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「お疲れ様でしたー!」


そして、閉幕後。

無事に初日を終えて、達成感と充実感に満たされながらも、私はやっぱり千聖のことが気がかりで仕方なかった。

舞台の中で、千聖は私のアドリブに笑顔で応えてくれた。歌の時も、目が合うと笑ってくれる。でも、これは実はあんまりいい傾向じゃない。
千聖は裏で喧嘩や揉め事があると、反動なのか、ステージではものすごく愛想が良くなる。ということは・・・


「はい、℃-ute集まってー!」


軽い反省会の後、無事初日を終えたお祝いということで、ちょっとした懇親会みたいなのがあった。
キュートのみんなと、共演者のみなさんと、スタッフさん。ちっちゃい部屋で、ジュースを飲みながらみんなでお喋りをする。そんなささやかなパーティーの中で、私は意を決して、ニコニコ笑っている千聖に近づいていった。


「千聖、ちょっと」
「ごめんなさい。舞さん、後でもいいかしら」
「・・・うん」


撃沈。

口調は柔らかいけれど、きっぱりはっきりと拒まれてしまった。「いいの?」なんて愛理となっきぃが千聖に聞いているけれど、当の本人はまったく意に介していないみたいだ。

「はぁあ・・・」

肩を落として元いた席まで退散すると、苦笑しているえりかちゃんと舞美ちゃんが苦笑で迎えてくれた。

「何だ何だー?またケンカ?今度はどうしたの?最近毎日ケンカしてるじゃーん、とかいってw」

「うー…もうだめかも。舞、消えてしまいたいよ・・・」
「そんなこと言わないで、舞ちゃん。今は間が悪いんだよ。あせらないあせらない」

両側から頭をなでたり、肩を抱いてくれたり。今はそんな二人の優しさが心地いい。でも、根本的な問題が解決したというわけじゃない。千聖との問題を解決させない限りは、いつまででも自分の胸に、このもやもやは燻り続けることになるんだろう。


「えりかちゃん、お願い。舞、今日中になんとかしたいよ。どうにかならないかな」

今は、恋敵じゃなくて、お姉ちゃん。私はえりかちゃんの腕を両手で握って、綺麗な形の目をじーっと覗き込んだ。

「今日中ねぇ」
「ていうか、今すぐ。」

よっぽど必死な顔をしてたんだろう。えりかちゃんは「わかった」と軽くうなずいて、千聖の側に行ってくれた。二言三言会話を交わすと、2人はそっと部屋を出て行く。・・・今は、えりかちゃんを信じて待つしかない。


「お姉ちゃん・・・」

祈るような気持ちで舞美ちゃんに寄り添っていると、急に後ろから「舞ちゃん」と名前を呼ばれた。


「なっきぃ。」
「今、いいかな」

眉をしかめて、ずいぶん深刻そうな顔をしている。

「舞ちゃんさ、千聖と何かあったの?」
「うん・・・ちょっと、ケンカ中かな」
「・・それ、私のせい?」
「え?」

なっきぃの言葉は予想外だった。私は目を瞬かせる。

「さっきね、千聖と愛理と3人で話してるときに、その・・・痴漢、の話になったのね。愛理が昔被害にあったことがあって、とっさにピンで手刺して撃退したとか、そういう話なんだけど」

愛理、つえぇ。

「まあ、それは別にいいんだけど、その時千聖がこう言ったの。“そういう犯罪は、絶対に良くないわ。痴漢や強制わいせつは、とても怖いことなのよ。それなのに舞さんはどうして・・・あぁ、ごめんなさい。何でもないの”」
「うわぁ」


私は気が動転して、「なっきぃ、千聖のモノマネうまいね」なんて間抜けな感想を漏らしてしまった。


「もう、何それ」
「・・・ごめん」
「だから、ちょっと気になって。舞ちゃん、千聖にちょっとやりすぎな悪戯でもしちゃった?ほら、だって、私と変なの見ちゃったから、もしかしてそれが原因だったら申し訳ないし・・・」


