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“ごめんね、さきちゃんはみかんのキーホルダーだからだめなんだって。これからは、イチゴの子だけであそぶことになったの”


おひるやすみの幼稚園のお庭。
いつもなかよくしているともだちのうしろをついていったら、いきなりそう言われた。

とっさに何を言われたのかよくわからなくて、ただぼーっと立っていたら、その間にその子はわたしの前からいなくなってしまった。


「みかん・・・」


その子が言うように、わたしはみんながバッグにつけている、イチゴのおひめさまのキーホルダーを持っていなかった。
おねえちゃんのおさがりの、みかんのキャラクターのキーホルダー。みんなのとはちがうけど、かわいいねっていってくれていたのに。どうして?
なみだがじわじわ出てきて、あわててそででふきながら、かべのすみっこにかくれてみんなのようすをのぞき見した。


「イチゴの子、こっちあつまれー!きょうは、かくれんぼー!」


わたしが少しにがてだなって思っている、ちょっぴり仕切りやさんな子がさしだしたひとさしゆびに、いっぱいの手が止まる。・・・もちろん、さっきわたしのところにきていた子も。きのうまでは、わたしもいっしょにあのゆびをにぎっていた。今日もそうなるはずだった。

なんで、イチゴじゃなきゃだめなの?サキのみかんのキャラクターは、わるい子なの?そういうふうに心の中では思っていても、ちゃんとみんなにきくことができなかった。


(そういえば・・・)

何日か前は、あの仕切りやさんな子が“かみの毛むすんでる子だけであそぼう!”って言っていた。
そのときは、いつもいっしょにいる子がピンしかつけていなかったから、まえがみをボンボンでむすんでいたわたしだけが仲間にいれてもらうことになった。そのグループわけは、1日ですぐにおわったけれど。


あの子も、今のわたしみたいな気持ちだったのかな・・・
さみしくて一人でブランコをこいだら、風がとてもつめたく顔にふきつけられる。よけいに悲しくなって、わたしはヒックヒックとしゃくりあげながら、うつむいて鼻をすすった。ひざっこぞうになみだがおちる。


「・・・ねー、なかまにいれてほしい?」

ふと顔をあげると、仕切りやさんな子を中心に、みんながわたしの前にあつまってきていた。

「う、うん・・・」

気が変わらないうちに、って、なんどもうなずくと、「じゃあ、そのキーホルダーちょうだい」って、わたしのかばんをゆびさした。

「え・・・」
「それくれないなら、さきちゃんはずーっとひとりぼっちだからね」

「・・・やだ。これはあげない」


ひとりぼっちはこわいしいやだけど、これを取られるのもいや。

ママがおねえちゃんに買ってあげたのを、サキのようちえん入学のおいわいにおねえちゃんがくれたものだもん。すっごくだいじなものだもん。これは、あげられない。

ほんとうはそこまで言ってやりたかったけれど、わたしにはそこまでの勇気はなくて、あとはただだまって仕切りやさんのかおを見つめつづけた。


「・・・あっそ。じゃーもうばいばい。サキちゃんなんかしらないから」

仕切りやさんは、わたしがいうとおりにしなかったのがすっごくむかついたみたいで、しばらくすると、あっかんべーをしながらみんなをつれてちがうとこに行ってしまった。


「あ・・・」


どうしよう、ほんとうにこれからずーっとなかまはずれにされちゃったら。

おべんとうも、おゆうぎもひとりぼっち。いまからイチゴのキーホルダーをつけても、きっともうなかまには入れてもらえない。みかんのキーホルダーをあげないかぎり、わたしをゆるしてくれることはないとおもう。

「ねー、ゆりなちゃんは?」

またこぼれてきたなみだを必死でぬぐっていると、砂場のほうからみんなの声がした。
かおを上げてみる。しゃがみこんで、自分のせたけよりも大きな砂のおしろを作っている子――ゆりなちゃんのすがたが目にはいった。


「ねー、ゆりなちゃん。それ1人でつくったの?すごーい」
「ん?んー。ありがとー」

みんなに話しかけられても、ゆりなちゃんはあんまり気にしてないみたいに、ぺたぺたとおしろのかべを固めている。

「ねー、ゆりなちゃんもイチゴのキーホルダーつけてるでしょ?これからは、イチゴはイチゴどうしであそぶことになったから、ゆりなちゃんもこっちであそぼうよ!」


わざと、わたしのほうをじろじろ見ながら仕切りやさんはゆりなちゃんをさそっている。なんでそんなに、いじわるするんだろう。イチゴのキーホルダーじゃないって、そんなにいけないことなのかな?

