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「お嬢様、ハンカチは持ちましたか?お財布は何かあった時のために2つ持っているといいですよ。はいこれ、なっきぃのをお貸しします。あと、電車に乗るときはこのカードをかざして・・・」
「もう、なっきぃ。舞が一緒にいるんだから、そんなに心配しなくていいのに」

寮の玄関の前、千聖の持ち物検査に勤しむなっきぃを見て、思わず苦笑してしまった。

「舞ちゃんたら、そんなこと言って!備えあれば憂いなしっていうでしょ?お嬢様が困ってしまわれることなんて、万に一つもあっちゃだめなの!」
「ウフフ。なっきぃは心配性なのね。」
「お嬢様ぁ・・・私がお供したかったよぅ・・・」



舞と、普通の遊びを経験してみたい。

1週間程前、千聖は急にそんなことを言い出した。

新聞部事件以来、これと言って大きなケンカもなかった私と千聖は、まったり淡々と日々を過ごしていた。
私たちは、授業中と千聖の生徒会のお手伝いの時以外はほとんど一緒にいる。授業の合間の休み時間でさえ、階段を上がって千聖を迎えに行ったりする。りーちゃんや愛理と一緒にいても、千聖は私の姿を見つけると、すぐ仲間に入れてくれる。
学校から帰ってからもベッタリは変わらない。
寮のみんなはお手伝いのローテーションを組んでるけど、私はそういうの関係なくお屋敷に通っている。自分で言うのもなんだけど、千聖は私が部屋に行くと本当に嬉しそうな顔をする。もはや夫婦状態だと思う。まあ、添い寝係は栞菜が死守してるけど・・・・。


そんな状態だから、毎日平和で楽しいけれど変化がない。何せずっと顔を合わせているから、そうそう目新しい話題も特にない。それで、千聖は外に刺激を求めたんだと思う。

千聖はのびのび自由に生きているように見えて、実は制限がかなり多い。
自由に行動していいのは、お屋敷の中と敷地内にある庭、寮の中だけ。ギリギリで林道はOKだっけ。外出は家長代理の執事さんかメイド頭さん、あるいはボディーガードさんがついていなきゃだめ。登下校は寮生が何人かついている場合に限り、徒歩でもいい。
あとは、薬とか化粧品は、千聖パパの会社のじゃなきゃ基本使っちゃダメ(これはしかたないか)。寮生以外に親しい友達が出来たら、どんな子なのか報告する(もぉ軍団、アウトー)。

私だけじゃなく、いろんな人と親しくなるに連れて、千聖はだんだん“フツウのこと”に強い興味を持つようになってきた。
どうやら都会っ子な栞菜が添い寝の時にいろんなことを吹き込んでいるらしく、私にまで“駅びるというのは、どんな建物なのかしら?”とか“げーむせんたーは、オセロや将棋よりも面白いゲームがあるって本当?”とか頻繁に聞いてくる。

まったく、栞菜の奴め。添い寝係やってる件だって気に食わないのに、あんまり私の千聖の興味を勝手に引かないでほしいものだ。大体、プロレスだってちさまいの専売特許だったのに・・・


閑話休題。


そんなわけで、千聖の願いを叶えるべく、私はとりあえず家長代理の執事さんとメイド頭さんを落とすことにした。
2人とも、千聖のことは小さな頃から面倒を見ているから、私の話術“あんなに小さな赤ちゃんだった千聖がすくすく成長し、自我が芽生えた!これは素敵な事だと思いませんか!”作戦であっさり陥落。
もはや敵なしと思っていたら、今度は鬼軍曹やなっきぃが血相変えて阻止しようとしてきた。心配性すぎな2人は強敵で、交渉は3日間に及んだ。そして頭の中にプ●ジェクトXのテーマが流れるぐらい頑張った結果、やっとデート許可を勝ち取り、今に至る。


「大丈夫だって。そんなに遅くならないで戻るから。あんま遠くには行かないし、ちゃんとマメにメールするから。千聖の社会見学だと思って、舞に任せてよ。ね?舞美ちゃんだってついてきてくれるんだし」
「どーんとまかせな!とか言ってw・・・ウッ、ゴホゴホ」
「みぃたぁん・・・」

自分で自分の胸をドーンと叩いて咳き込む舞美ちゃんを、なっきぃは不安そうな顔で見つめた。


そう、今日のデートにはいろいろ条件がある。

一、 電車で15分以上かかる場所に行くべからず
一、 予定表を作成し、±15分以内で行動すること。最終的に門限に間に合うように調節すること
一、 移動の際、寮生の誰かにメールを送ること
一、 お目付け役として、高校生以上の寮生が同行すること
一、 門限は6時!早まってもいいけど、1秒でも遅れたらお尻ペンペンです!



