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「えー、ねえ、本当に1人で行かなきゃだめ?本当に?」
「あったりまえじゃん!ほらほら、あきらめて行ってらっしゃい!」
「大丈夫、どーせ何にも起こらないと思いますよ」

うちらの励ましというか強要というか後押しで、舞美はさわやかに苦笑しながら校舎に消えていった。


「・・・さーて、じゃあここは恒例の恋バナでもしようか!」

私はくるっと振りかえって、お嬢様の肩をポンと両手で叩いた。


「えー!またー?」
「本当好きだね、ちぃも。お嬢様、無理に聞く必要ありませんからね」

普段から私の話に付き合わされまくりな2人は、あからさまにうんざりした顔になった。

「いーじゃん、別にー!うちらお年頃だよー?女子校とはいえさー、もっとこう、アクティブにならなきゃ干からびちゃうよー?」
「なになに?そんなこと言うってことは、ちぃまた恋しちゃってるわけ?」
「でへへへ」

文句を言いながらも、何気に乗ってきてくれて嬉しい。

さっき肝だめしから戻ってきた時、雅とお嬢様は何となく元気がなかった。別にケンカしちゃったとかじゃなさそうだけど・・・こういうのは気になるし、私がどうにかしてあげたいと変な責任感が芽生える。
それで、いつもより若干テンション上乗せ気味にネタを投下してみた。まあ、大抵の女の子は、恋愛の話でもすれば一発で元気になるものですから!


「ドゥフフフ。今度の人はさー、いっつも朝電車で見かける大学生ぐらいの人!マジかっこいいんだよね!」
「・・・千奈美さー、今月入ってから何人目?」


「この前のバイト先のお客さんは?駅員さんは?駅ビルのアクセサリーショップの店員さんていうのもあったね」
「・・・それはもういいの!今回は本気だし」

それ、前も言ってたじゃん!と2人が笑って、お嬢様もつられるように小さくウフフと声を漏らした。

「どーせ、またじろじろ眺めてるうちに満足ってか飽きちゃって終わりでしょー?最短失恋記録14秒だっけ?」
「どうせなら声ぐらいかければいいのに。メアド渡してみるとかさ?」

そう、2人のご指摘の通り、私は超惚れっぽい。ちょっといいなと思う人が現れると、すぐに雅に報告してはしゃいじゃうんだけど、いかんせん、中学から女子校に通ってる身としては、どう進展させていくのかよくわからない。
そんなわけで毎回、ターゲットを物陰からジーッと見つめてはすぐ飽き・・・を繰り返して、みんなにあきれられてしまっているのであります。

「ちょっと前なんてさー、ついに漫画のキャラにまで」
「まあまあまあ、それはいいとして、お嬢様!うち前にお嬢様が言ってた彼氏さんの話詳しく聞きたいなぁ!」
「あー、たしかに!何か、その人の妹さんだっけ?“さゆはちーちゃんのお姉ちゃんよ!”って学園で大騒ぎしていた変な人!」

若干旗色が悪くなってきたから、私はターゲットをお嬢様に変えてみた。すると茉麻もキモイ声真似をしながら関心を持ってくれた。


「あら、ウフフ。覚えていらしたの。でも、そのお話はね・・・」

どうやら、ちっさい頃からほぼ文通だけで繋がっていた人だったらしく、もう今は彼氏ってわけじゃないらしい。んま、あの超個性的な妹さんを見る限りでは、お付き合いを止めて正解だと思うけど。



その後も私の(脳内)恋愛遍歴を暴露されたりしながら、しばらくガールズトークに花を咲かせていたんだけれど・・・



「ね、矢島先輩遅くない?」
「だよねー・・・うちら、結構長い事喋ってたのに」

ふと雅が呟いて、いっせいに5階の窓を見上げるけど、舞美はいない。


「・・・もしかしたら、舞美さん、本当はとても怖かったのではないかしら」
「え・・・」
「ほら、さっき、にこにこしていらしたけど、汗をたくさんかいていたでしょう?
舞美さん、焦っていると、額が湿っていることが多いから・・・今も、相当無理をして1人で」

――確かに。
舞美は天然だけど、かなり場の空気を重んじるし、嫌なことを嫌だって言えないところがある。
今頃どこかで立ち往生しているかもしれない。あるいは、まさかの怪奇現象に・・・!


「うち、見てくる!」
「あ、ちょい待って」

居ても立ってもいられず、私は校舎の方へ走り出しかけた。すると、いきなり首根っこを茉麻にぐいっと掴まれた。

「ぐえっ。なにすんだよぅ」
「ほら、見て。・・・おーい、舞美先輩ー!!」


茉麻が手を掲げる先、さっきまで無人だった生徒会室の窓に、こっちに向かって手を振る人影が見て取れた。強くなってきた風に流されて、セミロングの髪がばっさばさになっている。

「あとで髪の毛直してあげなきゃね」
「うん・・・」

よかった、無事にたどり着いたんだ。
舞美は懐中電灯も点けてないみたいで、暗くて表情も全然見えないせいだと思うけど・・・何か、もやもやした不安な感覚を覚えた。
みんなも同じみたいで、若干首を傾げたりしている。