舞美ちゃんの手前、なっきぃはぼかしぼかし喋っていたけど、言わんとすることは十分わかった。

「・・・そうじゃないよ」

だから、私は即否定した。別に、なっきぃが悪いわけじゃない。

「あれは、ただのきっかけだから。遅かれ早かれ舞は千聖にああいうことして怒らせることになったんだろうし」


なっきぃが黙って、まじまじと私の顔を見る。

「・・・・・え、つまり、舞ちゃんは、無理やり千聖とエッチしたってこと?」
「ちょ、ちょぉなっきぃ」

気が動転したのか、なっきぃは意外なほど大きな声でそう言った。周りにいた人たちの視線が集まる。

「ど、ど、どどどどうしよう!私のせいで舞ちゃんが」
「え?え?え?え?」

泣き崩れるなっきぃに、目にいっぱいクエスチョンマークが浮かんでる舞美ちゃん。愛理はスタッフさんとの話を中断して、目をしばたかせてこっちを見ている。


「・・・舞が?チカン??ちっさーに???エッチ????えええ?」
「みぃたぁん・・・うわあああん」
「いや、違う。違わないけど。待って、舞の話を聞いて」


いよいよ手に負えない感じになってきたところで、目の前のドアが開いた。場違いなほどすっきりした顔で、えりかちゃんが戻ってきた。


「舞ちゃん、お待たせ・・・え、あれ?」

泣きじゃくるなっきぃに、ぽかーん顔の舞美ちゃん。困惑する周りの皆さん。異様な光景に一瞬躊躇するも、えりかちゃんはすぐに気を取り直して「とりあえず、行ってきたら?」と私を促してくれた。


「でも、」
「ケッケッケ。よくわかんないけど、こっちはまかせて」
「うん。千聖待ってるよ。奥から2番目の部屋ね。」
「・・・わかった」


あきらかに面白がってる愛理はともかく、えりかちゃんがそう言うなら。私は大急ぎで、目的の部屋に向かうことにした。


「・・・・千聖。」

第3稽古室と書いてあるその場所で、千聖はほおづえをついていた。
私が入っていっても別に驚かなかったから、きっとえりかちゃんから少し説明があったんだろう。相変わらず私の顔を見ようとはせず、しかめっつらであっちの部屋から持ってきたお菓子をぽりぽり食べている。

「・・・舞ちゃん、立ってないで座ったら」
「あれ。お嬢様じゃないの?また戻ったの?何で?」
「わかんないよ。えりかちゃんがスイッチ入れてくれるのかと思ってたけど、違うみたい。なんか勝手に変わるのかも・・・って別に今そんなのどうでもいいじゃん」

千聖はやっと顔を上げて、自分の隣の椅子を私のために引いてくれた。不機嫌なことに変わりはないけど、今度は私をちゃんと正面から見てくれた。

「怒ってるんだからね」
「うん」
「何であんなことしたの」


まだ少し怯えているのが、目の動きでなんとなくわかる。その顔を見てると、こんな状況だっていうのに、変に胸がドキドキする。


「何その目。やっぱり舞ちゃん変だよ。絶対おかしいから」
「だからごめんってば。謝ってるじゃん」
「何だその言い方。どうせ反省してないんでしょ」
「はぁ?してるし」

千聖は少し調子を取り戻してきたみたいで、徐々に言い合いがヒートアップしてきた。


この勢いなら、なしくずしで仲直りできるかもしれない。
でも、私はちゃんとけじめはつけておきたいと思った。それが千聖への誠意であり、わざわざ機会を作ってくれたえりかちゃんへの礼儀でもある気がするから。

オホンと一つ咳払いをして、話を軸まで戻す。


「・・・なっきぃの家で、エッチビデオを見て」
「は?え?・・・うん」
「それで、何て言うか・・・・千聖と同じようなことしたら、どうかなって思ったの。まあ痴漢はだめだけど、エッチぐらいなら受け入れてくれるかななんて思って。それで、あんなことをしました。すみませんでした。」

こうして言葉にすると、私って本当に最低なことしたんだなとあらためて感じる。何だ、その理由は。

「最悪・・・」
「でも!私は千聖が良かったんだよ。舞美ちゃんでもえりかちゃんでもなっきぃでも愛理でもなく、千聖としたかったの。好きなの、本当に。千聖のことが。
だから舞以外の人とはしないでほしかったの。・・・でもあんなことはしちゃだめだったと思うけど・・・ごめんなさい・・・」


