「きもだめし?」
「そう。舞美、さっきの話さ、その死んだ生徒ってのが、幽霊として生徒会室に現れるってことでしょ?」
「う、うん。何かね、佐紀たちが聞いた話だと、校舎の下から生徒会の窓を見上げると、亡くなった生徒会長さんが手を振っているのが見えるんだってさ。誰もいないのに」
むっふっふ。舞美の説明を聞いて、私は俄然やる気を取り戻してきた。
「でしょでしょ?だからね、それを私たちが身を持って検証するの。題して、“血みどろの惨劇!呪われた生徒会の謎を追え!”」
「・・・血みどろって」
「ねーいいでしょ舞美ー。やーりーたーいー!肝だめしー!」
もうこれ以上の名案はないとばかりに、私はぶりっ子ポーズで舞美に迫る。
「えー!うーん、私はいいと思うよ。せっかくの千奈美のアイデアだしね」
「千聖も、皆さんと一緒なら参加させていただきたいわ」
「反対反対反対!これ以上は耐えられん!肝試しとかありえない!やるなら私は参加しないよ、4人もいるなら大丈夫でしょ?」
舞美とお嬢様は無事賛成してくれたんだけど・・・反対派(?)の急先鋒・茉麻は両手で×を作って、でかい目をカッと見開いて私を威嚇する。
――ま、でもこの反応は想定の範囲内。新聞部たる者、ちょっとやそっとの拒否反応に動じるわけにはいかないのだ。
「お嬢様、お嬢様」
とりあえず、私はお嬢様の腕を引き寄せて茉麻から離した。わしゃわしゃと頭をかき混ぜるようにして思いっきり撫でまくると、さすがお金持ち、明らかにセレブビョリティ(でいいんだっけ?)なシャンプーの香りがゆらゆらただようわ。
「あ、あの?千奈美さん?」
「ちょっと、お嬢様に乱暴なことしないでよー」
「細けぇこたぁいいんだよ!」
とはいえ、茉麻のいう通り、お嬢様はあんまりスキンシップには慣れていないらしい。眉を困らせて笑う顔がかわゆすかわゆす♪やっぱり犬っころだ。
「お嬢様、ちょっとお耳を拝借」
みんなにお尻を向けて、2人でナイショ話。
「ヒソヒソ・・・お嬢様、茉麻を説得して!」
「説得ですか・・・でも、茉麻さんは本当に怖がっていらっしゃるみたい」
「お願い!やっぱりこんぐらい人数いないと盛り上がらないしさー、せっかくこうやって集まったんだからさー、みんなでやりたいしさー」
――というか、これだけいいリアクションをしてくれる茉麻がいれば、、より記事が充実しそうって魂胆なんだけどね。ぜひ恐怖に慄くご尊顔を、トップに掲載させていただきたいですし。
「でも・・・」
お嬢様は茉麻の方を伺いながら首を傾げる。・・困っているみたいだけど、悪くない反応だ。
若干おさぼり気味とはいえ、私だって新聞部の端くれだもんに!相手のリアクションをじっくり観察するのは記者の基本だって、鬼(前)部長も言ってたし!見たところ、お嬢様はどうしても茉麻を帰してあげたいって感じでもなさそう。
よーし、ここは・・・
「ねえねえ、もしちーのお願い聞いてくれたら、いいモノあげますよぉ」
「いいもの?」
「デッデデデデッデデデデッ」
私は“年配層に人気のある、某超有名な楽曲”の前奏を口ずさみながら、カバンの中に手を突っ込んだ。
「まあ・・その曲は」
お嬢様の目が、キラリと光る。ふっふっふ、やっぱり事前調査って大事だもんに!
「じゃーん!美術部オリジナル・水戸●門様ご一行フィギュア!全部集めれば、そこには●門様ご一行の旅の一幕がリアルに再現・・・」
「フガフガフガフガフガフガハアアアアン」
「お、お嬢様?」
あらゆるツテとコネと駆け引きで、美術部に発注したフィギュア。その第一作目・うっ●り八●衛の名作うっかりシーンの人形を見せると、お嬢様は目を丸くしてトランス状態になってしまった。
その表情といったら、恍惚という文字を体現したようで・・・ちょっと、ヤバイ子みたいだ。こっちの予想以上の反応。
「えっ?な、千奈美?お嬢様に何したの??」
「いや、なんかお嬢様ったら八●衛で激しくイッちゃったいたたたたぼっぺつねるなぁ!」
私が雅にほっぺ捻られてる横で、茉麻は「行くって、お嬢様はどこに行くの?」と舞美に澄んだ瞳で問いかけられて、思いっきり困った顔している。
「・・・ど、どう?茉麻を説得してくれれば、特別にこの八●衛フィギュアを差し上げまs」
「茉麻さんっ」
お嬢様は私の話をぶったぎると、回転椅子をクルッと回して茉麻の方に体を向けた。
「な、なにさお嬢様」
「茉麻さん・・・いえ、ママ。」
「マ、ママ!?」
「ええ、ママ。ママがいないと、千聖は寂しいわ。」
――結構ゲンキンだな、お嬢様!
