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ああ、どうしよう。
どうしようったらどうしよう。

私は電車の中で、頭を抱えこんだ。


レッスンの帰り際。
スタジオの最寄り駅で、使ったタオルをロッカーに忘れたことを思い出して、私は引き返すことにした。
ロッカールームの前まで行くと、なにやら話し声が聞こえてくる。まだみんな帰ってないのか・・・と思って、少しだけ開いているドアの隙間から、中の様子を伺ってみた。

舞美、なっきぃ、愛理、千聖、舞ちゃん。円の中心で、なっきぃがキラキラした何かを掲げた。


「キュフフ、これね、結構頑張って探したんだよ。ね、千聖?」
「ええ。えりかさんが読んでいらっしゃった雑誌に載っていたんです。えりかさん、この広告のページだけ何度もご覧になっていらしたから。」
「えり、ちゃんとしたのが欲しいって言ってたもんね。2人ともグッジョブ!とかいってw」


あれは・・・・

目を凝らすと、なっきぃの手元にあるものがはっきりわかった。心臓が高鳴る。


少し太めのボールチェーン。お色は可愛らしいピンクゴールド。ペンダントヘッドには小ぶりなハートモチーフ。そこに、小さなダイヤがたくさんちりばめられている。

それは、私が最近心を奪われていたネックレスだった。


「えりかちゃんびっくりするだろうねー。もちろん栞菜にも画像送っておいたよ!これで絶対喜んでくれるってお墨付きもらっちゃった。キュフフ」
「いつもみたく、感激で泣いちゃったりして!あ、それでさ、お金なんだけど、これ結構高いし、舞美が多めに出すよ!そんで、舞ちゃんは・・・」


はしゃぐみんなの声を聞いて、私は全身が少しずつ冷えていくのを感じた。

――どうしよう、これは困ったことになったのだ。

たしかに、それは私がずっとずっと欲しいと思っていたものだ。舞美が言うように、結構値段のするものだから、今の今まで買うかどうか躊躇していたくらいだ。それをプレゼントしてもらえて嬉しくないわけがない。


でも、こうしてプレゼントを目にし、計画を耳にしてしまった以上、当日、きっとみんなが思っているようなリアクションはできない。

私はかなりの感激屋だ。それを踏まえて、私にこれだけのサプライズを用意してくれるわけだから、それ相応の反応を返したいけれど・・・こうして冷静に考えれば考えるほど、喜びよりもわけのわからないプレッシャーが重く圧し掛かってくる。



「うわー!ありがとうー!嬉しいっ!・・・・だめだ、わざとらしい。」
「これ、雑誌で見つけてからずっと欲し・・・いやいや、何だこの説明口調は」


家に戻ってから、私は1人、“喜ぶ練習”を始めた。でも、やっぱりだめだ。顔はヒクヒクしているし、声のトーンがいつもより不自然に高い。
舞美はともかく、人の心の機微に敏感なメンバーが、私の妙な返答に疑いを持たないわけがない。


「どうしよう・・・」


本当に嬉しいのに。プレゼントを貰う前から、すごくみんなの気持ちが伝わってきて、むしろ今もう泣けそうなぐらい感激しているのに。こんなことで悩むことになるとは思わなかった。
当日、私の不自然なリアクションにとまどうみんなの顔を思い浮かべるだけで、心にもやもやが押し寄せてきてしまう。


「はあ~・・・」

どうしたらいいのかわからないまま、刻々と日が経っていった。
もう私の誕生日まであと3日というある日、ゲキハロ稽古の帰り仕度をしていると、いつのまにか千聖が目の前に立っていた。