自分でもかなり勝手なことを言ってるとわかっているから、最後のほうは尻すぼみになってしまった。はずかしくて千聖の顔を見れない。


「もう、わかったから。舞ちゃん」

少し時間が経ってから、千聖はそっと私の顔を撫でた。顔を上げると、たまに見せる、困ったような笑顔をしている。
思わず抱きつくと、優しく背中に手を回してくれた。そして、「でも、本当に怖かったんだよ」とつぶやいた。

「ごめんね」
「舞ちゃんが、違う人みたいに見えた。舞ちゃんにされたことも怖かったけど、それより、舞ちゃんと千聖の関係がめちゃくちゃに壊れちゃうんじゃないかって思って。それが一番怖かった。」
「ごめん、千聖」
「千聖、舞ちゃんのことちゃんと好きだよ。だから悲しかったの」


本当にバカ。信じられないぐらいバカ。
許されると思って調子にのって、こんなことまで千聖に言わせるなんて。最低人間だ、私。
頭の上に鉛でも乗っけられたように、自然に頭がズドーンと下がっていく。


「そんな顔しないでよ、舞ちゃん。相方がそんなんじゃ、千聖も元気でないよ」
「・・・まだ、舞は千聖の相方でいいの?」
「当たり前でしょー」

それで千聖は、やっと、しばらくぶりに満面の笑みを見せてくれた。

「もうあんなことしない?」

私の髪を撫でながら、お姉ちゃんな声で千聖が聞いてくる。

「・・・それはわかんない。だって、やっぱり好きなんだもん。千聖のこと」
「最悪・・・」


でもその声は柔らかくて、千聖はまた困ったように笑っていた。

「千聖。」
「うん」
自然に顔が近づいて、唇が重なる。今度は千聖は暴れないで、じっと受け入れてくれた。
あの時みたいに、興奮はしなかったけど、私は幸せだった。キスで穏やかな優しい気持ちになれるなんて知らなかった。それはごく普通のキスだけれど、今まで何度かした中で一番気持ちがよかった。


「・・・そろそろ戻らなきゃ。千聖、先に行くね」


しばらくして顔を離すと、少し赤い顔で千聖は勢いよく立ち上がった。・・なんだ、ムードも何もあったもんじゃない。

「一緒に戻ろうよ」
「やだよ。えりかちゃんに何か言われる。さっきだって舞ちゃんが来る前すっごいからかわれたんだから」


千聖はこういうとこ、結構ドライだと思う。まあ、やっと許してもらえた立場で文句は言えないけれど。


「ねえ、私とえりかちゃんどっちが好き?」

その代わりといっては何だけど、千聖が部屋を出る寸前、私は本日最後のワガママをぶつけてみた。千聖は目をパチパチさせながら振り返った。

「ねえ、どっちが好き?」

語気を強めてもう一度問いかけると、千聖は少し考え込むように黙ってから、黙って唇の端を吊り上げた。これは、なかなか嫌な笑顔だ。

「・・・えりかちゃん、かな」
「はぁ!?何でよ」
「えりかちゃんは舞ちゃんみたいに、千聖が嫌がることしないもーん」
自分から仕掛けたとはいえ、千聖の返答に、私はガックリ肩を落とした。

「・・・もーいい。さっさとえりかちゃんのとこ行けば?舞もすぐ戻らせていただきますから」
「・・・でも、舞ちゃんのことも好きだよ。」

苦笑したまま私を置いて行こうとした千聖は、去り際そんなことを口走った。

「は・・」
「うへへ、大好き!」

ニカッと笑って、ピースサイン。今度は振り返らずに、鼻歌なんて歌いながら、千聖の声は遠ざかっていった。

「・・・何それ。ずるい。」

後悔とか、反省とか、安心とか。いろんな気持ちが混じって、私は一人静かな部屋でじたばたした。

「やっぱバカだな、舞って。千聖バカって感じだ」

千聖バカ、か。自分でいうのもなんだけど、こんなしっくりくるあだ名も珍しい。

「ふふふ」

とりあえず、このニヤニヤが収まるまではここにいよう。唇を指でなぞって、私はもう一度小さな笑い声を漏らした。


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