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「貴様ら、今日は私たちのためにありがとう!」
「お前らの笑顔が何よりの宝物だぜっイェイ!」


――ん?

聞き覚えのある2つの声が耳に飛び込んできて、私はレジへ向かう足を止めた。

“メグ様!メグ様!お仕置きキボンヌ!”
“L・O・V・E ガチレズ栞菜!”

コンサート映像が流れるスクリーン。
すでに本編は終わってエンドロールが流れているにも関わらず、まるで主役のような顔でお客さんたちに手を振る2人を、私はよーーーーく知っていた。・・・ああ、なるほどね。そういうことだったわけね。こめかみがぴくぴくと痙攣を起こし始めた。


「はいはい、ちゃんと並んでー!そこ、ワープ禁止!」

お店の人が遠巻きに見ているだけなのをいいことに、そのお調子者ツインズは握手会的なものまで始めた。・・・行くか。


「いつも応援どうもでーっス!」
「ありがとうござまぁす!」

浮かれきった声がどんどん接近してくる。あと3人、あと2人・・・・・

「おっ、やっと美少女が来・・・・・あ・れ・・・・」
「よう、脳内放送禁止妄想満載美少女偏愛℃変態痴女有原栞菜さん。オホホホホ」

ほくほく顔で私の手を握ろうとする栞菜に、巷で“殺戮ピエロ”の称号を与えられているキラースマイルを向けてやる。

「・・・・ぎゃああああ出たああああああ!」
「それはこっちの台詞だよ!よくも付けまわしてくれたな、このっ(ピー)が!!」

「げっ!バレたか。萩原さん鋭どすぎ!」
「こんだけ騒いでてバレないわけあるかっ!今日のこともこないだ掃除中に壷落として割ってたこともメイド長さんに言いつけてやるんだからっ」
「はぁ!?それ今関係ないし!」


和やかに進んでいた握手会に、いきなり暴言魔(私)が乱入して、列が乱れる。・・・何これ、私が悪者みたいじゃん!


「あら・・・?舞?どうしたの?」


その時、所在なさげに立ち尽くすお客さんたちの奥から、ふんわり柔らかい声が聞こえてきた。まるでそうすることが当たり前のように、道が開いていく。その先に、千聖がいた。

「千聖!」
「あら、まあ・・・」

――この状況、どうなんだろう。
日頃から子ども扱いを嫌う千聖は、みんなが自分を尾行していたと知ったら悲しむかもしれない。どう言ったものかと押し黙っていると、意外な事に、千聖はクスクスと笑い出した。


「もう、やっぱり栞菜とめぐもいたのね。ウフフ」
「・・・栞菜とめぐ“も”?何、どういうこと?千聖」
「それは、こういうことです・・・ウッウッウッ」

千聖の背後からにょっきり現れたのは、我が学園でも大層人気のある長身美人2人組・・・なんだけど、とんでもない格好をしている。
方やピンクのモサフリワンピに登山リュック、方や特大リボンのついたレースのブラウスに、黒×白ミニスカート。なぞのテッカテカな生地が不信感を増幅させている。しかも半べそ。
そんな異様な2人組の登場に、さすがに店内に緊張が走る。


――モッサー・・


そんな心の声が聞こえたような気がして、関係ない私の顔が赤くなった。

「あれー?何だ、栞菜とめぐぅも来てたんだ。全員偶然同じ場所とかすごくない?」
「・・・いやいや。お姉ちゃん、これはね、」

慌てて説明しようとする私の腕を、千聖がそっと指で押さえた。

「ウフフ、舞ったら、ここではゆっくりお話しづらいでしょう?麻衣さんグッズを買ってから、お茶を飲みに行きましょう?」
「あ・・・う、うん」

どうも、千聖が癇癪を起こしていないと調子が狂う。とりあえず、私は手にした麻衣麻衣の写真とDVDを持って、レジに並ぶ事にした。


「・・・お待たせ」


一連の騒動のおかげで、3分と待たずに会計は終わった。どことなく申し訳なさそうなえりかちゃんはともかく、腕組みなんかしちゃってる鬼軍曹、さっそく千聖に抱きついて悲鳴をあげさせている栞菜を見ていたら、またムカムカしてきた。


