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ホームルームには遅れてしまったけれど、千聖がいたからか、特にお咎めはなかった。・・・なかったのだけれど、千聖は下校の時間になってもまだ不機嫌なままだった。

「ねえ・・・千聖」

「ふんっ」

話しかけようと肩に触れると、千聖はふりかえって「あっかんべー!」をしてきた。

「もうっ!バカちしゃと!小学生かよ!」
「何ですって!舞は意地悪ばかりいうんだから!行きましょ、さゆみさん、ももちゃん。今日は千聖のおうちで遊びましょう。」
「もぉも行っていいの?やったー!さーちゃん、いっぱい喋ろうねぇー☆」
「ねぇー☆」


キーキーわめく私を尻目に、千聖はさゆみさんとももちゃんに挟まれて、教室を出て行ってしまった。

「何あれ。もう、ありえない!」

ここで“もう千聖なんて知らない!大嫌い!”とか言えないのが私の弱見だ。かといって素直に謝るのも苦手だから、今は自分のカバンを乱暴にぶったたくことで、怒りを発散させることしかできない。

どうする、舞。このままじゃ本当に、千聖はさゆみさんの家に行ってしまう。千聖も私とタイプは違うけど、十分意地っ張りなんだ。


「道重千聖になります!」というのは、完全に勢いと私へのあてつけだろう。それはわかっているけど、もしこのままあのさゆみさんの変なテンションで、結婚を押し切られてしまったら・・・?

考えてみれば、千聖もあと2年したら結婚すること自体は可能なわけで、それは遠い未来の話じゃない。もし千聖のご両親が結婚を承諾してしまえば、それまでだ。そして、千聖は子供好きだから、ほいほい言いくるめられてあの小島よしおモドキの御子を懐妊・・・・・


「そんなの、絶対ムリー!!!」
「ぎゃふん!」

喚いて振りまわした拳が、なにか柔らかいものを捉えた。


「あっ・・・ご、ごめん!」

そこには、「うおおおう・・・」と断末魔の呻きをもらすえりかちゃんがいた。どうやら私のパンチは、えりかちゃんのお胸にクリーンヒットしていたらしい。
大きな胸って乱暴にすると痛いってこないだ千聖から聞いたばかりだ。すみません舞にはよくわからない感覚なもので(自虐)。

「大丈夫ですか、えりかお姉様!」
「保健室に行きましょう!」

私を押しのけるように、最近発足されたらしい梅隊もとい梅田えりか親衛隊の皆様が集まってきた。それを「大丈夫大丈夫」とやんわりお断りしながら、えりかちゃんは再度私のところにヨロヨロ歩いてきた。

「ほ、本当にすみませんでした・・・でも、何でこの教室に?」
「いやー、今朝もさゆみさんハッスルしてたから、その後どうなったのかなって。」


「・・・・なんか、流れで、っていうか舞がうかつだったせいで、一気に千聖が結婚に乗り気になっちゃった」
「えええ!!!」

叫ぶえりかちゃんを宥めて、とりあえず一旦寮に戻ることにした。
私が帰り支度をしている間に、なっきぃたちにはえりかちゃんがメールを送っておいてくれた。みんなお嬢様の一大事とあって、生徒会の仕事を切り上げて帰ってきてくれるみたいだ。


「本当ヘコむんだけど・・・。ももちゃんとさゆみさんはお屋敷の方に招待されてるっていうし、もう私絶対勝ち目ないじゃん」
「勝ち目って。舞ちゃんのライバルはさゆみさん?よしお?」
「・・・わからん。」


目下のライバルはさゆみさんなんだろうけど、長い目で見たら兄重殿だろう。でも、それは正直どちらでもいいんだ。私の隣から千聖を奪おうとするならず者は、誰であろうとライバルで間違いないんだから。
ああ、本当に、こんなに千聖のことを大事に思ってるのに、私は何でこうも千聖を怒らせてしまうんだろう。

「ムフフ。まあ、大丈夫だよ。なるようになるさ。」

ちょっとだけ目が笑っているのが気になるところだけど、年上らしく肩を抱いてくれるえりかちゃんに甘えながら、私は寮までの道を歩き出した。

「あ・れー・・・?何で」

そんなこんなで戻ってきた、寮の1階の食堂。誰もいないときは電気が消えているはずのその場所から、なぜか煌々と光が漏れている。消し忘れ・・・はあんまり考えられない。節電の鬼・なっきぃが毎朝チェックしてくれるから。

耳を澄ますと、楽しそうな笑い声も聞こえてくる。ドロボウさんじゃないみたいだから、えりかちゃんとうなずき合って、そっと扉の向こうをのぞいてみた。


「千聖!?」

その小柄な後姿に、思わず興奮して呼びかける。

「あら、お2人ともおかえりなさい。ウフフ、ももちゃんとさゆみさんったらとてもおもしろいのよ。ここで一緒にお話しましょう。」

どうやら機嫌は直っているみたいだ。って、それはもちろん嬉しいんだけど、

「お屋敷で遊ぶって言ってなかった?」
「ええ、でも、ももちゃんが寮の食堂でみなさんとお喋りしたいって・・・迷惑かしら?」
「いい!いいからここにいて!」

迷惑だなんてめっそうもない!!!私は今度こそ自分の取るべき行動を間違えないよう、激しく首を横に振った。
こっそりももちゃんの方を盗み見ると、ちょっといたずらっぽく笑ってピースしてきた。多分、帰りがけに千聖から私への文句を聞かされて、機転を利かせてくれたんだろう。

