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「ウチは、キュートが大好きだよ。でも、今叶えたい夢は、今のままじゃきっと叶わない。憧れだけで終わっちゃう」
「でもっ・・キュートにいたって、目指せることじゃんか・・・」
「そうかもしれないけど、大好きなキュートを言い訳にしたくないの。ウチ、ヘタレだしすぐ甘ったれるし、行き詰ったらまたみんなのところに逃げ込みたくなっちゃうと思う。
どっちもこなせるタイプの人もいるんだろうけど、ウチはきっとそういう風にはできない。
ちゃんと離れないと、自分の決心さえ揺らいじゃうぐらい、ウチにとってキュートは大きな存在なの。舞美も、なっきぃも、愛理も、千聖も、舞もいないところで、一人で踏ん張らなきゃ、意味がないんだ」


私はまくしたてるように一気に喋ると、大きく息を吐いて唇を噛んだ。
今回の件に関して、ここまで自分の意思を告げたのは初めてだった。誰と話していても、何となく、この手の話題はお互い避けていたから。
だけど、こうしてはっきり口に出した事で、改めて自分の気持ちを確認できたようにも思う。精神的にかなり弱い私が、こうして泣いて引き止められても揺るがないなら、やっぱりもう、二度と振り返ってはいけないんだろう。



「えりかちゃん」


しばらくの沈黙の後、私の手を握り締めたまま、千聖が思いの他明るい声を出した。


「よかった、ちゃんと話してくれて」



顔を上げると、ほっぺたを濡らす涙を拭おうともせず、真っ赤な目でじっと私を見ている千聖と視線が交わった。いつもみたいに、目を三日月にして笑っている。


「ちゃんと泣かないで話しきったし、偉いぞえりか!」
「もう・・何言って・・・」

おどけた調子で頭を撫でられて、思わず笑った拍子に、気が緩んでしまった。

「ごめ・・・結局泣いちゃった・・・」

笑いかけようにも、壊れた蛇口から水が溢れるみたいに涙がボトボト落ちて、手で顔を覆うのが精一杯。


「もう、しょうがないなあ」

あまりの私の惨状に苦笑して、千聖は私の顔を裸の胸に押し付けるようにして抱きしめてくれた。


「さっき、ごめんね。困らせるようなこと言って。何か急に淋しくなっちゃった。でも、大丈夫だからね。えりかが頑張るみたいに、千聖も・・・キュートも走り続けるから。何か気合い入った。」
「うん・・・」
「それに、今までよりは回数減っちゃうけど、会いたくなったらいつでも会えるでしょ?っていうか、会おうよ」


カラッとした表情で笑う千聖は、私なんかよりずっと大人びて見える。本当は胸の奥にまだいろんな気持ちを抱えているはずなのに、もうそんな素振りは微塵も見せない。


「どうしよう・・今更不安になってきた・・・ちしゃとぉ、ウチちゃんとやっていけるかな」
「大丈夫だって!舞美ちゃんも言ってたけどさ、えりかが雑誌載ったら千聖も、全部買い占めるから!感想のハガキだって書いちゃうよ!お嬢様の時にも書けばさぁ、筆跡微妙に違うから枚数稼げそうだし」


痛いくらいにバシバシ背中を叩いていた手が止まって、そっと私を抱きしめなおす。


「だから、これからも一緒に頑張ろう。えりか大好き」
「・・・それは、お嬢様と同じ意味で?」
「グフフフ。さあねー・・・ね、続きしようよ」


千聖は屈託なく笑って、私の手を引っぱった。そのままソファに仰向けに寝っ転がって、首に手を回して体を密着させてくる。

「元気だねー・・・」
「だってまだ匂い移ってないからね。ほら早くぅ」


いつのまに持ってきたのか、私のポーチに入っていたはずの練り香水は、千聖の小さい手の中に納まっていた。大きなたゆんたゆんを惜しげもなく揺らしながら、また胸に刷り込んでいく。これ、何プレイだ。

