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メイク落とすから先に入ってて、というえりかさんに従って、私はバスルームの扉を開けた。

「まぁ・・・」

部屋同様、お風呂も2面大きなガラス張りになっていた。シャワー側にベイブリッジ、浴槽側にはさっきまで乗っていた観覧車が間近に見える。
観覧車から少し視線を落とせば、併設されている他のアトラクションも目に入る。閉演時刻を迎えてひっそり静まった遊園地を眺めていると、子供の頃遊園地から帰る時に味わった、寂しくて切ない感覚がよみがえる。

ふと、舞さんと愛理のことが頭をよぎった。2人はもう帰ったのだろうか。せっかくだから、遊園地が終わるまで一緒に遊べばよかった。ゲームコーナーでプリクラを撮ったり、迷路やジェットコースターで大騒ぎしたり。
こうしてメンバー複数でプライベートな時間を共有することは意外と少ないから、今更だけど少し名残惜しくなった。

そんな淋しい雰囲気の夜の遊園地で、観覧車の明かりだけはまだ消えていなかった。観光名所のような存在だからだろうか。支柱と真ん中のデジタル時計が煌々と輝いていて、時間ごとに電飾が変化する様子は私の心を虜にした。
昔から遊園地の煌びやかなパレードや、キラキラ光る魔法のステッキが大好きだった事もあって、こういうのはいつまででも眺めていたくなってしまう。

4階という位置だと、ちょうど光る支柱が真正面に来て、余計にうっとりしてしまう。ライトが花火のようにパッと咲いたり、様々な色が少しずつ点滅して、絵柄を作ったり。
体を洗うことも忘れてそれらに見入っていると、急に後ろから腰を掴まれた。

「きゃんっ!」
「気に入った?」
「あぅ・・・は、はい」

私は腰やわき腹の感覚が、普通より大分敏感らしい(えりかさんがそう言っていた)。触れられると力が抜けて、そのうち悲しくもないのに涙が出てきてしまう。
それを知っているから、えりかさんはいつもあんまり過度にそこに触れることはしないのに、なぜか今日は手を離してくれなかった。それどころかわざと指先で突っついて、私が体を捩じらせるのを楽しんでいるみたいだ。


「あの、えりかさん・・・」
「なぁに?体、洗おっか。おいで」


口調はあくまでも優しくて、指だけが悪戯に私を辿る。

「千聖は可愛いね」

私の体にシャワーを当てながら、えりかさんはまた唇を寄せた。こんなにキスばかりしていて、少し唇がジンジンしてきているけれど、やめられない。柔らかくて温かくて、体が溶けてしまいそうな錯覚に陥る。
今まであんまりさせてもらえなかった反動か、唇で触れ合うことが気持ちよくてたまらない。私は与えられるがままに、その感触に溺れた。

「ん・・・」

しばらくして、唇が離れる。

「あはは・・・ちょっと、一旦やめにしよっか。」
「ええ・・・」

えりかさんは「ちょっと噛んじゃった。ごめんね」と私の唇を軽く撫でてから、おもむろにボディソープを泡立てはじめた。
いつも使っているのとは違う、どこかでかいだことのある花の香りが浴室を漂う。

「すごい、泡がモコモコですね」
「ふふん、ウチ、こういうのだけは得意なんだ」

えりかさんの手つきはとても優しくて繊細で、密度の濃い泡がどんどん大きくなっていく。
仕事の時にキュートの皆さんと並んで洗顔していても、えりかさんは一番きめの細かい泡の塊を作り上げる。自分には真似の出来ないその手つきに惚れ惚れしてしまう。


「背中、向けて。」


その泡を纏った柔らかいスポンジが、うなじから両肩、背骨に沿いながら降りてくる。

「気持ちいい?」
「ええ、とても。やっぱり自分で洗うのとは、全然違いますね」

今まで、キュートの皆さんとお互いに背中を流し合った事は何度かある。
愛理はこそばゆいぐらい優しく撫でるように洗ってくれて、早貴さんは「どう?痛くない?」と何度も確認をしながら調節をしてくださっていた。舞さんは私の反応を見て、わざと悪い方向に修正をする。舞美さんは・・・・ひたすら全力、で。
えりかさんは美容に気を使っていらっしゃるからか、お優しい性格の現れか、泡だけじゃなく洗い方も力加減が絶妙。心地よくて、疲れている時はついウトウトしてしまうこともある。

ちなみに、皆さん曰く私は「最初は丁寧だけど後半飽きてるのがバレバレ」だそうで。こういうのは、性格が出てちょっと面白いと思う。

「何楽しそうに笑ってるの?ほら、終わったよ。次、前向いて」
「あ・・・え、えと、それは自分でできましゅから」

慌てるあまり、舞さんみたいな噛みかたをしてしまった。いくらなんでも体の前面を洗ってもらうことは、まず考えられない。えりかさんと、温泉で初めて洗いっこをした時ぐらいだろうか。
あの時は完全に舞い上がっていたからできたけれど、今はちょっと難しい気がする。
えりかさんとベッドで触れ合う時も、私はあんまり自分の体を見られたくない方で、大抵は電気を豆電球一つにしてもらっている。向かい合って体をじっくり見られながら洗ってもらうというのは、ハードルの高い行為だ。


