“「なっきぃ、なっき、なっきっき♪」
「もー、何だよぅ愛理ぃ。キュフフ」
珍しくジャレついてくる愛理が可愛くて、私も手を伸ばして頭をわしわし撫でる。まったり平和な昼下がり、私たちはのんびりひなたぼっこをしていた。
「なっきぃはさーあー、何でそんなにかわいいのかなぁ?ケッケッケ。スタイルもいーしぃ、ひよこちゃんみたいな顔じゃないかぁ~」
「なにそれー!キュフフフ」
愛理の独特の、妙に間延びした声でそう言われると、照れよりも先に笑いがこみあげてくる。
「愛理こそ、最近ますます可愛くて色っぽくなってきたじゃーん!ほらほら、可愛いぞー?」
「やめてくれよぅ、可愛いのはなっきぃだってー」
「愛理だよー」
「なっきぃ!」
「愛理!」
「キュフフフ」
「ケッケッケ」
ああ、本当に、和む。普段からのんびりふんわりな愛理だけど、今日はいっそうおっとりさんオーラがにじみ出ている。田舎のおばあちゃんちに遊びに来る、大きな猫みたいだ。
せっかちな私もつられて、ふにゃふにゃになってしまう。たまにはこんな時間の過ごし方も悪くないな、なんて思った。
「あははぁー、それではここで、なっきぃに質問ターイム!イエーイ!」
あまりに和んでウトウトしはじめると、急に愛理のテンションが急上昇した。私の手を取りながら、ずいっと顔を近づけてくる。
「何、何!いきなり」
「じゃあまず一問目ー!最近何か楽しかったことはありますかぁー?」
「えー?・・・そうだなあ、夏のツアー、楽しいよね!やっぱなっきぃはコンサートが好きだなぁ」
「ふむふむ、ほうほう。それでは次の質問!」
なんだかよくわからないけど、愛理が楽しそうだから付き合ってみようかな。その後も雑誌の取材みたいなQ&Aで盛り上がって、しばらくしたら気が済んだのか、愛理が「では、次が最後の質問でーす!」とにっこり笑った。
――ん?
その笑顔に何か違和感を覚えて、私がとまどっているうちに、愛理は体をぴったり付けて、手を恋人つなぎにしてきた。
「最後の質問はぁ・・・なっきぃは、一人Hしたことありますかぁ?」
「・・・・はぁ!?愛理ちょっと、なに言って」
わめく私を諌めるように、愛理は人差し指を唇の前に立てて「ケッケッケ」と妖しく笑った。
「ありますかぁ?」
ふわふわした女の子らしい、柔らかい声のまま、愛理はとんでもないことを言っている。えりかちゃんみたいに、いかにもいやらしい言い方をされれば撥ね付けることもできたけれど、私はとっさに対応がわからなくなって、・・・・そして、間違えた。
「・・・し、ししたことないよ。」
「ほぅー?ファイナルアンサー?」
「ふぁ・・・・ふぁいなるあんさー。」
手に汗をかきつつ答えると、愛理は某司会者さんのように、眼力を強めて私を見つめてきた。嫌な沈黙が流れる。
「・・・・っ残念!」
そして、焦れてきた頃に、愛理はあの人のテンションのまま、心底辛そうに、くっ・・・!と膝を叩いた。普段なら爆笑してるとこだけど、それどころじゃない。
「な・・・何でよ!だってしたことないもん!しょしょ証拠があるの!そそそんなはしたないことを愛理ったら」
声が震える。でもそれだけは、認めるわけにいかない。マシンガンのようにまくし立てる私を、余裕の表情の愛理がまぁまぁと諌めた。そのまま、無言でケータイを取り出して軽く振った。
「まさか・・・」
「なっきぃ、デスメールには注意しなきゃ。ケッケッケ」
――人生、オワタ。
