※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



昼食を取った後、リンクでもう一滑り楽しんだ私たちは、なっきぃ達との約束どおり、予定の時間を守ってスケート場を後にした。
キッズリンクで何かトラブルがあったらしく、どこかで聞いたような声でキーキー騒ぐのが聞こえてきたけど、なんとなくスルーして出てきてしまった。
舞美ちゃんの友達みたいに、たまたま学校の子が来ていたのかもしれない。なんにせよ、それほど気にするほどのことじゃないと思った。

次の行き先への移動手段は、バスで駅まで戻って、電車で2駅。

目的の駅に着くなり、千聖はすばやく改札を通り抜けて、満面の笑みで私達に手招きをした。つられるように、お姉ちゃんまで走り出す。


「舞、舞来て!早く!こっちよ!舞美さんも!」
「早く!舞!」
「ちょっとー、そんな焦らなくたっていいでしょー」

もう、子供じゃないんだから。

早足で2人に追いついて、家族連れやカップルがワラワラしている券売機売り場に並ぶ。


「楽しみだわ。私、日本の動物園は初めてなの。ここは小さな動物なら触れるのよね?」
「私も久しぶりですよ、動物園!何から見ましょう?パンフレットもらってきますね」


そう、ここは、隣の市の動物園。
千聖の第一希望は遊園地だったんだけど、寮からじゃ少し遠いのと、なっきぃがムンクの叫びみたいな顔で延々とジェットコースター事故の事例について語りだしたため、第二希望の動物園に落ち着くことになった。
そんなに大きな動物園じゃないけれど、結構珍しい動物がいるのと、小動物のふれあいコーナーがあるから、今日も結構にぎわっているみたいだ。

「舞、舞、見て!れっさーぱんだがいるみたい!コアラも!かぴばらというのは、愛理がスクールバッグにつけているキャラクターよね?写真を撮っていって差し上げましょう!」

舞美ちゃんから受け取った園内地図を見ながら、千聖はちっちゃい子みたいにはしゃいで、列の先にある入場口を背伸びしながら一生懸命覗きこんでいる。もう、はしゃぎすぎ!

意外に早く列は進んで、すぐに私達がチケットを買う番になった。

「中学生3人と、高校生1枚です。」

あんまり買い物をしたことがないという千聖が、緊張した声でそう告げて、窓口のお姉さんからチケットを受け取る。それをお姉ちゃんがデジカメで撮影。いちいち恥ずかしいんですけど・・・

「こっち、早く!」

右手にチケット、左手に私の手を握って、千聖は目を輝かせてゲートをくぐった。

野鳥ゾーン、草食動物ゾーン、霊長類ゾーンと次々順路通りに巡って行く。
千聖はどの動物にも関心を示して、体を乗り出してはあわててお姉ちゃんに引っ張られるというお嬢様らしからぬ行動に出た。そんなに動物大好きだったなんて。
これだけずっと一緒にいて、知らないことなんてもうほとんどないと思っていたけれど、今日は意外な一面をたくさん見れてうれしい。


「舞、見て!レッサーパンダが来たわ!千聖たちの方を見ているんじゃないかしら?舞美さん、写真を撮ってください!」
「そんなにはしゃいだら逃げちゃうって。もう、しょうがないなあ」

今日はさりげなく腕を絡めたり、腰に手を回しても嫌がられない。それどころじゃないぐらいはしゃいでるんだろう。こんなの、栞菜に見られたら超嫉妬されるんだろうな。っていうか、むしろ見せ付けてやりたいんだけど。


「お嬢様、レッサーパンダ綺麗に撮れましたよ!ほらっ!」
「ありがとう、舞美さん。では、次のゾーンに行きましょうか。次は・・・」
「・・・猛獣コーナー」


ここで、反射的に私の足がピタッと止まった。


「舞?」
「うーむ」


さっきの、栞菜の呪術サンドイッチを手にした時みたいな感覚。本能の警告。虫の知らせ。何か・・・・行かないほうがいい気がする。

「どうかした?舞。まだまだ見るとこあるよ?疲れちゃった?」
「・・・・ううん、大丈夫。行こう」

だけど私は、結局先に進むことにした。千聖はこのゾーンの動物も見たがっていたし、せっかくのこの楽しい空気を壊したくない。
お姉ちゃんも千聖もいることだし、この変な胸騒ぎの原因も、そのうち収まるだろう。そう考えて、千聖の手首を掴んで先を目指した。


「・・・・・」
「・・・・・」


はい、いきなりエネミー登場。

ライオンコーナーの前にいた女の子三人組が、千聖と舞美ちゃんがはしゃぐ声を耳にして、こちらに振り返った。・・・新聞部、だった。

「あれー?千奈美だぁ」
「おー!舞美!・・・と、お嬢様・・・・と・・・・萩原、さん・・・」

お姉ちゃんが声をかけたのは、トクナガさんという人。ショートパンツから伸びた長い足がまぶしい。かなり明るい人っていうイメージだけど、今は私と千聖を見比べて、ちょっと気まずそうな顔をしている。・・・ま、当たり前だよね。

「お嬢様、ごきげんよう」
「あら、雅さん。ごきげんよう。奇遇ですね、今日は新聞部の皆さんと?」

千聖は、夏焼さんという美人な2年生とお喋り。前にももちゃんとりーちゃん、夏焼さんと千聖でお昼ご飯を食べたって話を聞いたことがあるし、そこそこ仲がいいのはまあいいでしょう。問題は・・・


「・・・・・・・・・・お久しぶり、萩原さん。本日はお日柄もよく、お乳もでっかく・・・なかったわね。あなたは。おっほっほっほ」

―-おめぇもだろ。


値踏みするようにじろじろ眺めてくるのは、私の天敵、新聞部の元部長。棒読み且つまったく笑っていない目で、乾いた笑いを口に乗せる。
この人はもう卒業したし、二度と会うことなんてないと思ったのに。まさか、こんなところで出会うとは。この、晴れのデートの日に!


