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――じゃあ、やくそくだよ♪

交わした小指。宝物のビー玉。
ねぇ、貴女は本当に忘れちゃったのかなぁ?

* * *

「なっちゃ~ん!」
「あっ! 舞ちゃん!」

日が沈むのが早くなった初冬のある日。図書室帰りの私を呼び止めたのは舞ちゃんだった。
あれ? でも…

「今日はお嬢様と一緒じゃないの?」
「それが聞いてよ~~。千聖ったらね…」

でね、でねと愚痴る舞ちゃんの話を要約するとお嬢様は友理奈ちゃんと一緒に帰ると言って
帰ったらしい。あの『お化粧事件(?)』以降、二人はより仲が良くなったみたいだ。

「もぅ! この舞を差し置いて熊井さんと帰るなんて!!」
「まぁまぁ。基本、友理奈ちゃんは害がないから」
「何? なっちゃんは熊井さんの肩を持つの?! 普段はあんなに文句言ってるのにさ!!」
「私……友理奈ちゃんの事分かってるつもりだし」

うん。きっと誰よりも分かってるはず。嗣永さんよりも菅谷さんよりも。
鞄に視線を移して付けているキーホルダーを強く握った。特製のケースに入れた
緑色のビー玉が掌の中で存在を主張する。

「そういえばなっちゃんだけだね。……熊井さんの事を『友理奈ちゃん』って呼ぶの」

鋭い指摘に舞ちゃんの顔を見た。ふざけている時の顔じゃなくて真剣に向き合ってる時の顔。

「舞ちゃんには……話してもいいかな。ちょっと長くなっちゃうけど」

きっと私の気持ちを分かってくれるだろう。お嬢様と意図的だけど離れた時期がある
舞ちゃんは。
それにお嬢様が絡まなければ一番冷静だし。

「あのね……私と友理奈ちゃんは」

◇ ◇ ◇

「やーいやーいっ! ちびさきやーいっ!!」
「グスッ。か、かえしてよっ!」
「かえしてほしかったらここまでとりにこいよっ!!」

保育園の頃、私は人見知りである事と泣き虫である事もあって男の子達に意地悪される事が
多かった。
そんな時に駆け付けてくれるのが

「っいて! だ、だれだよ…ってくまい!?」
「なかさきちゃんをいじめていいのは……わたしだけなんだよ!!」
「に、にげろっ!」

今みたいに背が高いわけではなかったのに何とも言えない威圧感が当時から友理奈ちゃんには
あって、喧嘩の時には男の子達に恐れられる存在だった。普段はぼーっとした子だったけど。

「グスッ。ゆ、ゆりな…ちゃん」
「なかさきちゃんもなかさきちゃんだよ! いつもすぐにないてさ」
「グスッ。ご、ごめんね…ゆりなちゃん」
「……でさ、とられたのってこれ?」

友理奈ちゃんの掌の上にはオレンジのビー玉が一つ。

「う、うん。さきのたからものなの」
「あはは。じゃあ、うちといっしょだ」
「ゆりなちゃん?」

ポケットに手を入れて何かを取り出すと掌を広げて私に見せた。そこにあってのは……

「みどりの…ビー玉」
「うちのたからもの! なかさきちゃんといっしょ!」
「グスッ。……うん♪ いっしょ!」

宝物が一緒だった事が嬉しくてそれが友理奈ちゃんと一緒だった事がもっと嬉しくて。
それからかな? 人見知りは相変わらずだったけど意地悪されても泣かなくなったのは。

でね、あの頃は友理奈ちゃんとずっと一緒にいられるって思ってたんだ。
お互いに行く小学校が違うって聞いたのは友理奈ちゃんから。友理奈ちゃんもお母さんに
聞いて知ったんだって。

「グスッ。おわかれなの?」
「な、なかないでよ。うちだってさびしいのに」
「グスッ。だ、だって…」
「……とりかえっこしない?」
「グスッ。な、なにを?」
「たからもの。うちがなかさきちゃんのビー玉をもって、なかさきちゃんがうちの
ビー玉をもつの」
「グスッ。い、いいよ。そしたらゆりなちゃんとずっといっしょだね」
「うん! うちもなかさきちゃんとずっといっしょ!」
「じゃあ、やくそくだよ♪」
「うん。やくそく」

お互いのビー玉を交換して指切りもしたの。“またあえたらとりかえっこしようね”って。

◇ ◇ ◇

「これがその時のビー玉。舞ちゃんも良く知ってるでしょ?」
「うん。……これで一度なっちゃんと千聖が喧嘩になったもんね」

それは私が寮に入ってすぐの頃の事。お嬢様がこのビー玉に触れようとしたのを私が
思いっきり拒絶したのだ。
その態度に驚いたのがお嬢様本人。まだお嬢様に対して甘やかし気味だった私の拒絶の
態度に憤慨し命令と称してこれを渡すように言ってきたのだ。そこからは悪口雑音の
オンパレード。
私の方に愛理がお嬢様の方に舞ちゃんがそれぞれ仲裁に入る事で収まったのだった。

「……それで熊井さんとはどうなったの? 再会したのに交換してないじゃん」
「それがね……」

◇ ◇ ◇

この中学に入学した日。貼り出されている名簿表で自分の名前を探している時の事だった。

「「あった! ん?」」

重なった声に隣を見るとモデル並に高い身長で整った顔の人がいた。あれ? この顔…

「貴女も同じクラス?」
「う、うん。あ、あの…」
「あ、うちは熊井友理奈。貴女は?」
「……覚えて…ないの?」
「へっ? 何処かで会った事あったっけ?」
「早貴。中島…早貴」
「中島…早貴。じゃあ、なかさきちゃんだね♪」

あの頃と変わらず彼女からなかさきちゃんと呼ばれる事は嬉しかった。でも私の事は
覚えてなかったみたい。

◇ ◇ ◇

「これ見せてもさ、「綺麗なビー玉だね」で終わっちゃったし」
「……話そうとは思わなかったの?」
「お互いがそれまで覚えてるのが“約束”でしょ? 話せば思い出してくれるかも
しれないけどそれは何だか違う様な気がしたし」
「そっか…」
「まぁ、アルバム整理をした時に私と撮った写真を見付けて私の事は思い出した
らしいんだけどね」

苦笑いを浮かべて日の沈んだ空を仰ぎ見る。ねぇ、貴女は本当に忘れちゃったのかなぁ?

「キュフフ。すっかり暗くなっちゃったね。急いで帰ろうか」
「だね」

舞ちゃんと並んで歩き出す。街灯の光を受けてビー玉は緑の色を反射させていた。
きっと変わらない緑の色。でもそれでもいい気がするんだ。友理奈ちゃんとずっと一緒
だから。

* * *

「あら? そのキーホルダー」
「あ、これですか?」

今日はお嬢様と帰り道を共にしている。と言っても学校からお屋敷までそんなに距離は
ないんだけど。

「なっきぃが同じ様なのを鞄に付けていたと思うわ。……一度それで喧嘩になって
しまったのだけど」
「喧嘩?! なかさきちゃんとですか?」
「私がそれに触れようとしたらなっきぃが拒絶したの。今も理由は分からずじまいなのだけど」
「そう…なんですか」

“……覚えて…ないの?”

覚えてるよ。忘れるわけないじゃん。君との大切な思い出なんだから。
重なった声に隣を見ると小柄で幸が薄そうな子がいた。あの頃の面影を残して。

忘れた振りして約束を果たさないのはなかさきちゃんとずっと一緒にいたいから。
点き始めた街灯の光を受けてビー玉はオレンジの光を反射させていた。


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