放課後になり時間まで図書室で過ごした後、普段とは違う道を歩く。
そういえば平日に一人でこの道を歩くのって久し振りかも。寮に入ってからは皆と一緒が
当たり前だったから。
指定のコンビニでチケット代と手数料を払い外に出ると珍しい(?)人達に会った。

「あれ? なかさきちゃん?」
「えっ? あ、友理奈ちゃんと菅谷…さん?」
「へー、珍しいね。なかさきちゃんがコンビニから出てくるの」
「あ、お嬢様から昨日お願い事されてね。チケットを」
「「チケット?!」」
「あ、うん。お嬢様が好きなアイドルグループ…でいいのかな? そのグループが
公演中の劇が見たいって。C-uteっていうんだけど…」
「あーあー。うち、そのグループ知ってる! C-uteでしょ!」
「へー、なんかちょっと意外。まぁ、私はBerrys工房の方が好きだけど」
「もー。梨沙子はすぐそうやってさ、お嬢様に対してツンな態度とるんだから」
「別にとってないし。っていうかツンって何?」

マジレス得意の友理奈ちゃんと真面目そうな菅谷さん。
このままだと私そっちのけで口喧嘩が始まりそうだったので早々に帰る事にした。

「キュフフ。じゃあ、私はお嬢様の所に寄るから」
「あ、じゃあね。なかさきちゃん。だいたい梨沙子はさぁ…」
「あ、さようなら。そういう熊井ちゃんだって…」

予想通りに軽い口喧嘩になりつつある二人の会話。
あの後、話が逸れるに逸れて嗣永さんへの愚痴に発展したとかしなかったとか。

二人と別れお屋敷に着いた私はお嬢様に朝同様に袖を引っ張られて中に入ると封筒から
電話番号の書かれた紙を取り出し電話を掛けた。
若干いつもより上擦った声ながら奥様にお礼の言葉を述べる事が出来たのは私の中で
上々の出来だろう。
電話を代わったお嬢様はというと普段以上の子供らしさで学校の事、寮生である私達の事、
劇をすごく楽しみにしている事を話している。

「ではお母様、そろそろ。はい、はい。ええ、また掛けますね」

受話器を置き一息吐くお嬢様。そしてすぐに満面の笑みを私に向けてくれた。

「なっきぃ。本当にどうもありがとう!」
「いえ。お礼を言うのは私の方ですよ。ここまでして頂いて」
「そんな事ないわ。なっきぃが私のお願いを聞いてくれたから」
「最近…本当に最近なんですけどお嬢様はもっと普通と呼ばれる事をしてもいいのかなって
思うようになって」
「なっきぃ?」
「キュフフ、土曜日が楽しみですね。10時頃にお迎えに行きますから」
「え、ええ。楽しみにしてるわね」

少し強引に会話を終わらせて私はお屋敷をあとにした。
言うつもりはなかったんだけどなぁ。でも奥様と話されるお嬢様があまりにも楽しそうに
見えたから。
空を見上げると一際明るく輝いて見える星があった。その星にそっと言葉を伝える。

「ほんと楽しみだね。千聖」



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最終更新:2011年02月16日 20:54