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連れられるがまま、私も岡井さんのお屋敷へお邪魔する事になってしまった。

それにしても、本当にびっくりした。あのメイドさん、“千聖”って呼んでなかった?お仕えしている家のお嬢様のこと呼び捨てとか、ちょっとありえないでしょ。それに、寮のみんなだって、岡井さん争奪論争って・・・


「大体ね、栞菜は添い寝してるだけのくせに何で千聖の恋人気取りなわけ?舞の方がずっと千聖のこと知ってるんだから!ここ1ヶ月千聖が食べた物とか全部言える?舞は言えるけど?ふふん」
「あらあら舞ちゃん?どうして添い寝してる“だけ”だなんて言い切れるの?私とお嬢様は閉ざされた扉の奥、火照った肉体を子猫のように寄り添わせ、やがて心も体も重ねあい、その豊かな乳同士が」
「あっ・・・有原ァ!旦那様に掛け合って添い寝係クビにしてやるケロ!そして代わりになっきぃが就任するケロ!」
「・・・今日から深夜の見回り5分おきにやったほうがよさそうだね。むしろ私が夜通し千聖の部屋で過ごせばいいのか」


お屋敷の玄関に着いてもまだ、前を歩く4人は耳を塞ぎたくなるような痛い争いを繰り広げている。入り口からしてだだっ広いお家だから、その声が内部にまですっごい反響している。
こんなに騒いでいたら、怖そうなボディガードさんたちがやってきて、つまみ出されそう・・・。そんな妄想で冷や汗が背中を伝う。


「あ・・・あのー・・・もう少し声を抑えたほうが・・・」

一応、一般常識として、恐る恐る注意してみる。全員の視線が私に向けられた。


「あばばばば!ゴ、ゴメンなさ・・」

「・・・そうだね。りーちゃんの言うとおりだ」
「さすがあのもぉ軍団のマザーシップケロ!」
「気が利いて巨乳な美少女・・・・じゅるり。」
「おっしゃるとおりです。ご無礼大変失礼いたしました。お嬢様のご学友でいらっしゃるんですか?聡明そうなお顔だちでいらっしゃいますね。オホホ」

「え?え??」

一斉に責められるのかと思いきや、4人は口々に私をほめだした。有原さんはヘンタイ。メイドさんは二重人格。

「私も梨沙子が親友で鼻が高いなぁ~ケッケッケ」
「うんうん、菅谷さんはいい子だねー」
「あばばばばば」

愛理や梅田先輩まで加わって、生暖かい空気に包まれる。なに、この“菅谷梨沙子褒め称え会”みたいな雰囲気!

「キュフフ。菅谷さんがいるなら、友理奈ちゃんやお嬢様を説得するのも結構簡単かもしれないね!」
「何っ!あの痴女とお知り合いでいらっしゃるんですか!だったら早くあれをお嬢様から引き離しなさいよでございます!」
「・・・あんまり、期待しないでもらえると嬉しいです」


広い廊下をキョロキョロしながら歩いて、まずはダイニングルームに通された。

「では、お菓子をご用意いたしますので、私はこれで」

さっきまでの鬼の形相なんてなかったかのように、メイドさんはにっこり笑って、深々と頭を下げて出て行った。・・・何というか、ある意味某軍団長と似たような、見事なキャラの使い分けっぷりだ。


「岡井さん、お部屋にいるんですか?」
隣に座った梅田先輩に聞いてみると、「そうだよー」と返ってきた。

「熊井さんといろいろ研究するんだって。いつのまにあんなに仲良くなったんだろうね?」
「あは・・・そうですね。私もびっくりです」

岡井さんは自由な熊井ちゃんに憧れる、と言っていたけれど、今何をしているのか全く想像もつかない。まあでも、こうしてみんなを呼び出したぐらいだし、そう待たなくてもそのうち出てくるだろう。


「お待たせしました、今日は苺のタルトでございます」
「うわー、美味しそう!」

さっきのメイドさんが、銀のワゴンをガラガラ引きながら戻ってきた。そこで私は、とりあえず岡井さんのことは頭の片隅に追いやって、お嬢様のおやつを堪能させてもらうことにした。


数十分後。

「・・・遅い」

腕時計を15秒毎に確認している舞ちゃんが、眉間の皺を深くしてつぶやいた。

「そうだねー、まだお披露目してくれないのかな」

梅田先輩と愛理は目がトロンとして眠そうだし、生徒会長さんは退屈そうで、「走ってきてもいい?」と言って委員長さんに怒られてる。
さっきまで舞ちゃんと有原さんは岡井さんへのキモ・・・じゃなくて愛に満ちた論争に明け暮れていたけど、
生憎その有原さんは、お嬢様の様子を見てくると行ってダイニングルームから去ってしまっていた。話し相手のいなくなった舞ちゃんは、
余計にイライラが募っているらしい。高速貧乏揺すりが怖すぎる。

「・・・追い返されたかんな。キーッ!」
しばらくすると、有原さんが悔しそうにハンカチを噛みながら戻ってきた。

「・・・やっぱりここは舞が行かなきゃ」
「いや、多分舞ちゃんでもダメ。寮生とめぐぅは立ち入り禁止って言われた。・・・ということで」

「・・・・・私!?」

さっきみたいに、また私に全員の熱い視線が注がれる。寮生、以心伝心すぎ!