はやく、外あそびの時間がおわればいいのに。

そう思って、ギュッと目をつぶってブランコを強くこいだそのとき、「やだ」って声が耳にとびこんできた。


「え・・・なんで?」
「あそぼうよー」

みんながオロオロして、こまったかおでゆりなちゃんをみていた。「やだ」って言ったのは、ゆりなちゃんだったみたい。

「うち、おしろ作ってるから」

「え、じゃあ、みんなでつくろうよ。」
「1人でつくるの」
「でもでも、ゆりなちゃんはイチゴなんだから・・・」

みんなはがんばってゆりなちゃんをさそっている。しばらくすると、ゆりなちゃんは手をとめて、まっすぐに仕切りやさんのことをみた。


「うちは、いじめっことはあそばないの」


そんなに大きな声じゃなかったのかもしれないけど、すっごくひびいて、ボールあそびをしていた男の子たちまでうごきが止まってしまった。


「わたし、いじめっこじゃないもん」

仕切りやさんがあわてて言いかえすけど、ゆりなちゃんはぜんぜんこわがらない。

「だって、イチゴのキーホルダーじゃない子は、なかまはずれにするんでしょ?それって、いじめっこじゃん」
「でもでも」
「どうしてイチゴじゃなきゃいっしょにあそばないの?へんなの。それにね、うちのママが言ってたよ。おともだちをいじめると・・・・・いじめっこオバケが出るんだよぉおおぉ!みんなのとこにも出ちゃうよおぉぉ」


ゆうれいのポーズで、こわいかおでみんなをおいかけるゆりなちゃん。キャーキャーって泣きながら、仕切りやさんを先頭にして、みんなにげていってしまった。


「あ・・・」

そのまま、ゆりなちゃんはズンズンとわたしのところに歩いてきた。となりのブランコにこしかけて、じーっとわたしを見る。


「あ、あの、あの」


わたしはゆりなちゃんとは、ほとんどおはなししたことがない

ゆりなちゃんは1人で本をよんでたり、いまみたいにお砂場であそんだり・・・やりたいことをきままにやっているから、いつも仕切りやさんたちのうしろをくっついていたわたしとは、ぜんぜんちがう世界の子ってかんじだった。
それに、目がライオンみたいにするどくて、体も大きめだから、なんかこわい・・。

でも、さっきのことはちゃんとおれいを言わないと。

「あのあの・・・さっき、どうもあり」
「サキ・・・なかさきちゃんは、どうしていつもあの子たちのごきげんばっかり気にしてるの?それってたのしい?」


――いきなり、ガツンときた。ゆりなちゃんは、すっごくむずかしい顔をしている。

「だ・・・だ・・・って・・・・サキは、イチゴの・・持ってないから・・・・」
「そんなのへんじゃん。イチゴじゃなきゃだめって、ようちえんのおやくそくにはかいてなかったよ?なかさきちゃんはそれでいいの?」

ゆりなちゃんは、ママみたいなことをおこりながら言う。また泣きはじめたわたしの顔を、ティッシュでふき取りながら「もう1っこ。」と指を立てた。

「グスッ・・・なあに?」
「なかさきちゃんは、ちょっとまえに、かみかざりをつけてなかった子のことをなかまはずれにしてたでしょ。うち、見てた。」
「ひぇ・・・」

なんか、絵本にでてくるエンマさまみたいだ。ゆりなちゃんはぜんぶお見とおしって感じで、うでを組んでうんうんうなずいている。

「なかさきちゃんが言いだしたんじゃないって、しってるよ。でもね、なかさきちゃんがあのとき、かみかざりなんてかんけいないってあの子とあそんでいたら、きっとこんなことにはならなかったんだよ。
ママが言ってたもん。わるいことしたら、こんどは自分が同じめにあうんだって。サンタさんだってこなくなっちゃうよ」
「でもっ・・・サキは、そんな、つよくないもん!ヒック・・・ゆりなちゃんみたいに、ひとりであそんだりケンカに勝ったりなんてできないもんっ

――サキ、ひとりぼっちになるの、こわかったんだもん・・・」

“うわー、デカ熊がなかさきいじめてる”
“ぬゎんでそんなこと言うの!いじめてないもん!”