昨日、愛理にメールを送ったことは覚えている。でもそれは、いたって普通の雑談ネタだったはず。愛理に送信するメールと、保存している個人的なメモ代わりのメール――つまり、デスメール、を送り間違えたということか。
「ケッケッケッケ、いやぁ~なかなかハードボイルドワンダーランドですなぁ。」
「あの、愛理・・・」
「愛理、てっきりなっきぃは清純派なのかと思ってたよ。昼は淑女、夜は艶女。とかいってw」
いったんスイッチの入ってしまった愛理は怖い。しゃれにならない冗談を連発しては、目の奥の玉が笑っていないスマイルをこちらに向けてくる。
「ご・・・ごめん、愛理、そのことは忘れて。お願い今すぐ。」
とりあえず、本当に困っているのだということをわかってもらえれば、愛理はそう意地悪なことはしないはず。・・・だったはずなのに。
「果たしてそれはぁー、なっきぃの本心なのかな?」
「は?当たり前じゃん、何言って・・・」
「なっきぃは、エッチなことに興味津々なのに、試す機会がないから一人でハッスルハッスルしてるんでしょぉ?」
「それは・・・」
「じゃなきゃエッチッチな文章なんて、書き溜めたりしないよね?」
愛理の推理はいちいち的確で、口ごもる私を見て「あはっ可愛いなあ」なんて頭をなでてくる。もう、私は年上なのに!
「というわけで、そんななっきぃの願いを叶えてさしあげることにしましたー!どうぞー!」
「えっ何・・・ええっ!?」
どうにかしてこの状況から抜け出さないと。私がそう考え込んでいるうちに、気がついたら謎の愛理の号令とともに、我がキュートの誇るガチンコ仲良しコンビがひょっこり顔を出した。
「千聖・・・舞ちゃん・・・・」
「おはよ、なっきぃ」
「早貴さん、ごきげんよう。」
反射的に腰を上げて距離をとろうとする私の肩を、舞ちゃんが軽く押した。柔らかい草むらに、お尻をつく。
「あら、舞さんたら。乱暴になさってはだめよ。」
「いいの。なっきぃは、こういうほうが興奮するんだから。ね、そうだよね、なっきぃ?」
舞ちゃんはもちろんのこと、庇ってくれてるはずの千聖の目つきも心なしかギラギラしていて怖い。いつもの半月スマイルがやけに艶かしく感じられた。
「なーっき、」
「わあ!」
いつの間にか後ろに回りこんでいた愛理が、私のあごをガッと掴んで、無理やりひざに乗せてきた。女の子らしくて柔らかい愛理の腿の感触がほっぺたに当たる。
「ぅんっ・・・」
「あは、可愛い声出しちゃって。」
愛理の指が、ほっぺたや唇を優しく優しく撫で回す。じれったい感触に身をよじっていたら、今度はまた違うところに電気が走った。
「あっダメ、舞ちゃ・・・」
目線を下に向けると、舞ちゃんが私の両足をガッと開いて、体を割り込ませている真っ最中だった。
「ちょっと、やめてよ」
「・・・・違うでしょ、なっきぃ?や め て く だ さ い ま い さ ま でしょ?」
いつもどおりお目目ぱっちりですごく可愛い舞ちゃんは、その顔を奇妙に歪めて笑いながら妙にはっきりした口調でそういった。
「なっ・・・そんなの言うわけないじゃん!」
「・・・なっきぃ生意気。あーあ、舞におちんちんがついてたら、入れちゃうところなのになぁ。何か、代わりのものは・・・」
おっ、おち・・・!私はヒッと息を呑んだ。本能的に悟った。これは、逆らわないほうがいい。舞ちゃんは今までのエセサディスト(?)のみやびちゃんやえりかちゃんとは質が違う。
「わ、わかった、言います。・・・やめて、ください、舞、様。」
「そう、それでいいの。ふふん」
「ギュフゥ・・・」
