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興奮状態になってしまったお嬢様をめぐが寝室へ連れて行ってなだめている間に
あたしは食堂へ移動した。広い食堂に一人でいるのはなんだか落ち着かない。
「ふぅ」
思わずため息が出た。

話の持っていきかたが悪かったかな。ああ言った方が良かったかも。
あれこれ考えているところへめぐが入ってきた。

「とりあえず落ち着いたみたい。今日はもうお休みになってもらったから」
めぐの大きな眼にはやや非難する気配がある。
案の定めぐは言葉を続けた。
「いきなりお嬢様に言うんじゃなくて、まず私たちに言ってからの方がよかったんじゃない?」

たしかにそうだったかもしれない。でもあたしにだって考えがあった。
それをめぐに伝えようとしたけど、マシンガンのようなめぐの話はなかなか止まらない。
「だいたいえりはさ・・・」
「待って、めぐお願いだからちょっと待って。今はうちが話す番だから」
そう言って話を遮ると意外そうな表情になって唇を動かすのを止める。

「うち説明するの苦手だからさぁ。めぐが言うとおりまずみんなに言って、
 上手な説明をみんなで考えてそれをお嬢様にお知らせしようとも思ったんだ」
「なんだ、えりもわかってたんだ。だったらどうして・・・」
「だから今はうちが話す番だから。この時期に転校したいなんてうちのわがままだから、
 お嬢様にお伝えしにくいでしょ。
 でもさ、だからこそ真っ先にお嬢様にうちの口からお知らせするのが精一杯の誠意だと思ったの」

めぐの大きな眼が更に大きく見開かれる。
「誠意、そうかそれがえりの考えた誠意だったんだ」
「お嬢様を混乱させちゃったから、結果的には誠意でもなんでもなかったけどね」
自嘲気味にそう呟くとびっくりするくらい大きな声でめぐが言った。

「えりが誠意だと思ってしたことなら、まだお嬢様には理解できていないとしても
 それは間違いなく誠意だよ。 
 自分の考えていることって期待したほど相手には伝わらないんだよ、残念だけどね。
 人間関係って難しいよね」
「めぐぅ・・・」

あたしよりも年下なのにめぐはまるで年長者のような口調で励ましてくれた。
通信制の高校へ通っている理由はまだ教えてもらってないけど、
友達との人間関係のトラブルが原因なのかもしれない、と思った。

「とにかく起きてしまったことは、もうなかったことにはできない。
 なんとかお嬢様に納得してもらえる説明を一緒に考えよう」
どんなときでも前向きなめぐが眩しかった。

お嬢様を混乱させてしまったえりのことを最初は許せないと思った。
あたしは岡井家のメイドなわけだし、個人的にもお嬢様を好きだし。
別にえりのことが嫌いなわけではない、お嬢様のほうがより大事だということ。

でも詳しく事情を聞くとどちらかが悪いというタイプの問題ではないとわかった。
えりの将来はえりのものだから彼女が決めるべきことで、
そして自分の決断を誰よりもまずお嬢様にお伝えしたかった。
お嬢様は親しい寮生と思ったより早くお別れするのが寂しかった。

個人的にはえりがもっと上手にお嬢様に知らせることができていればよかったのに
と思うけど、えりの気持ちを聞いたらそうは言えなくなった。
この二人の気持ちのすれ違いを修正することができたなら、
過去の自分のすれ違いもいずれ修正できるに違いない。
お嬢様のために、えりのために、そして自分のためにもなんとかしたい。
私の心はその思いで一杯だった。

「まずはみんなに知らせた方がいいかな」
えりがそう言った。それは私も考えたことだけど、止めた方がいいような気がした。
「それはどうかなー。 サキさんやマイさんが聞いたらお嬢様みたいに泣き出しちゃうかもよ。
 舞美だったら冷静に聞いてくれそうだから、とりあえず舞美にだけ伝えて、三人で考えよう。
 三人よれば文殊の知恵って言うし、きっと良い考えが出てくるよ」
「そうだね、舞美なら驚いても泣くことはなさそうだし」
「舞美は鈍感だから、とか言ってw」
「舞美は本当に鈍感だからねー」
えりも繰り返して、ちょっと微笑んだ。

よし、笑うことができるということは、真剣に考えてるはいるけど深刻にはなってないということ。
ついさっきよりは既に前進している。
このまま行けばきっとなんとかなるはず。いやなんとかしてみせる。



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