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翌日。

「舞、何か元気ない?」
「え?」


最近はほぼ毎日あるゲキハロの稽古終わりに、私のお姉ちゃんこと舞美ちゃんが声をかけてきた。

「・・・伝わっちゃった?お姉ちゃんいつも鈍いのに」
「なんだとー!一言多いんだから、舞は!お姉ちゃんは悲しいよ!とかいってw」

舞美ちゃんの大きな手が、私の髪を優しく梳く。


「ちっさーとケンカしちゃった?」


――おお。そんなことまで感づかれてるとは。


「さっき、私とちっさーがふざけっこしてた時、ちっさーが舞に話しかけたのに、聞こえないふりしてたでしょ。いつもの舞なら、ちっさーが話しかけた時すっごい嬉しそうな顔するのに。」
「・・・そう、かな。」
「そうだよー。」


そう言って、舞美ちゃんが視線を上げた先には、隅っこのほうでえりかちゃんと雑誌を見て談笑している千聖の姿があった。


“赤レンガ倉庫が・・・”“中華街が・・・”


漏れ聞こえる声を拾ってみたところ、やっぱり横浜デートのお話をしているところらしい。


ふいに、えりかちゃんが千聖に何か耳打ちする。からかうような内容だったのか、千聖は恥ずかしそうに首を横に振って、眉を寄せた顔でもじもじしている。


――あ、まずい。昨日の妄想を思い出してしまった。首の後ろが熱くなる。


“そんなことやめて、舞さん。はずかしいわ”


「あー!もう!」

その妄想から意識を逸らすべく大声を出してみる。


「舞、怖ーい!」
「だって・・・」
「えりにちっさーを取られちゃいそうで怖いの?」

まったく、お姉ちゃんは普段はありえないぐらいの天然っぷりをかましてくれる人なのに、時々こうやって人の痛いところをクリーンヒットでえぐってくる。

「もう、お姉ちゃんてさぁ」
「でも、ちっさーは舞のこと大好きだと思うよ。」

舞美ちゃんはくったくのない顔で、ニカッと笑いかけてきた。

「・・・本当に?」
「うん。だから、早く仲直りしちゃいな。2人がケンカしてるとね、キュート全体が暗ーくなっちゃうんだから。」
「でも、何て言ったらいいのかわかんない。舞の逆ギレが悪いんだけど、千聖は舞が何にキレたのかわかってくれないと思う。・・・違う、本当はわかってもらいたくないのかもしれない。せっかく千聖が謝ってくれてるのに、これじゃいつまでたっても仲直りできない」

仲直りはしたいけど、千聖と向き合うことで、千聖の気持ちのありかを再確認したくない。だけどそんな都合のいい話があるはずもない。


「うーん。むずかしいけど・・・・・・とりあえず、謝っちゃえば?難しいことは抜きにしてさ。」

少々難しい顔で黙り込んでいると、お姉ちゃんは私の肩を抱きながらそう言って微笑んだ。


「でも、でもさ」
「だって、ちっさーも舞と仲直りがしたいんでしょ?舞もそうなんでしょ?だったら、難しいことはおいといて、一言“ゴメン!”で。それでもだめなら、ゆっくり話せばいいじゃないか。あんまり頼りないかもしれないけど、私もできることがあれば協力するから」
「お姉ちゃん・・・・」


舞美ちゃんの背中に、後光が射している。なんだかんだ言っても、それこそ千聖がお嬢様化する前から、私たちのケンカを仲裁してくれていたお姉ちゃんなんだ。その一言だけで、私の心はだいぶ軽くなった。


「おねーちゃん、大好き!」
ひざに飛び乗って、猫みたいに体をすりつけて甘えてみる。

「なーに?甘えん坊モード?とかいってw」


本当に、舞美ちゃんの言うとおりだ。
いろいろ理由をつけてみたところで、行き着くのは「仲直りしたい」ただそれだけ。


「ちゃんと仲直りするからね。」
「そうそう、その調子!それにしても、なっきぃも舞ちゃんもどうしてえりがちっさーと仲良くすると怒るのー?仲良きことはすばらしきことって言うじゃないか!」


――それは、舞の口からはとても。はい。


ともあれ、私はこうして舞美ちゃんに背中を押してもらって、一歩踏み出すことができた。
ドッキリの計画もあり、千聖の身辺が慌しくてなかなか切り出せなかったけれど、バースデーパーティー当日、私は少々ルール違反をして、思い切って千聖に頭を下げた(事実上のプロポーズ付き。)

お姉ちゃんの言うとおり、千聖は笑って謝罪を受け入れてくれた。そして、(あくまでも仕事上の話だけど)私を一番に選んでくれると暗に言ってくれた。
嬉しかった。天にも昇るような気持ち。だけど、ワガママな私はそこですべて満足するというわけではなくて。


「千聖。」


千聖のバースデーパーティの最中。
たくさんの人に話しかけられている千聖を、そっと輪の中から連れ出した。

「なぁに?舞さん」
「今日、このあと舞のうちに来て。」
「え・・・」
「お願い。あんまり遅くしないから。帰り、ママの車で送るから。」

実は、明日はゲキハロ初日だ。ゆっくり体を休めるように劇団の皆さんにも言われているけれど、こうなったら私はこのテンションのまま、すべて解決させて明日に望みたかった。


「・・・わかったわ。」

さすが、長年の相方。私の本気が伝わったらしく、ちょっと困った顔をしながらも承諾してくれた。



この時の私は、本当に、少し話し合って終わりにするつもりだった。ええ、本当に、そのつもりだったんです、神様。



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