「もっとずーっとギューしてたらえりかと千聖同じ匂いになるよね?まだまだ時間あるし、・・・ちょっと、えりかちゃん?」
「・・・ゴメン、もう、限界・・・・」


さっきまでのかなり張り詰めていた空気が一変したから、安心感とともに体から力が抜けていく。

「もー、何だよぅ」
「申し訳ないです・・・ちょ、っと一眠りした・・・」
「ちょっと!千聖の上で寝るな!」

ギャーギャー喚く声も、このぐったりした体と頭を目覚めさせるパワーにはならなかったみたいだ。千聖の弾力のある肌を抱き枕みたいに体に押し付けながら、降りてきた瞼に逆らわず、私は目を閉じた。




――ゴロゴロゴロゴロ

「んー・・・?」


――バラバラバラ

「ん・・・何・・・・?」


お腹の底に響くような音が、何度も耳を打つ。どうにもうっとおしくて目を開けると、真っ白な壁が目に入った。どうやら、ベッドまで千聖が運んでくれたらしい。毛布をかけていてくれたから、体も冷えていない。


――ゴロゴロゴロゴロ

「うわっ」


突然、目の前が光ったかと思うと、またあの地鳴りのような音が響いた。雷、らしい。
時計を見ると、もう朝の10時ちょい前。だけど、曇天で外は薄暗い。


「千聖・・・?」


体を起こしてキョロキョロ見渡しても、千聖の姿が見当たらない。隣のベッドにも、ソファにも、もちろん床に転がっているということもなかった。


「ねえ、千聖・・どこ?千聖?」


私は雷は超がつくほど苦手だ。おまけに、光ってからゴロゴロ鳴るまでの間隔がどんどん狭まっている。・・・ヤバイ。一人でいるときに停電にでもなったら。考えるだけでも鳥肌が立つ。


「千聖ってば!」
「なぁに?どうかしたの」


さっきとは違う意味で半泣きになっていると、いきなり廊下から千聖がひょっこり顔を出した。体から湯気が立ち上っている。


「お風呂入ってたの。雷すごくない?」
「・・・・なんだ、いなくなっちゃったかと思った・・」
「そんなわけないじゃーん。千聖知らないホテルとか怖いもん。あんまり出歩きたくない。お風呂だって、本当はえりかと入りたかったし。でも気持ちよさそうに寝てるから・・・ていうか何で涙目?うけるー!」

うひゃひゃと笑いながら、千聖は私の座っているベッドの横に腰を下ろした。

「ずっと起きてたの?」
「ううん。えりかのことベッドまで引きずって、隣で寝てたんだけど、何か朝早く目が覚めちゃったから、テレビ見てた」
「そう・・・うわっ!」

また、部屋に閃光。体をすくめると、千聖は小首をかしげた。


「そんなに雷怖いの?」
「怖いよ。普通女の子は怖がるんだよ。岡井少年はそうでもないかもしれないけど」


喋ってる間にも、雷の音はどんどん近づいてくる。雨も、窓ガラスを叩くような勢いで降っている。・・うぅ、怖い!
図体の大きい私が体を丸めてるのがツボに入ったのか、千聖は相変わらず楽しそうだけれど。


「・・・これね、多分千聖が降らせたの」
「え?何それ?」
「やらずの雨って知らない?国語の授業で習ったんだけど。千聖の地区だけなのかな」

ヤラズ?やらず・・・はて。
授業中は上の空なことが非常に多かったから、正直全く記憶にない。頭を捻っていたら、千聖が説明を続けてくれた。

「あのね、好きな人のことを“まだ帰らないでー”って引き止めるために、どしゃぶりの雨を降らせるの。そしたら、雨がやむまでは、一緒にいられるでしょ?」

「千聖・・・・」
「千聖が降らせたの」

得意げに二度繰り返すと、千聖はおもむろにベッドの上に立ち上がって、毛布ごと覆いかぶさってきた。

「こうやってお布団被ってれば、光っても怖くないよ。・・・ね、もうちょっと一緒にいよう?雨が止んだら出ようよ。まだチェックアウトの時間じゃないよね?」
「・・・だね。もしお昼まで雨ひどかったら、パパ呼んで迎えに来てもらおう。そんで、ミーティングまでうちでまったりしようよ」
「うへへ。千聖がえりか独り占めだ」

