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「あ・・・」

着信画面に目を落とした千聖は、困惑した顔で私の様子を伺った。

「誰から?」

隣まで移動して画面を覗くと、そこには“桃ねぇちゃん”の文字。

うーん。
桃子かぁ。難しい。

もちろん、全然嫌いってわけじゃないんだけど、桃子はイマイチつかめない子だと思う。

千聖がものすごく懐いていて、舞美と仲がいい。

そのデータだけだと、2人と同じく明るくてちょいドジな体育会系のようだけれど、まったくそんな感じではない。
天然・・・じゃあないと思うけど、かといってさほど計算高いわけでもなさそう。

私と千聖がこんな関係になっているなんて知ったら、桃子はどんな反応をするんだろう。それは興味深い。
同い年つながりの佐紀だったら、「そういうのはあんまりよくないと思う」とか言いつつ根掘り葉掘りして、最終的には応援してくれそうだけれど。


「あの、そういえば、明日のレッスンは何時からか覚えていらっしゃいますか?」
「え?明日は夕方のミーティングだけだよ。・・・そんなことより、出ないの?」
「うぅ・・」


どうやら千聖は、着信が止まるまで、時間を稼ぐつもりだったらしい。でも、桃子はなかなかしつこい性分らしく、一向に着信音が鳴り止む気配はない。

「いいじゃん、出てみてよ。何か問題ある?」


「・・・わかりました」


千聖は私から若干体を離しながら、通話ボタンを押した。


「はい、もしも・・・」
“おーそーいおーそーいおーそーいー!!!もう寝ちゃったのかと思ったー!!”


スピーカーにして、とお願いするまでもない。受話部分からは、異様にテンションの高い桃子のキンキン声。少し耳を離しつつ、千聖は「ごめんなさい、出るのが遅くて」と楽しそうに目を細めた。

「桃子さん、ご自宅ですか?」
“ううん、今ねー、ちょっと遠くでお仕事。ベリーズみんなで泊まってるんだけどぉ、みんないい子だからもう寝ちゃってぇ”
“うっそ起きてるし!誰!?誰と電話?”
“ずるーい!誰誰?愛理?”
“キャー!”


いきなり受話器の向こうでドッタンバッタンが始まった。音割れに若干眉を寄せながらも、千聖はかなり楽しそうだ。

何だよー。せっかく二人っきりなのに、ウチより桃子を取るの?
自分で電話に出ろと言ったくせに、私は理不尽な嫉妬心を覚えた。


“千聖げんきー?”
“あっちょっと私にも代わって!千聖、ゆりだよー!うちとももと梨沙子以外寝ちゃったから、起きてる組でももの部屋にいるのー。でさー、この前さー、いきなり弟がねー、”
“ちょっと、くまいちょー!もぉが喋ってるんだから!”

 ――うるさい。何てハイテンションなんだ、この子たちは!せっかくいいムードだったのに、千聖はすっかり電話の方に夢中になってしまった。
スピーカーに切り替えた後はうつぶせにごろんと寝転がって、何も映っていない画面を楽しそうに眺めている。

「ウフフ。それで、私にお電話を?嬉しいわ」

“千聖は今何してるの?”
「あ・・・えと、私は・・・」

梨沙子からの問いかけに、千聖はチラッと私の方を見た。
私の心に悪魔が降りてくる。とりあえず、人差し指を唇の前で立てて“言っちゃダメ”と指示をしてみる。

「えと・・・特に、何もしてなくて・・・キャッ!」

ころんと横たわる千聖の太ももをやわやわと撫でると、ビクンと体全体で反応が返ってきた。


“千聖?”
「ご・・・ごめんなさい、犬が」


――私は犬か。


「わぅんっ♪」

千聖の上に飛び乗って、うなじにカプッと噛み付く。痕は着かないように、ゆっくり背中に沿って唇を下ろしていくと、千聖は小刻みに震えだした。

“・・・千聖、今どこにいるの?犬って?家?何かいつももっとにぎやかじゃない?”
「っん・・・・え、えと、今、家族が出かけっ・・・んぅ」


今度は腰に指を躍らせて責めてみる。私が非力とはいえ、さすがに体全体で乗っかっているとなると、体制を変えて逃げる事はできないみたいだ。涙目で見つめられるのがたまらない。


“千聖?”


「やっ・・ちが、あの、違うんです、・・うぅ」

シーツの上でぺたんこにつぶれてる胸に手を伸ばす。大分塗りこんだからか、さっきの練り香水の香りが広がる。


「だめ・・・」

鼻にかかった吐息が甘ったるくて、ますます悪戯心を煽られる。下から掬い上げるようにゆっくり揉んでいくと、柔らかくてプルンとした感触が手のひらで踊る。


“ねぇ・・・ちょっと”
「ぁんっ・・・ちがうの、今、ほ、ホテルにいるんですっ」


げっ!ち、ちしゃと!

