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小粒のラメが入ったグロスに、クリアマスカラ。コーラルピンクのチークをポンポンと乗せて、下瞼にはうっすらアイライン。

「よしっ」

鏡の前で格闘すること40分。仕上げに巻き髪用のヘアスプレーをシュッと吹きかけて、私はクルッと一回転した。

「か・ん・ぺ・き。とかいってwイヒヒ」

スカートは膝上7センチ。気持ち大きめのカーディガンの下のリボンはちゃんと結んで。

私はももみたいに、制服の改造はしない。
前は憧れの夏焼先輩の着こなしを真似したりもしていたんだけど、岡井さん&愛理と廊下で喋っている時、たまたま通りかかった夏焼先輩ご本人に「菅谷さんは、綺麗に着た方が似合うよ」って、アドバイスしてもらったから(なんとメアド交換まで!)。


「おかーさーん、行ってきまーす!」


ローファーをつっかけて玄関を出れば、天気は快晴。それでいて暑すぎず、初秋のピクニックにでも出かけたいような気候だ。


「もんきだーんす、にっぽんゆけゆけぇ~」

駅までの道のりを、鼻歌まじりにスキップしながら歩く。若干引き気味に様子を見てくる小学生の登校班に、手を振る余裕まである。

最近の私はちょっと気合が入っている。なぜって、夏焼先輩のメアドゲットはもちろん、なんと、なんと!昨日、後輩からお手紙をもらっちゃった!しかも3通も!


私は委員会も部活もやっていないから、合同授業やホームルーム以外では、ほとんど後輩と絡みがない。なのに、「憧れてます!」なんて言ってもらえたら、そりゃあいつも以上に身なりに気を使ってしまう。
愛理の話だと、岡井さんも結構手紙とかもらうらしい。いつもいっぱいペンを持っているから、今日はそれを借りて、一緒にお返事を書く約束もしている。


いいことが続くと、自然とテンションが上がってしまうもの。いつもの登校時間より1つ早めのバスに乗りこんで、林道までの景色を、すがすがしい気持ちで眺めた。いい一日になりそうだ、と思った。・・・・・思っていた、のだけれど。


「げっ・・・」


緑に囲まれた小道を抜け、校門の前の光景を目にした私は、ピタリと足を止めた。


「風紀チェック・・・・」


有名なお店の行列のごとく、生徒が一列に並ばされている。最前からは委員長さんのキャンキャン声聞こえてくる。唇を尖らせながら、制服のお直しをしている派手目な生徒もそこかしこに見られる。・・・若干胃が痛くなってきた。


多分、私は別に問題はないはず。梅田先輩にやってもらった何ヶ月か前のチェックの時も、これと言って注意は受けなかった。でも、検問やチェックって、無条件に緊張しちゃうものだ。
警察の人とすれ違うときに、何にも悪くないのに挙動不審になっちゃうあの感じと一緒。

今回はいつもより厳しめにやっているらしく、校門の前に6,7人並んでいる風紀委員の個別チェックを受けなければ入れないみたいだ。
私は軽くため息をつくと、フォーク並びの列の一番後ろに並んだ。


「ちょっとー!!つ・ぐ・な・が・サン!!!」
「おっ」


前方で聞きなれた名前をキャッチして列の横から顔を出すと、ちょうど我が軍の総隊長が、風紀委員長に捕まっているところだった。


「えぇ~、見逃してくださいよぅ」

ボーダーのオーバーニーソックスに包まれた足をくねくねさせながら、ももはお得意のぶりっこポーズで切り抜けようとしている。


「イヒヒヒ」

そんなことしたって、明らかに無駄なのに。案の定、委員長さんはもものリアクションは無視して「なんですか、これ!!」と黒レースをつけた超ミニスカートと、明らかに制服のとは違うピンクのリボンを指差して絶叫した。


「もうっ、元の制服の名残がどこにもないじゃないですか!せめてリボンぐらい、今日中に購買で買ってください!」
「そんな殺生なぁ~。ウフフ」
「もう、嗣永さんの真似する中等部の子とか出てきて大変なんですからね!小もぉ軍団とか名乗ってたかしらあの子達!」
「えぇ~何それ嬉しいですぅ」
「違うでしょ!もう、とりあえず直せるとこ直して出直してこーい!」