「寮生来ちゃダメって言ってるなら、りーちゃんしかいないよ」
「でもでも」

正直、テンションの上がっているときの熊井ちゃんはかなり厄介だ。岡井さんだって結構ガンコ者なのは最近わかってきたし、私でどうこうできるような問題じゃないような・・・

「お願い!菅谷さん!地球の平和を守れるのはおめえしかいねえんだ!」
「頑張れりーちゃん!お前がナンバーワンだ!」
「・・・・わかった。ちょっと行ってみる。でもあんま期待しないでね」
「本当に?ありがとー!」

一応、団長不在のもぉ軍団で、団員の不祥事(?)があってはいけないし、ここまでヒートアップしている人たちから逃れられるはずがないから、しぶしぶながら応じることにした。

委員長さんと愛理に連れられて、3階の奥まで誘導される。2人の足は、他のドアより若干明るい色の扉の前で止まった。ここが、岡井さんの部屋か。中から楽しげな笑い声が聞こえる。
上手くやってるみたいで安心したけど、委員長さん的にはちょっと不本意らしい。ほっぺがピクピク引きつっている。

「じゃあ、菅谷さん。ちょっと声をかけてみてくれる?」
「え?私がですか?」
「多分、寮生じゃドアも開けてくれないと思うし。梨沙子頼むよぅ」

――仕方ない。いとしの愛理からのお願いでもあるんだから、ここは一つ。

「・・・お、岡井さぁーん」

緊張で声が裏返る。私の声は届いたみたいで、部屋の中から漏れていたおしゃべりの声がピタッと止んだ。


「岡井さぁーん。熊井ちゃーん。・・・梨沙子だけどぉ」

“まあ、すぎゃさんも千聖のおうちに来てくださったの?”
「うん、ごめんね勝手にお邪魔して」
“いいのよ。今開けるから、待ってて”
“梨沙子来てるの?チョベリグじゃん!”


は?チョベリ?何だっけそれ。どっかで聞いた事がある気が・・・


“すぎゃさん、待ってね。今・・・”


パタパタと足音が聞こえたかと思ったら、おもむろにドアが全開になった。


「・・・・・・・岡井、さん?」
「ウフフ」


えー、と。これは、一体。


小麦色の肌を、さらに濃い色のファンデーションでこげ茶色にした岡井さんは、目の下に修正液のような真っ白なラインを引いて、その上に星とかハートのラインストーンをいっぱいくっつけている。
熊井ちゃんほどではないけれど、スカートは大変短くなっているし、この、なんだっけ、バカみたいな靴下。ルーズソックス?


「梨沙子ー。ねえねえ、仲間に入らない?」
「あばばばば」


奥から顔を出した熊井ちゃんなんて、岡井さんと同じようなメイクに白いカラコンまで入れているから、黒目がちっちゃいちっちゃい。もはやホラーだ。私は思わず腰を抜かしてしまった。


「梨沙子、どしたのー?大丈夫?」
「ち、近寄るでねぇ!」


――知ってる、これ。かなり昔、テレビで見た事ある。ほら、あの、名前が・・・

「・・・ヤマンバギャル?」

「ひぎいいいい!!!!!」


ワンテンポ遅れて、絹どころかダンボールを裂くような悲鳴が響き渡った。振り向かなくても、誰の声だかわかる。


「おじょじょじょ、おじょじょ、おじょ、」
「あら、なっきぃと愛理もいたのね!チョベリバだわ!」
「おじょじょ、く、熊井!よくもおじょじょじょ」


怒りと混乱でおじょおじょ言ってる委員長さんに、言葉を失って立ち尽くす愛理。熊井ちゃんと岡井さんの変身っぷりは、私たちの想像の斜め遥か上を行っていた。


「すぎゃさん、こちらにいらして。」
「お、お嬢様!だめです!」
「ダメなのはなっきぃよ!後でちゃんと行くから、愛理と食堂で待っていてちょうだい!」


岡井さんは真っ白に塗った唇からベーッと舌を出して、意外なほど強い力で私を部屋へ引きずり込んだ。


「お嬢様あああああ」

委員長さんの声がドアで遮られる。一体、どうなっちゃうんだ、私・・・・。



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