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「あっ・・・あの、私、覚えてます?あの・・・」

思わず興奮して話しかけると、美人さんはずいっと顔を近づけてきた。
顔近っ!でも目を逸らしたら負けのような気がして(何がだ?)、至近距離で私たちは見つめあう。

しばらくするとその目力が少し和らいで、ちょっとだけ口角が上がったように見えた。

「・・・あー!」
「思い出してもらえました?」
「あ、あー、あ、あの、うーん。・・・アハハ。」


――そうですか、覚えてないんですか。



「ほら、昨日私、校庭を覗いていて・・・」
「・・・あー!」
「思い出してもらえました?」
「あ、あー、あ、あの、うーん。・・・アハハ。」



どうやら見かけによらず、かなりの天然さんのようだ。鋭かったはずの目がふにゃっと和らいで、人懐っこい笑顔が現れた。


「あら、面識がおありだったんですか?」
「はい。・・・でも覚えていらっしゃらないみたいですけど。とかいってw」
「いやー、私実は学校でもニワトリ生徒会長なんて呼ばれてて。そのこころは、3歩歩いたら全部忘れちゃうから。とかいってw」
「「ぷっ」」

ゆるゆるなやり取りが当人ながら面白くて、私と美人さんは顔を合わせて笑いあう。

何か、同世代の子とこんなやりとりをすることが久しぶりで少し面映い。この人が近くに住んでいてくれてよかったな、なんて思った。


「えっと、紹介します。こちらは矢島舞美さん。この寮に住んでいらっしゃいます。高等部の2年生で、先ほどおっしゃってたように、学園では生徒会長もなさっています。」
「へー!」
「まあまあ、私は何にもできないんですけど。副会長とか、生徒会のメンバーにいっつも“頼むよー!”なんて突っ込まれてるし」

そういって照れくさそうに私の肩をばしばし叩く。・・・痛いがな。


「で、こちらが村上愛さん。お屋敷でメイドとして働くことになったので、今日は皆さんにご挨拶を。」

舞波さんにうながされて、私は咳払いをひとつ。昨日鏡の前で練習した“貞淑なメイドスマイル”を披露しつつ「よろしくお願いします」と微笑みかけた。


「あははははは。こちらこそよろしくお願いします。」


――なぜ笑う。


「ところで舞波さん、お嬢様は?」
「えと・・・調子がお悪いみたいで。お部屋で休まれてます。」
「そうなんだ。私まだお嬢様と話すの緊張しちゃうんで、今朝勇気を出してランニングに誘ってみたんですけど、顔近すぎた上に噛みすぎて何言ってるかわかんなかったみたい。怯えた顔して逃げられちゃいまいました。あはは」
「うふふ。また誘って差し上げてください。お嬢様は外遊びが大好きなので。」


――たしか、舞波さんは一週間くらいここでメイドさんを居るといっていた。ということは、舞美さんよりお嬢様と密に接している期間は短いはずなのに、完全に立場が逆転している。


「・・・それじゃ、私ちょっと走ってくるんで。愛さん、舞波さんまた今度。」
「はぁい。」


なんだか掴みどこのない人だ。さわやかに笑いながら、舞美さんは林道のほうへ走っていってしまった。


「よかった。舞美さんとは早く仲良くなれそう。」

独り言半分でそうつぶやくと、舞波さんは「それはよかったです。」とえくぼを見せて笑った。


「いなくなる前に、めぐさんにお友達が出来たら私も安心。」
「・・・・・・え?いなくなるって、誰が?」
「あれ?ごめんなさい、言い忘れてたかも・・・


私、あと1週間でここを出て行くんです。」



「えーっ!!!」

驚いて大声を上げてみるものの、なるほど確かにそれなら合点がいく事もある。


お嬢様は、大好きな舞波さんが出ていく事を喜ぶわけがない。私がお屋敷で働くとなると、引き止める理由に使えそうな“従業員不足”は解消されてしまう。それで、私はあんなに拒まれたのか。


「・・・ちょっと、急ですね。」
「はい。あ、でも引継ぎ事項はすべて終わらせますから。」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」


“舞波ちゃんがいればそれでいい”そこまで言っていたお嬢様が、あと1週間で気持ちの整理をつけることなんてできるだろうか。昨日今日の様子じゃ、とても難しいことのように思える。
かつて私が雅の言葉を残酷に断ち切ったように、いざとなったら舞波さんもお嬢様を自ら遠ざける?でも舞波さんは私なんかとは違って、思いやりにあふれた人だ。そんな強硬手段で、お嬢様を傷つけるようなことはしそうにない。



「千聖お嬢様のことでしたら、大丈夫です。」
「えっ・・・」


私が思考の迷路に迷い込みかけていると、舞波さんがそっと肩に手を置いた。


「といっても、まだ全然納得はしてくれてないんですけど。」
「舞波さん・・・」


「でも、私がいてもいなくても、大丈夫なお嬢様になってもらわないと。」
「舞波さんが、いなくても・・・・?」



心臓を、乱暴にわしづかみにされたような感覚。



だって、それは、私が雅に投げつけた言葉と・・・



「めぐさん?大丈夫ですか?顔色・・・」
「大丈夫。寮の中の案内お願いします。本当、なんでもないから」


きっと舞波さんは、私が何かに動揺していることぐらいお見通しだと思う。それでも私は、何でもないと虚勢を張ることでしか、この今にも溢れそうなそうな思いを食い止めることができない。


「・・・そうですか。では、中へ。気分が悪くなったら言ってくださいね。寮生さん、1人なので。」
「はい。」


大丈夫、大丈夫。

こうやって何かしらやることがあるほうが、気が紛れるというもの。動揺をポーカーフェイスで隠しながら、私は舞波さんに促されるまま、寮の中へと入っていった。



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