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そこにあるのは、おもちゃの手錠。


数日前、打ち合わせの席に、「キューティーミニスカポリスガールズってどうかな?ケッケッケ」と愛理が持ってきた物だった。

結局その話は笑って流れたはずなのに、どういうわけか私のカバンの中に入っていた。

返さなきゃと思いつつ、習慣になっている“痴漢のアレ”を妄想する時に使わせてもらったりしていたので、結局私の手元から離れていないという経緯がある。

千聖を押し倒したまま、思いっきり手を伸ばして手錠を掴む。ガチャッと大げさな音がして、千聖の視線がそれに釘付けになった。


「舞ちゃん」
「うるさい」
「ねえ、やだ。やめて」

手首にわっかを通そうとすると、さすがに千聖は身を捩った。

「話があるんじゃなかったの?だから千聖舞ちゃんち来たんだよね?」

そこまでは覚えてるのか。
千聖はお嬢様から前の人格に戻るとき、前後の記憶があいまいになってたりすることがある。そういう時は少し遡って、千聖が把握していることを確認しながらしゃべるのがキュート内でのルールだった。私は千聖のことなら何でもわかってるから、いちいちそんなのしないけど。


「ねえ、明日ゲキハロじゃん。千聖用事ないなら今日は帰りたい。遊ぶなら違う日にしようよ。舞ちゃん・・・ちょっと、やだってば!」


千聖は私のわがままを封じようとする時、こうやってお姉ちゃんの口調になって諭そうとしてくる。でも生憎、今はそれに従ってあげる気分ではなかった。私を説得するのに夢中になってるところを見計らって、もう一度千聖の手首を掴んだ。
今度はうまくいった。丸いわっかのなかに、右の手が収まる。


「最悪・・・」


千聖はそうつぶやいてから、あわててまだ自由な左手を背中に隠した。
こんなことになって困った顔をしているけど、怒ってはいないみたいだ。まだ私が何を考えてるのか、わかってないのかもしれない。

私は私で、なぜか妙に落ち着いていた。ドアの外からは、家族の楽しそうな声が聞こえる。この状況で千聖が大きな声を出したり、ママがうっかり部屋に入ってきたら、大変なことになるというのに。


千聖の目をまっすぐ見つめたまま、私は手錠のもうかたっぽのわっかを引っ張った。繋がれると思ったのか、千聖はまた身を捩った。

「・・・違うから。暴れないで」


私は苦笑して、それを自分の左手首にはめた。冷たい金属を通して、私と千聖がつながる。



「・・・・なにやってんの、舞ちゃん」
「ねえ、千聖はどこまで覚えてるの?」



その声をさえぎるように、私は千聖の耳元に顔をうずめてささやいた。


「ひゃあ」


甲高い声。あのDVDみたいなエロい声ではないけれど、ぞくっとするような興奮が体を突き抜ける。


「どうなの?」
「ちょ、耳くすぐったい。やめて。何が?」


「だから、舞とエッチなことしたの覚えてるの?」
「え」


千聖の動きが止まった。口を半開きにしたまま、私の顔をまじまじと見つめる。


「私、舞ちゃんともそういうことしてたの・・・?」


――も、って。さっきも“舞ちゃんもなの?”とか言ってたけど・・・きっとえりかちゃん本人に聞いたんだろう。キュートのみんなは、このことを勝手に話したりはしないはず。

でも、いつ?どこで?どうやって?どこまで聞いたの?それで、千聖はどう思ったんだろう?


私はいつでも千聖のことを把握していたいのに、こうやってえりかちゃんに先を越されてしまう。こういうのは不本意だし、悔しい。


「舞と海でキスしたり、舞のこと温泉で触ったりしたの覚えてないの?千聖が触ったんだよ。裸で」
「や、え、嘘。ちが、だってそんな」

千聖は赤くなったり青くなったりしながら、自由になるほうの手で私を押しのけようとした。


「大人しくしてってば。」


その手を自分の指で握りこんで、恋人つなぎにする。千聖の手のひらはひどく湿っていて、ドクンドクンと鼓動が伝わってくるぐらい緊張していた。


「千聖・・・」


本日二回目のキス。


ビクッと跳ねる左手を全力で押さえる。千聖は手錠の方の手は動かさないはず。・・・変に力が入れば、私の手首に傷がついちゃうかもしれないから。


「・・・顔、振らないで。唇切れちゃうよ」


小さくて柔らかい唇に、軽く歯を立てながらそんなことを言ってみる。その一言で千聖が動かなくなったから、今度角度を変えたりして何度も啄ばむ。さすがに舌を入れたりはできなかったけど、さっきのよりはずっと大人のキスができた。頭がくらくらする。

鼻から漏れる息がくすぐったい。チュッと音がするたびに、千聖がもじもじ動くのがたまらない。千聖も私の唇の感触を感じてるんだと思うだけで、私は毎晩“アレ”をする時みたいなそわそわした気持ちになった。


数分間後、やっと唇を離すと、千聖はぼんやり目を開けていた。ずっとくっつけていたからか、いつもより少し唇が濡れてぷっくりしている。呆然とした表情のまま、私の顔を見て、ゆっくり何度か瞬きを繰り返す。



「わ・・わたしに、どうしろっていうの・・・?」



明るい千聖らしくもない、泣き出しそうな声。こんな顔されたら、いつもならごめんと謝り倒していたかもしれないけれど、今の私は完全に悪いスイッチが入ってしまっているみたいだ。


「いいでしょ、キスぐらいしたって。どうせえりかちゃんとだってしてるんでしょ」
「・・・してないよ。たぶん。あんまり。えりかちゃんがそう言ってた。なんか、そういう、ルールだってえりかちゃんが」

千聖は一度言葉を切って私から目を逸らすと、「これ、痛いから外して。」と手錠のついてる手を軽く動かした。

「やだ。」
「ねえ、舞ちゃん!」
「えりかちゃんえりかちゃん、ってうるさい千聖。」
「だって舞ちゃんが聞いたんじゃん!ねー、もうやだってば。本当に。ていうか、何で手錠とか持ってるの?ヘンタイじゃーん」

「うるさいな。愛理のだから、これ」
「でも舞ちゃんが持ってるんだから舞ちゃんがヘンタイでしょ。今使ってるし。ねえ、あと重いから上乗っかるのやめて」


お嬢様の千聖とじゃありえないような、久しぶりのちさまいバトル。こんな状況じゃなかったら私も楽しんでいただろうけど、正直それどころじゃない。

案の定、このやりとりが面白くなってきた千聖は、笑うような場面じゃないのに目が半月になっている。だから、私は声のトーンを変えてみた。


「ねえ千聖、私が千聖にどうしてほしいのかって聞いたよね?」


また笑顔が消えた。


「舞ちゃん、そういうのやだってば・・・」

その乾いた声は無視して、あんまり体重をかけないように馬乗りになる。大好きな千聖のことを支配しているみたいな錯角を覚えて、少し優越感が高まった。


「っ!舞ちゃん!」

私はおもむろに自由な方の手を伸ばすと、千聖の胸を掴んだ。自分のとは全然違う感触。ふにゃっと指が沈む。



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