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「はい、舞とお嬢様こっち向いてー。・・・・かーわいーいなー!もう!とか言ってw」
「ウフフ。舞美さんたら、そんなに撮ったらはずかしいわ。ね、舞?」
「もう、しょうがないなあ」

お姉ちゃん、バスの中でバッテリー切れちゃうんじゃない?と私は心の中で突っ込んだ。

「今日は撮影していいとこいっぱい巡るんだから、ほどほどにしてよね」

千聖は初めての友達とのお出かけにわくわくして、まるで散歩中のワンちゃんみたいになっているし、舞美ちゃんはお目付け役のはずが、どういうわけか今のところ一番はしゃいでいる。私がしっかりしないと、とても予定通りになんて動けなさそうな感じだ。

「舞、まずはどこに行くのだったかしら?」

舞美ちゃんからもらったキャンディを口の中でコロコロ転がしながら、私が見ているなっきぃお手製のデートのしおりを覗き込んでくる。いつものバニラの香りじゃなくて、今日は柑橘系のコロンを使っているみたいだ。・・・誕生日に私があげたやつ。

「ふふん」
「なぁに?」
「別に」


“これは、とても大事なコロンだから、大切な日にだけつけるのよ”

なかなか使ってくれないから、ちょっとムッときて問い詰めた時、千聖は笑ってそう言ってくれた。そのことを思い出したら、ニヤニヤしてしまった。そっか、今日は大切な日なんだ。態度に出すのはちょっと恥ずかしいから、すかした感じにしてみたけど、正直とっても嬉しい。


「今日はまず、午前中にスケート行くんでしょ?それで、午後は・・・」
「あーっ!」

お姉ちゃんの大声に反応して、指差す方向へ視線を向ける。

「やばっ・・!」
バスは私達の降りるはずだった停留所から、どんどん遠ざかっていた。・・・油断していた。千聖にデレデレしていたから、バスのアナウンスなんて全然気にもしていなかった。

「もうっ、お姉ちゃん何で止めてくれないの!」
「えっ!ごめんごめん、カメラの履歴見てたんだ」

理不尽だとは思うけど、私はついつい当り散らしてしまった。こういう自分の性格は大人気なくて嫌だけど、子供っぽくしていい相手だと思うと、どうもこんな態度をとってしまう。

「まあ・・・千聖たちがお伝えしないと、停留所に止まっていただけないのね。運転手さんにお願いして、このあたりで降ろしていただく?」
「・・・そんなこと、できるわけないでしょ。まあ、次で降りればいいから。スケートの時間少し短くなるけど、仕方ないんだからね」
「それは構わないけれど・・舞ったら、どうしてそんなに怒っているの?」
「ふんっ」


――キューッフッフッフ、だからデートなんてまだ早いっていったケロ!これからは寮生全員で外出に変更ケロ♪
――予定が守れなかったお嬢様に夜通しお仕置きするかんな。舞ちゃんは鬼軍曹の方へお行き!じゅるり


脳内栞菜となっきぃが、世にも憎たらしい顔で挑発してきた。井戸端会議みたいに、肩を寄せてヒソヒソやってるえりかちゃんと愛理付き。

もう、2人とも、舞がどれだけ苦労してこの日を勝ち取ったかわかってないんだから!この舞様(自分で言っちた)が、なっきぃに高級みかんの賄賂まで贈ったんだから!ちなみに栞菜は舞のクラスの美少女の写真で手を打った。
そんなわけで、負けず嫌いな私は、今日のデートが失敗だなんて絶対に誰にも思われたくないんだ。それで、こんな些細な失敗に、神経質になってしまっているんだと思う。

「舞、機嫌直してよー。せっかくのお嬢様とのお出かけだよ?」
「舞ったら、停留所1つ分歩くのが嫌なのかしら?それなら、タクシーに乗る?」

本当は、別にもうそんなに怒ってるわけじゃない。
千聖はびっくりするぐらい世の中のことを何も知らないし、お姉ちゃんはスーパーど天然だし、だったら私がしっかりしていればいいだけのこと。2人とも普段から危なっかしいんだから、ある意味いつもどおりにしていればそれでいい。

でも、私はとにかく謝ることが苦手だった。一度怒ってしまった手前、どんな顔して機嫌を直したらいいのかわからなくなってしまう。
寮のみんなはなんだかんだ言っても大人だから、そもそも私とケンカになることはない。
唯一たまにちっちゃいケンカになる千聖だって、少し時間を置けばお互い何も言わなくても自然に仲直りできた。
こんな風に一方的に怒った時の引き際って、一体どうやって・・・


――♪♪♪

「んっ」

ふいに、鞄の中のケータイが軽快な電子音を鳴らした。ごそごそ探って画面を見ると、そこに“鬼軍曹”の文字。(本当にこう登録してましゅ)


件名:まだまだおこたまでしゅねー♪とかいってw
本文:どーせハイパーへそ曲げタイムなんでしょ?深呼吸→一言ゴメンでいいんだよん
追伸 お礼は駅ビルのタピオカジュースでいいよん。ハブアナイスデイ♪


――なん、だと・・・?

ガラガラに空いているバスの車内に、鬼軍曹の姿は見当たらない。完全な当て勘で、私のキレるタイミングを読んだということか。・・・本当、あの人優秀すぎじゃね?学校行かないで、お手伝いさんやってることが不思議だ。


「ねえ、舞・・・」
「ごめん!ちょっといじけてた。今日は楽しくやろうっ」

超怒りっぽいし私にだけ厳しいところもあるけど、鬼軍曹は物事の本質を見抜く力があるように思う。だから、素直に従って、お姉ちゃんの呼びかけにかぶせるようにして、勢いで謝ってみる。

「・・ウフフ。舞、もうバスが着くから降りましょう?遅れを取り戻すために、ランニングもいいわね」
「ではでは2人の仲直りのショットを1枚っ」

2人は私の性格なんてお見通しだったらしい。謝ったことなんて全然なかったかのように、いつもどおりすんなり私を受け入れてくれた。嬉しくて、ちょっとだけはずかしい。


「一番変な味のタピオカジュースにしてやろっと。ふふん」

早々軍曹へのお礼なんぞを考えながら、私は千聖の手を握ったまま、バスの席を立った。



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