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とある穏やかな冬の昼下がり。

私は寮とお屋敷の境にある、小さな庭にいた。
今日は1月にしては温かい。夏と違って空気もカラッとしていて気持ちいい。


「ケッケッケ。今日は絶好の・・・」
「日なたぼっこ日和ね、愛理」

私の1人ごとは、後ろから響いてきた楽しげな声に拾われる。


「来てくださると思ってました」
「ウフフ、私も、今日は愛理がいるような気がしていたのよ。お邪魔じゃないかしら?」
「めっそうもございません、こちらへどうぞ、お嬢様」


大きなブランケットとカイロ2つ。教科書数冊。まずは両手を塞ぐその荷物を持ってあげて、漫画に出てくる従者のように、下からお嬢様の手を取る。

「あら、愛理ったら。ウフフフ」

手を繋いでお嬢様のお気に入りの白い箱ブランコに乗り込んで、ぴったり肩をくっつける。
向かい側の椅子に置いてあるブランケットを広げて、二人の胸から下をすっぽりと隠した。

「これで、冷えてきても大丈夫よ。・・・今日はね、前に愛理に教わった英語と数学の課題で、ちょっとわからないところがあったから、テキストを持ってきたのよ。」
「お力になれるかわからないですけど・・・それじゃ、いつもどおりウトウトするまで」
「ウフフ。そうね、ウトウトするまで」

いつからだろう。お嬢様と私は、天気のいいお休みの日に、こうしてここで日向ぼっこを楽しむようになっていた。

毎回、約束は特にしていないけれど、私がふらりと庭に出ると、大抵お嬢様がそこにいる。軽くおしゃべりする時もあれば、それぞれやりたいことに興じることもある。もちろん何もしないで、ただボーッと過ごすことも。

こんな風にどこまでもまったりした時間を共有できるのって、実はお嬢様とだけかもしれない。
寮の皆は結構にぎやかなのが好きだし、たとえばなっきぃなら“ボーッとしてるのは時間がもったいないケロ!ほらほら愛理も!”なんてチャキチャキ動き出したりしそうだ。
最近はお嬢様と私の日向ぼっこはみんなの知るところとなったから、放っておいてもらえるようになったけれど・・・一時期は、姿の見えない私とお嬢様を、寮生みんなが探し回るという珍事もよく発生していた。
舞ちゃんはみんなと違う意味で、かなり殺伐としていたみたいだけど・・・。


「愛理?いいかしら。まず、この扇形の面積の求め方が・・・」
「はいはい、これはね・・・」

物思いに耽っていると、お嬢様は私の顔の前にテキストを差し出してきた。ハリキリモードのようだ。
とても熱心に、説明をノートに書き込んでいる。・・・だけど、私知ってます。多分あと10分もしないうちに、お嬢様は・・・



「・・・お嬢様?」
「・・はっ!ち、ちがうの。眠っていたわけじゃないのよ、愛理」
「ケッケッケ。そぉですかー」


予想通り。
図形の面積の求め方という単調な学習は、さっそくお嬢様の頭に眠りの神様を光臨させてしまったみたいだ。すぐにうつらうつらと瞼が落ちて、船を漕ぐように上半身が撓る。


「いいんですよ、眠くなったならお昼寝タイムで」
「でもでも、せっかく愛理が」
「大丈夫です、勉強の続きはお屋敷に戻ってからでもいいですし」
「・・・そう?あの、じゃあ、千聖少しお昼寝をしたいわ。愛理、ここにいてくれる?」

セーターの袖をつまんで、上目づかいに私を見る顔が可愛らしい。

「もちろんですよー。せっかくこんなにお天気がいいんだから、まったりしましょう。まったり」

「ウフフ・・・」

お嬢様は安心したようにへにょっと表情を和らげると、ブランケットの中で膝を抱えて、私の肩に頭を乗せた。すぐに、規則正しい寝息が漏れ出す。


「お嬢様ー?」
「んぅ・・・んん」
「こんにちはー、河童の国からやってきた鈴木カッパ理でーす。ケッケッケ」
「んー?・・・んん、かっぱ・・・・」

唇をむにゅむにゅ動かして、寝言を言っている無防備な姿に、ちょっかいを出すのがやめられない。・・・舞ちゃんにみられたら、即ブランコから引き摺り下ろされそうだ。


ここ最近、お嬢様は毎日を慌しく過ごしているようだった。
進級直前というおかしな時期に開催される学校の文化祭。毎年参加していなかったお嬢様は、今年は舞ちゃんや熊井さんたちと一緒に、ステージ系の実行委員を務めるらしい
私は去年に引き続き、ステージに出してもらえることになったから、お嬢様の働きっぷりは目の当たりにしている。いつもすっごく真面目に、よく頑張っていると思う。
生徒会の仕事のお手伝いもサボらずにこなしていて、まさにフル回転といった感じだ。だから、こんな風に疲れがたまってしまっているのも無理はない。

「ん・・・んー・・・」

ずり落ちかけたブランケットで私とお嬢様の体を包んで、もうちょっとだけ体を寄せる。
スキンシップが苦手なお嬢様の体温や匂いを、すぐ近くで感じられる。私の大好きな瞬間。

――この寝顔に会いたくて、わざとお嬢様が退屈になるような課題を選んでいるのは、私だけの秘密。

私は舞ちゃんや栞菜みたいに、全力投球でお嬢様に愛を伝えることはない。
舞美ちゃんのように、共有できる趣味――ランニングとか――はないし、えりかちゃんやなっきぃみたいに、お姉さんとして包んであげるっていうのも何か違う気がする。


でも、こうしてただそばにいて、言葉のないコミュニケーションを楽しむのだって、一つの愛の形だと思う。
私はこういう緩やかに流れる時間をとても愛しているし、ふわふわした空気を一緒に楽しんでくれるお嬢様を大切に思っている。誰のとも違う、私からお嬢様への愛。私にとってとても大事な、2人だけの時間。


「ふわぁ・・・」


気持ちよさそうな寝姿に、いつしか私のまぶたもトロトロと下りてきた。まだ、おやつの時間も遠い。今日は・・・ベリータルトだったっけ。15時になれば、お嬢様の“体内おやつ時計”が作動するから、食べ逃したりすることはないだろう。
せっかくこんな素敵な陽気なのだから、私も贅沢なお昼寝を堪能させていただくことにした。


「おやすみなさい、お嬢様。ケッケッケ」


栞菜の添い寝と違って、私のは100%安全なんだよ、と笑いをかみ殺しながら、私もゆっくりと目を閉じた。


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