※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



「ええ、ではこのケーキセットを6人分お願いします」
「お、お嬢様!」

ケーキセット、1800円。高っ!
カフェなんて、ワンコインでお釣りが来るようなとこしか行ったことない。月々のおこづかい3000円の私にとってはかなり痛い出費。ただでさえ今日はイレギュラーな出費で心もとないというのに・・・貯金、切り崩さないとなぁ。
みんなも同じ状況らしく、若干顔色が冴えない。今月はグラビアアイドルの写真集を買いまくっていたらしい栞菜なんて「月末までしょうゆご飯だかんな」とか言っている。お屋敷で食えお屋敷で!

「ウフフ、いいのよ。千聖がご馳走しますから」
「いや、待って待って!千・・・お嬢様、私はしがないメイドですから。お嬢様にお金を出していただくなんて、めっそうもない!」
「そうですよ、お嬢様。だって1800円×6人分で1万ギギギギ」

いくらお金持ちとはいえ、さすがにちょっと奢るの範疇ではないから、慌ててみんなで千聖を説得にかかった。

「もう、そんなお顔をしなくても大丈夫よ。実はね・・・」

千聖は笑って、お財布から“特別優待券”と書かれたチケットを取り出した。

「以前、パーティーでこちらに来たとき、ビンゴゲームでいただいたの。これを使えば、皆さんの分をお支払いしても、ほとんどお金はかからないわ」
「でもさ・・」

「嬉しかったの、私。こうして外で遊ぶ事ができて。だから、これは千聖からのお礼と思って、受け入れていただきたいわ」

そういうことなら、たまにはいいか。って感じで、みんな口々に「お嬢様、ご馳走になります」なんてお礼を言っている。・・・まあね。私もそれならそれで別にいいとは思う。だけど、皆さん肝心なことをお忘れでないかい?

運ばれてきたミルフィーユに乱暴にフォークを突き刺しながら、私は千聖とお姉ちゃん以外の3人をぐるりとにらみつけた。


「・・・・で、どういうことなの」
「ご、ごめんなさーい・・・」


えりかちゃんはすっかり小さくなって、傍目にも反省してるっていうのが伝わってくるけど、めぐかんなコンビはすっかり開き直って、「さて、何のことでしょうかねえ」なんて挑発してくる。

「何だよ、変なトレーナーのくせに!」
「お黙り!これには深い事情があるんだよ。萩原さんみたいなおこちゃまにはわからないようなね!」
「だめよ、舞、めぐ・・・村上さんも。声のトーンを落として頂戴。」

さすがに、ちょっとピリッとした声で注意が入った。千聖は眉をしかめて、ちっちゃいこに「めっ!」って叱り付けるママみたいに唇の前で指を立てている。

「ごめん」
「・・・失礼いたしました」
「ウフフ。早くケーキをいただきましょう。こちらのミルフィーユはね、甘さ控えめなのにカスタードのお味が濃くて・・・」


――何ていうか、さすが長女。叱り方が妙に上手い。なんか、こういう時の千聖には何か逆らえない。
とはいえ、せっかくのデートを追跡されまくった怒りはまだ治まっていない。私は再び顔を上げると、まずはおいしいミルフィーユに顔をほころばせているえりかちゃんをロックオン。
そのまま唇を片方吊り上げて笑って見せると、綺麗にネイルアートを施した指から、フォークが落ちた。

「ひいぃっ」
「あら、えりかさん?どうなさって?」


――違うな。えりかちゃんは黒幕じゃない。ちょっと殺戮ピエロッてみせただけでこんなに動揺する人に、この珍事の黒幕なんて務まるはずがない。と、なると・・・


「・・・なぁーに見てんだよっ」

続いて視線をぶつけたヤンキーメイドこと鬼軍曹は、若干アゴをしゃくれさせながら、怯むことなく睨み返してきた。ボンバイエ。

「まあまあ、めぐぅもそんな言葉づかいしちゃだめだよっ!シーッ!ね、お嬢様!」
「・・・いや、シーッてほど喋ってないけど。ていうか舞美が一番声でかいし」


「まあまあ、細かいことはいいじゃないか(以下略)」

舞美ちゃんは相変わらず、おかしな方向に気を使う。苦笑しつつお相手をしている鬼軍曹は・・・グレーだな。となると・・・


「な、なんだ!やるのか!」


千聖にほっぺすりすりをかまして、グーパンチをくらってる栞菜。私の眼光に気づくと、拳法のようなポーズで威嚇してきた。
まさかこんなお上品カフェで、いつものプロレスごっこをおっぱじめるわけにはいかない。
幸い、相手は変質者だけど頭はかなりいい有原さん。とりあえず、平和的解決のために、まずはお話し合いといきますか。


「あのさ。何で今日、尾行したわけ?本当はね、舞は2人っきりでデートしたかったの。知ってるでしょ?舞がどんなに千聖のこと・・・まあ、それはいいや。
で、譲歩案として、舞美ちゃんについてきてもらうことを呑んで。それで全部OKだったはずだよね?な・の・に!な・ん・で!ここにいるのかな!
舞と千聖のラブラブタイムを確保してくれたんじゃなかったのかな!」

――あ、ヤバイ。冷静に話そうとしていても、こうやって顛末を辿っていると、どうしようもない苛立ちがふつふつと沸いて来る。

「まあまあ、落ち着いて座りたまえ。」

しかも、当の栞菜は妙に冷静な顔で、憤る私を見返してきている。それがまた余計に腹立たしい。℃変態のくせに!その英国紳士のような振る舞いはなんだ!


