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お嬢様は私の顔を見てにっこりした。漫画とか絵みたいに、笑うと目が一本線になっちゃって、私もつられて笑顔になる。


「お嬢様って、笑顔がすっごく可愛いですねー」

ストレートにそう言ってみると、お嬢様は「あら、そんな、ウフフ」と少し顔を赤くしてはにかんだ。


「ほらほらかわいー!」
「ちょっと、友理奈ちゃん!お嬢様をからかわないで!」


ぷくぷくなほっぺたを突つこうとしたら、なかさきちゃんが即座に止めに入ってきてしまった。


「何でー。ヤキモチ?」
「ち、違うし!何言うの、もう!お嬢様、気にしないでくださいね。私のお嬢様への愛は、他の人と比べるようなものじゃなくどうのこうの」
「むふふ」


必死になってるなかさきちゃんはちょっと可愛いと思う。何か、キョドッてるハムスターみたいだ。

高等部で同じクラスになって知ったけれど、なかさきちゃんはお嬢様のお屋敷で管理している寮に入っているらしい。おしゃべりしていると、頻繁にお嬢様の名前が出るのはそういうわけだったのか、と私は妙に感心したことを思い出した。



「さ、お昼休み終わっちゃうからもうそろそろ行こう。熊井ちゃんも、ノート落としてるよ?ほら・・・」

また茉麻が私たちを促してくれて、足元に転がっていた私の数学のノートを拾い上げた。


「結構マジメにノート取ってるじゃん・・・」
「あっ」


ペラペラとノートをめくる手が、最後のページでピタリと止まった。待って、それは、さっきももたちにも――


「・・・・えー…」


案の定、茉麻はノートの“あの部分”を凝視したまま固まった。


「熊井ちゃーん・・・」
「違うんだってば、もう!」
「なにが?」
「待って、なかさきちゃんは本当にだめ!」


茉麻でこの反応なら、なかさきちゃんは絶対に大げさに大騒ぎする!そう思って、私はなかさきちゃんの頭を手で抱え込んだ。小顔ななかさきちゃんの顔は、私の大きな手によくフィットした。


「ぐぇっ」
「ちょ、熊井ちゃん!だめだよ!なっきぃ死んじゃうから!」


茉麻にベリッと引き離されて、なかさきちゃんの顔を見ると、半笑いで「キュフフ・・・キュフフフゥ・・・」と半分天国に行ってしまっていた。
いつものカ゛ミカ゛ミ風紀委員の時とぜんぜん違う半白目みたいな顔が面白くて、自分がこんな目に合わせたっていうのに、私は少しにやにやしてしまった。


「まあ、素晴らしいあいあんくろーね!熊さ…熊井、さんもぷろれすを嗜んでいらっしゃるの?千聖も結構強いのよ」
「いえいえ、それほどでもー。ていうか、別にプロレス技かけたつもりなかったんですけど」
「あら、それなら素質がおありなのかもしれません。今からでもその体躯をお活かしになって・・・」
「そんなトークしてる場合かー!」


なかさきちゃんが大変なことになってるっていうのに、暢気におしゃべりしていたら、私もお嬢様も茉麻におでこをペチンとたたかれた。


「あいたー!」
「きゃっ!」


おでこは痛いけど、茉麻はこういうとき、平等にしてくれるから何かいいと思う。ってまた余計なことを考えてしまった。

「でさ・・・話戻るけど熊井ちゃん・・・このノートはいったい」

ももたちほどあからさまにドン引きはしてないものの、さすがに茉麻の顔も少し引きつっていた。
そんなに変な行動だったのか・・・。なんとなく気分が落ち込んできてしまった。だけど、


「あら、千聖のお名前がたくさん・・・?」


横からノートをひょいっと覗き込んだお嬢様は、みんなの反応とは違って、別にどうってことないような顔をしてくれた。そのかわり、説明を求めるように、私をじっと見つめてくる。


「違うんです、変態じゃないんです。何か、お嬢様の名前って可愛らしいからつい何度も書いてしまって。それであのそのえっと」


いつだったか、噂話大好きなクラスの子が、「お嬢様の機嫌をそこねた生徒は即退学らしいよ!」と言っていたことを思い出した。
引かれる前にどうにか弁解を・・・!そう思ってできる限り早口でしゃべりかけるけれど、私の口はもともとあんまりよく回るようにはできていない。ああ、もどかしい!このくまくまボイスが憎らしい!


「そうなんですか。千聖、自分でも自分の名前が気に入っているの。嬉しいわ。」

だけど、お嬢様はそんな私を見てもやっぱり怒りもせず、まるで赤ちゃんが見せるような無邪気な顔で笑ってくれた。


「本当に・・・?」
「ええ。だって、私の大好きな両親が付けてくれた、大切な名前ですもの。褒めていただいて、嬉しくないはずがないわ。ちなみに、聖母マリア様から文字をいただいたのよ。
熊・・・くまいさん、は、ユリナさんというお名前なのね。とても綺麗なお名前。由来は・・・まあ、どうなさったの、熊さん!」
「うっ・・・うえええ!私、退学じゃなくていいんですか?大丈夫ですか?」
「まあ、急に何を・・・どうして熊さんが退学になるの?ああ、泣かないで。私も悲しくなってしまうわ。」
「うわーん!」


感極まって泣き出すと、お嬢様も目を潤ませてヒックヒックと小さくしゃくりあげた。


「な、何か、名前を褒められるのってすてきですねっ・・・ひっく」
「そうね、ひっく。千聖も嬉しいわ。ひっく」


視界の端っこで、もうついていけないって感じの茉麻が書類の片付けを始めた。手伝わなきゃって思うけれど、一緒に泣いてくれる人がいると、いつまでたっても涙が収まらない。
そのうちに、仮死状態だったなかさきちゃんが何度かまばたきをした後、ゆっくりと起き上がって私とお嬢様の方を見た。
そして私たちの状態を確認するや否や、

「・・・・ちょっとー!!!!友理奈ちゃん!!お嬢様を泣かせたの!!!????」とすごいキンキン声で絶叫した。


「違うの、なっきぃ。ひっく。私たち、ひっく。嬉しくて泣いてるの。ひっく。」


私がムキになって反論する前に、お嬢様はなかさきちゃんに上手な説明をしてくれた。

「そ、そうなんですか?でも・・・あー、もう時間ないから行きましょう、お嬢様、茉麻ちゃん。まったく、熊井ちゃんはぁ」
「うふふ。また、今度ね。熊さん。」


なかさきちゃんに促されるまま、岡井さんは今度こそ廊下の向こうに消えていってしまった。可愛いお手振りつきで。

「また呼び方戻ってるし!・・・でも、いっか。」

私だって、もぉ軍団の力を借りなくたって、こうやってお目当ての人と仲良くなることができるんだもん。あとで、ももと梨沙子に自慢してやらないと。
鼻歌交じりにスキップで廊下を進んだ。野次馬さんたちが道を開けてくれる。今日、また会えるかな?生徒会のお手伝いがあるのかな?もっと話したいな。いっそお取り巻きさんたちに仲間にいれてもらおうかな(でも私ももの友達だから無理かな)?

これからのことをいろいろ空想すると、すごく楽しい気持ちになる。新しい友達になれるといいな。私はすごく晴れ晴れした気持ちで、高等部の教室に戻った。


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