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それからしばらくの間、私は千聖と2人でスケートを楽しんだ。つきっきり指導の賜物か、よろよろ滑るのが精一杯だった私も、どうにかフツウぐらいの速度を出せるようになってきた。

そういえば、こんなふうに誰かと外でガッツリ遊ぶのって、結構久しぶりだ。平日は学校と寮と往復で終わってしまうし、休みの日も、出かけるとしてもせいぜい駅ビル。
遅くなると千聖のところに行けなくなるし、最低限の買い物をしたらすぐに出ちゃう。
考えてみたら、大好きな寮のみんなと、大好きな千聖がそばにいるから、お屋敷と寮の敷地外にでる理由ってほとんどないのかもしれない。


「舞、だいぶ上達したわね。うらやましいわ、舞は何でも飲み込みが早いのね」
「ふふん。でも、千聖だって基礎能力がすっごい高いことたくさんあるじゃん。運動とか。勉強もさ、できないって思ってるだけで、地頭はいいんだから。もったいないよ」
「あら。今日の舞は優しいのね。いつもは千聖のこと、ばーかばーかって言うくせに。ウフフ」

あぁ、もう可愛いったら!とても年上になんて見えないその笑顔に、つられて私もにやにやしてしまった。何となく目が合って、はにかんで微笑みあう。何これ、超いいムード。


「ねえ、ちさ・・・」


「おーい、舞!千聖お嬢様―!!遅くなってごめんねー!」


――お姉ちゃん、空気読んでつかあさい。


舞美ちゃんは、スケート靴のまま器用に走り寄ってきた。汗を乾かしていたはずなのに、さっそくもう白いおでこに水滴が滲んできている。


「ごめんごめん、休憩所にクラスの友達が何人かで来てて、何か話し込んじゃった」
「あら、素敵な偶然ですね」
「ここ、駅からも学校からも近いですから。まだ会ってないだけで、他にも知り合いの子とかいたりして」


ももちゃんやすぎゃさんがいたら面白いのに、何て言いながら千聖は微笑む。・・・・いけないいけない、ガキじゃないんだから、くだらない嫉妬心は抑えないと。
千聖に仲良しさんがいるのはいいことじゃないか。

「・・・それはそうと、そろそろお昼にしませんか?私さっきからお腹の虫が鳴いて鳴いて」

そう言ってお姉ちゃんが軽くおなかを撫でると、タイミングよくグーッとおマヌケな音が漏れた。つられるように、私と千聖のおなかもキュルキュルと音を立てる。

「あはっ、意見が合ったみたいだね。よーし、もうすぐ休憩所が混んできちゃう時間だから、急ごう!」

舞美ちゃんは私と千聖の真ん中に分け入って、二人の肩をガシッと抱いた。

「・・・ラグビーじゃないんだから」

そのままのっしのっしと人を掻き分け休憩所に行くと、運良く4人席が空いていた。手早く椅子に座って、無事確保完了。

「ここにしよう!お嬢様、よろしいですか?」
「ええ、もちろん。でも、ちょっと待っててね、私、荷物を取りに行って来るわ」
「ちょっとー、お昼の後でもいいじゃん。ちさ・・・」
「まあまあ、いいじゃないか。お嬢様はきっとすぐ戻るよ。私とここで待ってよう」

相変わらずご機嫌なおねえちゃんは、また無意味にデジカメを取り出して、飽きもせず私の顔を撮影する。

「ふっふっふ」
「もう、何だよー」
「だって今日の舞、本当に嬉しそう。お嬢様とデートできるの、楽しみにしてたもんね」

ちっちゃい子をあやすようにほっぺをつつかれる。
千聖といる時の私のキャラ崩壊っぷりはみんなにネタにされちゃうぐらいひどいから、こんな風にからかわれるのはよくあることだけど、改めてしみじみ言われるとさすがに恥ずかしい。