「そうそう、茉麻ママがいてくれれば、うちらも心強いさ!ママの愛で彷徨える魂を徐霊しよう!ラララライラママー♪」
「もう、雅までぇ」
「マママンマママンマイマザァー♪」
悪ノリは専売特許の新聞部コンビで、お嬢様をサポート(?)するように、ママン聖歌隊で後押ししてみせる。
「・・・もー、わかったよ、仕方ないな!まぁも参加してあげましょう!」
「やったー!」
頼られるのにはめっぽう弱い茉麻、ちょっと照れたように頭をかきながら了承してくれた。
「あ、あの、千奈美さん」
「はいはい、わかってますって!ほら、これ」
「・・・ウフフ」
私の手から八●衛を受け取ったお嬢様は、恋する乙女のようにほっぺをほんわり紅くして、フィギュアと微笑み合った。キメェ・・・じゃなくて本当によかったですね(棒読み)。
それにしても、八●衛でこの反応なら、後に控える●門様、助さ●、角●ん、女ネズミ●僧、風車の●七なんて、お嬢様はくやしいっ・・・ビクンビクン状態だろうな。うひひひ。
今後新聞部に何かご協力いただくたびに、一体ずつ差し上げるっていうのはどうだろう。こっちにもお嬢様にとってもなかなかいい話じゃないかな。
「ふふふん。チナミゴスティーニッ♪」
「語呂わるっ。・・・それじゃ、茉麻も参加してくれることだし、千奈美、具体的にはきもだめしってどうやるの?」
「あー、はいはい。そしたら、一回外出よっ」
私を先頭にして、一先ず校舎の外へ。向かう先は、もちろん・・・
「・・・千奈美ぃ。ここ」
「うん、きもだめしだからね。さっきの話の話を踏まえて」
そこは、中庭の隅っこにある花壇の前。上に視線を向ければ、5階にある生徒会室の窓がバッチリ目に入るロケーション。
「噂の検証ってことで、1人ずつ順番に生徒会室まで歩いてくの。残りはここで待機。
そんで、ひととおり室内を見回して、何もなかったらそこの窓から手を振って合図。それがゴールのサインね。もちろん、何かあれば速やかに報告!どう?」
「うーん。いいけど、今やるの?まだ明るいし、人もいっぱいるし、幽霊が出るような雰囲気じゃないと思うけど」
確かに、雅の言うとおり。放課後だけど、天気がいいから太陽が出ていて明るいし、中庭でくつろいでる生徒もたくさんいる。
さっきは閉ざされた室内にいたから、変な熱気で怖い話も盛り上がっていたけど・・・今きもだめしなんてやったって、ただワイワイ探索して終わっちゃうのは目に見えていた。
「でもなぁ・・・原稿、明日の朝までなんだよなぁ」
「あ、それじゃあさ。もう少し遅くなってからにしない?」
私が頭を捻っていると、舞美がピンと親指を立ててそんなことを言った。
「でも、暗くなるまで待ってたら学校閉まっちゃうよ」
「大丈夫大丈夫。もうすぐ学祭だからね。実行委員さんたちがいつもより遅くまで作業してるから、結構遅くまで残れるんだよん。
私も一応、生徒会長だから、申請すればたぶん・・・」
「もー、舞美ちゅわん、大好きっ!」
ふだんはぽわっぽわで危なっかしすぎるけど、やっぱり生徒会長!そこに痺れるけど憧れないっ!
「それじゃ、また暗くなった頃に連絡しあって集まりましょうか。それまでは各々学祭の準備とか自習に充てて」
「賛成っ!」
「了解ー」
生徒会の仕事があったから抜けさせてもらってたけど、クラスのクレープ屋さんの打ち合わせがあるんだよね、と茉麻は教室に戻っていった。
「お嬢様、時間、あります?もしよかったら、今愛理と桃がBuono!のステージ構成を考えてるんで、お付き合いいただけませんか?」
「千聖でいいのかしら?」
「ぜひ、お嬢様に。私たちじゃ考えられないような、素敵なアイデアを持っていらっしゃると思いますし」
雅がそういうと、お嬢様は本当に嬉しそうな顔で、「協力させていただきます」と大きくうなずいた。
雅のやつ、本当、年下の扱いが上手いんだから。・・・私みたく、物で釣らなくてもあんな笑顔を引き出せるなんて。ちょっとヤキモチやいちゃうわ。
「舞美はどうする?」
「んー。これと言ってないかな。生徒会の仕事でもやろうかな・・・自習もいいけど・・・でも・・・え、千奈美は?」
「ウチも別に。じゃあさ・・・」
「「ちょっと、語ろうよ!」」
見事に声が揃って、ゲラゲラ笑いながらお互いをバシバシ叩く。
最近二人でゆっくり遊ぶ時間がなかったから、ちょうど舞美補給をしたいところだった。舞美も同じことを考えていてくれたみたいで嬉しい。
「もー、いろいろ話したいこと溜まってますわ!」
「本当にー?私もだよー。じゃあさ、屋上でも行こう!いい天気だし!」
「おいっす!」
やった、舞美独占♪
ガシッと肩を抱かれて、私はウキウキしながら校舎の中へと入っていった。
最終更新:2011年04月17日 20:34