それから私たちは、夜の続きと言わんばかりに、イチャイチャベタベタしながらチェックアウトまでの時間を過ごした。
そして、予想以上に千聖の“やらずの雨”は気合いが入っていたらしく、結局パパを呼ぶことになってしまった。


「・・・・あ」
「ん?どうかした?」


お迎えの車の中で、千聖はきまり悪そうに私の顔をうかがってきた。

「気になるから言ってよ」
「いやー・・・あのさ、結局ベッド1台しか使ってないじゃん?使ってない側のベッド、パリッとしてたら怪しまれないかな?とか思ったんだけど」
「・・・・大、丈、夫。だよ。ベッド、大きかったから二人で寝ました的な」
「あー・・・まぁ、そうだよね。うん、大丈夫だよね!キュートのみんなだって、一つのベッドに2人で寝ることとかよくあるし!」
「うん。まあ、多分」

とはいえ、キュートの常識は外では通用しない事も多々あるから、若干不安は残るところだけど。

「・・・次は、千聖がえりかにホテルおごってあげるからね」
「えっ」
「あっ違うよ!やらしいホテルじゃないよ!普通の今日みたいなモゴモゴ」

それはわかってる!私はパパの手前、慌てて千聖の口を手でガッと塞いだ。


「次があるって、期待してていいの?」
「・・・言ったじゃん、えりかはこれからもキュートの仲間なんだから、会いたいときに会うんだって。お嬢様の千聖もそうしたがってるはず」

千聖はちょっと大人びた顔で笑って、私の肩に頭を乗せてきた。


「・・・昨日、今日って、えりかちゃんと2人っきりで過ごせてよかった」
「まだ、今日終わってないから。うちでまったりするんでしょ?」
「そうだ、まったり。だらだらしようぜ、えりか!」
「そこ、テンション上がるとこじゃないから」

なんていうか、たった2日間の出来事とは思えないほど、ものすごく中身のぎっしりした時間だった。横浜散策も面白かったし、ちゃんと自分の考えてる事を話せたのも良かった。
――それに、アッチの方もかなり大満足。お嬢様は貞淑かつ淫らで、こっちの千聖はほらあれだよ元気っ子が色気づいてグヒョヒョヒョ


「・・・えりかちゃん、だけどさ、今日あとで舞ちゃんに何か聞かれたら、全部えりかちゃんが答えてよ。千聖は怖いからチョットムリデース」
「えっ!ウチだって無理だよ!」
「じゃあ、千聖寝たりないからえりかんち着くまでお休みー」

エロ顔で昨日の反芻をしていたのがバレたのか、千聖は思いっきり舌を出して、そっぽを向いて寝始めてしまった。


――いやいや、舞様だけでも釜茹で火あぶり石抱きといった拷問プランが容易に思いつくけど、千聖にはさらに桃子様という恐ろしいバックも控えてるわけで。桃子様は精神責めとか得意そうなわけで。
待て待て、千聖ラブという観点からすれば、なっきぃ様とかも十分危険領域に入るお方なわけで。


「うぅ・・・ちしゃとぉ・・・・・」


卒業前とはいえ、私に対して遠慮や無駄な気遣いなんて一切しないであろうそのメンツの顔を思い浮かべて、冷や汗が噴き出した。
数時間後にその予感がある意味本物になるとも知らず、私はなすすべもなくキリキリと痛む胃を撫でつけながら、微笑んで眠りこける千聖の手をギュッと握りしめたのだった。



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