「・・・・ええ、本当にその節はとーーーーーーーーーってもお世話になりまして。まあまあ、猛獣コーナーですって?元部長さんにぴったりなコーナーでございますわね。おっほっほっほ。ごらんなさいな、あのグリズリー。まるで元部長さんの生き写しのようですわね」
「あらあら、その言葉、リボンでもつけてそっくりそのままお返ししますわ。このタスマニアンデビルが。」
「黙れボルネオサイ」
「霊長類コーナーから逃げ出してきたマウンテンゴリラの癖に」
「・・・・」
「・・・・」


まさに一触即発。「舞と元部長さんは、仲良しなのね」なんて千聖の間抜けな感想が耳を通過する。どこが仲良しだ、コラ!


「・・・とにかく、今日は大事な日なんだから、邪魔しないでよねっ」
「はぁ?別につけてたわけじゃないんだけど。新聞部の福利厚生で来てただけだし。何?それとも記事にしてほしいって・・・ん?」

眉を吊り上げる元部長が声を荒げていると、そのバッグから音楽が鳴った。

「・・・?」

ケータイを取り出した元部長は、無言で首を傾げると、「・・・ちょっと離れるわ」なんて言ってきびすを返してどこかへ行ってしまった。


「これのどこが福利厚生なわけ?」

中途半端に行き場をなくした怒りを、残された新聞部2人にぶつけると、苦笑いとともに「でも悪い人じゃないんだよ」なんて定型文のような返事が返ってきた。そんなの、納得できるか!



***裏デートツアー***

「・・・・・・なんで私のアドレスなんて知ってるわけ?」
「びびびびびじんのアドレスはいろいろいろなほうほうでにゅにゅにゅにゅうしゅしてるかんな」
「はぁ?・・・まあ、いいけど別に」

グリズリーもとい元新聞部の部長さんは、値踏みするように私と栞菜を交互に見比べて、舌打ちをした。・・・梅田、チビりそう。誰がどう見ても超絶不機嫌な顔。なまじ美人だけに恐ろしすぎる。さすがの変態栞菜も、私の背後に隠れてしまった。

予想外のことが起こったのは、めぐがトイレに行ってしまって、私と栞菜だけで追跡を続けていた時のことだった。
なんと、新聞部とお嬢様ご一行が鉢合わせになってしまったのだ。
舞美と徳永さん、千聖とみやは至って平和な空気だったけれど、舞ちゃんと元部長さんは、ものすごい勢いでぶつかっている。
どうしよう、せっかくのデートなのに・・・去年のあの中傷記事のことが頭をよぎった。

そんな風にまごまごしているうちに、いつの間にか栞菜が元部長さんをメールで呼び出した(どうやってアドレス・・・)
「私は十分頑張ったからあとはえりかちゃんよろしくだかんな!」とかムチャブリをされて、今、こうして元部長さんと対峙している、というわけだ。


「・・・で?」
「は、はいっ」
「何か用があるんでしょ?早くしてほしいんだけど」

そりゃあ、いきなりメールで「はじめまして。裏手の熊小屋の前まで来てください」なんて言われて、微妙に知っているけど決していい関係じゃない面子が待ち構えていたら、不機嫌にもなるだろう。
あぁ、せめてめぐぅが戻ってきてくれれば・・・!でもこれ以上待たせるのは火に油を注ぐようなものだとわかっていたから、私は思い切って口を開いた。


「あ、あの!お願いです、どうか今日のことは記事にしないでください!」
「はぁ?」

一瞥されるだけで、コンクリートにひざをついてしまいそうになる。ヘタレな自分が情けない。でも、怖いんだもん!


「今日は、お嬢様も舞ちゃんも本当に楽しみにしていた日なんです!2人にとって大切な日なんです!だから、お願いします!」


「お願いします!もう2人をそっとしておいてあげてください!」

後ろにいたはずの栞菜も私の横に並んで、2人して頭を下げる。お嬢様が表情を失うほど傷ついて打ちのめされる姿も、舞ちゃんが苦しみながらお嬢様を傷つけて去ろうとする姿も、もう二度と見たくなかった。
自分の足がガクガク震えているのが目に入る。それでも今は、引き下がるわけには行かなかった。


「・・・・あのさ」

沈黙は、頭の上から降ってきた声で破られた。恐る恐る顔を上げる。

「別に、私はもう卒業生だし。OGだからって、現役の記事に口出しするほど空気読めないわけじゃないんだけど。・・まあ、仕方ないか。あれだけのことやったら、そりゃあ警戒もするよね」
「え・・・」

罵詈雑言を覚悟していたのに、目が合った元部長さんは唇の片側を吊り上げて、自嘲交じりに笑っていた。

「あ・・・あの」
「一応、雅と千奈美にもそこら辺は言っておくから。もう用事終わったでしょ?それじゃ」
「あ・・・あの!舞ちゃんにも謝っ」
「はあ?」
「ひぎぃ!なななんでもないです!」

猛獣コーナーへ戻っていく後姿を姿を見送って、私と栞菜はヘナヘナと座り込んだ。


「フフフフ・・・」
「ヘヘヘ・・・・」

ボロボロ涙をこぼす、えりかんな泣き虫シスターズ。超怖かった・・・・・でも、2人を守れた・・!安心感でいつまでも涙が止まらない。

「うわっキモッ!何笑いながら泣いてんの!」

一足遅く戻ってきためぐぅを置いてけぼりにして、私達はその後たっぷり10分泣き続けた。



TOP