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新聞部の元部長は5分ぐらいですぐに戻ってきて、意味ありげに私を一瞥してニヤリと笑うと、トクナガさんと夏焼さんを連れてどこかへ去っていってしまった。・・・何か、ムカツク。


「何なのあの態度。あれが迷惑をかけた人間に対する・・・」
「まあまあ、いいじゃないか。ほら、おみやげコーナーあるよ?寮のみんなの分、買って行こう」
「そうね。おそろいのストラップはどうかしら?ぬいぐるみは場所を取るから・・・」
「ちょ、ちょっとぉ」

憤る私のテンションとは全然違って、2人はのほほんとした表情で、売店の方へ歩いていった。

――何だよ、これじゃ私がただのキレやすいガキ(あってるけど)みたいじゃんか。

あんなヒドい記事書かれて、人間関係壊されそうになったっていうのに、それでいいの?本当に。

「舞、いらっしゃい。一緒にお土産を見ましょう」
「ふんっ」

大人気ないってわかってるけど、私は近くにあったベンチに座りこんだ。こんな釈然としない気分のまま、みんなへのおみやげなんて選びたくなかった。

「舞」

千聖は目線でお姉ちゃんに先に行ってるよう促すと、私の横に座った。

「ウフフ。舞、そんな顔をしないで」
「だって・・・」

千聖はわかっている。私が何を考えているのか、いつもちゃんと理解してくれる。普段は子供っぽいくせに、私が拗ねればまるでママみたいに優しく包んでくれる。・・・何ていうか、人間として器が大きいと思う。
そうやって私の心を癒してくれるのは嬉しい事だけれど、反面、自分がちっぽけなに思えて悲しくもある。自分のことながら、私ってなかなか面倒くさい人間だ。


「千聖はさ、さっき別にどうも思わなかったのかもしれないけど・・」


少し愚痴を言わせてもらおうと、唇を尖らせて喋り始める。

「どうも思わなかった、ということはないわ」
「えっ・・・」

でも、私の声は、以外に強い口調の千聖に遮られた。ちょっと難しい顔をしている。先を促すように黙ると、千聖はまた言葉を紡ぎだした。

「忘れたわけではないのよ、その・・・去年の、あのこと」

膝の上で品良く揃えられた手に、力が篭る。嫌な事を思い出させてしまったのかもしれない。

「千聖、ごめん」
「ウフフ、いいのよ。・・・私、正直に言うと、さっき少し怖かったの。というより、どうしたらいいのかわからなかった。雅さんがいらっしゃらなかったら、私はあんなに落ち着いていられなかったと思うの。あの事は・・・とても、悲しい出来事だったから」

長いまつげがそっと伏せられて、細いため息が漏れた。
無事仲直りして以来、新聞部のあの記事に関して千聖と話したことはなかった。私は自分が悪くないと判断すればいつまでだって根に持って怒り続けられるタイプだけど、千聖は違う。
辛かったことを蒸し返せば自分を責めて、落ち込んでしまうのは目に見えていたから。
直接目の当たりにしたわけじゃないけど、嘘の記事の内容を信じてしまった時の千聖は、本当にひどい状態だったらしい。
泣く事すらできないほどのショックを受けて、表情を失くして、やつれて、寮のみんなもどうしていいかわからなくなるほど追い込まれてしまっていたみたいだ。
あの件で一番傷つけられたのは、間違いなく千聖。私なんてどうだっていい。自分の事ならともかく、あの人が傷つけたのは私の、命よりも大切な・・・


「・・・でもね、舞」
「うん」

私の顔がよっぽどこわばっていたのか、千聖は宥めるようにそっと肩に手を置いてくれた。

「あの事件はね、私が舞の傍にいられるということが、どれだけ尊いことなのか、教えてくれた気がするわ。
大好きな寮のみなさんや、桃ちゃんのこと、・・・大切な舞のことを、もっともっと大好きだと思えるようになったの。だから、もういいのよ。私のために苦しまないで、舞。」
「・・もう、なんで泣くの、千聖が」

千聖の手から強引にハンカチを奪って、乱暴に顔を擦ってあげる。鼻を真っ赤にした千聖は、「えりかさんや栞菜の泣き虫が移っちゃったのかしら」なんて健気に笑顔を作ってくれた。
どうしよう、嬉しくてたまらない。人前じゃなかったら私もちょっとぐらい泣いてたかもしれない。
大好きな人が、自分のことを見ていてくれる。それがどんなに尊いことなのか、千聖にはこうやっていつも教えられる。

