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「ちしゃ・・・ちしゃと様・・・もう無理、本当に、お許しください・・・・・」
「やだ」


その後、私が何度もあっちの世界に旅立っても、千聖は攻撃の手を休めようとしなかった。相変わらず淡々と指を振動させて、たまに「グフフ」と機嫌よく笑う。
その顔は舞ちゃんとイタズラに没頭している時とあんまり変わらない。明らかに友達や仲間とすることからは逸脱したこの行為も、千聖にとっては、超ハードな遊びぐらいの認識しかないのかもしれない。


「ちさとぉお・・・苦しいよぅ」
「うへへ、声裏返ってるし!泣いてるし!」

千聖はおもむろに手を離すと、もはやピクリとも動けなくなった私の横に寝そべった。


「千聖の勝ち?」
「・・・勝ち、でいいよ。」
「ムフフ・・・」

私の胸に顔を押し付けて、千聖は赤ちゃんみたいにギュッとしがみついてくる。残念ながら抱き返す余力はないけど、楽しそうにしているのを見るのは悪い気分じゃない。


「ちょっと、くすぐったいよ」

千聖は鼻先を胸の谷間に突っ込んでムフムフ息をしている。大きめの犬がジャレついてきてるみたいだ。


「えりかの匂い、千聖のとはちょっと違うね」
「ん?」
「さっき同じ香水塗り込んだじゃん」

よっこいしょと自分のおっぱいを持ち上げて、私のと交互にクンクンする千聖。・・・これは、舞美にはできない技ですな。とかいってw

「香水って、もともとの体の匂いと混ざるからね。つける人によって変わるっていうし」
「そっかぁ」

といっても、私はそこまで違うとは思わなかったのだけれど。千聖はわりと鼻が利くから、そこらへんも敏感なんだろう。

「確かに、えりかちゃんの方がセクシーっぽい匂い。千聖は何か果物っぽい匂いだ」

感慨深そうに2つの胸を見比べた後、体をずり上げて目線の高さを合わせてきた。


「じゃあさ」
「何?」

指を絡ませて、ほっぺたを擦り付ける。千聖がこんな恋人同士みたいな甘え方をしてくることはめったにない。


「もっとくっついたら、えりかの匂いと千聖の匂いが混じって、新しい匂いになったりすのかな」
「千聖・・」
「ね、どうだろう。試したくない?」


潤んだ唇から、乾いた声。千聖はひどく興奮しているみたいだった。

「ん・・・」


思わず口づけると、もっととせがむように、首に回された手に力が篭る。触れ合う舌先や、お互いのほっぺたをくすぐるまつげの感触がたまらない。
いい加減だるくなっていたはずの体が、千聖を求めて元気を取り戻してきた。抱きしめたまま、千聖に覆いかぶさってキスを続ける。
ベッドはあくまでも柔らかくて、私と千聖の重みの分だけ沈んでしまうから、しっかり抱き合っているのに、どこか心もとない。もっと、肌の感触をしっかり感じたいのに。


そんなことを考えていると、千聖が急に耳たぶを噛んできた。


「どうしたの?」
「・・・あっちは?」
「え?」

指差す方向には、千聖お気に入りの観覧車がよく見えるソファ。


「あそこなら、もっとギュッてできるよ」
「・・・あのね、」
「だって千聖と密着したかったんでしょ?すっごい抱きついてくるから、何事かと思った。あたりでしょ?」

私の返事も待たずに、千聖は私を押しのけてパタパタと走っていった。・・・もう、子供っぽいくせに変なとこ勘がいいんだから!


「千聖もまだ観覧車見たかったから、こっちでいいよ。来て」


観覧車は相変わらず煌々と夜闇を照らしている。真ん中のデジタル時計は、もうとっくに日付が変わっていることを示していた。チェックインが21:30だったから・・・こんな長い時間、千聖と私はイチャイチャネチネチ楽しんでいたのか。

「千聖、絶倫・・・」
「んー・・・?」


生返事の千聖は、裸のまま大きな窓に体を押し付けて、夢中で見入ってるようだった。


「・・・外から見えちゃうよ。千聖の露出魔ー。」
「こーゆーいいホテルの窓は、外からは見えないようになってるんだよ。えりか知らないの?ふふん」

まるで絵にかいたような小生意気な表情で、ベーッと舌を出してきた。何て態度でしょう!私は再び千聖が観覧車に目線を戻したところで、コソ泥のごとくソーッと抜き足差し足で背後に忍び寄った。頃合を見計らって、緩やかに括れた腰をガシッと掴む。

「ひゃあああ!!?」

ウィークポイントへのいきなりの攻撃で、反射的に千聖は前に体をつんのめらせた。窓ガラスにくっついていたたゆんたゆんが余計にぷにゅっと押し付けられる。


「どうするの、見えてたら」
「ん・・・え、まさか、だってこんないい部屋」
「でも割引で入った部屋だしー、絶対に見えないなんて保証はないしー。」
「え、え、だって、だって」


フガフガしながら窓から離れようとするも、私がワンちゃんの交尾(・・・)のごとく後ろから体を押し付けているから逃れられない。

「・・・えりがぢゃあん・・・」

まあ、ここの窓が目隠しフィルムで外から見えなくしてあるのは確認済みから、こんなイタズラができるんだけど。


「さっきはよくもやってくれたね岡井君」
「あっ、もう、やだ、そこ・・・ごめんってば!」

思いっきり体を捻られて、2人して絨毯に倒れこむ。

「いてて・・」

ソファに移動しようとする私を、下から千聖が引っ張って止めた。


「ここでいいじゃん」
「地べただよ」
「どーせまたあとでお風呂入らなきゃなんないんだし。ね、もっとぎゅーってしてよ」


まるで大きな赤ちゃんだ。急に甘えたスイッチが入ったのか、まったく私から手を離そうとしない。

「もう、何でそんな甘えん坊なの」
「だって・・・」


あきらめて体に手を回して抱きしめると、待ち構えていたように体を擦り付けてくる。

「どうしたの?」
「千聖のニオイ、いっぱいつけとくの。そしたら、ずっと一緒でしょ」

私を見上げる千聖の瞳から、いきなり涙が溢れた。


「千聖、」
「・・・・本当に、いなくなっちゃうの?お嬢様のこと置いてくの?」
「千聖・・・」
「やだよ、えりか・・」


私は、気づいていたのに。
洋館に行く道のりで、お嬢様の千聖が、何かを振り切るように泣きながら坂を駆け上ったり、
明るい方に戻ってから、やたらテンション高く、いつもは嫌がる行為に積極的になったり。

千聖は溢れそうな本当の感情を必死で隠して、側にいてくれたのに。一番言いたくなかったであろう言葉を、ついに言わせてしまった。


「えりかちゃん・・・えりか・・・」


私は必死で奥歯を噛んだ。泣き虫だけど、どうしようもないヘタレだけど、今は泣いちゃいけないから。
大好きな場所から旅立つと決めたあの日と同じぐらいの勇気を湧き上がらせて、私は口を開いた。



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