「ん?」
「えりかさん、今日、千聖にお時間いただけますか?」
「えっ。ウチは別にいいけど・・・大丈夫なの?」

そんなに遅い時間じゃないけれど、中学生の千聖がこれから遊んで帰るほど早くもない。

「ええ。ちょっとだけ、えりかさんとお話がしたくて。どこかでお茶を飲むだけでもいいので」
「わかった、いいよ。」


どうやら他のメンバーには聞かれたくないようで、千聖は手早く荷物をまとめると、「では、お先に失礼します。」と一礼してロッカーを後にした。



千聖につれられてやってきたのは、少し駅から離れたカフェだった。

「えりかさんはご注文、お決まりですか?」

席に着く前に、オーダーを済ませる形式のカフェだったから、一緒に注文してくれるのかと思い、私はメニューの中からいくつか選んで、先に席を取りに行った。

千聖がお誘いをかけてくるなんて珍しい。そういう欲求(・・・)が高まってる時以外は、お嬢様の千聖は基本的に受身というか、いつも奥ゆかしい。
前の千聖は何か嫌なことや悲しいことがあると、よく電話をしてきた。今の千聖はそういうこともなく、どちらかと言えば、あふれそうになるまで、いろいろな思いを心に溜め込むタイプだ。

何か、悩んでいるのかな。自分がこういう状態とはいえ、苦しいなら手助けしてあげたい。とりあえず、誕生日問題は頭の隅っこに追いやることにした。


「お待たせしました。」
「いえいえ。・・・あはは、ウチ頼みすぎだね。」

キャラメルミルクティにバニラアイスにロールケーキ、サーモンマリネのベーグル。ポテトサンド。

私は心に負荷がかかっていると、食べ物に走る傾向がある。
ストレス、溜まってるんだなあ。こんな無意識の行動でも、自分の心模様に気付かされて凹んでしまう。

「いくらだった?」
「あ・・・お代は結構です。私からの、誕生日プレゼントということで。」

千聖はうふふ、と肩をすくめて笑った。

「千聖が一番乗りですね。皆さんには内緒ですよ」

きっと、多分、千聖は私に個人的に“形に残る物”をプレゼントするのを避けたのだろう。
お嬢様の千聖は私のことを好き。でも私は煮え切らない。あんなことをしてる仲だっていうのに。
そんな状態で、私の重荷になることはしたくないと考えたのかもしれない。

「ごめん。」
「えっ・・・」
「ごめんね、千聖・・・」


情けない。私はグスンと鼻を鳴らした。

「えりかさん、あの・・・?」
「・・ううん、ごめんね。なんでもない。おごってくれてありがとう。本当に嬉しいよ。」
「ええ。」

そう、こういう風に、自然にお礼を言えればそれでいいのに。何でこんなことになってしまったんだろう。私は本日何度目かのため息を漏らした。

「あの・・・何か悩んでいらっしゃるんですか?もし、お話するだけでも楽になりそうでしたら、私でよければ・・・」
そんな、でも、千聖は当事者なのに。だけど私は、もうこのことを1人で抱え込んでいるのは辛かった。こんなぐちゃぐちゃな気持ちのまま、誕生日を迎えることは避けたかった。
千聖には、話していいかもしれない。なぜかそう思えて、私は一つ咳払いをしてから、千聖の目をまっすぐ見た。

「ウチ、実はね・・・聞いちゃったんだ・・・・・」


「そうだったんですか。」

私からの打ち明け話を全て聞いた後、千聖は氷の溶けかかったオレンジジュースを一口飲んで、「もっと早く、言ってくださればよかったのに。」と微笑んだ。

「だって・・・みんながあんなに張り切ってくれてるのにさ。がっかりさせたくなかったの。」
「そんな。えりかさんが事前にプレゼントのことを知ってても、きっと皆さんそれを笑い話に変えていたと思うわ。」
「それはわかるけど・・・」

依然ぐじぐじしてる私を見て、千聖は一旦仕切りなおしといった感じに、背筋をシャンと伸ばした。

「・・それなら、これからどうするか、千聖と一緒に考えましょう。えりかさんが、お誕生日の当日に“こんな風になったら嬉しい!”と思うことって、今何か思いつきますか?」
「嬉しい?そうだなあ。んー、・・・ちょっと考えてもいい?時間大丈夫?」
「ええ、まだまだ大丈夫です。今日はお父様のお帰りが遅いから、その時間までに帰れれば。」

その言葉に甘えて、私は頬杖をついて目を閉じた。私がこんな風になったら嬉しいって思うこと。それは、やっぱり私もみんなも笑って楽しく過ごせる誕生日だろう。
そのためには、どうしたらいい?何が必要だろう?


