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その悲壮な声に驚いて、私は早貴さんの隣の席まで移動した。

「・・・こんなに、話が大きくなるとは思ってなかったの。」
搾り出すような声でそう言うと、早貴さんは目元をおしぼりでぬぐった。


「千聖、ユニット組みたいってずっと言ってたでしょ?ほら、コンサートのバックステージで、ももちゃんと二人で、組んでくれる人探したり。」
「ええ。」

半ば恒例となっている、桃子さんと私のユニットメンバー探し。特典映像としても人気があるらしく、私も毎回楽しく皆さんと交流を図っていた。


「なかさきちゃん、なんで言っちゃうの?まだ千聖なんにも答えてないのに」
友理奈さんが唇を尖らせる。

「ごめん。ちょっともう、無理。話させて。
――千聖は今、キュート以外のユニットには参加していないでしょ。だから、単発でもいいから、千聖が誰かとユニット組んだり、どこかのユニットに参加することは出来ないかなって。
それを誕生日プレゼントの一つにできたらいいなって考えて、キュートのみんなに相談したの。」

少ししゃくりあげながらも、早貴さんはしっかり私を見ながら話を続けてくれた。

「もちろんみんな、賛成してくれたよ。それで、スタッフさんにもいっぱい頼み込んで、夏コンの時に一曲・・・
それが無理なら、MCの時の1コーナーとして、あるいはDVDになった時の特典として、千聖をどこかでフィーチャーしてもらえるかもってところまで取り付けたの。」
「そんな・・・私のために、そこまで・・」
「でもね、私、だんだん怖くなってきちゃったの。ほんのお遊び企画のつもりだったのに、人によっては・・・たとえば新垣さんたちはかなり本気になっちゃってね、岡井ちゃんにはキュートから娘。に移籍してもらおうかなー、なんて真顔で言われて。


あっすーとかスマイレージのみんなも、私が考えてたよりずっと真剣に考えてたっぽいし。
ももちゃんも、にこにこしてるけど、本当は結構本気なの、なっきぃわかってるんだから。」
「えー?うふふ」

桃子さんは何も言わなかったけれど、無言の微笑が答えになっているような気がした。


「・・・お願い、どこにも行かないで。千聖は、モーニング娘。さんも、ベリーズも大好きでしょ?でも、私は千聖がいなくなったら嫌だよ。お嬢様の千聖ってふわふわしてて、すぐにどっか飛んで行っちゃいそうで怖いの。
企画者なのに、こんな勝手なこと言ってごめん。でも、もう我慢できない。」

しきりに目の下をぬぐっていた早貴さんは溢れ出てくる涙が抑えられなくなってしまったようで、ついには顔を覆ったまま、黙り込んでしまった。

「千聖ぉ・・・」

重い沈黙が流れて、皆さんの視線が私に集まっていた。
伝えたいことはたくさんあるけれど、何から言ったらいいのかわからない。それでも、私のために心を痛めている早貴さんをこのままにしてはおけなくて、私は意を決して口を開いた。

「早貴さん、千聖のお話を聞いてもらえますか。」
「うん・・・」
「ありがとうございます。・・・えと、まず、早貴さん、そして皆さん。この度は私のために、いろいろとお気をまわしていただき、ありがとうございました。
私がどのユニットに所属するのか、あるいは何方とユニットを組むのかという予想、楽しく拝見いたしました。
先ほど、早貴さんは私の導き出した答えを聞きたくないとおっしゃっていましたが、こうしてたくさんの方々にお関わりいただいた以上、このまま結論を申し上げずに、終わらせてしまいたくありません。」

私はそこで一息ついた。
心臓が痛いぐらいに高鳴っている。それは簡単な言葉に変えればただ一言ですむことだけれど、そうはしたくなかった。

前の千聖に比べて、大人しくなった。遠慮がちになった。私はよくそんな風に言われるけれど、伝えるべき言葉は、精一杯の誠意を持って伝えたい。その気持ちだけは、今も昔も変わっていないつもりだった。