――んま、とりあえず遭難したわけじゃないならよかったけど。

「ねー、何かあったー?1人で怖くなかったー?舞美ー?」

そうやって声をかけても、舞美は返事もせずただ手を振り続けるだけだった。
ちょうどタイミング悪く、飛行機が轟音とともに何機も連続で飛んできたから、私の声は届かなかったのかもしれない。

「・・・ま、いっか。舞美ー、写真撮るから、笑顔ちょーだい!はい、チーズ!」

私の掛け声と共に、雅がデジカメのシャッターを押した・・・んだけど。


「・・・あれ?バッテリー切れかな?ごめんなさーい、もう一回!」


何度もボタンを押しているけれど、どうやら、うまく作動しないらしい。

「ダメ?」
「んー・・・なんか、フラッシュが焚けなくなっちゃったっぽい。」

私と茉麻は、一緒にカメラを覗き込んで、設定を調べ始めた。

「あ、でも何か1枚だけ撮れ・・・」

すると、後ろからお嬢様にコートの裾をくいっと引かれた。

「ん?」

「千奈美さん・・・おかしいわ」

お嬢様は、暗がりでもわかるほどはっきり、顔をこわばらせていた。
「おかしいって、何がです?」

「だって・・・・・・どうして、舞美さんの髪が、風に揺れるのかしら?」

「あ・・・」

――そうだ。

さっき生徒会室で見たときには、それをはっきり認識していたのに。
窓から姿を見せてくれたことで生まれた安心感と、舞美 の“その期間”があまりにも長かったことが相俟って、一時的に忘れてしまったこと。それで生じた違和感。その正体に、今やっと気づいた。


「髪、切ってたんじゃん、舞美・・・・・」



「ごめーん!千奈美ー!」

その時、タイミングよく、舞美がこちらに向かって走ってきた。

「あ、舞美先・・・あれ・・・え、あ、そんな・・・だって」
「嘘・・」

みんなもやっと、そのことに気がついたらしい。全員固まったまま、動けない。

「いやーごめんねー!何かやっぱり怖くてさー!中にも入れなくって、校舎の入り口のとこでうろうろしてたんだ。
気がついたらすっごい時間経ってるし!ね、もしよかったら、千奈美一緒についてきてくれない?」
「あ、あや、え、いや・・・」
あとずさりする私の背後で、ヒッと雅が息をのんだ。

「ど、どした」

震える手で差し出されたデジカメを、おそるおそる覗き込む。



そ  こ  に  は ・ ・ ・



「g32-[@@:;a-0a*×#=4&4$”^!!!」
「いやああああおいていかないでえええ!!!」

15秒ぐらいの間、すごい形相で私を凝視していた茉麻は、いきなり声にならない叫び声をあげながら、お嬢様を脇に抱きかかえて、体育館の方へ猛ダッシュで行ってしまった。
いつもは冷静そうな夏焼さんも、腰をガクガクさせた変な走り方で、必死に茉麻の後ろを追いかけている。

「えー、何何、千奈美ー?いいの?肝だめしは?おーい・・・」
「フヒヒヒ・・・」

残ってくれた千奈美も、大また開きで地面にお尻をついて、放心状態。へー、千奈美ちゃんたら意外と派手な・・・ちょっと、目のやり場に困りますぞ。とかいってw


「んー?」

ふと、千奈美の横に転がっているデジカメに目が止まった。さっき夏焼さんが放り出したんだっけ。機械類は大事に扱わないと、大事な備品なんだから。
私は何気なく、電源ボタンを押してみた。さっき撮り溜めた写真が表示される。
窓から手を振る茉麻と千奈美、お嬢様と夏焼さんそれぞれのペアをここから写した写真が数枚。やっぱり楽しそう。私も誰かと一緒なら、参加したかったんだけどなあ。


「あれ?なんだろこれ・・・」


1枚1枚スクロールさせていくと、最後に不思議な写真があった。
他のと同じで、下から生徒会室を撮ったものなんだけど・・・誰も、写ってない。

「えー。変なの」

いつまでたっても私がこないから、試し撮りでもしたんだろうか。いや、でも窓開いてるし・・・お嬢様たちの、締め忘れかな?あれ?でもあの時たしかに鍵を掛けたのを見届けて・・・

「・・・まあいっか。あとで確認すれば。」

とりあえず、私は未だ意識不明状態の千奈美に肩を貸して立ち上がった。そのまま、体育館に向かって足を踏みだす。
まだ電気ついてるし、料理部のえりあたりは残ってそうだ。夏焼さんたちも、居てくれればいいなあ。お嬢様のことは1人で帰せないし。それにしても、何をあんなに怯えて・・・



“クスクスクス”


「ん?」

ふと、小さな笑い声のようなものを耳が拾って、後ろを振り返る。・・・誰もいない。薄闇に陰る校舎が、静かに聳え立っているだけ。
「・・・気のせいかぁ。ねー、寂しいから起きてよー、千奈美ぃ」

ま、いいか。あんまり気に止めることでもなさそう。私は千奈美のお尻をペチペチ叩きながらまた歩き出し、もう後ろを振り返ることはなかった。


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