「そう?それじゃ、ウチの背中もお願い」

少し残念そうに見えたのは、私の隠れた願望・・?とりあえず、私は洗面器にスポンジを沈めて、ボディソープを手にした。

「千聖、飽きないでやってよ?いっつも腰の下とか洗う時ボーッとしてるの、ウチわかってるんだから」
「あら、何のことかしら。ウフフ」


女性らしく柔らかくて、真っ白なえりかさんの背中。間違っても変な跡なんて付けたくないから、私も優しく洗えるように頑張ろうと思った。
学校の友達が持っていたファッション雑誌の、“上手なスポンジの泡立て方”を思い出しながら、両手でクシュッと泡を作る。

「失礼します」

つるんとしたえりかさんの肌にスポンジをくっつけて、細かく動かしていく。

「お加減、どうですか?」
「うん、すごいいいよ。泡、綺麗に作ったでしょ。モチモチしてる。ありがとう」
「ウフフ」

えりかさんは私の工夫やちょっとした努力を、いつも見逃さないでいてくれる。私はえりかさんのそういう優しさが大好きで、見守って認めてくれる人がいることに、安心感を覚えていた。こんな少しのことでも、それを感じられて嬉しい。


「そろそろ、お背中流しますね。」
「うん。今日は下まで飽きずに洗ってくれて、気持ちよかった。とかいってw」



それから私たちは、体の前部分を自分で洗い、髪はまた洗いっこしてから、お風呂へと移動した。

「千聖?」
「ごめんなさい、奥に行ってもいいかしら?」

はしたないと思いつつ、私はざぶざぶお湯を掻き分けて、窓際まで移動する。
目当てはさっきも見とれていた、観覧車のイルミネーション。時刻が変わったからか、今度は秒針がカラフルに回転する仕様に変化している。


無意識にため息がこぼれる。キラキラしたものを見ていると、その眩く煌く世界に、自分も取り込まれていくような錯覚を覚える。
そういえば、私はコンサートの時にお客様が持っているサイリウムやペンライトも好きで、つい口を半開きにして袖から見入ってしまって、マネージャーさんや舞さんに怒られてしまうことがよくあるなあ、とふと思った。
そんな私の嗜好を知っているえりかさんは、もしかしたら今日、私のために、この特等席のある部屋を取ってくれたのかもしれない。

「えりかさん・・・」
「ん?」

隣で一緒に観覧車を見ているえりかさんは、何でもないことみたいに、いつもどおりの笑顔で私を見つめ返してくれた。

「ありがとうございます」

伝えたい言葉がたくさんありすぎて、結局こんな短い言葉になってしまったけれど。きっと、私の気持ちは届いているはず。

「どうしたの、急に。・・・ほら、ウチのことはいいから、観覧車見てなよ。好きでしょ、こういうの」

えりかさんは背後に回ると、私のおなかに手を置いて座り、いわゆる“ラッコ抱っこ”みたいな状態になった。

「千聖、痩せたね・・・」
「あっ・・やっ・・・」
「ここ、春頃はもっとぷにぷにしてた。頑張ったんだ、ダイエット」


柔らかい指が、私のおへそを軽く引っかく。おなかの下から上までをゆっくり摩られて、体から力が抜ける。

「ぅ・・・えり・・・さん、」
「観覧車、見てなってば。」

そう言ってクスクス笑うえりかさんは、今度は胸に手を掛けた。付け根から縊りだすように強く刺激されて、甲高い声が自分の口から溢れた。


「また、おっぱい大きくなった?」
「や・・・ちが、い、ます」
「ううん、だってウチいつも触ってるからわかるよ。千聖、耳とか腰もあれだけど胸も気持ちいいんだよね。こんなおっきいのに敏感って、エッチだね」

まだ嫉妬の余韻が残っているのか、えりかさんはいつもより少しイジワルを言う。まるで舞さんみたいだ。


「何か、変な感じ」
「え・・・?」


「だって、ほら」


えりかさんの視線の先には、当たり前だけど観覧車。


「さっきまでウチら、あんなちっちゃい箱の中で、赤くなったり青くなったり大パニックになってたなんて。すっごい大事件だったのに、全部あの観覧車が一周するまでの出来事だったんだね」
「ヒ・・・ん、あっ・・!」


えりかさんの声が頭に入ってこない。胸の先端を捻るように強く触られて、首筋に歯を立てられたから。

「んん・・っ・・・」

声をあげようにも、えりかさんの指が唇を押したり摘んだり悪戯を仕掛けて、言葉にならない。こんなに激しくされるのは初めてだった。



「千聖はえりのなんだからね」



私にとっては耳慣れたその台詞が、いつもと違う人の口から発せられる。不思議な感覚。自由を奪われ細く甲高い声を漏らす私の唇は、なぜか口角が上がって、微笑むような形になっていた。



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