「別に、千聖とはいつでも一緒だし。今日だけ特別楽しみってことはないけど」

はい、嘘。だけど私は強がる事でワンクッション置かないと、なかなか素直に話ができない。

「またまたそんなこと言ってー。・・・・・私ね、舞」

ふいに、お姉ちゃんは声のトーンを落とした。ちょっと真面目に話したいときの、お姉ちゃんの癖。私もつられて背筋が伸びる。

「私、舞とお嬢様が仲良くしてるの見るの、すっごく好きなの。お互いに大好きだーって気持ちをぶつけ合ってるみたいで、素敵な関係だと思う。」
「うん」
「だからね、ほら、去年・・・・舞とお嬢様の仲ががこじれちゃったことがあったでしょ。何か、すっごく怖かったの」

あー。そんなこともあったっけね。

私は久しぶりに、にっくき新聞部(元)部長の顔を頭に思い浮かべた。ここんとこずっと平和だったから、そんな人のことなんてもうすっかり忘れていたけど、
改めてあの事件について考えてみると、ムカムカが蘇ってくる。
大体、私結局あの人に直接謝ってもらってないんだけど!なんなの!

「・・・でもね、あのことがあってから、舞もお嬢様も成長したなって思うんだ。」
「成長・・・」
「うまく言えないけど、前よりも自立した上でラブラブっていうか。そんな2人を間近で見る権利を独占できて、今日の私は幸せだよ!とかいってw」
「うん」

私は黙ってお姉ちゃんに抱きついた。普段はある意味私よりずっと頼りないところもあるのに、こうしてちゃんと私と千聖のことを見ていてくれて、本当に嬉しい。

「・・・アリガト」

小声でつぶやくと、お姉ちゃんは黙って頭を撫でてくれた。こういう時からかったりしてこないから、お姉ちゃんには遠慮なく甘えられる。

「まだまだ今日は楽しもうね、舞。笑顔の写真いっぱい撮らせてね!」
「でも、一応言っておくけど、今日はあくまでも私と千聖のデートなんだからね。千聖と必要以上にイチャイチャしないでよ、絶対!」
「あら、なんのお話?千聖がどうしたのかしら」

嫉妬の鬼、萩原舞。とりあえず念のためお姉ちゃんに釘をさしていると、早足で千聖が戻ってきた。

「えーん、お嬢様ー。舞がいじめるんですよー」
「まあ、舞ったら。罰として、お昼ご飯はおあずけにしようかしら。ウフフ」

千聖はそう言って、ピンクの巾着袋をテーブルの上に置いた。中から取り出されたのは、小さな1段式のお重箱。
ふたを開けると、いろんなパンで作ったサンドイッチがぎっしり詰まっていた。

「「えーっ!」」

お姉ちゃんと私、声を合わせてびっくりしてしまった。確かに今日はちょっとバッグが大きいなとは思ってたけど・・・

「これ、作ってきたの?」
「ええ。私、今日のお出かけがあまりにも楽しみで、朝早く目が覚めてしまったの。それで、お弁当を用意しようかと思って。
栞菜も起きてくれたから、2人でえりかさんのお部屋に行って、いろいろ教えていただきながら作ったのよ。
たしか、なっきぃの予定表では、お弁当はスケート場の売店で買うことになっていたけれど、このぐらいの予定変更なら大丈夫よね?」
「当たり前ですよっお嬢様!もしなっきぃが文句でも言ったら、その時は私がヘッドロックでもかけて仕留めますから!」

――お姉ちゃん、知らないの?それはなっきぃにとってはご褒美なんだよ。

「ウフフ、それは安心ね。では、どうぞ召し上がって。舞、どれが食べたいかしら?舞?」
「んーん」

どうしよう、千聖の顔をまともに見えない。黙って口を閉じてないと、本当に顔がありえないくらい弛緩してしまいそうだった。あーヤバイ、超嬉しいんですけど。

千聖は私とは正反対で、ちっちゃなことでもすぐ笑顔になってくれるから、実際私とのデートをどのくらい楽しみにしていたのか、正直あんまりよくわからなかった。
だけど、今日1日を楽しいものにするために、こんなにいっぱいお弁当作ってくれて。重かっただろうに、何でもないような顔してお屋敷から持ち歩いてくれて。
楽しみにしてくれていた気持ちを推し測っていた自分が、ちょっと恥ずかしい。