「ありがとうね。でも、舞は千聖のこと大好きだから、勝手に千聖のこと思って、苦しんじゃうかもしれないけど。それは許してよね」
「まぁ・・・せっかく千聖のことを考えてくれるのに、苦しんでしまうの?それは悲しいわ」
「ふふん。千聖はお子様だから、まだわかんないんだよ」
「もう、私は子供じゃないのよ。舞ったら、すぐに意地悪なことを言うんだから」

そんな、子供みたいにほっぺをぷっくり膨らませて言われたって説得力ないんだけど。

「千聖、メイク崩れてるよ。マスカラしてるのに目擦るから」
「あら、本当。いやだわ、お化粧なんて普段しないから、いつものように目を擦ってしまったのよ」

切れ長の目の下を少しだけ黒く汚すマスカラ。唇を噛み締めていたせいで、疎らになったグロス。
最近覚えたらしいナチュラルメイクが、涙で乱れているのを見ていると、意味もなく胸がドキドキする。綺麗にお化粧してる時より、何か、生々しいっていうか・・・

手鏡にむかって必死になってるその横顔から、目が離せなくなってしまう。

「舞・・・?」

ふと、顔を上げた千聖と視線が絡み合う。
本当、綺麗な目してる。りーちゃんの“岡井さんのは魔法使い”という主張が今なら理解できる。吸い寄せられて、とても目が離せない。


「千聖・・・・・」
「あっ」

冬空に晒されて、ひんやり冷えたほっぺたに触れると、千聖はわずかにみじろぎして私を上目づかいで伺う。元々潤みがちな目が、さらにきらきらと熱を帯びたような気がした。

「どうしたの、何をするの、舞・・・・」


おいおい、ちょっと、何この無駄にいい雰囲気。何か顔が近づいてきている気がする。いいの?大丈夫?女子校育ちとはいえ、こんな大衆の面前で?マジで?


「ねえ、舞・・?」
「いいから、黙って・・・」


「うおーい!舞、お嬢様、何やってんのー?早くおみやげ選びましょう」



――お姉ちゃん、空気読んでおくんなまし。


なかなか来ない私にしびれをきらしたのか、キリンの角が生えた帽子を被ったお姉ちゃんが、売店コーナーからぶんぶん手を振って私たちを呼ぶ。


「あら、ごめんなさい!舞美さん、それは何?キリンかしら?他の動物のもあるの?」
「もちろん!ほら、このおサルさんなんかお嬢様に似合いそう!とかいってw」
「もう、舞美さんったら!私はさっきのレッサー・・・」


千聖はわくわく顔で、さっさと舞美ちゃんのところへ走っていってしまった。・・・チッ。じゃなくて、危なかった。私と千聖の愛は清く正しく美しくなくてはいけない。栞菜の肉欲まみれのとは違うもん。


「舞、どうしたの?早く、こっちよ!いろんなグッズがあるわ!」
「んー、わかった」
「そういえば舞はさっき、猛獣コーナーで盛り上がっていたわね。このタスマニアデビルの・・・」
「ち・さ・と!」

何だよもう、本当子供なんだから!



***裏デートツアー***

「なーにをあまったるい青春ドラマやってんだよ、この(自主規制)が!」

見つめ合うお嬢様と舞ちゃんを大きな目で見据えながら、めぐは足元の砂を乱暴に蹴った。

「グスッ・・・めぐは冷めすぎだかんな。マジケータイ小説より泣けるわ」
「ちょっと栞菜!そんなことより止めなくていいの!?千聖の大事なファーストチッスが奪われかけたんだよっ!あの(自主規制)」
「大丈夫、大丈夫。」


だけど、鼻をすすりつつも栞菜は妙に冷静だ。

「舞ちゃんはああ見えて隠れヘタレだかんな。特に恋愛のことには臆病なはず。私でさえまだどさくさにまぎれて乳揉みぐらいしかやったことないのに、チューとかないない。さっきのはミステイク。
ああいう女帝タイプはプライドが高いだけに、拒まれるような行動は無意識のうちに制御するから。そういう意味では、むしろ、ノリと勢いで突っ走りそうな舞美ちゃんのほうが危ないんじゃない?まぁお嬢様相手にそれはないだろうけど。」
「おぉ・・・」

さすが、学業優秀特待生!変態のくせに、否、変態故に無駄な分析力が備わっている。
スケートの時は2人がひっつくたびにキーキー騒いでたくせに、一度ヒステリーを起こせばもうあとは落ち着いていられるらしい。まったく、羨ましい性格だこと。


「なるほどさすが栞菜、と言いたいけれど貴様さっきどさくさにまぎれて何したつった」
「あっ、お嬢様たちおみやげやさん入ったよ!当分出てこないだろうし、近くの動物コーナーまわろうよ!」

めぐぅの追求もヒラリとかわして、栞菜は近くの檻まで走っていった。・・・絶好調ですな、このガチレズが!


