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千聖とえりかちゃんの追跡をひとまず中断した私と舞ちゃんは、のんびり買い物デートを楽しんでいた。横浜は大人っぽい洋服屋さんやアクセサリーショップが多いから、中学生じゃ少し背伸びする感じになってしまう。
結局ウインドーショッピングが中心になってしまったけれど、通りの奥のほうにあったキャラクターショップで、お揃いのメモ帳を買うことにした。


「可愛いねー、これ」
「うん、レッスンの時に使おう・・・あ」

舞ちゃんはふと顔を上げると、私の顔の斜め後ろに視線をロックオンしたまま、固まってしまった。


「ん?」

視線をそのまま辿る。そこには、千聖の好きなクマちゃんのキャラクターの特設コーナーがあった。学校の鞄にも大ぶりのマスコットをつけていて、かなりのお気に入りだったと思う。


「舞ちゃん?」
「・・・・あれ、あげたらちー喜ぶかな・・・」

ひとりごとのようにつぶやきながら見ているのは、大きなぬいぐるみ(1まんごせんえんだと!!!)だった。」


「舞、千聖の笑った顔が好きなんだけど、いじめて泣かせたり、変なことして自分の気持ちを押し付けて困らせたり、そんなんばっか。あんま詳しく言えないけど、相当ひどいことした。償うってわけじゃないけど、誠意を見せたいなぁなんて」
「んー、でもさ。」

舞ちゃんの気持ちはわかるけど、ここは1個年上で千聖を見守っている者として意見させてもらうことにした。

「きっと、あんなに大きいぬいぐるみもらったら、千聖困っちゃうと思うけどな。」
「そっか・・・じゃあなんか小物とか」
「うーん。だけど、それは果たして本当に、千聖の望んでいることなのかなぁ~?確かに、ゲキハロの頃だっけ?千聖と舞ちゃん、ケンカして変な感じになっちゃってたけど・・・もうそれは終わったんでしょ?
別に千聖は、舞ちゃんに対して気まずいとか怒ってるってことはもうないと思うんだ。むしろ、千聖のために何かしたいっていうなら、そのことをいつまでもひきずってないで、フツーを心がけるとか?そういうことのほうがいいんじゃないかなぁなんて。ケッケッケ」


「フツー・・・」

舞ちゃんは少し考え込むように黙った後、「わかった」と笑顔で答えてくれた。

「えへへ。メモ帳、買おう。」


言葉数は少なくても、舞ちゃんは豊かな表情で、私の言葉を受け取ってくれたことを表してくれる。まったく、可愛いな。ケッケッケ



「次、どこ行く?」
「んーとね・・・・・・・・・・愛理。」


お揃いの紙袋を手に、私の顔を見てご機嫌スマイル・・・だった舞ちゃんは、いきなりシリアスな顔になった。声も、1オクターブ低くなってるような気がしなくもない。


「愛理。」
「は、はぁ」
「こっち。」


舞ちゃんは超真顔で、いきなり私の手を掴んだまま走り出した。

「ちょ、ちょまって、舞ちゃん!何、何事!」

お気に入りのちょっと甲の高いミュールが脱げそうになって、私はとっさに踏ん張った。つんのめった舞ちゃんが、敵を見るような目で私を睨みつける。

「どうしたんだよぅ」
「・・・センサー」
「え?」

「ち しゃ と セ ン サ ー が 反 応 し た の」
「ええっ!そ、それは正確なの?」
「千聖は舞のなんだから、絶対あってるから」

そんな非科学的な・・・と言いたいところだけど、舞ちゃんの千聖センサーとやらは、その名前だけでかなりの説得力がある。

「落ち着いてってばー」
「絶対あってるよ!とにかく、その道をっ」


アハハッ
ウフフッ



その時、押し問答を続ける私達の耳に、聞きなれた二種類の笑い声が飛び込んできた。
メインストリートから一歩横道に逸れた細い路地から、本日散々追い掛け回したカップルが、中むつまじく手を繋いで登場する。

「ま・・・舞・・・」


「ち・・・ちしゃとおおおおおおお」
「きゃああ!?」


私が静止するより早く、舞ちゃんは低姿勢ダッシュで2人の懐に突っ込んでいった。そのまま、カエルみたいにピョーンと見事なジャンプを披露して、千聖に覆いかぶさる。

「ジャンピングだっこ・・・」


小学生だった頃、千聖がえりかちゃんを見つけるとはしゃいで飛びついていたそれを、舞ちゃんは今、千聖にやろうとしているらしい。
だけど、自分より背が低い千聖にそんな無謀な技は通用しないわけで・・・


案の定、舞ちゃんを受け止め切れなかった千聖は、舞ちゃんの勢いに押されるように、背中から地面に押し倒されてしまった。こ、こんな往来でなんて事を!


