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「怪談?何でまた冬場に?」
「怪談というのは、怖いお話のことですよね?学校新聞に、怖いお話を?」

お嬢様と茉麻は、そろって右側に首を傾げる。

「本当は、千奈美主導で夏に学校の七不思議を募集する予定だったんです。でも、この子ったら全然動かないんだから!」
「いだだだ!耳引っ張るなぁ!」

雅のやつ、ふだんうちとダラダラ遊んでる時はボケキャラの癖に、年下の子とかいるとお姉ちゃんキャラになるんだから!

「だってさー、うちバドミの大会で結構いいとこまで行ってさー、ちょっと時間なくてさー」
「嘘つけ!熊井ちゃんから聞いてるよー、ちぃ、熊井ちゃんと変なパン試食同好会やってるんだって?ご丁寧にリーフレットまで作って、普及活動頑張ってるらしいじゃん。菅谷さんも入会したんだって?その情熱を、何で新聞部に向けないんじゃい!」

げっ!熊井ちゃんめ。あれは秘密結社だって言ったのにもー、口が軽いんだから!

「・・・みや、前の部長みたいになってきたもんにー」
「何とでも言えっ。部員が尊敬する先輩に似て何が悪い!」
「ウフフフ・・・」

「おーい、いつまで脱線してんの、新聞部!」

私たちのやりとりを、まるで漫才でも見るかのようにわくわくした顔で、お嬢様が見ている。笑ってもらえるのは単純に嬉しいから、私はこのしょうもない漫才をいつまでもやめられなくなってしまう。茉麻がいてくれる時を狙って来てよかった。

「でへへ、ごめんごめん。そうなの、今から全校向けにアンケート取るんじゃ間に合わないからさ、生徒会プレゼンツなら、読者さんたちも喜んでくれると思うし。千聖お嬢様の怖い話とか、超レアじゃない?」
「あら、お役に立てるかわからないですけど、頼っていただけて嬉しいです」


ちょっとほっぺを赤くするその顔を見て、私はこの企画を持ち込んでよかったと思った。
そんなわけで、まずは茉麻から知っている怪談を披露してくれたんだけれど・・・

「・・・・・・それで、隣のトイレからこんな声が聞こえてきたの。“・・・違う、その“紙”じゃない・・・。私が欲しいのは・・・」


「この髪だああああっ!!!」
「きゃああ!?」


絶叫と同時にお嬢様の髪をわしわしかき混ぜると、本気で驚いたのか、プルプル震えながら私を凝視する。やっぱりワンコだ。


「・・・ちょっとー、ちぃオチ先言わないでよー」
「だってそれ、超定番じゃーん。もっと怖いのないの?」
「わ、私は今のでも十分怖かったわ・・・」

お嬢様の反応は上々だけど、「かみをくれー」なんて誰でも知ってるし、新聞に載せるほどの話じゃない。茉麻のでっかい目を見開いたホラー顔の写真つきなら臨場感アリアリだけど、絶対怒られるし。

「私、あんまり怖い話って得意じゃないんだよねー。みんなが知ってるようなのしかわかんないよー。あんまり濃いの聞くと、夜家の廊下歩くのすら怖くなっちゃうし。いやーん、まーさ困っちゃう!」
「やぁだ茉麻たんたら、オカンの癖に萌えキャラー!かわゆす!」

キャッキャウフフとはしゃぐ私たちを白い目で見つつ、雅が話を進める。

「んー。じゃあ、お嬢様は何か怪談知ってます?あんまりご縁がないかもしれないですけれど・・・」
「怖い・・・そうですね、それでは、むら・・・うちのメイドから聞いたお話ですけれど。」


コホンと可愛い咳払いをして、お嬢様は姿勢を正した。お、これは期待できそう。・・・・だったんだけれど。


「・・・・その折り重なる死体の処理に困った肉屋の主人は、ついに商品のソーセージにその肉」
「無理無理無理!グロはあかん!そんなの載せられません!」

私が両手で×を作ると、お嬢様は少し落ち込んだ顔で「難しいわね」と声を落とした。

「うおおう・・・」

オカルトが苦手な茉麻は、男らしい呻き声を上げて固まっている。凹み中のお嬢様のフォローもできないぐらい、今のグロ怖い話がガツンときてしまったらしい。

「でもお嬢様、私もそのお話知ってますよ。私も、め・・・中学の時の友だちがそういうの好きで、残酷系の話とかいっぱい聞かされたから。たくさんの美女の生き血で美しくなろうとした殺人鬼とか・・・」
「あら、私も知っているわ。それも同じメイドから聞いたの。残酷な殺され方をした女性が、その姿で夜な夜な犯人の夢枕に立ったお話はご存知?」
「あー!それも聞いたことある!残酷好きな人って、話す内容も似るんですねー。中国の拷問話とかマジやめてほしい!」

――いや、さっきのかみをくれーよりよっぽど怖い話なのに、雅とお嬢様はまるで共通の人から聞いた話題のように盛り上がっている。お嬢様のツボ、よくわからん。落ち込んだままよりはずっと良いけど・・・。


「んー、もうちょっとこう、誰も知らなくて、猟奇的じゃないやつで何かないですかねー。たとえば、お嬢様のお屋敷に伝わる怖い話とか?」
「あ、それは私も興味ある。お嬢様、何かない?寮の話も大歓迎だけど!」