「イヒヒヒ、もも、ダメダメじゃーん。・・・あ、ヤバッ」

ちぇー、と唇を尖らせながら最後尾に並びなおすももを横目で見送って、再び前に向き直ると、もう私の前は5人ぐらいしかいなかった。
ちゃんとボタンを上までするとか、ネクタイをしっかり締めるとか、普通の人ならその場で済む程度の注意しかされないから、それほど時間がかかるものじゃない。前に並んでる人たちも特に問題なく検問を突破していく。

――梅田先輩に当たりますように。それがダメなら、年下の子とか顔見知りとか!もものおかげ様で頭に血が上っている“あの御方”と、今は対峙したくなかった。


「次の人、こちらにどうぞー」

あぁ、私の前の人が、梅田先輩に呼ばれてしまった。恨めしくその後ろ姿を見送っていると、「次の方ー、どうぞ!」と右側からお声がかかった。・・・・・予感、的中。委員長様だ。


「お、おはようございますー・・・」

私は漫画に出てくる“上司にコビコビなサラリーマン”のごとく、両手を胸の前で組みながら、上目遣いで媚び媚びスマイルを繰り出してみた。


「・・・あー、菅谷さん。おはようございまーす」


もぉ軍団構成員ということで、キーッと怒られちゃうかと思いきや、委員長さんは目をパチパチさせつつ笑ってくれた。
お手本のようにキッチリ着こなした制服。毎度のことながら感心してしまう。
委員長さんは高等部になってから、トレードマークのサイドテールはやめたらしい。さらさらストレートの髪を垂らして、前髪を上げたヘアスタイルは、童顔な委員長さんを少し大人っぽくみせて、よく似合っていた。
――キーッってならなければこんなに可愛いのに、この人。


「キュフフ。リボンよし、カーディガン・・・少し大きいけどよし、スカート・・・ちょっと短いけどまあいいでしょう。はい、中に入ってください!次はブレザーも着てくるようにね?」
「はーい、どうも・・・」
「まったく、菅谷さんはこんなにちゃんとしてるのに、嗣永さんと友理奈ちゃんといったら!もう!」
「はぁ・・」

確かに羽目は外していないけど、私は特別真面目なわけでもないのに。“もぉ軍団”というカテゴリーで見れば、超いい子みたいな扱いになるんだろうか。嬉しいんだか悲しいんだか、よくわからない・・・。


「あの、熊井ちゃんも、今朝委員長さんに尋問・・・じゃなくて、チェックしてもらったんですか?」
「うん、そうだよ。さっき嗣永さんもね。嗣永さんは毎度のことだからもう半分仕方ないと思ってるけど・・・友理奈ちゃんはもう、本当に、何でもすぐ影響されちゃうんだから!何なのあのメイクは!宝塚か!スカートはワカメちゃんみたいになってるし!だいたいね・・・」
「あ、わ、わかりましたー!それじゃ、私急ぐんで!」

こっわ!委員長さんの目がだんだん吊り上ってきたから、私はひとまず退散することにした。


「あれ?」


昇降口で慌しく靴を脱いで、階段を駆け上ると、廊下の端っこの方に、岡井さんがボーッと立っているのが見えた。

「何やってるんだろう」

一人でいるなんて、珍しい。いつもお取り巻きさんとか、寮の人や生徒会メンバーがそばにいるのに。心なしか、ふてくされたような顔をしている。何かあったのかな。


「岡・・」


声をかけようと足を踏み出すと、奥の方の階段から、「お嬢様、お待たせ!」と声がした。


あの後ろ姿は、熊井ちゃんだ。


「あら、大きい熊さん。あの、あれは・・・」
「あ、大丈夫です。ほら、このとおり」
「ウフフ。早く・・・、ね」
「ですねー。じゃああとで、・・・場所は・・・」


何の話をしているんだろう。私の位置からじゃ、2人の会話は断片的にしか聞こえてこない。

そのまま観察を続けていると、2人の横を通り過ぎる人たちは、一瞬チラッと目を向けて、「!?」って感じの顔をして、足早に通り過ぎていっている。何だ何だ、気になるじゃん!


そのうち予鈴が鳴ってしまって、熊井ちゃんが岡井さんに何かのファイルを渡して2人はバイバイしてしまった。岡井さんはそのまま教室に入ってしまったので、私は慌てて奥の階段まで走って、「熊井ちゃん!」と呼びかけてみた。



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