み上げると、千聖はウーウーうなりながら首を振った。


「・・・千聖、知ってたの?」
「え?」
「結婚する相手が、千聖のパパみたいな大きい会社の人じゃなくて、ごく一般的な庶民だって・・・ああ、っていうか、何で結婚することになったわけ?別に政略結婚ってわけでもないんでしょ?」


いきなり明らかになった真実に、私は柄にもなく混乱して、矢継ぎ早に千聖に質問をぶつける。

「舞ったら、落ち着いて頂戴。さゆみさんのお家がペットショップを営んでいらっしゃるのはもちろん存じていたわ。リップとパインもそちらでご縁があって、うちで飼うことになったのよ。
結婚については、何でと言われても・・・えと・・・私が物心ついたときには、もうそういうお話になっていましたから。」
「あ、それはねちぃちゃん、ちぃちゃんのパパとうちのお父さんが古くからのお友達だからなの。お互い子供が産まれたら、結婚させようってノリで。」
「な、何それ。ありえないんだけど。ノリって。子供の人生なんだと思ってるわけ!」

大企業の副社長様ともあろうお方が、そんなつまらない理由で可愛い千聖を一般庶民のおうちに嫁がせようとしてるのか!けしからん!そんなんならいっそ舞が(ry


「まあ、そうは言っても、お父様もお母様も・・お兄様自身も、本気にはしてないと思うの。というよりも、下手したらそんな約束忘れてるかもしれないわ。お兄様の写真だって、さゆみが勝手に送ってただけだし。」


な、何だってー!


「でもね、もうすぐちぃちゃんも中学3年生でしょ?いつまでも絵空事の婚約ごっこを続けるわけにもいかないと思って。」
「ていうかあんたのせいじゃん!」
「・・まあ、細けぇことはいいの。お兄ちゃんもね、最近それとなくちぃちゃんの送ってくれる写真見せたら“千聖ちゃんおいしそうに実ってきたねフヒヒヒ”とか言ってチョーキモイの。男って最低ね。
これで改めて婚約の話なんかしたら、ちぃちゃんがどんな目に合わされるかわかったもんじゃないの。」

な、何なのほんとうに。この人。話題がどんどんとっ散らかって、一体なにを言いたいのか全然わからない。

「それでね、こっからが本題なんだけど、そもそもさゆみがなぜここに来たのかっていうと、お兄ちゃんはともかく、千聖ちゃんは本当にうちにお嫁に来る意思があるのか確認したかったの。
それと、お兄ちゃんはどうでもいいんだけど、さゆみとうまくやっていけるかどうか。意地悪小姑だなんて思われたらさゆみも困っちゃうから。
でもちぃちゃんいい子だから、きっとうまくやっていけるはず。ね、そうよね?」
「待ってよ。1000兆歩譲って兄重殿と千聖が結婚するとして、千聖がそっちに行くわけ?そりゃあ千聖には弟がいるから、千聖のパパの会社は弟くんが継げばいいのかもしれないけど。でもさ、その・・・経済的に考えたって」
「おっと、そいつは心外なの。さゆみの家だって、経営が厳しいとはいえお嫁さん1人増えたぐらいでがたつくようなヤワな家じゃないの。」


――いや、千聖の前にあんたが結婚(ry といいたいところだけれど。もう、こんなに話が通じない人は初めてだ。実はこの機会に、婚約も白紙にさせてやろうと企んでいたのに、舞の言葉は完全にさゆみさんの耳をトンネルのように通り抜けている。


「・・・千聖。千聖はどうなの?ペットショップで働くの?今みたいに、みんなが何もかもやってくれる生活じゃないんだよ。お店をやるって大変なんだからね。
ペットの世話から接客、レジ、現金管理に業者との交渉。千聖にできるの?動物が好きなだけじゃ、この業界やっていけないんだからね。大体、千聖は舞がいないと何にもできないんだから」

私は就職コンサルタントか。夢中になって喋り続けていると、千聖の顔が真っ赤になって、もともとぷくぷくしてるほっぺたがさらに膨らんだ。


「舞の意地悪!千聖だって、立派に自立して生きていけるわ。さゆみさん、私、さゆみさんのお家に嫁ぎます。道重千聖になります!」
「うーれーしーいー!そうと決まったら、今週末はさゆみのおうちにいらっしゃいね?キモイお兄ちゃんからは、さゆみが守ってあげるから。」

ああああああああやってもーたー!

千聖は一度ヘソを曲げるとかなり厄介だ。こうやって、とんでもないことを勢いで決めたりする。
何も出来ないお嬢様扱いされるのが嫌いだって、わかってたはーずーなーのーにー!舞のアホー!


「ちょ、ちょっと・・・・」
「ふんっ行きましょうさゆみさん。ももちゃんも、きっと待っていらっしゃるわ」
「はぁい。舞ちゃんも、早く降りてらっしゃい。」


まさかの展開すぎて、言葉が出ない。

私ともあろうものが、こんな痛恨のミスをするとは!!!何とか千聖にさっきの発言を撤回させようと頭をひねるも、不測の事態にちっとも頭が働いてくれない。「みちしげちさとって、言いにくいよ!」とか、そんなバカなことしか。



「ちしゃとおおおおぉおおうおおお」


私の叫びは風に乗って、屋上のはるか高い空へ飛んでいってしまった。




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