「・・・何してるの、2人。」
舞美さんに膝枕してもらったまま、ほっぺたを突付かれて遊んでいると、早貴さんがひょっこり顔をのぞかせた。
「あっ!おはよーなっきぃ。」
「早貴さん、おはようございます。」
「うん・・・」
ここ最近、早貴さんは何だか元気がない。というか、よそよそしい。
話しかけても上の空というか、もしかして避けられているのかも、と思うぐらいだ。
ゲキハロに加え、新曲発売の準備もあってあまりにも忙しく、まだ真意を確かめることはできていないけれど。
もし、次に早貴さんがガーディアンズ4について何かお話をしてくれたら、その時に伺ってみようと思っていたけれど、どうもそういうテンションではないみたいだ。
「おはよーございまーす。」
「舞さん、おはようございます。」
「・・・・」
元気がないというか、不機嫌といったら、舞さんもこのところ・・・多分、これは私が原因なんだと思う。
“千聖は無神経だ”
はっきりとした理由はわからないけれど、何日か前に、私は舞さんにそう言われた。私はその時、不安定な状態で、ひどいケンカになってしまった。それ以来、あんまり会話をかわしていない。
このままじゃいけないと思っているのだけれど、電話にも出てくれない、メールの返事も来ない状態だから、なかなか厳しい。
ケータイを開くたびに、舞さんの名前で埋まる発信履歴が目に入り、ため息が出てしまう。
「おはよー。」
「おはよう、千聖、舞美ちゃん。」
そのうちに、他のメンバーやゲキハロキャストの方々も集まってきたから、私はひとまず舞さんとのことや、連日の不思議な出来事を忘れることにした。
「あ、千聖。今日の帰りって、ちょっと付き合ってもらえない?」
「今日?・・・わかったわ。大丈夫」
「ありがとー。ケッケッケ」
――どうやら、完全に忘れることは難しそうだった。
「お疲れ様でしたー!」
「お先に失礼しまーす」
レッスン後、愛理に連れられて、私はまたあのファミリーレストランに足を運んでいた。
「千聖ー!こっちこっち!」
「ウフフ」
顔を見なくてもわかる。桃子さんの明るい声が、店内に響いた。
「あら・・・?」
席の方まで行くと、桃子さんだけではなくて、友理奈さんと梨沙子さんもいた。
「千聖ぉ、久しぶりー」
「ええ、お久しぶりです。」
「さて、千聖はどうするの?ボーノ?ガー4?ボーノ?ベリーズ?それともボーノ?」
駆け引きもなにもなく、桃子さんが畳み掛けるような口調で迫ってきた。
「もも、ずるい!ボーノ多すぎだから!」
「じゃあうちもー。千聖、ガー4とガー4とガー4どれに入る?」
「それ、選択肢ないじゃん!」
最初にお話を聞くのが、このメンバーでなくてよかった。私が事態をどれだけ把握してるかわからないはずなのに、この唐突さは・・・
「あの、みなさんはどうして、私をいろんな・・・いえ、ボーノやガーディアンズ4や、ベリーズに入れてくださろうとなさっているのかしら?」
「ん?」
意を決して話しかけてみると、皆さんはピタッとお話をやめて、私のほうへ向き直ってくれた。
「理由ねぇ。理由は、千聖と一緒に何かやりたいから。それだけだよ。みんな好きなのさ、千聖のことが。」
「まあ・・・」
そういって、桃子さんは私の頭を撫でてくれた。
「ありがとうございます。」
まだ何もかも釈然としていない状況だけれど、桃子さんの優しい手の感触は、心を落ち着かせてくれる。
「で、千聖はさー、どれにかけるの?」
すると、今度は友理奈さんがのんびりしたいつもの口調でお話しだした。
「かけ?」
「わーっくまいちょー!」
「本人がかけるわけないじゃん!」
あわてた桃子さんと梨沙子さんが、友理奈さんの口をふさぐ。
書け?欠け?かけ・・・
賭け???
「賭け、ですか?」
「ごめん、千聖!」
桃子さんが頭をガバッと下げる。
「千聖・・・」
「大丈夫よ、愛理。その、私をからかったり、貶めるような意図はないのでしょう?きっと、賭けという言葉は適切ではないのだと思うわ。」
詳細はわからないけれど、非難をするような気持ちはまったく生まれてこない。
今の私は過去の記憶や、自分の性格について、あいまいにしか覚えていない部分もある。それでも、長く一緒に活動してきた人たちを信頼する思いは、ちゃんと心や体の中に残っているから。
「・・・ありがとう、千聖。」
桃子さんは姿勢を正して、私の目をじっと見た。
「千聖の言うとおり。賭けっていうと、ちょっと違うかな。実際、誰も何も賭けてはいないし。ただ、私たちは千聖に・・・」
「待って!!!」
その時、後ろから大きな声がした。思わず振り向くと、舞さんとなっきぃが立っていた。
舞さんの大きな目はいつも以上に見開かれて、私を捉えている。
「ま、と、とりあえず座ったら?あはは・・・」
あまりに大きな声だったから、店内中のお客さんの注目が集まっている。早貴さんは愛理の横に腰を下ろしたけれど、舞さんは桃子さんのお取り成しも耳に入らない様子で、依然、私を睨みつけるように見据えているだけだった。
「舞さん・・」
何と言っていいのかわからなくて、私は舞さんの手を取った。少しだけ、表情が緩む。そして、舞さんはぐるりと皆さんの顔を見渡してから、「割り込んでごめんなさい」と噛み砕くような口調で言った。
「これはルール違反だってわかってるけど。千聖。・・・・・あの、最近冷たくしてごめんなさい。それで、
舞とユニットを組んでください。」
最終更新:2011年02月09日 21:27