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「ふンッ・・・」

鼻から漏れる息で、媚びるような色を帯びる自分の声が恥ずかしい。思わず開いた口の中に、唇でとどまっていたチョコレートが押し込まれる。クラクラするほど甘いそれは、あっというまに舌の上で溶けていく。

「おいしい?」

くっついたままのえりかさんの唇が動く。私は声を奪われたように何も言えずに、慌てて首を縦に振った。

「そう。じゃあ、もうちょっと食べよう。今のはキャラメルかな。これは何だろう」


えりかさんはテーブルの上のチョコレートに手を伸ばして、再びそれを口に運んだ。今度は少し味わうようにしてから、私の唇を親指で押し開ける。

「んぅっ・・!ぁふ・・・」


二度、三度。えりかさんは口移しで、私の口に甘い塊を運ぶ。自分のものではない吐息が、顔を掠めるのがくすぐったい。睫毛がぶつかる。握り合わせた両手の指が、痛いほどに深く食い込む。
心臓は胸を飛び出しそうなほど高鳴っているのに、唇は甘い味に包まれて蕩ける。意識が朦朧として、何も考えられなくなってきた頃、えりかさんは私の唇を舌でなぞって、顔を離した。


「・・・えり、か」
「もうなくなっちゃったからおしまいね。おいしかったね」


いつもどおりの笑顔。見た目は普段と変わらない優しいえりかさんのはずなのに、窓に映る夜景の光が反射して、綺麗な瞳が獣みたいに光っている。私は射抜かれたように、その視線から逃れることができない。



「お風呂、入るよ。おいで」

そんな私の心情を知ってか知らずか、えりかさんは力の入らない私を少し強引に立ちあがらせて肩を抱く。

「ん・・・」

すぐに、再び唇が合わさった。チョコレートの甘い香りの余韻が残る。もっと、と腕を回してせがもうとすると、えりかさんは顔を遠ざけてしまう。
バスルームまで、数歩歩く毎にキスをして、また離れる。焦らされて翻弄されて、私にはえりかさんが何を考えているのか、全くわからなかった。




「千聖。」


やっとたどり着いた洗面所で、鏡越しにえりかさんと目が合う。

「・・・ウチがあげた服、着て来てくれたんだね。」
「あ・・・はい。母も、よく似合うって言ってくれて」


それは去年の秋頃、えりかさんが私に買ってきてくれた青いチュニックブラウスだった。袖や襟が可愛らしいレースでたっぷり飾られていて、女の子らしくて可愛い1枚。
家で来ていると明日菜や弟に「姉ちゃん何オシャレしてんのーデートだデートだ!」なんてからかわれてしまって、なかなか外にまで来ていくことができなかったけれど、今日は特別だった。


「うん、似合うね。よかった。」

えりかさんも微笑んで、私の髪を撫でてくれた。でも、その笑顔はすぐにスッと潜められてしまう。


「じゃあ、脱ごうか」
「え・・・」

裾からえりかさんの手が侵入して、わき腹を撫でる。

「ま、待ってください。待って・・・」


「知らないの?服を送るっていうのは、脱がせたいっていうサインなんだって」


ホテルについてから、えりかさんは何だか別の人みたいだった。優しいけれど、どこか容赦がなくて、何事も拒むことを許さないような無言の力がある。


「怒って・・・いるんですか」

えりかさんの手が止まる。

思い当たることといえば、さっきの・・・舞さんとの、観覧車で起こった出来事。でも、えりかさんは以前私の気持ちを伝えた時、「こたえられない」と言っていた。それなら、今こういう状況とはいえ、やっぱり私の片想いであることに違いはないわけで・・・


「怒ってないよ。」

えりかさんは少し眉をしかめた。難しい顔をしている。

「でも・・・」
「すっごい、妬いてるの。舞ちゃんに。キスとかしないで、ウチの前で。他の子と」


みるみるうちに、えりかさんの両目から滴があふれ出す。ヒックヒックとしゃくりあげながら、えりかさんはそのまま、床にへたりこんでしまった。


「えりかさん」
「ごめん、何か情緒不安定気味」


どうしたらいいのかわからなくて、私は自分の胸にえりかさんの顔を押し付けるようにして抱いた。お父様やお母様に叱られた妹達は、こうすると落ち着いてくれるから。年上のえりかさんに有効なことなのかはわからないけれど・・・


「もうしない?」


「ええ」

少なくともえりかさんの前では、と付け加えようと思ったけれど、そういうことは言わないほうがいいかもと思いなおして、口を閉じた。
えりかさんのことを大好きだと思うけれど、また舞さんに迫られたら、きっと拒むことはできない。だって、えりかさんは・・・
私は、いつのまにこんなにしたたかになったんだろう。自分の変化が少しだけ寂しい気がした。

「大丈夫です。だから、千聖を脱がせてください。」
「えっ・・」

思わず口を付いて出た言葉で、えりかさんが涙目のまま「プッ」と吹き出した。

「千聖、ストレートすぎだから」
「ウフフ、本当ですね。嫌だわ、私ったら」


えりかさんの笑い声が、ダイレクトに胸に響いてきた。よかった、もう悲しい気持ちは収まったみたいだ。


「じゃあさ、脱がせっこしようか」
「脱がせ・・・いいですね、それは、楽しそう」


といってもえりかさんはキャミソールワンピにレギンスで、私はチュニックブラウスにヒッコリーパンツと軽装だから、すぐにそのイベントは終わってしまいそうだけれど。

「手、上に上げて」

えりかさんが、私の腕を袖から外す。唇が重なる。
私が、えりかさんの肩紐を落とす。またえりかさんの唇が降りてくる。


まるで、舞さんとの痕跡を消すかのように、えりかさんは何度も何度もキスを求めてくる。嫉妬されることが嬉しいなんて、私は初めて知った。



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