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「さ、そろそろ次の場所に移動しよっか!お嬢様、お腹は空いてないですか?おやつありますよ」
「ウフフ、まだ大丈夫です。お昼ごはんをたっぷり食べたから」
「・・・それより、動物園出たらその被り物取ってよね」

キリンとレッサーパンダのヘアバンドを気に入ってしまった2人は、それぞれイメージにあった動物のやつを、みんなへのお土産に決めたみたいだった。(私は鹿の角のを買わされそうになったので全力で抵抗した)

動物園の次、最後は千聖のリクエストで、アイドルグッズのお店に行く事になっていた。
現在時刻は15時30分。ここからそのショップまでの移動時間、さらにショップから門限どおりに寮に戻る時間を合わせても、2時間近い時間の余裕がある。
動物園で帳尻を合わせたから、なっきぃの栞の時間はきっかり守っている計算になる。でも、考えてみたら、アイドルショップに2時間ってどうなの?そんなにやることなくない?

「ねえ、千聖。C-uteグッズ見るの30分ぐらいにして、服でも買いに行かない?ほら、近くにファッション専門のビルがあるから。ももちゃんがよく制服に合わせてるベストとかリボンとか売ってるお店も入ってるよ。」
「あら、そうなの?でも、ももちゃんの制服のようになるなら、あまり購買意欲はわかないわね。ウフフ」
「あ、お嬢様。でもそこのお店なら、えりも好きだって言ってましたよ。結構いろんなテイストの服売ってるみたいだし、必ずしも桃子みたいにはならないかと」
「えりかさんが?それなら安心ね」

――ももちゃん、ご愁傷様。

「でも、舞。30分ではC-tueのグッズを十分に見る事は難しいと思うわ。私、通信販売で買い溜めてはいるけれど、まだまだ持っていないグッズがたくさんあるのよ」

そう、最近の千聖が時代劇の他にハマッているのが、このC-uteというグループ。その中でも丘井ちゃんというメンバーが超お気に入りらしい。

「だったら、お店の人に“丘井ちゃんに関係のあるグッズ全部ください”って言えばいいじゃん。で、自分が持ってるやつはそこから除けば」
「もう、舞ったら。私は、何も丘井さんの全てのグッズが欲しいというわけじゃないの。ちゃんと選んで、厳選したものを大事にしたいわ」
「・・・千聖って、お金持ちのくせに欲がないよね」
「あら、そうかしら?」

考えてみれば、千聖の部屋はかなり広いけど、そんなに物は置いていない。寮もお屋敷も、ゴテゴテしたいかにもお金かかってますって感じの内装じゃなくて、仕立てのいい調度品で落ち着いた雰囲気を出している。
お屋敷の外に出る機会がそうそうないっていうのもあるだろうけど、これだけ金銭感覚がしっかりしているなら、将来的に舞のところにお嫁に来ても(以下妄想)。

「舞、それなら、1時間ぐらいでどうかしら?残りの時間を、服を見る時間に当てるのは?」
「んー・・・まあいいか。でも、なるべく早くしてよね!おそろいの服とかアクセサリー買いたいし」
「いいねいいね!お嬢様と舞と私がおそろいの服かぁ」


――お姉ちゃん、空気読んでおくれやす。


アイドルショップは駅から歩いて5分ぐらいの場所にあった。店内は結構広いけど、休日だけあって、かなり混雑している様子。少しすくのを待とうかという話になって、店内が見える位置にあるベンチに座った。


「すごい人気ですねー」

男の人ばっかりかと思ったら、親子連れや同年代の女の子たちもいたりする。姉妹ユニットのBerrys工房のグッズも扱っているらしく、どっちかにしなさい!なんて怒られて泣いてるちびっこもいる。
お店の外では、くじ引きかなんかで当たった写真を、自分の好きなメンバーのと交換してもらうための“臨時交換取引所”みたいなのまで即席で作られていた。・・・なんか、アイドルショップって、雰囲気が独特。

「こんなにたくさんお客さんがいて、丘井さんのグッズ、ゆっくり見れるかしら?私、何だか緊張してきたわ」
「えっ緊張ですって!そんなときはまかせてお嬢様!舞美の七つ道具、アメちゃん!どうぞ召し上がれ!バナナもありますよ」
「え、あの・・・むぐぐ??」
「ちょっと、ここ飲食禁止だから!」

お姉ちゃんは登山用リュックから取り出した食べ物を次々に千聖の口に押し込む。やめて!周りの人の目線が痛い!
黙って佇んでいれば、そこらへんのアイドルなんて勝負にならないほど美人でかっこいいお姉ちゃんなのに、服装込みでどう考えても不審者。さわやか笑顔が逆に怖い。
あぁ、何てもったいない!違うの、普段はもう少しまともだから!制服の時のお姉ちゃんを目の肥えたヲタさんたちに見せ付けてやりたい・・・!