「・・・で。どこに移動するわけ?」

思いっきり不機嫌な声でそう言うと、千聖が栞菜をひっぺがしながら「決まっていないのなら、私の行きたいカフェでもいいかしら?」と微笑んだ。

「もちろんだかんな!お嬢様のお勧めのお嬢様ティー・・・じゅるり」
「私も賛成です、お嬢様。ひっく」

「・・・いいけど、千聖お店とか知ってるの?外出しないのに」
「ええ、一軒だけ心当たりが。少し歩きますけど、こちらの道です」

まっすぐ背筋を伸ばして歩く千聖を先頭に、急に自分たちの行いが恥ずかしくなった私たちは「お邪魔しましたー・・・」なんてコソコソしながらグッズショップを後にした。

「えり、何でトレーナー着替えちゃったの?せっかくうちら3人お揃いだったのにさー。しかしまたすごい格好だね、とかいってw」
「えりかちゃん、それは似合ってなくて萎え萎えだかんな」
「うぅう・・・舞美のアホー」

みんなが楽しげに話しているのが、なんとなく面白くない。どうしてもって言うから、立会人として舞美ちゃんもデートに同行してもらったのに、これじゃ約束が違うじゃんか。

「すー、はー、すー、はー」

怒りやすい自分を宥めるための深呼吸も、そもそも鬼軍曹に教えてもらったものだと思うと、余計にイライラが募る。悪循環。
思わず小さく舌打ちをしてしまった瞬間、千聖の柔らかい手が私の手を包んだ。


「えっ」
「舞、手を繋ぎましょう」
「え?あ・・・うん」

千聖は何てことないような顔して、また顔を正面に戻した。

「ウフフ」
「・・・もう、お姉ちゃんぶるなよ」


強がりながらも、私の顔は制御できないぐらい緩んでいる。こんな簡単にコントロールされちゃうなんて、天才少女の名が泣くね。


「着いたわ」
高速道路とビル街に挟まれた、にょきっと背の高い建物。

「ホテル・・・?」
「ウフフ、ここのカフェにしましょう」

千聖は慣れた感じでエントランスへ足を進める。中にいたボーイさんたちが、千聖の顔を見るなりハッとして深々頭を下げだした。

「ここはね、大切な思い出の場所だから。大切な人としか訪れないのよ」
「大切な人・・・」

ちょっとだけ、胸が甘く痛んだ。多分、その人のことを私は知っている。まっすぐで静かな、あの目を思い出す。
私がどれだけ知恵を絞っても、どれだけ必死になっても手に入れることができなかった、千聖の花が綻ぶような笑顔。それをいとも簡単に引き出してしまった、あの人・・・・

「ええ。さあ、ご案内いただきましょう。皆さんも、こちらへ」

そんな私の動揺なんて知る由もなく、千聖はあくまで淡々としていた。
いつものボーッとした感じじゃなく、社交的で柔和な表情を作り、悠然と微笑んでいる。ちゃんとその場にあった振る舞いをするのは、さすがお嬢様といったところか。
栞菜や鬼軍曹もさっきまでの変態的な振る舞いを封じ込めて、いっちょまえにお嬢様っぽくすました顔なんてしちゃってる。えりかちゃんは服装以外問題なし。お姉ちゃんはいいかげんキリンの耳取ってください。

――大丈夫。今、千聖の側にいるのは私なんだから。
もう、千聖の気持ちを疑って神経をすり減らす時期は過ぎた。嫉妬深い性格は直らないけど、千聖に他にどれだけ大切な人がいようと、私のことも好きだと思ってくれてるのはわかっている。・・・まあ、その中でも一番になりたいのはやまやまだけど、それはまた別の話。


「いやー、私、こんな素敵なホテルのカフェなんて来た事ないよ!こんなスポーツリュックで大丈夫かな?」
「グスン・・・せめてフツウの格好で来たかったんだよ・・・」
「まあまあ、たまにはクスッそんな格好クスッも新鮮だクスッと思うよ。クスクスクスクス」
「ウフフフッ」
「しどい!お嬢様も舞ちゃんも!」


かくして私たちモサフリ団ご一行は、ピンクと白のロココ調カフェのソファに体を沈めることとなった。



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