千聖が何を言ったのかよくわからなかったのか、受話器の向こうも、一瞬静まり返る。


“・・・ホテルって、え?だってさっき家にいるって”
“何でホテル?ディズニーランド?いいなあ。シー?ランド?何乗ったの?”
「え・・・?あの、あら?でぃずにー・・」

どうしてディズニー限定なのか知らないけれど、熊井ちゃんの中でどんどん話が進んで、千聖の困惑と動揺はさらに深まる。


“やめてください”


口パクでそう告げられても、私のイタズラはまだまだ治まらない。


「んくっ・・ぅ!」


猫をあやすように、喉の皮膚を摘んでぐにぐに動かす。声帯を刺激されたせいか、思いのほか大きな声が唇をついて出て、千聖は慌てて両手で口を塞いだ。



“・・・・・・え、ちょっと待って・・・千聖、ホテルって・・まままさかラブホtあばばばばば”


中3トリオの中では早熟な梨沙子は、さっきからの千聖の挙動不審な態度や今の喘ぎ声から、ある結論に至ってしまったらしい。・・・でも、それ微妙に違うけど。

よっぽど動転してしまったのか、熊井ちゃんがテンパッた感じで梨沙子ー!?と呼びかけるのが聞こえてくる。


“あばっあばばばばbbbbb”


“千聖。ちょっと、座りなさい。一緒にいる男も”


もはや言葉にならない梨沙子に変わって、今度は桃子の声が飛び込んできた。いつもよりシリアスめな声。しかも、男って!思わずぴょんと千聖の上から飛びのいて、2人して正座する。
千聖は全裸、私はめちゃくちゃバスローブ。シュールな光景だけど、とても笑えない空気が、受話器の向こうの桃子によって作り出されている。


「あの・・・桃子さん」
“あのね、千聖。千聖は今お年頃なんだから、そりゃあ恋ぐらいすることはあると思うの。でもね、千聖はまだ中学生なの。アイドルなの。誰かの千聖じゃなくて、みんなの千聖なの。こんなことで背伸びしちゃだめ。桃ねぇの言ってる意味、わかる?”
「はぁ・・・」


さすが、嗣永プロ。思わず真剣に聞き入っていると、“あんたもだよ、千聖の隣の人!”と呼びつけられてしまった。


――うぅ、ちょっと怖い。エッチで気が大きくなっているとき以外はヘタレキングな私、梅田えりか。叱り付けられて、ちょっと泣きそうになってしまった。


“今すぐ別れなさいとは言わないけど、こういうことは真面目に考えて、真面目に向き合わなきゃだめ。ちょっと、聞いてるの?千聖の隣の人!何とか言いなさい!もぉの可愛い妹に手出して、ただで済むと思ってンの!”



「そ、そんなに怒んないでよー・・・ぐすっ」



「まぁ、えりかさん・・」

あまりの剣幕に、S仕様のえりかはどこかへ飛んでいってしまった。いつもの打たれ弱いえりかにもどった私は、ついにグスグス泣き出してしまった。


“え?は?えりかさん?え・・・何で何で何で?えりかちゃんなの?一緒にいるの”
「うぅ・・・そ、そうですぅ・・・ぐすんっ」
「一体、どうなさったの。えりかさんたら」


千聖にティッシュで顔を拭いてもらってる間に、電話の向こう側にも“えりかちゃんだってー”“なーんだ”と情報がめぐっていく。


“もう、心配したでしょ、千聖ぉ。梨沙子てっきり千聖があばばばばば”
“いいなあー、今度はうちも連れてってよー。スペースマウンテン乗った?”


とりあえず、誤解(じゃない部分も多々あるけど)が解けたところで、スピーカーのまま5人でお喋りをした。
今度はベリキュー全員で社会見学とかやろうよ!という熊井ちゃんの提案で盛り上がった後、明日早いしそろそろ寝るね、と電話を切るタイミングになった。


“じゃあまたね、千聖とえりかちゃん”
「おやすみなさい」


千聖の指が電源ボタンに触れかけた時、“あ・・・”と桃子の声が入った。



“言い忘れてたけど、二人とも。っていうかえりかちゃん。



ほ ど ほ ど に ね ”



「ほどほど?ですか?」
“じゃーねぃ♪”


まるで某舞様のように、言葉を区切ってアクセントをつけて。顔は見えないのに、私にはいつものアイドルスマイル但し目は笑ってないバージョンの桃子が、具体的に想像できたのだった。



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