「ねえ、千聖。」
「はい。」

文庫本を読んでいた手を止めて、千聖が小首をかしげた。

「ふっふっふ。こうなったら、千聖にも協力してもらおうかな。」
「あら、私?お役に立てるかしら・・・」
「・・・・お礼にすごいこと、たんまりしますぜ。ク゛ヒョヒョヒョ」
「もう、いやだわ。うふふふ」

かくして、私と千聖の作戦会議は始まった。



そして、当日。

「「「「「えりかちゃん、お誕生日おめでとー!」」」」
「どうもどうも、えへへへ」

ゲキハロのお稽古が終わって、そのままカラオケに拉致された私は、そ知らぬ顔でみんなからの祝福を受けた。
カラオケに“ハッピーバースデーの歌”とか入ってるんだね、なんて盛り上がったり、くじ引きで即興ユニットを作って採点対決したり、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

「じゃあ、そろそろ中学生チームは帰る時間だから。最後に、メンバーから・・・」

キタ!

私は隣にいる千聖に目線を送った。千聖が軽くうなずいたのを合図に、「舞美、ちょっと待ったあ!」と叫んだ。


「えっ?」
「えりかちゃん、どうしたの?」

いぶかしげなメンバーの表情。そりゃあそうだろう、これからみんなで私を驚かせようって時に、いきなり本人からストップがかかったんだから。

「えー・・・、みなさん、今日は梅田のために、素敵な誕生日パーティをありがとうございました!本当に、楽しかった。それで、何とワタクシ、みんなにお返しを用意してきちゃいましたー!」

えーっ! と声が上がる。無理もない、パーティー自体サプライズでやってくれたことなのに、私が事前にみんなへのプレゼントを手配していたなんて、おかしな話だ。

「えりこちゃん、パーティーの前からあらかじめお返しを用意しておくなんて、どんだけーw キュフフ」
「そうだよ、もしみんなでえりの誕生日スルーしたらどうするつもりだったの?とかいってw」
「ていうか、私達も用意してるんだから。えりかちゃんの誕生日プレゼント。お返しは嬉しいけど、先に・・」

紙袋を取り出しかけた愛理の手を軽く押さえて、「できれば、ウチのを先に見て欲しいんだ。」と顔の前で手をあわせた。

「んー」
「それはいいけどー・・・」

ちょっと首をひねりながらも、みんなは私が渡したプレゼントのリボンを解いていく。
その手元を見ながら、私の心臓はドキンドキンと音を立てていた。

「・・・・えーっ!!!」
「嘘ー!!!!なんでっ!」
「そんなぁ」

やがて、中を確認したメンバーから、驚きの声が次々にあふれだした。

「うふふ」

そのリアクションを見て満足したのか、千聖は私の顔を見つめてにっこり笑った。

「まさか・・・・ちぃ、言ったの?」
「え?」

舞ちゃんの千聖センサーはすごい。まったく動じず、私と笑い合う千聖の様子から何かを察して、こめかみをピクピクさせている。

「えりかちゃんに、何あげるか言っちゃったの!?何で!せっかくびっくりさせようってみんなで決めたのに!」
「ち、違うの舞ちゃん。千聖は何にも言ってないよ」
「でもっ」


そりゃあ、舞ちゃんが激昂するのも無理はない。

少し太めのボールチェーン。お色は可愛らしいピンクゴールド。ペンダントヘッドには小ぶりなハートモチーフ。
今から私を驚かせるはずのアイテムが、プレゼントとして自分の手元に贈られてきたのだから。


「ちっさー?えりに話しちゃったの?」
「どうして?」


困惑の声が上がる。まずい、このままだと千聖は「私が勝手に打ち明けました」なんていいかねない。

「待って、違うの!千聖は悪くないの!・・・ウチ、みんながウチの誕生日の計画を立ててるの、偶然見ちゃって。・・・それで、プレゼントも、見ちゃって。」
「えり・・・」
「何かそれで、ウチどうしたらいいのかわかんなくて、千聖に相談して、それで・・・・」