しばらくすると、お店の喧騒が少し収まってきた。依然人は多いものの、混雑の切れ間になったらしい。

「行こう」
「ええ、そうね」


舞美ちゃんの暴挙で、緊張も若干ほぐれたらしい。千聖はすっくと立ち上がると、一直線にお店の入り口へ足を進めた。

「ちょ、ちょっとぉ!勝手に行ったら・・・」
「ん?手つなぎたいの?しょうがないなあ、舞は甘えん坊将軍だ!とかいってw」
「違うよ、もう!千聖一人にしたら危ないじゃん!あんな男の人ばっかりのとこに・・・」

女子校育ちの私も舞美ちゃんも、決してこういう雰囲気に慣れてるわけじゃないけど、千聖は私たち以上に免疫がないはず。
入り口近くのモニターで、ライブDVDを見ながらめっちゃ激しく踊ってる人、どういうつもりか写真に話しかけている人、○○の方が○○より可愛い!みたいなケンカをしてる大の大人・・・なかなかカオスな光景だ。


「千聖は?こんな光景見たらショックで倒れちゃってるんじゃない?大丈夫なの?」
「ん?お嬢様ならあそこで・・・」

舞美ちゃんが指差す先には、丘井ちゃんの写真の前で、熱心にメモを取る千聖。ほしい写真を厳選している真っ最中で、勉強の時とかには絶対に見せないような集中力を発揮しているのが傍目にも伝わってくる。どうやら心配は無用のようだった。


「なんかさ、丘井ちゃんって、どことなくお嬢様に似てるよね。雰囲気が」
「確かに。丘井ちゃんの元気で明るいところが、千聖が“こうなりたい”って思う理想の女の子に近いんだってさ」

あんなに夢中になっちゃって、本当に好きなんだなあ。ま、相手は芸能人だし、この場合は別に嫉妬の対象にはならないんだけどね。

一通り写真を選び終えた様子の千聖は、背が小さいから譲ってもらえたのか、はたまた実力で勝ち取ったのか、今は最前列でうっとり丘井ちゃんの写真に見入っている。

っていうか、何か「お会いできて嬉しいわ」「ええ、もちろんです」とかいって楽しそうにおしゃべりしているみたい。写真と。か、会話ってあんた・・・さっきの一方的に話しかけてる人よりレベル高くね?

「あはは、お嬢様は大丈夫そうだねー。」
「いやいや、全然大丈夫じゃないじゃん!むしろ頭がダメな感じになってるじゃん!」
「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!それより、舞はグッズ買わなくていいの?私、リーダーの写真ちょっと見たいなあ」
「んー・・・」

そう、巷で人気のC-ute、私たちも例に漏れず、それぞれごひいきのメンバーがいる。

千聖は明るくてムードメーカーな丘井ちゃんが好き。
お姉ちゃんは天然でさわやかなリーダーの麻衣美ちゃんが好き。
私も千聖ほど熱心じゃないけど、最年少で小悪魔っぽいキャラの麻衣麻衣がお気に入り。
もちろんなっきぃやえりかちゃん、栞菜に愛理も好きなメンバーがいて、結構寮で盛り上がったりすることもある(鬼軍曹は知らんけど、いかにも好きそうなキャラのメンバーがいるから多分・・・)


「ウフフ、千聖ね、今度舞台を鑑賞させていただくの。ええ、とても楽しみ」

千聖の楽しげなトークはまだ続いていた。
うわっ・・・我が愛しのハニーとはいえ、あいつマジキメぇ・・・。あれを放置するのも(逆の意味で)気が引けるけど、とりあえず周りに危害を加えることはないだろうし、よもやあんな覚醒状態の千聖に絡もうという勇者もいますまい。

さっきまで良識的な楚々としたお嬢様だったのに、大好きな丘井ちゃんグッズに囲まれるという非日常的な出来事は、千聖のテンションメーターをぶっちぎってしまったみたいだった。

「・・・お姉ちゃん、ちょっと別行動ね」
「ん?うん、わかった!」

まあ、せっかくめったに来れないアイドルショップに来たわけだし、私も麻衣ちゃんグッズを物色してみることにした。
へー・・・写真の他にも、文房具なんてあるんだ。タオルとかTシャツは、コンサートで使うのかな?たしかにこれは、厳選してグッズを買うとなると、30分じゃ無理だろうな・・・。