「ま、舞さ・・・痛っ・・・」

千聖は目を白黒させて戸惑っている。一方で、舞ちゃんはママとはぐれていた迷子みたいに、千聖の胸に顔を埋めたまま離れようとしない。えりかちゃんと千聖へのヤキモチが爆発して、甘えんぼう状態になってしまったらしい。


「え、えー・・・ちょっと、どうしよう・・・えー・・・」

どうしてこうなったのかわからない感じのえりかちゃんは、オロオロして私に助けを求めるような顔をした。・・・うーん、私、あんまり仕切りキャラじゃないんだけどな。どういうわけか、今日はそんな役割が多い気がする。


「舞ちゃん、千聖。とりあえず、ご飯でも行きませんか?」
「ごはん・・・」

舞ちゃんは至近距離で千聖を見つめている。ここからじゃちょっと表情は見えないけれど、「一緒に行っていい?」と伺いを立ててるみたいだ。


「ね?えりかちゃん、ご飯ご一緒してもいい?」
「う、うん・・ウチはいいけど」
「よ、よーし!じゃあみんなで中華街に出発だー!」


あぁ、こういうの、苦手なんだってば・・・。場違いな私の仕切り声(?)が、人気の少なくなってきたショッピング街に響いた。




数十分後。

「愛理、これ、美味しいわね。」


「ねー。」
「・・・・」
「・・・・・」


私の横には千聖。千聖の前には舞ちゃん。舞ちゃんの横にはえりかちゃん。
私達は今、中華街で美味しい料理に舌鼓を打っている。中華大好きな千聖はご機嫌で、私も出来たて点心を堪能して幸せ・・・なんだけど、向かいの席はまるでお通夜状態だ。


「愛理、このスープチャーハンを頼みたいわ。あと、エビチリを頼んでなかった。」
「あー、じゃあついでにこのフカヒレギョーザも頼んでくれる?」
「ええ。この大根もちというのは?どんな料理なのかしら?」


千聖は本当に屈託なく、オーダー式のバイキングを堪能している。舞ちゃんは、千聖がバンバン頼む料理をつつく程度。えりかちゃんにいたっては、手もつけていない。青ざめた顔で、千聖と舞ちゃんを交互に見比べている。
まるで、浮気現場に踏み込まれたオクサマのお相手みたいだ(でも、千聖は別にどっちとも付き合ってるわけじゃないんだっけ。)


「おいしい?千聖」
「ええ。とても。舞さんもえりかさんも、あまりお箸がすすんでいないようですけど・・」
「千聖が美味しいなら、それだけで舞もおなかいっぱいなの。」
「ひゅー。ケッケッケ」

恋愛初心者な私でも、今のはなかなか気の利いたセリフと思うのに、千聖は「あら、ウフフ」なんて言って軽く流してしまった。舞ちゃん、なかなか報われない!


「・・・ウチ、あんまりおなか減ってないんだよ。気にしないで。」

一方、えりかちゃんは少しソワソワしている。時計を見たり、ケータイを開いたり。もしかして、ホテルのチェックインの時間が迫っているのかもしれない。
多分、2人にとってのメインイベント(・・・)はホテルで過ごす時間だと思うから、その辺は抜かりなくやりたいに違いない。

「千聖。次、料理来たら、もうデザート行かない?」
「あら?私もう少し・・」
「まあまあ、腹八分目っていうじゃないかぁ(これからいっぱい汗かくんでしょ、とかいってw)ケッケッケ」
「・・・そうだよ、ちーまた大福になるよ」

どういう気まぐれか、舞ちゃんも説得に参戦してくれたから、千聖はその後デザートを5種類頼んでオーダーをストップしてくれた。
えりかちゃんが少しほっとした顔になったのは気のせいかな・・・?次は、舞ちゃんを刺激せずに2人と別れる方法を考えないと。


「・・・舞、観覧車乗りたい。4人で」

だけど、そんな私の思案を打ち砕くかのごとく、舞ちゃんは妙に通る声でそう言った。

「乗りたい。」


大事なことだから2回・・・というわけでもないだろうけど、舞ちゃんは千聖の目を見て繰り返す。
千聖はどっちでもよさそうな感じで、判断を任せるようにえりかちゃんに視線を送っている。

「あ、あのー、舞ちゃん。それなら、私と2人で・・・」
「・・・いいよ。」

えりかちゃんは私達3人に順繰りに視線を向けると、ニッと笑った。


「ここからだと結構歩くけど、食後の運動がてらってことで、いい?愛理も」
「・・・うん、いいよー」

そんなわけで、お店を出た私達は、みなとみらいの方へ向かって歩き出した。

「そっち、右ねー。信号は渡らなくていいから。」

えりかちゃんは先行くちさまいコンビに、手でメガホンを作って道を指示する。
キャッキャとはしゃいでいる2人を見る表情は、さっきとは違って落ち着いていた。

「ごめんね、邪魔して」

何となく罪悪感を感じて、私はえりかちゃんを上目遣いで伺った。

「ホテル、間に合うの?」
「愛理・・」
えりかちゃんは驚いたように目を丸くした後、いたずらっぽくニヤッと細めた。

「実は、さっきそれが気になって、食事に集中できなかったの。ウチ心配性だからさー、一個気になるともうだめで。
かなりいいホテル取ったから、キャンセルはありえないし。でも、ホテルは観覧車のすぐ近くだし、余裕で間に合いそう。こんなことなら、バイキング楽しめばよかった!」
「体力もつの?大丈夫?」
「まあ、愛理お嬢様ったら、なんてはしたないことを!」

大げさにのけぞった後、えりかちゃんは耳に顔を近づけてきた。


「じつは、すごくムラムラしてる。やばいかも」
「ええっ!」
「というわけで、観覧車の後の舞ちゃんのことはよろしくね。」

ションナ!ムセキニンナ!私は抗議の意味も含めて、ちょっと唇を尖らせた。

「・・・えりかちゃん、舞ちゃんがお泊り中止してって言ったらどうする?」
「しないよ。譲る気ないから。」
「ムラムラしてるから?」
「違うよ。いろいろ考えたけど、やっぱり、今後も千聖を譲る気がないって意味。」
「・・・・そっか。」

ハッキリとそういい切るえりかちゃんはちょっとかっこよくて、これはちょっと敵わないな、何て密かに思ってしまった。



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