からかう男の子たちにも、ゆりなちゃんはやっぱりどうどうと言いかえしている。ほら、ぜんぜんサキなんかとはちがう・・・

「だったらさ」
「え・・・?」
「ひとりぼっちがいやなら、うちといっしょにいればいいじゃん。」

びっくりしてゆりなちゃんを見ると、もう怖いかおはしていなかった。なんかたのしそうにデヘヘッて笑ってる。

「サキが、ゆりなちゃんと・・・?」
「いや?」
「う、ううん!ちがうよ、いやじゃないよ!でも・・・サキなんかと・・・」
「ほらーまたそういうことゆう!ママが言ってたもん。わたしなんか、ってゆってるとね、ほんとうにわたしなんかっていうにんげんになっちゃうんだよ!もうわたしなんかは禁止だから!わかった?」

ゆりなちゃんはそういって、わたしの目のまえに小指をさし出した。

「うちとなかさきちゃんのやくそく。なかさきちゃんはうちに言いたいことはぜんぶ言う。うちも、なかさきちゃんになんでもはなす。どうかな?」
「・・・・・うん!わかった。サキはゆりなちゃんに、かくしごとはしない」

ゆりなちゃんのかおをちゃんと見ながら、わたしの小指をゆりなちゃんのとむすんだ。

「キュフフ」
「ゆーびきーりげーんまん、うそついたらハリせんぼんのーます!・・・ねえねえ、じゃあさ、うちのおしろ作りのつづきやろっ!」
「え・・・う、うん、わかった」
「もー、なかさきちゃんたら!さっそくやくそくやぶるの?なんかしたいことあるの?」
「お。おこらないでよぅ・・・。サキ、もうすこしブランコに乗りたいな・・・」


今まで、ともだちに、自分のやりたいことをきちんと言えないことが多かったから、ゆりなちゃんに気持ちをつたえるのはドキドキした。でも、ゆりなちゃんは「うん、いいよ」って笑ってくれた。


「いいの?」
「うん、あたりまえ!なかさきちゃんはゆりなのおともだちだもん。ねえねえ、立ちこぎきょうそうしない?」

わたしのへんじもまたないで、ゆりなちゃんはいきおいをつけはじめた。


「キュフフ、サキも負けないんだからっ」

さっきまで泣いてたのがうそみたい。楽しいきもちになってきた。ゆりなちゃんはこわいけど、すっごくかっこよくて、やさしい。とってもすてきなお友だち。


「ゆりなちゃん、ずーっとおともだちだからね」
「うんっ」

ゆりなちゃんにつられるように、わたしもブランコをおもいっきりこいだ。ゆりなちゃんといっしょなら、このままブランコでクモの上まで飛んでいけそうな気がした。


*******

「ゆーりーなーちゃん!!またそんな巻き髪で!お嬢様の情操教育に悪いでしょうが!」
「もー、なかさきちゃんこれ流行ってるの知らないのー?一緒にやろうよー」


そして月日は流れ、今の私と友理奈ちゃんは、ある意味立場が逆転している。
私が注意するほうで、友理奈ちゃんはされるほう。・・・まあ、昔の私と違って、友理奈ちゃんは全然言う事聞いてくれないんだけど。


幼稚園の年長さんで仲良くなった友理奈ちゃんとは、地区が違ったから、小学校は別々になってしまった。すごく寂しかったし、いっぱい泣いたけど、私は友理奈ちゃんのスパルタ指導(?)のおかげで、だいぶたくましく成長することができた。
あの後、仕切りやさんだった子とも、ちゃんと話して仲良くなることができた。人見知りで大変なこともいろいろあったけど、小学校でも、ちゃんと友達を作って楽しく過ごせた。
言いたいことは言ったほうがいいっていうあの時の友理奈ちゃんの教えは、今でもちゃんと私の教訓になってる。・・・絶対、友理奈ちゃん本人には言ってあげないけど。


中学で再会した友理奈ちゃんは、残念ながら私のことを忘れてしまっていたみたいだった。「はじめまして!仲良くしてね」なんて満面の笑顔で言われたときは、ショックが一周回って笑い出してしまった。
しかも、その後どれだけ説明しても、友理奈ちゃんは私と仲良くしてたことは全然思い出せないようだった。

でも、それでいいんだ。忘れてるなら覚えるふりなんかしないで、はっきりそう言ってくれる。そういう友理奈ちゃんだから、私は友理奈ちゃんを好きになったんだもん。



「・・・そうそう、こないだ思い出したんだけど」

私の風紀指導で、いやいやながら髪の毛をおさげに結い直しながら、友理奈ちゃんが喋りだした。

「なかさきちゃんがケータイにつけてるストラップ。あの、みかんのキャラのやつね。うちね、幼稚園の時、それと同じキーホルダー持ってる友達がいたんだよ。」
「・・・は?」
「なんかー、いっつもなきべそかいてる子でー、でもうち仲良くなりたいからはなしかけてー、ブランコで遊んだりしてー、言いたいことは言いあおうってゆびきりげん」


「く、く、熊井―――!!!今まで私の話、何聞いてたの!!!!!」


絶叫する私を、友理奈ちゃんは「えー?」とかいってにやにやしながら見ていた。もう、友理奈ちゃんて、本当に!本当に!!!


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