店内をぐるりと見渡すと、さっき踊ってる人がいた、C-uteのDVDの前に、人だかりができていた。コンサートのDVDでよく見る、掛け声つきで盛り上がっている。
何が起こっているのかは見えないけど、近くにいる人の話を盗み聞きしたところ、可愛い女の子達がノリノリで踊っているらしい。・・千聖といい、C-uteのマジヲタさんって元気だなぁ。



***裏デートツアー***

「ドタバタしててもラミラミラミラミ」
「メチャクチャしたいのラブ・ミー・ドゥ!!!」


――あああ・・・やめてやめてやめて!お願いだからやめて!


C-uteのオフィシャルショップ。ツアーDVDが流れるプロジェクターの下で、栞菜とめぐぅが激しくラミラミしている。アホか!何であえて目立つ行動取ってるんだYO!

アイドルのお店になんか来たら、美少女大好きな栞菜がおかしくなるっていうのは十分想定できていた。
でもめぐぅもいるし、2人がかりで取り押さえれば・・・なんて考えていたら、めぐぅもハッスルハッスルしてしまった。そうだ、こいつは目立ちたがりやなんだった!すっかり忘れていた。
めぐぅも栞菜も身内びいきなしでかわゆいから、またたく間に店内のオタさんたちが集まって、軽いライブみたいな状態になった。めぐぅの無駄にキレのいいダンス、栞菜の「ええい、美少女はいねえのか!」という女王様ばりの恫喝に、会場(?)もヒートアップしていく。
おまけに、今日の私たちは不必要に目立つ格好をしている。色合い的に、ヲタTならぬヲタトレーナーで来訪した痛いファンのようにも見えるから、余計に手厚く迎えられてしまったみたいだ。


「ほら、えりも一緒に!わっきゃなぁい」
「「「ゼエエエエット!!!」」」
「ウチのことは放っておいてください・・・」

這う這うの体でその輪から抜け出すと、私はヨレヨレになりながら、柱の影に身を寄せた。
そこそこ広いお店でよかった。舞美も舞ちゃんもお嬢様も姿が見えないから、この動乱には気づいていないみたいだ。それぞれひいきのメンバーのグッズを見ているんだろう。

「この時間に、服買いに行きたいよぅ・・・」

もうお気に入りの埋めさんグッズは手に入れた。尾行以外の理由で、これ以上ここにいる理由は別にない。
ここ見た後はもう寮に帰る予定だったはずだし、ほんの5分だけでも!だめかな・・・?


「あら・・・?えりかさん・・・?」


甘い誘惑と戦っていると、急に目の前に見知った顔が現れた。

「わぁっ!お嬢様!」
「えり?」
「・・・と、舞美」

ショップの紙袋を手に提げた2人が、目をパチクリさせて私を見ている。バ・・・バレてもーた!レジにいたとは!

「あの・・・ごめんなさい!決して邪魔するつもりでは」
「・・・ウフフ。もう、えりかさんたら心配性なんだから。そのお洋服、動物園もお楽しみになったみたいね」
「えっ、えりも動物園にいたの?一人で?奇遇だねー!」
「いや、舞美・・・」

舞美はともかく、お嬢様は尾行されていたことに気がついたみたいだった。だけど特に怒っている様子もなく、「素敵なトレーナーね」なんてのほほん笑顔で私の傷をえぐってくる。

「うぅっ・・・お嬢様ぁ、実はかくかくしかじかで」
「まあ、そうだったの。災難だったのね。でも、大丈夫よ。後でめ・・・村上さんに染み抜きを頼みましょう。千聖のコートをお貸ししたいけれど、サイズが合わないかしら」

半ベソ状態の私を、お嬢様は優しく慰めてくれた。お姉ちゃんモードになると、とたんにしっかり者になるのが不思議なところだ。
そんなお嬢様につられたのか、目をらんらんとさせた舞美が力強く肩を叩いてきた。

「えり、安心して!私こんなこともあろうかと、ちゃんと着替え用意してきてるから!舞美の服貸してあげるっ」
「え、あると思ってたんかい」
「さ、こっちこっち!ずっとここにいたら舞にバレちゃうから。トイレで着替えよう!」
「ウフフ、いってらっしゃい。あせらなくて大丈夫よ」

あの、気持ちは嬉しいけれど、舞美のモサフリワンピはちょっとうわやめろ何をする!

栞菜たちにどう説明しよう、なんて場違いなことを考えながら、私は登山リュックを背負った舞美に引きずられて強制連行されていった。



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