あぁ、もうヘタレえりかめ!
必死で言い訳しているうちに、涙がこぼれてきた。情けないと思いつつ、パニックになった頭は泣くのをやめさせてくれない。


「それで、だったら逆に皆さんを驚かせようっていうお話になったんです。」

ヒックヒックとしゃくりあげる私の代わりに、千聖が説明を始めた。

「だからって・・・まるきり一緒じゃ」
「ううん、ヒック。よく見て。ヒック」


実は、みんなにあげたものは、今からもらうネックレスとは少し違う。正確には、そのジュエリーショップのキッズブランドのネックレス。

「だから、値段も全然違うし、ヒック。素材も。ただ、デザインは一緒なんだよ。ヒック」
「えりかさんは、℃-ute全員おそろいの物を持ちたかったんです、ね?だから、皆さんがそちらを受け取ってくださることも含めて、えりかさんへの誕生日プレゼントになるのではないかしら」

私をかばうように、千聖はみんなを説得する。
私のワガママをかなえるために、キッズブランドのオンラインショップを探してくれたのは千聖。
ラッピングを手伝ってくれたのも千聖。今だって、そんなに口が上手いほうでもないのに、一生懸命私のために・・・


「うーっ・・・!みんな、お願いぃ・・・ウ、ウチとおそろいを・・・」
「えーっ!えり、そんなに泣くことないじゃないか!」
「そ、そうだよ!びっくりしたけど、そういうことなら、ありがたくいただきます。実は、私もこういうの欲しいなって思ってたの。」
「キュフフ、ていうかさー、“ごめん実は聞いちゃった!”って言ってくれればそれでよかったのに。でも、これ本当可愛いよね。なっきぃも後で買おうか迷ってたんだ。」


「うっヒック・・・ありがとう・・・」

最初はとまどっていたみんなも、結局笑顔で受け取ってくれた。遅ればせながら私の手元に回ってきたネックレスは、やっぱりキラキラ輝いていて・・・。あんなに泣いた後なのに、私はうっとりと見入ってしまった。

「・・・えりかちゃん。」
「は、はい。」

そんな私の横に、舞ちゃんが腰を下ろした。

「もう、千聖は舞のだっていつも言ってるでしょ。・・・ま、誕生日だから特別に許可しましゅ。これ、ありがとうね。ねー、みんなでつけようよこれ!はい、えりかちゃん後ろ向いて。舞がつけてあげる。」

チェーンで首絞められたりして・・・と一瞬思ったことは内緒です。


「おー、いいねいいね!えり、よく似合ってる」


それぞれの胸元に、おそろいのハートがキラリと光る。うん、やっぱりこれ可愛い!あらかじめプレゼントの内容がわかっていても、こんなに嬉しい気持ちになれるなんて、あんなに悩んでいたことが逆に笑えてくる。


「ケッケッケ、でもえりかちゃんのは輝きが違いますなぁ」
「そりゃそうだよー、だって本物のダイヤとピンクゴールドですからぁ。みなさんのはぁ、イミテーションでございますからぁ。ウチだけがセ・レ・ブ♪」


なぁに言ってんの!と一斉に笑いが起こる。
本当に、一時はどうなることかと思ったけれど、楽しく祝ってもらえてよかった。それもこれも、千聖のおかげです。


「うふふ、良かったですね。これ、大事にします。みなさんと・・・えりかさんとおそろい」
「ちっ・・・千聖・・・この後なんスけど」

「あ、ちしゃとは舞と帰るから。中学生には節度あるせいかちゅがひちゅようなのでしゅ。えりかちゃんは1人で家に帰って、今日の楽しかった出来事でも反しゅうしゅて×△○#!」

すかさず、舞ちゃんが間に入ってきた。ガッと両手で掻き分けられながらも、私のニタニタは止まらない。


この時のお礼の意味をこめて、数日後、私が今世紀最強のエロ梅と化したのはまた別のお話。



「本当に、ありがとう。これ、一生大事にするから。ウチ、℃-uteでよかった・・・」
「えーっ、また泣いてるし!えりかちゃん、本当泣き虫ぃ」
「とかいって、なっきぃも泣いてるじゃーん」
「こっこれは心の汗がどうのこうの」


ともあれ、18歳になった一日をみんなと過ごせてよかった。このネックレスは私の宝物だ。
すごく欲しかったからってだけじゃない。舞美の、なっきぃの、栞菜の、愛理の、舞ちゃんの、そして千聖のキラキラした思いやりがいっぱい詰まっているから。

それを胸に染み込ませるように、私はもう一度、ネックレスをぎゅっと強く握り締めた。


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