「舞ちゃんの主張はわかった。確かに私たち寮生は、お目付け役を一人つけることを条件に、お嬢様と舞ちゃんのデートを許可しました。」
「うん」

「だ・け・ど!私たちが“ついていかない”なんて約束はしたかな?ん?」
「はぁ!?だってそんなの、常識的に考えて」
「己の常識は他人の非常識ってね。・・・とにかく、別にそんな約束はしていないよね?それともした?・・なんだね、その顔は?ん?悔しかったの?」


――こ、この、女・・・!煽り慣れてるっ・・・!

「もう一つ。私がいつ、“舞ちゃんと千聖お嬢様のラブラブタイム”なんてものを許可した?ラブラブタイムって、まああなんて卑猥な!ヒイイイイ」
「・・・栞菜の頭の中って、どうなってるわけ」
「あ、そういうことなら私も。別に、萩原さんと千聖・・・おっと千聖お嬢様がイチャイチャするのを認めたつもりはないよ?ある意味ライバルだしね、萩原さんは」
「そうだかんな。舞ちゃんは正妻気取りで油断してると、いつでも足元すくわれるってことを忘れてはいけないよ。私だって、お嬢様の優しさに何度も救われて、お嬢様には一方ならぬ思いを抱いているのだよ。
一緒に篭城したり、毎晩ベッドで戯れたり、私も私でお嬢様と親交を深めていることをお忘れなく。じゅるり」



このクソが・・・!

この空間にもっとも似つかわしくない言葉を吐き捨てそうになって、私はあわててケーキを口に放り込んだ。

「あらあら、舞ったらそんなに頬張って。どう?美味しいかしら?」

舞美ちゃんえりかちゃんとのんびりおしゃべりしていた千聖は、そのほわーんとした空気を、こちらの暗黒空間にも運んできてくれた。やっぱ、かわええのう・・・。ニコニコ笑顔を見ていると、つられてほっぺたがゆるんじゃう。

「・・・うん。おいしいよ。お上品な味」
「ウフフ、よかった。ほら、口の横についてるわ」

千聖は私のほっぺたに指を伸ばすと、くっついていたパイ生地のかけらをつまんでくれた。その指を、まっすぐ自分の唇に押し当てる。

「あっ」

私の食べかすが、千聖のかわゆいお口の中に・・・・!

「ウフフ」

ちょっと肩を竦めて、いたずらっこっぽく笑う。

「うへへへ」

何、この生き物。本当に可愛すぎるんですけど。こういう、“ふつう”の女の子がやってるような戯れをやってみたかったんだろう。自分のやったことに満足したのか、照れたようにほっぺたに手を置いてもじもじしている。


「・・・あー!!!もう!ほらそうやって舞ちゃんばっか!!」

そんな私達を見て、やきもちやき℃変態がキーキー声で騒ぎ出す。

「ちょっと栞菜、シーッ」
「だってさ、こうやってどうせ私は間男だって思い知らされるんだから、尾行ぐらいさせろっつーの!所詮私なんて、お嬢様の火照った身体に指を這わ」
「はい、はい、はい!もう出ようか!」

ヤクザ理論で私に因縁をつけてきていたとはいえ、基本的に常識人な鬼軍曹が、栞菜の口にミルフィーユを押し込んで席を立つ。それにならって、私達も残りを片付けて後に続く。


「もう、あんなに騒いだら千聖お嬢様がここに来づらくなるでしょうが!栞菜のあほー!」
「だってだって!」
「うぅ・・・それよりも、着替えを・・・」


おしゃべりに花を咲かせながら、カフェの入り口で千聖のお支払いを待って、サッサと退散。・・・こんな滅多に来るような機会のないおしゃれカフェ、やっぱりできれば二人で訪れたかった・・・。


「舞、マオトコって何のことかしら?」
「・・・千聖はまだ、いや、永遠に知らなくていい言葉だよ。それより、アクセサリーとか見る時間なかったね。すごい残念なんだけど」


カフェでだいぶ時間を費やしてしまったから、今からファッションビルに戻ってお買い物というわけにはいかなくなった。まっすぐ駅を目指す道のりで、私は少しだけそんな風にぼやいてみた。


「あら、私は舞とおそろいの物を買えなくてよかったと思うわ」

だけど、千聖の口から出たのは意外な答えで・・・ちょっとへこんだ。

「・・・なんで?丘井ちゃんグッズはあんなに買ってたのに、私のためにお金使うのは無駄づかいってわけ?」
「もう、そんなわけないでしょう?舞ったら」

私のいじけ具合も笑顔でかわして、千聖はこっそり耳打ちしてきた。


「舞とお揃いで何か買いたいっていう理由があれば、またお買い物に出られるでしょう?今日は本当に楽しかったから、これ以上欲張ったら幸せが逃げていってしまいそう。次の約束につなげたほうがいいと思うの」
「千聖・・・・」

「舞とデート、楽しかったわ」

千聖はクフフと小さくのどを鳴らすと、舞美ちゃんたちの方へ走っていってしまった。

「・・えへへ」

その一言が聞けたなら、もう満足。次の約束ですって?もう今日にでも計画立てちゃうよ、マジで。


「舞ー?早くしないと、門限までに帰れないよー?」
「なっきぃたちに怒られてしまうわ、舞も早くこっちにいらっしゃい」

改札の前で、みんなが笑いながら私に手招きをする。

「今いくからー・・・・もう、子供扱いするなっていってんのに」

一人ごとで文句を言いながらも、さっき耳にかかった千聖の吐息がまだまだ心地よくて、私の顔は毎度のことながらゆるゆるになっていたのだった。


次へ

TOP