仕方のない状況とはいえ、年下の舞ちゃんにこんなことを言わされるのは屈辱的だ。でも、その恥ずかしいような悔しいような気持ちが、私の体にゾクッと快感をもたらした。
「ウフフ、早貴さんたら、とても色っぽい顔をしていらっしゃるわ。」
「ふわぁ」
舞ちゃんの猛攻を回避して安心していると、今度は耳の穴に、ふわんふわんな声が吐息とともに入ってきた。
「ちさと・・・」
「大丈夫です。一緒に気持ちいいことをしましょう?」
囁きながら、千聖は子犬がそうするように、ほっぺたをぺろんと舐めてきた。
「ウフフ」
「あン、ちょ、だめ、ちさ」
ちょっとはにかみながら、私の顔中にキスを降らせる。ずるい。そんなちっちゃい子みたいな顔をされたら、やめてなんていえなくなってしまう。
まさに飴と鞭。愛理に揺さぶりをかけられ、舞ちゃんから理不尽な脅しをかけられ、千聖に甘えられる。キューティーガールズは役割分担が上手いな、なんてこの危機的状況の中で暢気なことを考えてしまった。
「ね・・・ねぇ、愛理・・・」
「ん?」
私のうなじや首元をいじくりまわす、いたずらな手を捕まえて、私は最後のお願いをすることにした。
「なぁに、なっきぃ」
「キュフフ・・・ちょぉ、くすぐったいよ。・・・ねえ、これが終わったら、メール、消去してくれるんでしょ?」
ちさまいの手や唇がもたらす感触と戦いながら、私は必死に交渉する。でも、とうの愛理は、ん?と小首をかしげる不思議な反応だ。そして、その薄くて綺麗な唇から、衝撃的な言葉が発せられた。
「メール?送られてきてないけど?」
「え・・・・・」
「私は、“デスメールには注意しなきゃ”って言っただけだよ?そしたら、勝手になっきぃが自白してくれただけだから・・・」
――やられた!
「か、かまかけたの・・・!?しどい!」
「ほら、なっきぃ、もっと足開きなよ。恥ずかしいね、こんな屋外で。人に見られたら大変大変。」
「ウフフ・・・こちらも触ってもいいかしら?早貴さん」
「ギュフゥ・・・・」
いつも元気で明るいキューティーガールズは、無邪気さはそのままに小悪魔・・・いや、悪魔になってしまった。
「あはは」
「ウフフ」
「ケッケッケ」
心底楽しそうな声を耳にしたまま、私の意識は不釣合いなほどの青空へと溶けていった・・・・・”
「・・・・ふう。」
所変わって、自室のベッドの上。
やることやり終わって、賢者タイムに突入した私は、妙に冴えた頭で枕元のペットボトルに手を伸ばした。
「キューティーガールズニー・・・最上級のエンジョイgirlsケロ。」
現在、夜19時。コンサートのリハーサルは順調に進み、アドレナリン大放出のまま家に帰ってきた私は、さっそくそのテンションのまま本日2回目のニーに励んだわけだけれど・・・
さすがに中学生メンを・・・ってのはどうなの?と思いつつ、そういえばえりかニーの時は間接的に千聖ごめんねだったことを思い出して、自分の行動を正当化してみた。
言葉責めって素敵やん。特に、舞ちゃんみたいな真性の人で考えると、より興奮が増す。
おまけに年下、集団、野外、など、私の羞恥心を煽るシチュエーションがもりもりもりだくさんで楽しめた。
「キュフフゥ」
次は、どうしようかな。そんなことを考えながらほくそえんでいると、「早貴、ごはんできたよー!」と私を呼ぶ声が響いた。
あぁ、お母さん。こんな℃変態な娘でごめんなさい。もはや自分でも止められないのです。
そんな形式上の謝罪を頭に思い浮かべながら、私は「はぁい♪」と鼻歌交じりに返事を返して、部屋のドアを開けた。
最終更新:2011年02月11日 09:37