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「え!?どうしたの?何やってんの、舞ちゃん?」


ボーッと歩いていた千聖が、駅前の花壇に座る私の姿を発見したとたん、目を丸くして駆け寄ってきた。そんなちょっとしたことがたまらなく嬉しい。


「へへへ、びっくりした?」
「したよー!大丈夫?寒くない?こんなとこ1人でいて。千聖あったかいお茶持ってるけど飲む?」
「いい。それより、早く行こう?ご飯」

私がそういうと、千聖はハァ?というなんとも微妙な表情になった。・・まあ、それは無理もない。
つい30分ほど前、私はずっと前から約束していた、千聖とのご飯の約束をドタキャンしたばっかりなのだった。

まあ、厳密には、お嬢様の時の千聖と約束したんであって、こっちの千聖とではないんだけど。でも、それは別にどうでもよかった。どちらの千聖とであっても、今日は夕食を一緒に楽しむつもりだった。

なのに、レッスン後のロッカールームで、千聖は私のことなんてほったらかしにして、なっきぃと楽しそうにおしゃべりしていた。
私はもともと、待つのは苦手な方だ。だけど、その割にはかなり辛抱した。着替えて、コートも着込んで、なっきぃとジャレてる千聖をじーっと待っていた。なのに、やっとこっちを見た千聖はこう言った。


「舞ちゃん、なっきぃも一緒でいいよね?」


ああ、思い出しても腹が立つったら!
結局プツッときた私は、満面の笑みで「今日ママと買い物行くから、バイバイ」と吐き捨てて先に出てきてしまった。

そんな私が、帰り道で待っていて「ご飯行こう」なんて言うんだから、そりゃあ怪訝な顔にもなるだろう。
でも、私はやっぱり千聖に会いたかった。だから、こうしてホッカイロ握り締めて待っていたんだ。


「舞ちゃん、さっきブッチしたじゃーん」
「はぁ?だってそれは・・・まあいいや。なっきぃは?一緒じゃないの?」
「何か、なっきぃ今日はいいって言ってたよ。舞ちゃんがドタキャンしたの、気にしてたみたい。」

――いや、なっきぃは全然悪くないんだけど。何一つ。
そう思って私が黙り込んでると、千聖はちょっと目を細めて、私のほっぺたを撫でた。

「明日、なっきぃがまだ気にしてるみたいだったら謝ろう。千聖も一緒に行くから」
「うん・・・」
「なっきぃ、結構へこみやすいからねー。でもまあ、なんとかなるさ!じゃあさ、ごはん、行こう?」


そうやって、何にも言わなくても私の気持ちを理解してくれるのが、嬉しくてちょっぴり腹立たしい。

「・・・やっぱ、帰る。」

だから、ちょっと揺さぶりをかけてやることにした。
キュートのみんなは私が千聖を振り回してるって思ってるみたいだけど、実際私にそうさせているのは、千聖なんだから。千聖が私をヤキモキさせるのがいけないんだから。

「ええ?帰るの?だって・・・もー・・・舞ちゃんさぁ」

千聖が私のワガママを受けて、フガフガ言うのを見てると安心する。本当、自分でも歪んでると思うけど、私だけのために心を乱してるんだと思うと、すっごく優越感を覚えられるから。
どちらっていったらトラブルメーカーな千聖に、こんな顔させられるのは私だけなんだって。


――だけど、何か今は様子が違った。


「舞ちゃんさぁ。・・・・あー、もーいいや。」


千聖はあんまり聞いた事がないぐらい、投げやりな口調でそう言うと、クルッと背を向けて歩いていこうとした。

「え、ちょ、ちょっと待ってよ。何?はっきり言ってよ」

慌てて腕を引っ張ると、そっぽを向いたまま一応止まってくれた。ただし、無言。冷えた空気が流れる。


「千聖・・・帰っちゃうの?」

さすがにまずいと思って、出来るかぎり可愛らしい感じの声を出してみる。すると、チラッとこっちを見た千聖の肩が小刻みに震えだした。


「ぷっ・・・ま、舞ちゃん何その声。ちょーへこんでるし!」

よっぽどツボに入ったのか、私の肩をバシバシ叩きながらうひゃひゃと豪快に笑う。

「なっ・・・ちょっと、笑うとこじゃないし!」

カッとなって言い返しても、千聖は全然気にもしていない。目に涙を溜めて笑い声を上げ続ける。


「もー、本当、舞ちゃんってネコみたい。気まぐれだしさぁ」
「・・怒ってない?」
「別に、怒ってないけどさ。舞ちゃんいつも一緒に遊ぶ約束はドタキャンするし、おそろいグッズは付けてくれないし、今だっていきなり帰るとか言い出すし。わけわかんないから立ち去るふりしてみたの。そしたら舞ちゃん超あせってるし!ざまぁべろべろー」

む、むかつく!でもさすがにこれは自業自得だと思って、私はグッと唇を噛んだ。

「もーね、こんなに舞ちゃんのこといっぱい考えてるの、千聖ぐらいだよ?わかってんの?」
「・・・何となくわかりました」

わかればよろしい!とばかりに千聖は大きくうなずくと、「じゃ、行こうか」って私の体を引っ張り起こした。


「どこ行くの?」
「ん?お好み焼き。舞ちゃん、ずっと行きたいって言ってたでしょ。ももちゃんと舞美ちゃんがよく行くおいしいとこ、聞いといたの。舞ちゃん喜ぶかなって思って」

「・・・ありがと。覚えてたんだ」


――本当は、最初からわかっていたのかもしれない。
千聖が私のこと、いっぱい優先してくれてるのも。
私が喜ぶように、いろいろ考えてくれてるのも。
私が振り回してるつもりで、実は手のひらで踊らされてるのも。

こんな風にちょっと揺さぶりをかけられるだけで、嫌というほど自覚させられてしまう。そして、なぜか決して悪い気分じゃない。


「早く行こ、千聖」
「うん、もーおなかペコペコだよ!何かね、餅明太チーズがおいしいんだって。あとねー」
「じゃ、千聖のおごりということで」

なんだよー!って怒る声が心地いい。
許されるたびにダメになってくような気がするのに、私はどんどん深みにはまっていく。

「まったく、舞ちゃんは甘え上手なんだからぁ。」

そんな言葉で私を油断させて、無自覚に縛り付ける千聖の甘い罠。
これはまだまだ、当分敵わないな、と私はやけに清々しい気持ちで笑った。


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