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――ザクッ ザクッ ザクッ


硬いものを削り取る鈍い音とともに、私の顔に冷たい飛沫が襲い掛かってくる。

「舞ちゃぁん・・・」

情けない声で一応抗議を試みるも、彼女の顔は、正面にいる私の方に向けられることはなかった。


午後2時。横浜にある瀟洒なカフェの端っこの席で、舞ちゃんはさっきから延々とイチゴカキ氷の頂点にスプーンを突き刺し続けている。無表情で。


完全に右側を向いたままになっている舞ちゃんの視線の先には、えりかちゃんと千聖。すっごく楽しそうに、メニューを見ながらにこにこしていて、ラブラブだ。いいですなぁ。



“今日えりかちゃんとちーがお泊りでデートするから、尾行する。協力して”


数時間前、舞ちゃんからこんなメールが来た。

今日はオフで、予定は特になかった。なんとなくダラダラしたい気分ではなかったから、私は舞ちゃんからのそのお誘いに、悩むことなく乗らせてもらった。・・・のはよかったんだけど。


一体どうやって聞き出したのか、舞ちゃんは待ち合わせの駅で私と合流すると、まっすぐに今いるこのカフェへ足を運んだ。そして、しばらくすると、本当に千聖とえりかちゃんが現れた、というわけだ。
舞ちゃん、恐ろしい子!数日前にテレビで見た、知人の持ち物に盗聴器をしかけてどうのこうのという恐ろしい事件を思い出したけれど、それ以上は考えないほうがいいような気がして、私は記憶にふたをした。

――ちなみに、今の今まで、今日の私たちはろくに会話もしていない。だって舞ちゃん、何か怖いんだもん。

「すみませーん、このトロピカルフラッペを・・・」
「トッ、トロピ・・・!」

えりかちゃんのオーダーを聞いた舞ちゃんは、元々大きすぎるぐらいパッチリな目をカッと見開いて、イチゴ味の氷に、さっきよりも強い攻撃をお見舞いした。塊が、私の鼻の頭に直撃する。


「ケッケッケ」
「・・・何で笑ってんの」
「いやぁ~トロピカル何とかって、カップルで食べる用の大きいやつだったなぁって思って。本当仲いいね、えりかちゃんと千聖って。そう思わないかい?舞ちゃぁん」


さっきから顔をイチゴまみれにされてるんだから、これぐらいのイジワルは許してもらいたいなあ。


「別に舞は・・・・あっ、ごめん。めっちゃ愛理の顔飛んでんじゃん。舞のカキ氷。」


やっと私の方に向き直ってくれた舞ちゃんは、拭いきれていなかった赤いシロップをおしぼりで取ってくれた。少し落ち着きを取り戻したのか、照れくさそうに笑う。


「あんな大きいの頼んだら、どうせえりかちゃん途中で食べるのやめちゃうよ。ウチおなかいっぱいだよーとかいって。そしたら千聖は一人でわしわし食べちゃうんだよ。おなか冷えちゃっても知らないんだから。」
「千聖、残った食べ物とかすっごい食べたがるもんねぇ」
「またぷくぷくしてきたら大福って呼んでやる。」


本当は、2人がひとつのものを食べてるっていうのが気にいらなすぎるだけなんだろうけど。舞ちゃんは大抵のことはちゃんと分別がつくし我慢もできるのに、千聖が絡むと本当に見境がなくなってしまう。
みんなは結構そういう舞ちゃんを心配するけれど、私は正直面白がってしまっているところもある。嫉妬、いいじゃない。これぞ青春!って感じじゃないか。とかいってw ケッケッケ


「・・・・ごめんね、今日」
「えっ」

私がそんなことをとりとめなく考えていると、急に舞ちゃんが腕を突っついてきた。


「ごめんって、何が?」
「こんなことに付き合わせちゃって。何か、一人じゃ冷静でいられない気がしたから、つい。」
「そんなの別にいいよ。私が好きでついてきたんだから。私も、あの2人がどうするのか気になってるし・・・」

――まぁ、正直私は舞ちゃんに協力しているつもりはないし、かといってえりかちゃんと千聖のことを応援しているわけでもない。
もちろん、えりかさんえりかさん言ってる千聖のことを、自分の方に振り向かせたいと思っているわけでもないけど。
私自身が千聖に対して抱いている感情は、難しくてまだよくわからない。何と言っても2回ほどそういうアレをアレしてしまった仲だから、普通の関係じゃないことは確かだけれど・・・。