寮のみんなに、めぐ、さゆみさん、兄重。

千聖が舞のものだって立証するために戦うライバルは、たくさんいる。だけど、ももちゃんは数多いるそんなライバル達の中でも、多分一番手ごわい。おそらく、本気を出してきたらさゆみさんよりも。

もちろん、今だって私のために千聖をここに連れてきてくれたんだろうけど、それは純粋な親切心と共に「もぉは千聖のことわかってるんだからね。ウフフ」という無言の牽制でもあるはずだ。

それが私にはわかる。だって、私達は頭の中身が似ているから。

ま、それでも嬉しいことに変わりはないし、感謝だってしているんだ。私もピースと一緒に“助かった!”というジェスチャーを送って、とりあえず一旦、部屋着に着替えるために2階に上がった。

しばらくして食堂に戻ると、そこには制服姿のなっきぃと栞菜が、まるで面接のように、お嬢様とさゆみさんのまん前を陣取って目を剥いていた。怖っ!

「おかえりー・・・」

思わず小声で挨拶すると、なっきぃは某軍曹の怒りモードの時みたいに「おう。」と低い声で返してくれた。な、何キャラだ。


「お2人とも、着替えないの?」
「着替えなんか、後です後!!お嬢様、どういうことですか!結婚のご意思を固めたって!なっきぃもう生徒会の仕事どころじゃなくなって、佐紀先輩にお願いして帰ってきたんですからね!」
「栞菜だって!お嬢様が嫁がれたら、一体誰が私の火照った身体を慰めてくれるんですか!」
「栞ちゃんは黙るケロ!」


どうやら自他共に認めるお嬢様親衛隊の2人は、えりかちゃんからのデスメールを受信して、いてもたってもいられずとびだしてきたらしい。よく見るとまだ息が荒いし、髪だって若干乱れている。

「まあまあ、落ち着いて。いいじゃないか、お嬢様の幸せが一番でしょ!」
「みぃたぁん・・・」
「ケッケッケ。ほら、甘いものでも食べて落ち着こう。出来合いのもので申し訳ないけど、クレープ食べない?」

舞美ちゃんに愛理。相変わらずこの2人はわりと冷静で(舞美ちゃんは特に何も考えていないという説が・・・)、紅茶とクレープを私達の席に置いて回ってくれた。


「でも、本当に結婚を?」
えりかちゃんはクレープを突っつきながら、お嬢様に向かって首を傾げる。

「ええ、今までは漠然としていたけれど、千聖も結婚に関して、しっかり考えました。もちろん私は年齢的にも精神面でも、今すぐにというわけにはいきませんが。なるべくさゆみさんのおうちに伺う機会を増やして、家族として認めていただけるように努力しないと。」
「あらぁ、努力なんてしなくても、さゆの次に可愛いちぃちゃんなら大丈夫!」
「舞、ありがとう。舞がはっきり指摘してくれたおかげで、私、自分の甘さに気がついたの。これからはペットショップの経営のお勉強、頑張るわ。」


――あれあれ、ワシの両目、何で汗かきそうになってるんじゃろ?愛理の持ってきてくれた、モンドセレクションがどうのっていうクレープ、何で味がしないんじゃろ?


「お嬢様ぁ・・・そんな、おうちを出られてしまうなんて。いいですか、ペットショップっていうのは、動物が好きなだけじゃ(ry」
さっき学校で私が使った説得方法を、今度はなっきぃが使っている。だけど、完全にノリ気になっている千聖は、まったく動じない。

「なっきぃ、心配してくださっているのね。ありがとう。でも、苦労は覚悟しています。大好きな動物達に快適に過ごしてもらえるよう、尽くしたいと思います。」
「キ゛ュフゥ・・・・」

なっきぃはそれ以上何も言えなくなって黙り込む。すると、珍しく「でもー」と舞美ちゃんが口を開いた。

「何か、、お嬢様は結婚したいっていうより、ペットショップで働いてみたいって思ってるのかなー。とかいってw」
「えっ・・・そんなことは・・・」
「いつも舞が、お嬢様は舞がいないと何にもできない!とか言うから、その反動とか?あ、でもでも全然結婚に反対ってわけじゃないんですよ、もちろん。」
「え?え?えと・・・えっと・・・」

いつもピントが外れまくりの舞美ちゃんが、今日は核心をついたらしい。嘘がつけない千聖は、目に見えて動揺しだした。よし、お姉ちゃんナイス!今しかない!

「千聖、もう一回聞くからね。千聖は、本当に、さゆみさんのお兄ちゃんと結婚するの?ペットに関わる仕事がしたいなら、さゆみさんのおうちでなくてもいいんだからね。探すなら舞も手伝ってあげる。」
「舞・・・・」

さあ、舞の腕に飛び込んでおいで千聖!私は無意識に手を広げかけた・・・のだけれど。

「まあ、きっかけなんて何でもいいの。ちーちゃんがうちにきて、さゆのちーちゃんになってくれるならそれで構わないわ。」
「・・・ちょっと、何さゆのちぃちゃんて」
「そんなことよりちぃちゃん、ペットちゃんたちの写真を見ない?みんな可愛いからきっとちぃちゃんも喜ぶの。」
「まあ、素敵!是非見せてください、さゆみさん」

ちくしょおおおおおお!せっかくこっちに向けられていた千聖の意識は、再びさゆみさんのペット写真とやらに奪われてしまった。

「ウフフ、強敵だねぇ」
そういいつつ、まだ表情に余裕のあるももちゃんがうらめしい。

「最近は特色を持つために、他店では扱っていないような動物達もうちに来てもらっているの。」
そう言いながらさゆみさんに渡された写真を見た千聖の目が、大きく見開かれた。



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