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もやもやを吹き飛ばすように、鏡を睨みつけてひたすら踊る。
小学生でキッズオーディションを受けて、キュートを結成してからというもの、私は一日もダンスレッスンを欠かしたことがない。
キュートでセンターに立ちたくて、それはひたすら頑張ればかなうものだと思っていた。
でも、私の前にはいつも愛理や舞美ちゃん、そしてめぐがいた。
めぐはダンスのセンスが圧倒的だったし、とても同い年とは思えないような色香を身に纏っていた。
舞美ちゃんは明るく嫌味のない美人で、さわやかな容姿と抜群の運動神経でファンの人達をとりこにしている。
愛理は歌が上手で声がいい。作ったキャラじゃなく、もともとガツガツしていない楚々としたたたずまいは誰にも真似できない。
私はこの三人に、何をしても超えられない「天性の才能」というものを突きつけられた。
センターになるという夢をあきらめたわけではなかったのだけれど、そこで完全に行き詰ってしまったのは確かだった。
そんなある日、マネージャーからめぐが脱退するという話を突然聞いた。
一緒に頑張ってきた仲間だから、いなくなってしまうことは本当に辛くて悲しかった。
でも、これが私にとってのチャンスだという気持ちもなかったわけじゃない。
暫定とはいえキュートの三番手になることが確定したのだから。
のほほんとした穏やかな雰囲気のキュートの中で、ギラギラとオーラを放っていためぐ。
これだ!という才能を持ち合わせていない私がめぐの位置に食い込んでいくためには、どんなに望みが薄くても、やっぱりひたすら努力し続けるしかなかった。
負けん気と粘り強さでのし上がっていくつもりだった。

「なっきー、ダンス上手いよね。」
そんなある日、久しぶりに千聖が話しかけてきた。
いつも舞ちゃんと一緒にふざけているからなかなか2人で話すこともなかったけれど、私は屈託のない千聖と話していると心が落ち着いていた。
舞美ちゃんも愛理も好きだけれど、どこかでライバル視することをやめられず、楽しく話していても緊張感が取れなかったから。
「本当?ありがとう。」
「私全然立ち位置とか覚えらんなくて。なっきーはどうやって覚えるの?千聖ね、なっきーのダンスが一番好き。」
「え・・・」
嬉しかった。
どんなに頑張っていても結局年下組や栞菜が頼るのはえりかちゃんや舞美ちゃんだったから。千聖が見ていてくれて、私は少し努力が報われたような気がした。
「わっわっ、ごめんなっきー!泣いちゃったの?千聖悪いこと言った?」
知らないうちに泣いていたらしい。心配そうに顔を覗き込んだ千聖も泣きそうな顔になっている。
「ううん、なんでもない。ダンス褒めてくれて嬉しかったの。私でよければいつでも教えるから。」
千聖はそれ以上何も聞かないで、デヘヘと笑ってくれた。
それから私と千聖は、たまにプライベートで会って遊ぶぐらい親しくなった。
「千聖のライバルは、舞ちゃんじゃなくて愛理なの。」
そんな千聖の思いを聞かせてもらえるようになったのも、この頃だった。

もう千聖はこのまま元に戻らないのかな。今は愛理とすっかり打ち解けて、愛理に負けたくないって言っていた千聖はもういないのかな。
鏡にもたれてそんなことを考えていたその時、急にどこからか歌声が聞こえてきた。
もうみんな帰ったはずだったのに。
レッスン場を出て廊下を歩くと、段々声が近づいてくる。ロッカーの方だ。
何となく早足になって、思いっきりドアを開く。
「ごきげんよう、早貴さん。」
そこにいたのは、千聖だった。



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