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「ねえ、いつまで書いてるの、それ。」
「きゃんっ!舞ったら、抱きつかないで!もう、せっかちなんだから。もう少し待っていて頂戴。大切なお手紙なのよ。」
「・・・ふんっ」


「むふふ」

おやつをお部屋に持っていくと、手持ち無沙汰な萩原さんが、お嬢様にちょっかいを出して怒られ、不貞腐れてベッドに寝転がるという子供のような行動に出ている最中だった。
萩原さんがお嬢様のお部屋に遊びに来てはや30分。そこから放置プレイが始まっているらしい。

いつものツンツンおすまし顔が、ヤキモチで子供みたいにくしゃっとゆがんでるのが面白い。ニヤニヤ笑いながら見ていると、すぐに「何か用でしゅか」なんてにらみ返してくるのはご愛嬌。

まあ、いつまでもこの状態じゃ、そのうち手がつけられなくなるぐらい爆発するかもしれない。そう思って、私はお嬢様に声をかけた。


「お嬢様、お忙しいところ恐縮ですが、おやつを持ってきたので召し上がりませんか?今日はお嬢様の大好きな焼きりんごです。焼きたてのほうがおいしいですよ。」
「あら、村上さん。・・・そうね、いったん休憩にしましょう。舞、お三時にしましょう」
「・・・」

さっきまでの阿修羅怒りの面はどこへやら、噛み殺しきれない嬉しさを表情ににじませながら、萩原さんがソファまで歩いてきた。

「ちょっと、千聖まるごと1個食べるわけ?そんなんだから顔が大福みたいに」
「まあ、ひどいわ舞ったら!りんごはいいの!果物なんだから!」

相変わらず、仲のよろしいことで。
2人の会話はお互いに容赦なくて、それでいて思いやりも感じられるから面白い。お嬢様は本当にいい友達を持ったな、と思う。
とはいえ、痴話げんかをうだうだ聞いているのもなんだし、私はそろそろ退散しようかと立膝の体勢を崩した。

「あ、そうだわ村上さん。」

その時、お嬢様がちょんちょんとメイド服の袖を突付いてきた。

「今ね、私が書いてるお手紙のことだけれど‥」
「・・・舞波さん?」

先回りして、ズバリ言い当てると、お嬢様は目を丸くしてケラケラ笑い出した。


「村上さんったら、超能力でもあるのかしら?私、まだ何のヒントも差し上げていないのに。」
「ふっふっふ。私はお嬢様のことなら何でもお見通しですよ。とかいってw」

こういう言い方をすると、萩原さんがぶーたれるのはわかっている。案の定、また不機嫌モードになって私をにらんでくるのが面白くてたまらない。
萩原さんのリアクションがわかっていてこういう物言いをするんだから、私はいじめっ子か。℃Sか。あるいは煽り厨か。我ながらいい性格をしてるなぁと思う。


「最近、いろいろな出来事がありましたからね。そろそろ、舞波さんにお手紙を出すころかと思ってました。」
「ええ、そうなの。さゆみさんのことだけでも、とても長くなってしまいそう。メールも便利でいいとは思うけれど、やっぱり大切なことは手書きの文字のほうが私は好きだわ。
舞波ちゃんもこの前、ご自分で撮った写真の絵葉書をくれたの。とっても綺麗で嬉しかったわ。」
「舞波さん、センスが良いですからね。」


「・・・ごちそうさま。舞宿題やってなかったから、今日はやっぱり帰る」


私たちが舞波さんの話で盛り上がっていると、萩原さんはおもむろに立ち上がって、早足で部屋を出て行った。

「萩原さん・・・お嬢様、私もちょっと失礼します。」

私はあわてて、その後姿を追いかけた。


「ちょっと、萩原さん。ごめん、からかいすぎた?」

いくら私がおちょくり好きとはいえ、本気で怒らせたり悲しませたりしたいわけじゃない。でも振りむいた萩原さんの表情には、怒りよりも落胆が感じられた。

「・・・別に、村上さんは関係ないです。」
一応、私が横に並ぶまで足を止めてくれて、二人並んで廊下を歩き出す。


「舞波さん?」

黙ってうなずく仕草1つとっても、凹んでいるのがものすごく伝わってくる。萩原さんは普段は結構ポーカーフェイスだけど、お嬢様が絡むとあっというまにキャラ崩壊してしまう。


「・・人間関係に、勝ち負けや優劣を持ち込むのはナンセンスだってわかってるけど。でも、・・・・・やっぱり、敵わないんだなぁって。」
「萩原さん・・」


「舞はすぐに千聖のことを怒らせるけど、舞波さんはそんなことなかった。舞波さんといる時の千聖は、いつも優しい顔で笑ってた。
――蒸し返したくないけど、村上さんだって覚えてるでしょ?ほら、千聖は舞波さんのこと好きすぎて、あんなことにまで・・・」
「――ストップ。その話はやめよう。」


片手をずいっと萩原さんの前に突き出すと、何となく察してくれたのか、「うん」と短くうなずいて黙り込んだ。

「ごめんね。あんまりディープな友情の話とかするとさ、個人的なこととかいろいろ思い出しちゃって。」
「・・・ふーん。鬼軍曹にもいろいろあるんだね。まあ、今日のことは忘れて。ヤキモチとかダサいから。じゃ、さよならー」

誰が鬼軍曹だ!と言い返す前に、萩原さんはとっとと寮の方へ戻ってしまった。


「舞波さんかぁ・・・」

もうずいぶん、顔を見ていないけれど・・・元気にしているだろうか。


“舞波ちゃん” “舞波ちゃん、こっちに来て。”

目を閉じて思いを馳せると、お嬢様のはじけるような明るい声が耳によみがえってくる。

満面の笑みで、自分より少しだけ背の高い女の子の両手を取って、力強く走り出すお嬢様。


それは、私が初めてお嬢様と舞波さんを見た時の光景だった。



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