「ま、せっかく来たんだし、動物見ようか。私、さっき千聖が興奮して見てたレッサーパンダのとこ行きたいなぁ」

苦笑しつつ、めぐと2人で栞菜を追いかける。
どうなることかと思った裏デートツアーだけど、なかなか面白いかもしれない。



――数十分後――

「・・・・」
「・・・」
「・・・ひっく」

「もう、えりかもいつまでも泣かないでよ!」
「だって・・・うぅ」

退園ゲート近くのカフェ。ぶすっとした表情のめぐぅに、凹み中の栞菜。泣きべそかいてる私。ただでさえ人目を引く光景だというのに、よりによって3人ペアルック。視線が痛い・・・


悲劇は突然私たちを襲った。

まず、霊長類コーナーでなぜかチンパンジーがめぐぅに威嚇を始め、熟した果物を投げつけて見事命中。
柵を乗り越えてガチバトルを始めようとするめぐぅを宥めながら猛獣コーナーに戻ると、これまた機嫌の悪いチーターが、栞菜に向かっておしっこを・・・幸い顔とかにはかからなかったものの、着ていたパーカーに引っかかってしまった。
半泣き状態の栞菜をなだめようと、フードコートで席に座ったとたん、今度は走り回っていたちびっこのチョコソフトクリームが私の白いニットをべっちょり直撃。

あぁ・・・お気に入りのニット・・・高かったのに・・・

このまま移動するわけにも行かず、お嬢様たちの目を盗んでおみやげ屋さんで買ったのは“●●動物園に行ってきました!”という痛いロゴの入ったトレーナー。ライオンさんもゾウさんも、にっこり笑って手を振っているよ!・・・らって、これしかなかったんらもん!
しかもめぐぅが青空のようなブルー、栞菜はトマトジュースのようなレッド、私は蛍光に近いイエロー。信号機かよ。
もはや動物園側の嫌がらせとしか思えないこの格好で、私たちは次のデートコースまで移動しなければいけない。よりによって、私が一番妥協したくないファッションのことでこんな仕打ちがあったら、そりゃあ涙も止まらない。


「グスッ・・それで、次、どこ行くの?」
「1駅先の繁華街。えりかがよく行くショップのあるとこだよ」
「本当!?助かったぁ・・それじゃそこで着替え・・・」
「何言ってんの!そんなことしてるうちに見失っちゃったらどうすんの!服なんてものはねぇ、着れればそれでいいんだよ」

ションナ・・・

私の提案は即真っ二つに叩き割られ、栞菜まで「そう言われるとそんな気がしてきたかんな」なんて同調し始める。
「ウウウ・・・尾行なんてするから、天罰がくだったんだぁ・・・」
「ほらもう行くよ、えりか!」

せめて、繁華街で知り合いに遭遇しませんように・・・。
めぐぅに急き立てられるがまま、私たちは退園ゲートをくぐった。


「で、その行くの繁華街の・・・・アイドルショップ!?」

どうやら、お嬢様お気に入りのアイドルグループ“C-ute”のグッズを扱うお店に行くらしい。


「そそそ、そんな、そんな危険なところにお嬢様を!?なっきぃめ、ちゃんとプランの確認したのか!」
「そうだかんな。美少女好きな生え抜きのヲタさんが集う魑魅魍魎の空間にお嬢様を放り込んだりしたら・・・そんなの許せない!ジュルリ!」
「この℃変態め!萌えるか怒るかどっちかにしろ!」


ははっ、あんなに強力な護衛が2人もついていて、何が危険なものか。それよりも、服・・・・


“後をつけるなんて、はしたないケロ!おとなしくお屋敷で待っているのが、お姉さまとしてあるべき姿ケロ!”と息巻いていたなっきぃの主張が、今更正しかったような気がしてきた。



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