隣で舞さんが、私にだけ聞こえるぐらいの声で「ちーさーまい、ちーさーまい、」とテンポよくコールしている。思わずこぼれた笑いを噛み殺して、私はまた話を続けた。


「最初にモーニング娘。の皆さんからお話を伺ったときから、私の答えはもう決まっていました。



私は、どのユニットにも入りません。今は、℃-uteの岡井千聖で。それだけで、いいです。」


私の言葉を受けて、一呼吸おいてから、「えーっ!!」と声が上がった。


「千聖ぉ、なんでー・・・?ベリーズは嫌?」
「私が、余計なこと言ったから・・・?」

次々に質問が飛んでくる質問をよく噛み砕いて、答えを頭の中でまとめる。


「いいえ、早貴さんのお話を聞くずっと前から、出していた結論です。
私は、ベリーズの皆さんも、娘。の皆さんも、もちろん舞さんのことも、今回お声をかけてくださった皆さんのこと、本当に大好きです。
その上で、今の私が仲間に入れていただけるユニットは、ないのではないかと思います。
愛理や舞さんはご存知かと思いますけれど、私は歌うことがとても好きです。もっともっと歌を勉強したいし、いろいろな人に聞いていただきたい。
どこかに所属させてもらえれば、それは叶うことかもしれません。
だけど、今の私ではどう考えても未熟すぎて、仲間に入れていただくことなんて、恐れ多くて考えられません。
まずはもっとしっかりして、自分自身に自信を持つことが出来るまで、私は今のままで・・・いえ、今のままがいいです。それが、私の答えです。
せっかく企画していただいたのに、申し訳ありません。」


そこまで一気に話すと、私は勢いよく頭を下げた。

こんなに心の深い部分を、人に話したことはなかった。それでも、ここにいる皆さんになら、打ち明けてもいい。そう思えたから、私は迷うことなく自分の思いをぶつけた。


「ケッケッケ、そんな難しく考えなくていいのに。」
「・・・ええ、そうよね。自分でも、固い頭だと思うわ。でも、大好きな皆さんの考えてくださったことですから、私も一番素直な気持ちで答えたかったの。」

重い空気になってしまうかもしれない。そう思ったけれど、私を見る皆さんの顔には笑顔が浮かんでいた。まだ早貴さんだけは、少し辛そうな顔をしていたけれど。

「千聖ぉ・・・、ごめんね、私が勝手なことばっかしたから」

小さくてひんやりした早貴さんの手が、私の手の中で震えていた。

「そんな風におっしゃらないで。私、嬉しかったのよ。私のために、こんなに力を注いでくださって。早貴さんの優しさがいっぱい伝わってきました。
ほら、伝わりすぎて、涙が出てきてしまいました。本当にありがとうございます。私、こんなに幸せでいいのかしら」

語尾は震えて言葉にならず、私は早貴さんと抱き合ってしばらく泣いた。
一体何の涙なのか、自分でもよくわからなかった。
いつも私をお姉さんのようにかわいがってくれて、悩んだり辛くなったりしながら計画を進めてくれた早貴さんの涙が悲しくて。
私のために、こんな素敵な企画を立ててくれたキュートの皆さんの気持ちが伝わってきて。
お忙しいだろうに、時間を作ってくださった桃子さん、梨沙子さん、友理奈さんへの感謝の思いがあふれて。
こんなにたくさんの人たちに必要としてもらえたことが嬉しくて。――それでいて、どこか切なくて。

「泣かないでよ、千聖ぉ。なかさきちゃんもー。うちも泣きたくなっちゃうじゃん」
「そ、そうだよー、りぃこういうの弱いんだから、ほんとやめてよー」

見守る皆さんの声も少し濡れていて、私の感傷をまずまず煽る。

「もう、泣き虫コンビ!こんなことで泣くなよー。・・・舞の愛だって、ちゃんと感じてくれたの?」
「もちろん、いっぱい感じたわ。」
「そう?・・・えへへ。」


少し強めの力で私の目元を擦っていた舞さんは、ふっと表情を緩めて、いつもの私の大好きな、可愛らしい笑顔をのぞかせてくれた。その顔を見て、私もようやく落ち着きを取り戻してきた。