お、茉麻が復活した。自然なタメ語で自然にお嬢様に話しかけていて、さすがママ!と思った。

「お屋敷・・・。そうね・・・では、つい最近のお話ですけれど。」


また、お嬢様はシリアス顔に戻って語り始めた。


“その日は、風がとても強く吹いていた。
午後23時。私は部屋を訪ねてきた明日菜と一緒にいた。普段は“子ども扱いはやめてくださる?”何てすました顔で言うのに、最近は何故か私と一緒にいたがることが多い。
「お姉さま、今日は一緒に寝てくださる?」
「ええ。もちろんよ」
私はここで暮らすのは3年目になるけれど、明日菜はまだお父様やお母様たちが恋しくなってしまうのかもしれない。
あまり姉扱いされない身としては、しっかり者の妹に頼られるのは嬉しいから、栞菜に本日の添い寝キャンセルを申し伝え、二人してベッドに入った。


ガタガタガタ・・・
「お姉さま、今日はとても風が強いのね」
「そうね。窓が軋んでいるわ」

そう言って、机の前にある大窓に目を向けた。
時間が時間なだけに、外はもうすっかり暗くなっていて、木の枝が風に揺れているのしか見えない。

「一応、鍵がかかっているか確認を・・・あら?」

そう言って体を起こした瞬間だった。木々を私たちの視界から隠すかのように、黒い影がゆっくりと窓の外を横切った。

「・・・あら?」
「・・・今誰か・・・・でも」


ここは、3階なのに。


「お、お姉さま・・・」
「だだだだ、大丈夫よ、明日菜」


とっても怖かったけれど、私は思い切って窓のそばまで歩いていった。そのまま、外を見ないよう目を固く閉じてカーテンを閉めた。

「これで大丈夫よ、明日・・・」


バンッ!バンッ!

その時、私の背後で、窓が大きな音を立てた。

「ひっ!」

風に軋む音ではなく、それは、まるで誰かが叩いているような・・・

「だ・・・誰なの!姿を見せなさい!命令よ!」

私は思い切ってカーテンを開け、窓も全開にした。突風が体を突き刺す。目を凝らして窓の外の左右を確認するけれど、人影は見当たらない。

「・・・不思議ね・・・・」
「お姉さま、寒いわ。今メイドに見回りをお願いするから、窓、お閉めに・・・」


ガシッ

「えっ」

いきなり、右の手首に衝撃が走った。視線を向けると、下から伸びてきた小さくて力強い指が、私を捕らえていた。
暗闇の中で、鉛のように鈍く光る両目が微笑んでいるように、ゆっくり細められていく。


「あ・・・あ・・・・・」
“千聖お嬢様・・・やっと会えたね・・・・”



背後の明日菜の絶叫が、屋敷中に響き渡った・・・・・”



「お・・・おおおおうううおおおう」
「茉麻、しっかりして!」

普段のみんなのママキャラはどこへやら、もはや茉麻は仮死状態に陥っていた。派手顔美人な茉麻が、半白目で呻いているのはなかなかのホラーだ。今の話との相乗効果で、私も自分の全身が鳥肌で覆われているのを感じた。

「こ・・・怖すぎるよ、お嬢様!もう今日窓の外見れないじゃん!」
「あらあら、ウフフ」

私たちの反応に、お嬢様は満足したみたいだ。得意気な顔しちゃって、実は結構Sだな、こんにゃろ!
あああ・・・でもマジで怖い。あの大きなお屋敷(舞美の部屋に遊びに行った時に見た!)のことを思い浮かべながら話を聞いたから、すごい臨場感。


「そ、そ、それで、結局その手の正体は?まさか、本当に幽れ・・・」
「あぁ、それはね、ウフフフフフ・・・・栞菜だったの」


「「「えぇ!!!?」」」


栞菜・・・生徒会の有原さんの利発そうな顔を思い浮かべて、私は首をかしげた。
有原さんと言えば、去年転校してきて、その編入テストがほぼ満点というかなりの実力者だったはず。顔も結構可愛いってか美人系で、私が見る限りではおとなしめな雰囲気だったんだけどな。なんていうか、かなり意外。そんなハメをはずすようには・・・

「ウフフ、栞菜はいつも私のベッドで一緒に寝ているのだけれど、あの日は私が急にキャンセルしてしまったから、寂しくなってしまったそうなの。
それで、縄梯子を使って室内の様子を観察しようとしたみたい。
だけど、とても風が強くて、吹き飛ばされそうになったり、壁に体を打ち付けたり、悲惨な状態になってしまって、それでとっさに私の手を掴んだんですって。もう、めぐ・・・メイドなんて、後で顛末を聞いて激怒していたわ。
あの怒られてる栞菜の顔といったら。ウフフフフ。
でも、栞菜の縄梯子での覗き見は初めてのことではないから。まさかあんな強風の日にまでするとは思わなかったけれど」
「・・・いや、それ、ある意味今までで一番怖い話ですね」
「栞菜ちゃん・・・イメージ変わったわ。そっち系だったとは。真面目で気のきく子だって思ってたんだけど」

これには同じ生徒会の茉麻も、なかなかの衝撃を受けたらしい。
これは有原さんへの追加取材が必要だもんに!ってそんなの今はどうでもいいとして、


「お嬢様、興味深い話ではあるんですけど、ちょっと記事には・・・」
「そうよね・・・また変なお仕置きをされたら千聖も困ってしまうわ」


はぁ~。


振り出しに戻った私たちは、ぐったり脱力して机にもたれ掛かった。


「あれー?千奈美だぁ。どうしたのー?」

その時、開けっ放しだった生徒会のドアから、聞きなれた明るい声が響いてきた。



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