もうすぐえりかちゃんは、キュートを卒業する。そのことは、もうずっとずっと前に告げられていたら、寂しいけれど動揺はしていない。もうその時期は過ぎた。
でも、千聖は・・えりかちゃんは、今、何を考えているんだろう。キュートを離れてからはどうするつもりなんだろう。そして、私は残された千聖にどう接するべきなんだろう。
お嬢様の時の千聖は、何でも抱え込んでしまうところがある。えりかちゃんの卒業が近づいている今だって、一見何にも変わっていないような顔をしているけど、その胸のうちにある本当の気持ちなんて、実際のところわからない。

だから、今後の自分の身の振り方を考えるためにも、今日の2人の行動を追跡するのは有効かもしれないと思って、こうして尾行に参加させてもらったわけで。
私にとっては、誰と誰がくっつくとかそういう話じゃなくて、千聖が一番傷つかないで笑っていられることが重要なのだと思う。
千聖が幸せならそれでいい。その幸せを運んでくれるのがえりかちゃんなのか、舞ちゃんなのか、はたまた違う誰かなのか、しっかり見極めたい。


「カキ氷、溶けちゃうよ、舞ちゃん」
「うん。・・・エヘヘ」


ズタズタになったかき氷が、やっと本来の目的どおりに舞ちゃんのお口に運ばれていくのを確認して、私も放置気味だったシフォンケーキにフォークを入れた。


「あっ、これおいふぃ。ふわふわだー」
「本当?舞のあげるから一口ちょーだい」
「どーぞどーぞ!」


お互いいろいろ考えていることは違うんだろうけれど、とりあえず甘いものを堪能して、不穏な空気は回避できそうだった。・・・できそうだったんだけれど。



「お待たせいたしましたー。トロピカルフラッペでございます」

「「すっごーい!!」」
「ん?」

少し離れた席から湧き上がる歓声に、横目で視線を送ると、ちょうど噂のトロピカルなんとかが2人のテーブルに運ばれるところだった。

大盛りの氷を彩る、虹みたいにカラフルなシロップ。てっぺんには純白のアイスクリーム。それらを引き立てるように、側面にはマンゴーとかパイナップルとかバナナとか、南国情緒ただようフルーツがたくさん盛り付けられている。
これは、甘いもの大好きなえりかちゃんと千聖にはたまらない一品だろう。

「いいねー、あれ!おいしそう」

見てる私まで、関係ないのにテンションがあがってしまう。


「えー、こんなに食べれるかなぁ。千聖氷頑張ってね!ウチはフルーツとアイス担当になるからぁ」
「まあ、ずるいわえりかさんったら。ウフフ」
千聖がえりかちゃんをデコピンする真似をして、えりかちゃんは「ヤラレター!」なんてわざとらしくのけぞる。80年代か。2人はふざけながらさっそく氷の壁面を崩して、「おいしー!」と笑いあっている。


「ふ、ふふ・・・ふふふ」
「ま、舞ちゃん落ち着いて」


「ふざけんな」の「ふ」なのか、はたまた怒りのあまり笑い出したのか。舞ちゃんの小刻みに震える手で削られた氷が、また私に攻撃をしかけてきた。


「千聖、バナナ食べる?はい、あーんして」
「あーん。・・・おいしい。えりかさんも、あーん」
「やーだ、はずかしいよ」
「もう、千聖のも食べてください?ウフフ」


馬鹿か、貴様ら。何で煽るんだYO!舞ちゃんの大きな目は比喩じゃなくこぼれ落ちそうで、可愛らしい蕾のような唇からは「ちーがえりかちゃんのバナナを食べる・・・えりかちゃんがちーのマンゴーを食べる・・・」と深読みしてはいけない言葉が念仏のようにあふれている。


「で、出ようか舞ちゃん!」

隣のカップルのドン引きな視線に耐え切れず、私は半ば引きずるように、舞ちゃんの手を掴んでレジに向かった。幸い、トロピカルなんとかに夢中の二人はこちらには気づいていないみたいだ。


「マンゴー・・・バナナ・・・」
「・・・とりあえず、出てくるまで近くで待とうよ。そこ、ベンチあるし。」
「・・・次は、中華街だから」
「え?」


ふらつく舞ちゃんを支えるようにして、通りのベンチに移動すると、舞ちゃんは据わった目で私を見た。

「次、中華街に行くから。あの2人」
「え、どうして知ってr」
「つ ぎ は 中 華 街 だ か ら」

「・・・・・・・・はい。」

私の背中を、ひんやりした汗が一筋流れ落ちた。




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