「・・・ま、千聖がそういうなら仕方ないかぁ。でもいつかは中3トリオでユニット組みたいよね!」
「ええ。ありがとう、梨沙子さん。」
「じゃあ、うちはタンポポ井に期待するかぁ。」
「あら、それは私も楽しみです。」


「ウフフ。まあ、桃姉はなんとなくこうなるんじゃないかって思ってたよ。千聖は案外ガンコ者だからねー」

そう言って再度目の前に出された予想表(?)をよく見ると、一番下に「千聖は誰も選ばないし、どこにも属さないと思いまーす♪ 匿名希望」なんて書いてあった。


「もぉは千聖のことは何だってお見通しなのさ。でもね、もし気が変わったらいつでも言ってよね。もぉ、ちさももユニット探しのときは毎回本気なんだから。」

ちょっと、ちさまいが先だもん!と叫ぶ舞さんと桃子さんが、仲のいい言い争いを始めた。それを笑いながら見ていたら、愛理につんつんと背中を突かれた。


「あのね、ここまでバラしちゃったから言っちゃうけどー、もうすぐえりかちゃんと舞美ちゃんがここにくるの。
それから、今まで千聖に声をかけた人たちも、少し遅れて登場してくれるはず。ベリーズは全員出席じゃないかな?」
「まあ・・・」
「でね、本当は、そこで正式に“千聖はどのユニットを選ぶの?”って聞くつもりだったんだ。
それで、選ばれたユニットの人たちを中心に、引き続きちょっと早めの千聖の誕生日パーティーって流れになるはずだったーのにー!そういうドッキリだったーのにー!まさかの該当者ゼロ!ケッケッケ」
「キュフフ、これじゃあ逆ドッキリだね。きっとえりかちゃんやみぃたんなんて、テンパッちゃうんじゃない?」

赤い目をした早貴さんが笑う。少し申し訳ないけれど、確かに「えっ!そんな!どっか入りたいユニットあるでしょ?」と慌てるお二人を想像すると、自然と笑いがこみ上げてきてしまう。

「こうなったら、どういう風にびっくりさせようか考えようよ。」
「いいねー!」

ノリのいい皆さんと輪になって、新たな会合が始まる。

「舞さん。」
「ん?」

少し盛り上がってきたところで、舞さんに声をかけて、二人で後ろを向く。まだ、大切なことを伝えていなかった。


「もう少しだけ、待っていてね。」
「ん?」


「私も、ちさまいユニットを目指して頑張りますから。そのときは、よろしくお願いします。
さっきはどこにも属さないと言ったけれど、私がこの先、自分に自信が持てたときに組ませていただきたいのは・・・」
「―待って、千聖。それ以上言わなくていいよ。」

舞さんの手が、私の腕を強く掴んだ。慌てたときのいつもの癖。じんわり痛くて、とっても暖かい。


「・・・ありがとう。」
「ウフフ。」

顔を真っ赤にした舞さんと視線がぶつかって、2人で微笑みあった。


「ちょっとー、聞いてるの千聖も舞ちゃんも!2人で後ろなんか向いちゃってぇ」
「あら、ごめんなさい。」



再びテーブルに向き直ると、私たちはテーブルの下で手をつないで、話し合いに耳を傾けた。



「ヤバッ。あれ舞美たちじゃない?もう来た!」
「早っ!でもいいか、じゃ、作戦通りで!」

綺麗な黒髪をなびかせながら、笑顔の舞美さんが駐車場を横切っていく。
後ろに続くのは、大きな紙袋を持ったえりかさん。少し胸がドキドキしてきた。

「店んなか入ってきたよ。千聖、準備OK?」
「はい。」


今まで、キュートの皆さんの誕生日には、いろいろなサプライズでおもてなしをさせてもらった。それが、自分の誕生日にまで、“逆”ドッキリをしかけることになるなんて・・・


「千聖。」
「ええ。」
つないだ手に無意識に力が篭もる。

大きく深呼吸した後、私は満面の笑みで振り返り、お2人へ第一声を投げかけるべく、唇を開いた。


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