なっきぃたちの掲げたそのプランは、正直ちょっと厳しすぎる点もあったけれど、初の試みならこの辺で妥協しなければいけない。

そんなわけで年上組のみんなはもちろん、愛理もデートについてきたがったけれど、厳正なくじ引きの結果、舞美ちゃんが本日の保護者役に決定したのだった。

「じゃあ、そろそろバスの時間だから。いってきまーす!」
「あぁ、私の千聖お嬢様ハぁン!戻られたらお話聞かせてくださいねっ!ふ!た!り!き!りの!ベ!ッ!ド!の!中で!」
「ええい、おだまりかんちゃん!」

は!か!た!の!塩!のリズムでわめく栞菜に、なっきぃのクロスチョップが炸裂するのを見届けて、3人並んで寮の門をくぐった。


「いやあー、ちょっと、楽しみじゃない?3人きりで出かけるなんて久しぶりだぁ」
もう、私と千聖のデートだっていうのに、舞美ちゃんは真ん中を陣取って、一番楽しそうににこにこしている。娘とお出かけするパパみたいなテンションだ。まだ普通にいつもの林道を歩いてるだけなのに、デジカメで私や千聖の写真を撮りまくっている。


「お姉ちゃん、荷物多すぎじゃない?登山みたい」
「まあ、本当ね。何かお持ちしましょうか?」

舞美ちゃんが背負っているのは、ゴツイ系の男物のリュック。もちろん中身もパンパン。

「お嬢様、ありがとう!でもお気遣いなく。舞やお嬢様が不自由しないように、いろいろ準備してきただけだから」

寒くなってきた時用の上着に、もしもの時の着替え用の服(何が起こるっていうんだ!)、非常食用のバナナやみかん、それとは別に三時のおやつ。たいくつな時用に、なぞなぞの本まで用意してくれたらしい。


「もー、張り切りすぎだから!」
「ウフフ、舞美さんは何事も全力なのね」

いつものモサフリワンピをなびかせスキップする舞美ちゃんに、私と千聖もつられて笑う。他のみんなには悪いけど、今日の監査役が舞美ちゃんでよかった、何てひそかに思ってしまった。


「あっ生徒会長・・・おはようございます。」
「こんにちはー」
「ち、千聖様!あの、ごごごきげんよう」
「ごきげんよう、部活動ですか?お励みください」


休日とはいえ部活があるのか、林道では制服姿の生徒とそこかしこですれ違う。みんな舞美ちゃんと千聖にぺこぺこしてるのがちょっと面白い。
舞美ちゃんが超フリフリピンクワンピで、千聖は白いふわふわのファーワンピ、私がギャルっぽいニットにミニスカート(えりかちゃんに選んでもらった!)
で、見事に全員系統が違うから、私たちを見比べて、不思議そうに小首を傾げる人もいた。ふふん、好みは違っても仲良しだからこれでいいんだよん。

「天気がいいからねー、テニス部とかソフト部の子たち、いい汗流せそうでうらやましいな!いっそ、2駅ぐらい歩いちゃいます?とかいってw」
「そうね、舞美さんは雨と仲良しでいらっしゃるから、快晴とははご縁が遠いですものね。とかいって。ウフフ」


2人の他愛無いおしゃべりを耳に、しばらくのんびり歩いていると、林道の出口に、バスが停まっているのが見えた。

「あっ、バス来てる!舞もお嬢様も急いで!あれ乗りたい!」

さすが陸上部。舞美ちゃんはモサワンピも登山リュックもものともせず、動くものを見つけた時の犬みたいに、前傾姿勢で走り出した。

「舞美さん、待って!」

陸上仲間の千聖もつられて2、3歩ダッシュしかかったところで、くるっと私の方を振り返った。

「舞。」
「・・・うん。アリガト」


何も言わずに、当たり前みたいに手を差し伸べてくれるのが嬉しい。だから私も、当然のような顔でその手を握って、引っ張られるようにして走りだす。今日は素敵な1日になりそうだ。



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