「舞?」

「・・・これ、食べさせて」

だから、今は思いっきり甘えさせてもらうことにした。ツナとトマトのサンドイッチを千聖に手渡して、大きく口を開けてみせる。

「あら、舞ったら甘えんぼうね」

私たちが食べさせあいっこをしてる横で、舞美ちゃんも嬉しそうにパンを口に運んでいる。
「おいしい?」
「はい、とってもおいしいです!特にこの、フランスパンにハムとチーズが挟まってるやつ!もうおいしすぎてさっきからこればっかり食べてます!」
「ちょっと、お姉ちゃん!舞まだそれ食べてない!残しといてよねっ」

お姉ちゃんの言うとおり、お世辞抜きに千聖の作ったサンドイッチは美味しかった。もちろんえりかちゃん監修というのも大きいだろうけど、千聖は大雑把な性格の割りに、案外料理が上手い。
次々に手が伸びて、あっという間に残り3つとなってしまった。

――ああ、超平和。超幸せ。このままゆったりまったりした雰囲気で、一日過ごせたらいいのに。

「お嬢様、舞、私最後にこれ食べたいんだけど、いいかな?」

舞美ちゃんは野菜サラダサンドを指差した。私はさっき千聖に食べさせてもらったから、いいよ、とうなずいた。

「あら、それは自信作なのよ。ウフフ、どうぞ。気に入っていただけてよかった。私はフルーツサンドが食べたいわ。舞、どうかしら?」
「うん、いいよ」

となると、私はこのローストビーフとレタスのやつか。・・・なんかこれ、よくわかんないけど、すっごく美味しそうなんだけど、禍々しいオーラが漂っている。
ほら、推理小説とかでよくあるじゃん。特に理由はないけど、嫌な予感がして手をつけなかった食べ物に、毒が盛られていた、とか。そういう感覚に近い気がする。このサンドイッチ・・・何?

「んー、やっぱりおいふぃー!」
「ウフフフ、それは、ゴマドレッシングとマヨネーズを和えて・・・」

2人が楽しそうに話している横で、私は難しい顔してサンドイッチとにらめっこ。


「舞、どうしたのー?食べないのー?おいしいのに、お嬢様サンド」


うぐぐ!普段はにぶちんなくせに、お姉ちゃんは静止状態の私にすぐ気がついてしまった。

「食べないなら私が・・・」
「待って!食べないなんて言ってないじゃん!」

依然食欲旺盛なご様子の舞美ちゃんの手から逃れるごとく、サンドイッチを上に掲げて回避する。そのまま口に運ぼうとする一歩手前、ふと思い立ってパンをめくってみる。


「うーわっ」

バジルソースか、西洋ワサビか。そこには緑色の液体で、“Chisato is mine forever big bust”とか書かれていた。

「あぁ、それは栞菜が作ったのよ。そういえば、できたら舞に食べてほしいって言ってたかしら。特別なおまじないをかけてあるとか」
「・・・あっそ」

――危なかった、こんなもん何にも知らずに食べてたら、体内から侵食されるところだった。

「食べないの?」

相変わらずお姉ちゃんは、えさを前にした大型犬だ。とりあえず半分に割って、ビッグバストとか超ムカツクことが書いてある方を渡してあげた。
よし、これで私が請け負う呪いは半分だ。


「何がmineだ、こんにゃろ!舞のだよ!舞の!」

味は普通に美味しいところがまた腹立たしい。禍々しい呪術を噛み潰すつもりで、私はバリッと音を立たせながらサンドイッチを口に押し込んでいった。



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